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E・L・ホワイト『夢魔の家』

 E・L・ホワイト(E.L.White)著, 倉阪鬼一郎訳『夢魔の家』("The House of the Nightnare" 西崎憲編『怪奇小説の世紀〈1〉夢魔の家』国書刊行会 1992 所収)

こびとの呪』(←前の記事へのリンクです)の著者による幽霊屋敷もの。ストーリーはごくオーソドックスで、とくに凝った表現がなされているわけでもないのに、怖ろしく的確に不安のツボを突いてくる作品。オチはかなり早い段階で分かってしまうのだが、そういうのはあまり関係ないらしい。むしろオチが分かってるからこそ、水を飲んだり蝋燭を点けたりという主人公の挙動が、いちいち不安を煽ってるような気もする。

 舞台はとある片田舎。夕暮れ時、自動車事故を起こした主人公は、たまたま出会った近隣の村の少年に一夜の宿を求めた。少年に連れられて主人公が訪れたのは、村はずれにある石造りのあばら屋だった。少年は両親を失って以来、村人から幽霊が出ると噂されるこの家で、一人きりで暮しているらしい。幽霊については見たこともないとのことだったが、悪夢には悩まされ続けているという。主人公はその夜夢を見た。それは少年が語ったのと同じ、巨大な豚のような怪物に、今まさに食われようとしている夢だった。

 主人公が見たこの悪夢が物語の核になっていることは間違いないと思うが、それよりも全編に漂う薄気味の悪い気配や、不安を煽る何気ない描写が印象的だった。まず三半器官がどうにかなってしまったかのような事故の原因からしておかしいし、現場にふらっと現れた少年の風体も異様だ。ちょっとだけ引用してみると、

少年がいた。石炭殻の道の端、水路の近くに立っている。ずんぐりむっくりで裸足、スボンは膝までたくしあげている。南軍の兵士みたいなシャツ、第一ボタンはかけていない。上着はなし、帽子もなし。麻くずみたいな頭で、髪はもじゃもじゃ。そばかすだらけで、おまけにひどい兎唇(みつくち)だった。両足のつま先をかわるがわるぐるぐるさせているばかりで、何も言わない。じっとこちらを見つめている。(p.57)


 インパクトの強い風貌もさることながら、「両足のつま先をかわるがわるぐるぐるさせているばかりで、何も言わない。じっとこちらを見つめている」という仕草が気になってしょうがない。「兎唇」からの連想ってわけでもないけれど、ヘルンヴァインの絵に出てきそうな感じだ。最初から最後まで不安な夢のなかにいるような作品だった。


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E・L・ホワイト『こびとの呪』

 

 E・L・ホワイト(E.L.White)著, 中村能三訳『こびとの呪』("Lukundoo" ジョン・コリアー他著, 中村能三, 宇野利泰訳『怪奇小説傑作集〈2〉』東京創元社 1969 創元推理文庫 所収)

 以前海外でシリンダー状の容器に密封された「干し首」を見たことがある。場所は博物館とかじゃなくて、いかにも高そうなアンティークショップの店頭。ちっこくても死体の一部だ。そんなの売買しても大丈夫なのかと思ったけれど、しっかり売ってるらしかった。製作された場所や年代のせいなのか、保存状態が良かったからかは分からないが、国立科学博物館が所蔵しているものよりも、ずっと完成度が高く感じられた。形状の崩れがほとんどなくて、まさに夏蜜柑サイズのおっさんの首。よく見ると細かく皺のよっている黒い肌や、顔に対して太い髪の毛、そして沈思黙考しているような表情が強く印象に残った。
 著者E・L・ホワイトは、作品のヒントを夢から得ていたというが、この『こびとの呪』のもととなった夢(悪夢)を彼に見せたのも、上記のような「干し首」の印象ではなかったかと思う。

 物語の主な舞台はアフリカの奥地。ピグミー族を求めてジャングルに踏み入った探検隊が、怪異に遭遇する。ジャングルで探検というと、無条件にわくわくしてしまいそうになるけれど、本作に関してはわくわくなんて雰囲気は皆無で、ひたすら重苦しく、暗い。この作品で描かれているのは、未開の世界の恐怖、「呪い」と「奇病」だ。罹患したのは主人公の友人。アフリカ大陸で蛮勇を奮っていた人物で、原住民に対する彼の行いが禍いを呼び寄せたのだった。その「奇病」とは「人面瘡」。
 患者が意識を失っているあいだに、体の状態をチェックしてみると、全身に何十ヶ所という切断痕が見つかる。彼は人知れずカミソリを用いて、黒人のまじない師の頭部にそっくりな「腫物」を、削ぎ落としていたらしい。

 巻末の解説ではこの作品を「世紀をこえた傑作のひとつ」と評価しているが、詳細な腫物の描写ひとつとっても確かに世紀を超える気味の悪さだ。鬼気迫る患者の様子も相まって、血膿の匂いが漂ってきそうなほどの惨たらしさである。そしてこれらのグロテスクな描写の数々が、単にあ〜気持ち悪かった、で終わらないのは、物語の背景(というかそもそもの発端)に白人の蛮行を据えているからだろう。そこに罪悪感があるから「呪い」は成就するし、怖っ! ってなるのだと思う。全身にポコポコと生える黒い腫物を想像すると、体のあちこちがむず痒くなってくる。

 以下余談。
「人面瘡」は日本では古くから怪談集などで取りあげられていて、横溝正史や手塚治虫の作品で広く知られるようになる以前から、ある程度知られた奇病だったようだ。江戸時代に書かれた浅井了意の『伽婢子』には、ズバリ「人面瘡」という話が載っている。その症状はこんな感じ↓

山城の国小椋といふ所の農人、久しく心地悩みけり。或時は悪寒発熱して瘧の如く、或時は遍身痛み疼きて通風の如く、様々療治すれども験なく、半年ばかりの後に、左の股の上に瘡出て来て、其の形人の顔の如く、目口ありて鼻耳はなし。是より余の悩みは無くなりて、只其の瘡の痛む事いふばかりなし。
 先ず試みに、瘡の口に酒を入るれば、其の儘瘡の面赤くなれり。餅・飯を口に入るれば、人の食ふが如く口を動かし呑み納むる(※)


 酒を飲んだり飯を食べたりするというのが気持ち悪い。またなにか食べているあいだは、痛みが和らぐともある。『伽婢子』には「人面瘡」の挿絵も付いていて、男の膝のあたりにおっさんの顔そのものが描かれている。どこからこんな奇怪な病気を思いついたのかはさっぱり分からないけれど、東西で似たような奇病が想像されていたのが面白い。


 ※ 浅井了意『伽婢子』(高田衛編・校注『江戸怪談集〈中〉』岩波書店 1989 岩波文庫 所収 p.345-346)

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 黒沼健『秘境物語』 http://serpentsea.blog.fc2.com/blog-entry-102.html
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