黒沼健『秘境物語』

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 黒沼健『秘境物語』新潮社 1957 異色読物シリーズ

 一昨日の『こびとの呪』から続く。「干し首」について。

 三島由紀夫もファンだったという著者、黒沼健は映画『空の大怪獣ラドン』(1956)の原作者として知られているが、本職は怪奇実話と翻訳の人である。著作リストには本書『秘境物語』をはじめ『謎と秘境物語』『地下王国物語』『天空人物語』といった、秘境ものファンにはたまらないタイトルがずらっと並んでいる。なかでも新潮社から出てた「異色読物シリーズ」は、ある年代の人にとってはすごく懐かしい本らしい(全部で16冊ほど出てたとか)。その記念すべき一冊目がこの『秘境物語』だ。前回『こびとの呪』の感想を書きながら、確かどこかに「干し首」の作り方が載ってる本があったはず、と気になってたんだけど、書き終わってからこの本のことを思い出した。

『秘境物語』には全部で17編の世界の実話奇譚が収録されている。タイトルをあげると「シェンシの金字塔」「大西洋の船の墓場」「眠れる宝庫」「マヤの大隧道」「赤い木乃伊の秘密」「ミスラムの毒蛇群」「猛暑に消えた部落」「最後の石器時代人」「ルクプントの巨人」「百人の黒い花嫁」「謎の宝島・ココス」「古生代の海蛇は生きている!?」「プーナの魔術師部隊」「ティヨーパの魔の山」「「空飛ぶ円盤」の化石?」「人間の首の乾物」「ファラオの呪い」という感じで、すごく秘境っぽい。さすがに一冊目なだけあって、メジャーなネタが勢揃いだ。
 タイトルだけではピンとこないのもあるけど、「ルクプントの巨人」はインドの山奥のルクプントという渓谷で発見された100体もの巨人の骨に、ヒマラヤの雪男を絡めた考察。「最後の石器時代人」はアメリカで欧米人と接触することなく、石器時代の生活を営み続けていた「最後の野生のインディアン」の生涯について。このインディアンの生涯は、手塚治虫によって漫画化もされている。(※1)「赤い木乃伊の秘密」というのもまた興味をそそられるタイトルだが、これはロシアの赤の広場、レーニン廟に安置されたウラジーミル・レーニンの遺体にまつわる話。

 さて「干し首」については、「人間の首の乾物」にばっちり書かれていた。それによると「干し首」の製法は長らく謎とされてきたらしい。その秘密を解き明かしたのが、アメリカ人の実業家、ルイ・コットロー。彼はアマゾンの奥地の原住民、有名な「アマゾンの首狩り族」とともに長期間過ごし、秘法とされる「干し首」の製法を目の当たりにしたのだった。
 まず切断した頭部の、首の側から竹製のナイフで皮を剥ぐ。この作業にはおよそ15分ほどかかるという。剥がれた皮は細い紐で目や口を縫合されたあと、鍋のなかでぐつぐつ煮込まれること2時間、取り出されたときは1/3くらいのサイズに縮んでいる。そこで首の開口部から焼けた石を入れ、激しくシェイクする。皮を乾かして、内側に残った肉片を焼き落とすためである。この作業は途中で皮をなめす工程を挟みながら、石のサイズを変えて二度行われ、最終的に焼けた砂を詰め込んで「干し首」の完成となる。この一連の描写は、鍋に黄色い油が浮いているとか、サイズに合わせて眉毛や睫毛を整えるとか、とにかく詳細を極めている。それでもあまり不快感を感じないのは、著者の軽やかな文体によるものだろう。
 これに限らず著者の作品は、彼方の秘境を目の当たりにするような鮮やかな描写と、なにを書いてもエグくなりすぎない綺麗な文体で、どの本を選んでも楽しくリラックスして読める。

 著者はインタビューのなかで「ぼくは体が弱くて、外へは出られなかったんです。だから外国にも行ってないですよ。アームチェア・ディテクティヴならぬアームチェア・アドベンチャーなんだ(笑)」(※2)と語っている。最初にあげた香山滋も、アフリカのギニアを夢見ながらも渡航の経験はないらしく、このあたりにどうも秘境ものの極意があるように思う。

 それから前回のE・L・ホワイト『こびとの呪』の感想では「ピグミー族を求めてジャングルに踏み入った探検隊」という、不確かな書き方をしてしまったが、正確には「現在知られているよりも、より小さなピグミー族を求めてジャングルに踏み入った探検隊」と書くべきだった。この「ピグミー族より小さいピグミー族」、E・L・ホワイトのまったくの創作のようにも思われるが、黒沼健の著書『世界の謎と怪奇』(※3)のなかには、ピグミー族よりもさらに小さい種族についての記述があって、実在するかどうかはともかく、そんな噂話はあったのかもしれない。

 最後に「干し首」の豆知識。「干し首」は現地の部族のあいだで「ツァンツァ」(Tzantza)と呼ばれているが、ルイ・コットローが同行した人々は、ナマケモノも同様に「ツァンツァ」と呼んでいた。人間の首がないときは、ナマケモノの首で代用するといい、そうした標本も現存している。女子供の「干し首」は作らない。また親戚の者の首を切断することもタブーとされているという。


 ※1. 手塚治虫『原人イシの物語』(『手塚治虫漫画全集 MT122 タイガーブックス〈2〉』講談社 1978 所収)
 ※2. 諸星翔インタビュー・構成「秘境と謎と怪奇 黒沼健の世界」(『幻想文学 第八号』幻想文学会出版局 1984 所収 p.65)
 ※3. 黒沼健『世界の謎と怪奇』アサヒ芸能出版 1967 平和新書


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