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P・メリメ『イールのヴィーナス』

 プロスペール・メリメ(Prosper Mérimé)著, 杉捷夫訳『イールのヴィーナス("La Vénus d’Ille")』(日影丈吉編『フランス怪談集』河出書房新社 1989 河出文庫 所収)

 最近深夜に面白い映画をやってるので寝不足気味だ。昨夜はムービープラスで『シャークトパス SHARKTOPUS』(2010)っていうサメとタコが合体したのが出てくるのをやってたし、今夜は『ダブルヘッド・ジョーズ』(2012)をやっている。はじめて見る作品だけどめちゃ面白そう。「ビキニ美女、危うし!」って特集らしい。難点は吹き替えじゃないので、これを書きながら字幕を見るのがちょっと大変なことくらい。そんなわけでサメかタコが出てくる話の感想を書こうと思ったんだけど、映画見てたら余裕がなくなってきたので、先日の続きっぽい小説ついて。

 人形的なアイテムにまつわる怪談は、創作、実話怪談を問わず古くから数多く、江戸川乱歩も『幻影城』の「怪談入門」のなかで「絵画彫刻の怪談」という項目を個別に設けて、そこに人形の怪談を分類している。漫画やアニメまでジャンルを広げれば、とんでもない数になるだろう。
 このメリメの『イールのヴィーナス』は、子供のころ、児童向けの雑誌か怪談集で抄訳を読んだことがあって、黒々とした版画調の挿絵がものすごく怖かった覚えがある。板張りの部屋のベッドの傍に、真っ黒なでっかい銅像が目だけ白くギロギロ光らせて立っているという絵だった。この作品に登場するのは、タイトルの通りいわくありげなヴィーナスの像で、モノとしては先日感想を書いた『今昔物語集』(←前の記事へのリンクです)の「天女像」に近い。もっともこっちは男が像に恋する話じゃなくて、像に恋されて酷い目に会う話だけど。……その内容はというと↓

 婚礼の当日、田舎の御曹司アルフォンス君は、調子にのってポーム(テニス)の試合に興じていた。ところが結婚指輪が邪魔になって、イマイチ調子が出ない。そこで結婚指輪を外すと、コートの傍に立っていたヴィーナスの銅像の指に、なくさないようにと嵌めておいた。この像はアルフォンス君の父親が地所から発掘したものである。ところがいざ銅像の指から指輪を抜こうとすると、像の指が曲がってしまって、まったく抜くことができない。結局結婚式は別の指輪を代用にして執り行うことになった。
 翌朝、寝室でアルフォンス君の死体が発見された。新妻はこの世ならぬものを見て錯乱状態にあった。アルフォンス君の死因は圧死であった。

 というのが超々大まかなストーリー。大まか過ぎてフランスの小説らしい小洒落た感じが伝わるかどうか。この『イールのヴィーナス』は起承転結が綺麗に整ったとても読みやすい作品で、翻訳者の手腕なのか皮肉っぽい語り口が終始面白い。肝心の「ヴィーナス」も魅力的だ。美しい造形から滲み出すような禍々しさ、底意地の悪さが的確に表現されている。
 子供のころはベッドの傍に立つ影がひたすら怖かったのだが、改めて読み直してみると、それとはまた異なった不快感を感じることになった。それは劇中に登場する田舎の人々の慇懃無礼さで、とにかく気持ち悪いのだ。自尊心と劣等感と承認欲求がごちゃ混ぜになった状態で、救い難くめんどくさい人々である。悪気がないからなおさら手に負えない。彼らの描写は真に迫っていて、実に生々しい。もしかすると著者は実際に接した人々をモデルにしてるのかもしれない。そのくらいリアルなのだ。嫌な所が。

 この作品が収録されている河出文庫の『フランス怪談集』には、本作を含めた12編の怪奇小説が収録されている。新訳はそのうち3編と少なめだが、とてもバラエティに富んだラインナップで、比較的手に入りやすいフランスの怪談集のなかでは、特におすすめ。……そうこうしてるうちに、まじでビキニ美女が危うくなってきた。双頭のサメ、かっこいい!


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