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L・P・ハートリイ『コンラッドと竜』

 L・P・ハートリイ(L.P.Hartley)著, 渡辺南都子訳『コンラッドと竜』(“Conrad and the Dragon” チェスタートン・他著, 佐藤高子, 渡辺南都子訳『ビバ! ドラゴン ファンタジイ傑作集〈2〉』早川書房 1981 ハヤカワ文庫 FT28 所収 )

 昔ヨーロッパの国境の向こうの片田舎に、少年が父母とともに暮らしていた。少年の名は「コンラッド」。三人兄弟の末っ子である。彼の暮らす王国には「ヘルミオネ」という非常に美しいお姫様がいた。その美しさは広く知られており、立派な身分の求婚者が次々に名乗りをあげた。ところが誰一人として、城に足を踏み入れることができなかった。なぜなら求婚者が城に入ろうとするたびに、巨大な竜が現れて彼らをたいらげてしまったからだ。姫の評判は姫の不幸とともにますます高まり、数年のうちに何人もの犠牲者が出た。
 ある時、意を決した王がこう発布した。身分を問わず竜を殺した者が姫の花婿となり、王国の半分を手にすることができると。コンラッドの兄「レオ」は真っ先に志願して、あっさり竜の餌食となった。もう一人の兄「ルドルフ」もまた、コンラッドが散々止めたにも関わらず犠牲になってしまった。そんな頃、ヘルミオネ姫の身を思い遣る一通の手紙が彼女のもとに届いた。差出人はコンラッド。手紙から感じられるコンラッドの優しさに姫は惹かれていく。ところが大好きな二人の兄を奪われたコンラッドは、姫に憎しみさえ抱いていた。それでも彼は亡き兄たちと故郷の名誉のために、竜と対決しなければならないのだった。

 嫌な怪奇小説として名高い『ポドロ島』(←前の記事へのリンクです)の著者によるファンタジー。三兄弟とドラゴン退治というオーソドックスな題材を採用しながらも、やっぱり一筋縄ではいかない捻くれた作品だった。序盤こそ伝統的なドラゴン退治のストーリーに則って調子よく展開するが、中盤に入る頃から、あ、これ普通じゃないわって感じになってくる。
 特異な点は主人公コンラッドのモダンなキャラ造形に集約される。なにせ彼は終始一貫してお姫様に好感を持たず、むしろ嫌悪感を抱いている。姫に手紙を出したのも、兄の命を慮ってのことだった。とにかく彼は二人の兄が大好きだったのだ。竜退治に乗り出したのも、姫を手に入れようなんて腹積りは毛頭なく、世間体が悪いからとかそんな理由で渋々ながら参加したのである。

 全てが類型的に整えられた物語の中心に、異物感たっぷりのコンラッドが配置されたために、物語はどんどんあらぬ方向へと進んでいく。見事ドラゴンを倒したコンラッドは、結局姫も国の半分も手にすることができなかった。そればかりか「うそつき」「人殺し」「裏切り者」という汚名を着せられてしまう。姫には魔術師によって、次のような呪いがかけられていた。

「たとえ、男が汝を愛しても、汝が男を愛さぬならば/汝の求婚者の命など/塵芥とおなじこと」
「もし、男が汝を愛し/汝が男を愛したら/どんなことになるかは/見てのお楽しみ」
「もし、汝が男を愛しても/男が汝を拒むなら/どんなまじないがあろうとも/汝を守ってくれはしない」(p168-170)

 ドラゴンの正体はヘルミオネ姫、その人だったのである。なんとも報われない話。


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L・P・ハートリィ『ポドロ島』

 

 L・P・ハートリィ(L.P.Hartley)著, 宇野利泰訳『ポドロ島』("Podolo" ジョン・コリアー他著, 中村能三, 宇野利泰訳『怪奇小説傑作集〈2〉』東京創元社 1969 創元推理文庫 所収)

 怪奇小説ファンにはおなじみの創元推理文庫の『怪奇小説傑作集』、第2巻の最初に置かれているのがこの『ポドロ島』だ。モダンホラーの先駆的な作品として有名らしい。そのモダンホラーってどんなだ? っていうと、巻末の解説では、現代社会の隙間のなかにいきなり超自然(超常現象)を押し込んで、日常生活の内にある恐ろしいものをかいま見せる小説、という説明がされている。

 ヴェニスの沖合に浮かぶ無人島に、主人公と、主人公の親友の妻のアンジェラ、船頭の三人が上陸するところから物語ははじまる。ピクニックに訪れたのだ。アンジェラは島で見つけた子猫を捕まえて、連れて帰るつもりだという。彼女は極端な慈善家で、なにかと施しをせずにいられない性分なのだ。ところが島を離れる時刻になっても、一向に子猫は捕まらない。アンジェラは捕まらなければ殺してやると息巻いて、一人で子猫を探し続けている。
 待ちくたびれて眠ってしまっていた主人公たちが目覚めると、あたりはすっかり暗くなっている。アンジェラは戻らない。船頭は人影を見たらしいが、それはアンジェラではなく、ナイフを手にした男のようだったという。急いで彼女を探さなければ……。

 この作品では子猫が一匹、それとアンジェラも死んでいるらしいのだが、子猫の方はともかく、アンジェラが死亡した経緯はまるではっきりとしない。怪奇小説らしい超常現象が生じていたのかどうかも分からない。著者は主人公が把握していない物語の欠落部分を想像で埋めるように読者を誘導しつつ、巧みにいくつかの解釈を暗示していく。そして最後まで明確な解決を示さない。全てが薮の中、タネ明かしのないミステリー小説のようで、嫌な気分ともやもや感が残る。暗示される犯人像のひとつに、人ならざるものが含まれるのが怪奇小説らしいところか。

 またこの作品には「因果応報の物語」という側面もある。物語の前半、子猫に執着してどんどんおかしくなっていくアンジェラの病的な慈善家ぶりは、実は島そのものに超常現象が発生していて、彼女に何らかの力が働いていたのではないか、なんて思ってしまうほどの醜悪さだ。このアンジェラの一連の描写には、後々因果応報を強く印象付けする効果があって、彼女が「死んだ」ということに疑いを抱かせずに、「誰が殺したのか」という疑念に読者を誘導する。何度か読んでると、これが著者の仕掛けた最も悪質な(褒めてます)トラップなんじゃないかって気がしてくる。著者は読者の想像のなかで、アンジェラの死亡を確定させるのだ。

 著者の技巧の冴えと、底意地の悪さ(褒めてます)を堪能できる作品。後味悪い。


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