「黒沼健 」カテゴリ記事一覧


黒沼健『恐怖と戦慄物語』

 黒沼健『恐怖と戦慄物語』新潮社 1971 異色読物シリーズ

 今朝、NHKをぼやーっと見てたら「ホモ・フローレシエンシス」(Homo floresiensis)のニュースが始まった。なんでも2014年に発見された骨と歯の化石の研究成果が、イギリスの科学誌『Nature』に掲載されたらしい。調査にあたっていたのは日本の国立科学博物館と、オーストラリア及びインドネシアの研究機関の共同チーム。前にどこかの記事で「~ホモ・フローレシエンシスの研究はちっとも進んでない。続報が無さすぎてイライラする」的なことを書いたけど、自分が深夜アニメとか見てる間にも、研究はコツコツと進められていたのだ。反省。
 ホモ・フローレシエンシスは1万8000年前まで、インドネシアのフローレス島に生息していたとされる新種の原人である。その身長は1メートルほど。極めて小型の種だったようだ。研究チームによると研究対象となった化石は、これまでに見つかったものより遥かに古い約70万年前のもので、100万年前にジャワ島からフローレス島に移り住んだ「ジャワ原人」が、30万年かけて小型化したのではないかとのこと。
 10年ほど前にこの小型人類の存在が明らかになったとき、多くのUMAファンはこう思ったに違いない。
「……これ、オラン・ペンデクじゃね? 」

 これまでに何度か書いてきたので繰り返しになってしまうが、「オラン・ペンデク」はインドネシアのスマトラ島に実在するとされる小さな獣人型(イエティとか)のUMAである。目撃例は数多く、実在する可能性が高いとされている。今回の研究ではジャワ島→フローレス島の移動が可能だったことが示され、古代の人類は海を渡れなかったという通説が覆されることになった。てことはスマトラ島、ジャワ島、フローレス島は、古代の人類にとって充分に移動できる範囲にあるってことで、……やっぱこれ、オラン・ペンデクじゃね??

 というわけで秘境と七不思議のオーソリティー、黒沼健の『恐怖と戦慄物語』について。初めてオラン・ペンデクを知ったのは黒沼健の本だった……なんて書ければ、上の方のマクラも多少生かせそうなものなんだけど、残念ながらすっかり忘れてしまっている(多分、香山滋か黒沼健のどっちか)。ただもともと家にあった黒沼健の本には、どれを見てもUMAについてのエッセイが収録されていて、もうちょっと難しいの読んでみたいぜ! って年頃の子供には古くても貴重な情報源だった。
 もちろんUMAの話はこの本にもばっちり収録されている。内容は「恐怖と戦慄の話」「沈黙の秘境」「怪奇の物語」「予言と予知と予測」の四つの章に、全26話の怪奇エッセイを収録。UMA関連の「アラスカにあらわれた中生代の怪物」「ネス湖の怪物」「モラー湖にも怪物」の3編は、UFOの話と一緒に「怪奇の物語」にまとめられている。

「アラスカにあらわれた中生代の怪物」は1969年、アラスカのシェリコフ海峡で操業していた漁船ミラーク号が、魚群探知機で怪物をキャッチしたという話。ページの大半は画像をプリントアウトできる特殊な探知機の解説で占められている。このソナーが捉えた海中の怪物はシーサーペントタイプのUMAで、体長は45メートル以上。かなり分かり辛いが、プリントアウトされた画像も掲載されている。
「ネス湖の怪物」「モラー湖にも怪物」はともにイギリスのスコットランドの湖の怪物だ。ややマイナーなモラー湖の「モラーグ」(本書では「モラグ」と表記)はともかく、「ネッシー」はこのシリーズでも散々既出。それでも1950年代の後半から1970年代に行われた複数の科学調査を中心に、既刊本とできるだけ情報が重複しないような工夫がされている。また同じ章の「実在する空飛ぶ円盤」では、著者自身のUFO目撃談が図入りで紹介されている。結構がっつり目撃しているのが面白い。

 本書は新潮社から出てた「異色読物シリーズ」(あとがきには「怪奇シリーズ」とある)の15冊目。判型に変化はないが、カバーと本体が別々になった。カバーのイラスト・装幀は宇野亜喜良、挿絵は山本甚作。巻末には著者による「あとがき」があって、長きにわたるこのジャンルとの関わりを回顧している。シリーズでは新しめの本なので入手しやすい。

 ※雑誌『Nature』のサイトです↓「古人類学:フローレス原人の第2の遺跡」
 http://www.natureasia.com/ja-jp/



『恐怖と戦慄物語』
 新潮社 1971 異色読物シリーズ(巻末のリストによる)/怪奇シリーズ(著者のあとがきによる)
 著者:黒沼健

 ISBN-13:-
 ISBN-10:-


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黒沼健『世界の謎と怪奇』

 黒沼健『世界の謎と怪奇』アサヒ芸能出版 1963 平和新書

 雑誌に掲載された一話数ページの掌編をまとめた新書本。
 これはもともと実家にあった本で、多分推理小説が好きだった祖母が買った本だと思う。怖い挿絵に惹かれて、かなり小さいころからチラ見していた覚えがある。祖母は長いあいだ町内の読書サークルに所属していて、遺品のなかには読み終えた本の短評を書いた読書ノートがある。サークル内で同じ本を回し読みして、メンバーが1冊のノートに1~2行ずつ、交感日記みたいに感想を書いていたようだ。祖母の蔵書には詩歌や古典や推理小説のほかに、この本のような怪奇系の本がちょこちょこ混ざっているので、今でもとても重宝している。このブログで感想を書いた何冊かは(横溝正史とか)、もともと祖母の蔵書だったりする。

 さてその内容は、大きく二つの章に分かれていて「秘境・謎・怪奇」には26編、「怪異譚」には8編の奇談が収録されている。ムー大陸、サルガッソー、ルルドの奇蹟、クラーケン、ポルターガイストなどのメジャーなネタが中心で、これまで感想を書いた新潮社のシリーズと比べてずっと一般向けの、気軽に読める一冊になっている。そのほか目についた、マイナーめのサブタイをいくつかあげておくと、「未来を予見する蔓草」「魔法のキノコ」「与えられた永遠の生命」「中国奥地の有角人」「“火の山” の “白い女”」「空飛ぶ円盤の化石」「霊魂の結婚式」といったところ。相変わらずめっちゃ面白そうだ。

 この本をはじめて本棚で見つけた当初は、適当に挿絵を眺めて、適当に読めそうな話をなんとか読むといったスタイルだったのだが、あるときとんでもなく怖ろしい話にブチ当たった。それは「生き返る死体」という早すぎた埋葬にまつわるエピソードで、棺桶のなかで蘇生した痕跡のある死体の話や、著者が妹の火葬を覗いた話などが、いつもの淡々とした筆致で書かれている。著者が実際に見聞きした話ってところが少し珍しい。
 今読むとそれほどでもないのだけれど、当時はもう怖くて怖くて、自分が死んだら絶対に火葬は止めて、もしも生き返ったときのために、ブザーの付きの棺桶で庭の隅にでも埋めてもらおう、などと本気で考えていた。成長するにつれてそんな考えはどこかへ行ってしまったが、今でもこのエピソードを読み返すと、当時の気分がぼんやりと思い出される。

 カバーそでの推薦文は木々高太郎。「黒沼君は探偵作家クラブの常連の一人で、もうずいぶん長いつきあいとなろう。と言って、黒沼君のは探偵小説ではない。そのネタを提供する方で、全世界の奇妙な物語に精通している〔後略〕」なんて言ってる。もとネタの供給源だったんだ。鈍いグリーンの地に赤と黒の点描画という印象的なカバーのイラストと、上記の怖い挿絵の数々は、作家渡辺啓助の四女で画家の渡辺東によるもの。


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黒沼健『謎と秘境物語』

 黒沼健『謎と秘境物語』新潮社 1959 異色読物シリーズ

 新潮社の「異色読物シリーズ」の一冊。どれもおもしろいから毎回似たようなことを書いているけど、本書はこれまでのなかでも、とくに読み応えがあった。二百ページほどの本ながら、二段組みで活字も小さいから結構な情報量だ。嬉しいことに本書にはUMA関連のエピソードが三編、そしてシリーズ屈指の恐怖譚「トコロシの怪異」が収録されている。

 収録されているのは「呪われたダイヤ」「悪魔の目を持った男」「消えた外人部隊兵」「白蛇の呪い」「トコロシの怪異」「傷つける湖の怪物」「死人回生教団」「現代に生きる怪異」「メデューサ号の筏」「死の人間爆弾」「海の財宝地図」「ヤスチランの秘法」「幻のナヴァホ銀鉱」「砂漠の黄金都市」「アマゾナスの王」「マフィアの誓約」「禁断の大瀑布」の十七編。世界各国の埋蔵金にまつわる話が多い。

 UMA関連の話は「白蛇の呪い」「傷つける湖の怪物」「アマゾナスの王」の三編。「白蛇の呪い」はベンガルで実際に捕獲された白いボアにまつわる怪談。この全身真っ白で青い目をしたボアは、現地で神聖視されていたという。「アマゾナスの王」は巨大アナコンダをフィルムに収めるべくアマゾンに赴いた探検隊の話。このとき撮影された記録映画は1954年に公開されている。製作はスウェーデンの「Svenska AB Nordisk Tonefilm」、監督は「Torgny Anderberg」、タイトルはズバリ『アナコンダ』("Anaconda" 1954)。97年の映画『アナコンダ』はこの記録映画へのオマージュなのかな。

「傷つける湖の怪物」はマレーシアの湖に棲息する謎の古代爬虫類「タセク・ベラの怪物」を求めて、第二次世界大戦終了後も現地にとどまり、未開のジャングルに踏み入ったイギリス人民族学者の話で、そのまんま映画化できそうなほどの上質な秘境ものだった。この話の舞台となったタセク・ベラ(Tasek Bera, タセック・ベラ, ベラ湖)は、ラムサール条約に登録されたマレーシア最大の湿地(38000ha)で、現在は観光で行けるほど開けているのだけれど、当時は原住民すら近付かないという夢のような秘境中の秘境だったらしい。この「タセク・ベラの怪物」はマイナーな未確認生物ながら、近年のUMA関連本でもしっかり紹介されていて、まだしばらくは現役で行けそうな感じ。

「現代に生きる怪異」はこのシリーズのエピソードとしては変わり種の、著者の実体験に基づく「実話怪談」だった。幽霊を見た話や虫の知らせのほか、有名な羽田空港の鳥居にまつわる話と、羽田繋がりで著者原作の映画『大怪獣バラン』(1958)についても触れられている。
 最初に書いたシリーズ屈指の恐怖譚「トコロシの怪異」は、アフリカの「畑の悪魔」「トコロシ」(Tokoloshi)に少女が憑衣される話。地味なポルターガイストから徐々にエスカレートしていく怪奇現象、狂ったように脅える少女の様子が異様な迫力で描写された傑作エピソードだ。まじで怖かった。試しに「トコロシ」(←Google検索です)で検索してみたところ、驚いたことに現在でもアフリカ各地に現れては、殺人から下着泥棒まで様々な悪事を働いてる様子。一連の記事によると、なんとなく夢魔、淫魔の類いなのかなとも思う。

 といった感じで黒沼健の「異色読物シリーズ」のなかでも、おすすめの一冊です。


 アナコンダ Hi-Bit Edition [DVD]』ポニーキャニオン 2003


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黒沼健『天空人物語』

 黒沼健『天空人物語』新潮社 1968 異色読物シリーズ

「天空人」とは「宇宙人」の同義語だ。でも言葉から受けるイメージはかなり異なっているように思う。宇宙人と言えばいにしえのタコ型、昨今のグレイタイプ、個人的におすすめの3メートルの宇宙人(フラットウッズ・モンスター)って感じだが、天空人って言うと「そらおと」に出てくるシナプスのマスターや、『幼年期の終り』のオーバーロードっぽいニュアンスが濃くなる。人知の及ばない人類の上位種って感じ。著者はそんな「天空人」の活躍をいつになくノリノリで描いている。

 本書は大きく二つの章に分かれていて、18編の奇譚が収録されている。タイトルにもなっている「天空人物語」の章には「天空人」「ノアの宇宙船」「ナスカの巨大な図形」「謎の神秘な地点」「美しい予言者」「ツングース隕石の真相」「古代科学の一環」「空飛ぶ透明生物」「物質透明化の理論」が、二つ目の「怪奇と謎の記録」の章には「世紀の大実験」「さまよう死人船」「呪いの泥人形」「ジョイタ号の謎」「消えた世界一周機」「肉親を結ぶ霊」「歩きまわる棺」「シーラカンスの巣」「謎の三本足指の巨獣」が収録されている。一連のシリーズと同様のフォーマットだ。

「天空人物語」の章には、紀元前どころか、恐竜の絶滅以前から地球を見守り続け、人類の発祥にも一役買ったという「天空人」をキーワードに、各種の奇説奇譚が集められている。全編に冷戦構造や核戦争の驚異という、当時の状況が色濃く反映されているのが特徴。
 最初に著者がノリノリで〜と書いたが、それは「天空人」「ノアの宇宙船」の2編でとくに顕著だった。著者の創作の割合が大幅に増えていて、これまで感想を書いた本とはかなり異なった印象を受ける。文献に基づく様々なオカルトネタをフィクションで繋ぐという趣向で、金星人と火星人が全面核戦争をしてたりする。エッセイというより、虚実入り乱れた風刺的なSF小説って感じ。

「怪奇と謎の記録」の章に収録されているのは、従来通りの多彩なオカルトエッセイ。興味深いものを少しあげておくと、「世紀の大実験」は有名な「フィラデルフィア・エクスペリメント」について。実験そのものにはさらっと触れるだけで、謎の手紙をめぐる妖しげな後日談をメインにしているのがおもしろい。また「謎の三本足指の巨獣」では、いくつかの謎の生物&足跡の目撃談を交えつつ、1948年にアメリカで見つかった、複数の謎の足跡についての考察をしている。「モア」のようなでっかい鳥が残したものらしいとのこと。アメリカに絶滅種のモア。無理があるけど、燃える。

 上記の各サブタイからも分かるように、今回は科学寄りのエッセイが多い。もちろん普通の科学エッセイとは全然かけ離れていて、科学に寄った分だけトンデモ感が増しているように感じられた。
 あと本書は前に感想を書いた『地下王国物語』と対になるように構想されたらしく、カバーのデザインも『地下王国物語』の白い背景に黒い城塞という装画に対して、本書の装画は黒い星空に浮かぶシルバーの船というもので、鮮やかな対照をなしている。


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黒沼健『地下王国物語』

 黒沼健『地下王国物語』新潮社 1966 異色読物シリーズ

 新潮社から出ていた黒沼健の「異色読物シリーズ」の一冊。以前取り上げた『秘境物語』(←前の記事へのリンクです)がシリーズ第1冊目、本書はその10冊目にあたる。白地に赤い文字と黒のペン画調の絵柄というシンプルな装丁で、シリーズ中でもとくにかっこいいデザインだと思う。

 少し前に江戸川乱歩の『青銅の魔人』(←前の記事へのリンクです)の感想で「地下に美術館や博物館を作って、そこでこっそりと作品を鑑賞するなんて、想像しただけでもわくわくする」と書いたけれど、この本に出てくるのは美術館どころか「地下の王国」、わくわくもウナギの滝登りだ。
 内容は大きく三つの章に分かれていて、全部で17編の怪奇実話が収録されている。各話のタイトルをあげると、最初の「地下王国物語」の章には「地下王国“アガルタ”」「地球空洞論」「地中の巨人国」「“グラント将軍”号の驚異の遭難」「“空飛ぶ円盤”の出発地」、次の「幻想と怪奇」の章には「ピラミッド“真”の秘密」「アンデスの黄金都市」「黒衣の三人の男」「マドモアゼル・エレーヌの火星時代」、最後の「奇談と謎」の章には「幻島奇談」「漂流奇談」「“生れ替り”奇談」「神秘の二個の木環」「アヴィラの聖者テレサ」「ハイチの幻の町」「七十メートルの大津波」「怪奇のスパイ・セックス部隊」という構成。慣れ親しんだ単語や、中身の全然予想できない妖しいタイトルが並んでいて、目次だけでも嬉しくなってしまう。とにかく「秘境」っぽい雰囲気は特濃だ。

 肝心の「地下王国物語」は上記の通り1章めにまとめられている。「地下王国“アガルタ”」では水木しげるの漫画で(個人的に)有名な伝説の理想郷「アガルタ」を中心に、各地に伝わる「地下王国」といくつかの「説」について大まかに触れている。主な元ネタはポーランド(本書では「ロシア」とされている)の探検家で作家の、フェルディナンド・アントニー・オッセンドフスキー(Ferdynand Antoni Ossendowski)の著作『獣と人と神』("Beasts, Men and Gods")。この『獣と人と神』は『動物と人と神々』というタイトルで戦前に邦訳、出版されているが、残念ながら入手困難(原書はネット上に公開されています)。それだけにその要旨を簡潔に提示してくれる黒沼健の著作はありがたい。『獣と人と神』はこの『地下王国物語』に限らず「アガルタ」やその入り口もしくは首都であるとされる「シャンバラ」「シャングリラ」関連で取り上げられることの多い本なので、復刊を望みたいところ。
「地球空洞論」「地中の巨人国」は「地球空洞説」(詳しくはwiki等参照)に関する話で、有名なレイモンド・バーナード(Raymond Bernard)による「空洞入り口の図解」も紹介されている。帆船が地殻の縁をくりっと回って、地球の内側に入り込んでしまう図だ。科学の進歩にともなって、現在では「地球と月が地続き説」並みに廃れてしまった「地球空洞説」。それでもこうして読み返してみるとやはり魅力的で、そんなアホなと思いながらも面白い。地下空洞の中心には太陽が輝き、巨人やでかい動物や怪物が跋扈してたりする。しかも地底人の科学力は地上の人類より優れているとか。……周知の通りこの「地下の別世界」という概念は、フィクションの分野において多大な影響を残している。

 他のタイトルについても少し触れておくと、「マドモアゼル・エレーヌの火星時代」はこれまでに3回転生したという女性の話。そのうち1回は火星で暮らしていたという。火星時代のスケッチも載ってる。「怪奇のスパイ・セックス部隊」はハニトラ要員の話ではなくて、ハニトラにかからないように事前に男の諜報員をセックス漬けにするという、旧ソ連の女性部隊の話。
 著者はいかなる説にも肩入れすること無く相変わらずニュートラルで、こんな面白いこと言ってる人がいるよってスタンスだ。文体は平明で分かりやすく、エロやグロを書いても下品にならない。オカルト書籍かくあるべしって感じ。今手元にある黒沼健の本は30冊そこそこ、全然その著作の全貌を把握できない。どこかの出版社が思い切って全集を出してくれると嬉しいんだけど。


  レイモンド・バーナード『地球空洞説』角川春樹事務所 1997 ボーダーランド文庫


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黒沼健『秘境物語』

 黒沼健『秘境物語』新潮社 1957 異色読物シリーズ

 一昨日の『こびとの呪』から続く。「干し首」について。

 三島由紀夫もファンだったという著者、黒沼健は映画『空の大怪獣ラドン』(1956)の原作者として知られているが、本職は怪奇実話と翻訳の人である。著作リストには本書『秘境物語』をはじめ『謎と秘境物語』『地下王国物語』『天空人物語』といった、秘境ものファンにはたまらないタイトルがずらっと並んでいる。なかでも新潮社から出てた「異色読物シリーズ」は、ある年代の人にとってはすごく懐かしい本らしい(全部で16冊ほど出てたとか)。その記念すべき一冊目がこの『秘境物語』だ。前回『こびとの呪』の感想を書きながら、確かどこかに「干し首」の作り方が載ってる本があったはず、と気になってたんだけど、書き終わってからこの本のことを思い出した。

『秘境物語』には全部で17編の世界の実話奇譚が収録されている。タイトルをあげると「シェンシの金字塔」「大西洋の船の墓場」「眠れる宝庫」「マヤの大隧道」「赤い木乃伊の秘密」「ミスラムの毒蛇群」「猛暑に消えた部落」「最後の石器時代人」「ルクプントの巨人」「百人の黒い花嫁」「謎の宝島・ココス」「古生代の海蛇は生きている!?」「プーナの魔術師部隊」「ティヨーパの魔の山」「「空飛ぶ円盤」の化石?」「人間の首の乾物」「ファラオの呪い」という感じで、すごく秘境っぽい。さすがに一冊目なだけあって、メジャーなネタが勢揃いだ。
 タイトルだけではピンとこないのもあるけど、「ルクプントの巨人」はインドの山奥のルクプントという渓谷で発見された100体もの巨人の骨に、ヒマラヤの雪男を絡めた考察。「最後の石器時代人」はアメリカで欧米人と接触することなく、石器時代の生活を営み続けていた「最後の野生のインディアン」の生涯について。このインディアンの生涯は、手塚治虫によって漫画化もされている。(※1)「赤い木乃伊の秘密」というのもまた興味をそそられるタイトルだが、これはロシアの赤の広場、レーニン廟に安置されたウラジーミル・レーニンの遺体にまつわる話。

 さて「干し首」については、「人間の首の乾物」にばっちり書かれていた。それによると「干し首」の製法は長らく謎とされてきたらしい。その秘密を解き明かしたのが、アメリカ人の実業家、ルイ・コットロー。彼はアマゾンの奥地の原住民、有名な「アマゾンの首狩り族」とともに長期間過ごし、秘法とされる「干し首」の製法を目の当たりにしたのだった。
 まず切断した頭部の、首の側から竹製のナイフで皮を剥ぐ。この作業にはおよそ15分ほどかかるという。剥がれた皮は細い紐で目や口を縫合されたあと、鍋のなかでぐつぐつ煮込まれること2時間、取り出されたときは1/3くらいのサイズに縮んでいる。そこで首の開口部から焼けた石を入れ、激しくシェイクする。皮を乾かして、内側に残った肉片を焼き落とすためである。この作業は途中で皮をなめす工程を挟みながら、石のサイズを変えて二度行われ、最終的に焼けた砂を詰め込んで「干し首」の完成となる。この一連の描写は、鍋に黄色い油が浮いているとか、サイズに合わせて眉毛や睫毛を整えるとか、とにかく詳細を極めている。それでもあまり不快感を感じないのは、著者の軽やかな文体によるものだろう。
 これに限らず著者の作品は、彼方の秘境を目の当たりにするような鮮やかな描写と、なにを書いてもエグくなりすぎない綺麗な文体で、どの本を選んでも楽しくリラックスして読める。

 著者はインタビューのなかで「ぼくは体が弱くて、外へは出られなかったんです。だから外国にも行ってないですよ。アームチェア・ディテクティヴならぬアームチェア・アドベンチャーなんだ(笑)」(※2)と語っている。最初にあげた香山滋も、アフリカのギニアを夢見ながらも渡航の経験はないらしく、このあたりにどうも秘境ものの極意があるように思う。

 それから前回のE・L・ホワイト『こびとの呪』の感想では「ピグミー族を求めてジャングルに踏み入った探検隊」という、不確かな書き方をしてしまったが、正確には「現在知られているよりも、より小さなピグミー族を求めてジャングルに踏み入った探検隊」と書くべきだった。この「ピグミー族より小さいピグミー族」、E・L・ホワイトのまったくの創作のようにも思われるが、黒沼健の著書『世界の謎と怪奇』(※3)のなかには、ピグミー族よりもさらに小さい種族についての記述があって、実在するかどうかはともかく、そんな噂話はあったのかもしれない。

 最後に「干し首」の豆知識。「干し首」は現地の部族のあいだで「ツァンツァ」(Tzantza)と呼ばれているが、ルイ・コットローが同行した人々は、ナマケモノも同様に「ツァンツァ」と呼んでいた。人間の首がないときは、ナマケモノの首で代用するといい、そうした標本も現存している。女子供の「干し首」は作らない。また親戚の者の首を切断することもタブーとされているという。


 ※1. 手塚治虫『原人イシの物語』(『手塚治虫漫画全集 MT122 タイガーブックス〈2〉』講談社 1978 所収)
 ※2. 諸星翔インタビュー・構成「秘境と謎と怪奇 黒沼健の世界」(『幻想文学 第八号』幻想文学会出版局 1984 所収 p.65)
 ※3. 黒沼健『世界の謎と怪奇』アサヒ芸能出版 1967 平和新書


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