松村進吉, 深澤夜『恐怖箱 しおづけ手帖』

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 松村進吉, 深澤夜共著『恐怖箱 しおづけ手帖』竹書房 2009 竹書房文庫

 取材はしたものの様々な理由から発表されないできた話のなかから、よりすぐりを蔵出しするというコンセプトの一冊。そのためほどほどの長さの短編が並んだいつもの「恐怖箱」とは、少し異なった構成になっている。目立ったところで「異聞フラグメントA」と「異聞フラグメントB」では、こま切れの断片が「造築されたアパート」→「リフォーム済みの一軒家」→とか、「青い小便」→「経血」→って感じの、連想ゲームのようなゆるい関連を持って並べられている。取り上げられている怪異は幽霊、妖怪っぽいもの、不思議な話、わけの分からない話と幅広く、「異聞フラグメント」に限っては『新耳袋』の雰囲気に近いかもしれない。ひとつずつのエピソードはあまり怖くないけど、全部読み終わるとなんともいえない不気味な気分になる。

 それから一般的な「実話怪談集」と比べて、著者の顔がよく見えるのが本書のもうひとつの特徴。「まえがき しおづけ手帖」「余録」など、著者の自分語りが多い。ひとつ間違えればうざくなりそうなところだけど、著者の怪異に対するスタンス、というかびびり方がおもしろくて親近感が持てる。
 それと全体にヤンキー色(DQN色)が強い印象。よく分からないプライドをかけて、なにかと危ない目にあってる彼らの様子が、滑稽に、いきいきと描かれている。なかでも対立するグループが原付バイクで激突する「チキンレース」は白眉で、迫力のある怪奇現象もさることながら、登場人物のリアクションがおもしろい。ドタバタ怪談って感じ。

 もちろん怖い方面にもばっちり力の入ったエピソードもあって、ガチな幽霊譚の「星を見る人」は三人の親子の「向き」が判明する場面を恐怖のピークに据えた、技巧的で良質な怪談。一緒に寝てる彼女に異変が起こる「安眠妨害」、死んだ彼氏の霊魂を召還しているらしい女性の話「毛布」なども、「恐怖箱」の名に恥じないしっかりとした怪談だった。
 短いものでは「異聞フラグメント B」のなかのキリストっぽい姿が風呂場に出る話と、もろに人面犬が登場する話、また「ネムリ、イツワリ、サトリ」では三話目の「サトリ」が面白かった。とくに後者は霊的な相談をどんどん持ちかけられるものの、まったく解決能力のない霊感少女の話で、疎外感から他人との付き合いが希薄になっていく過程が、克明に描かれている。

 本書には「異聞フラグメント」や「ネムリ、イツワリ、サトリ」など、いくつかのエピソードがまとめられているものを一つとして数えると、全部で14話が収録されている。「まえがき しおづけ手帖」を入れて15話である。長短、硬軟バラエティに富んでいて、飽きずに読むことができる。


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