「バーカー (クライヴ) 」カテゴリ記事一覧


クライヴ・バーカー『父たちの皮膚』

 

 クライヴ・バーカー(Clive Barker)著, 大久保寛訳『父たちの皮膚』(“The Skins of the Fathers”『ジャクリーン・エス with 腐肉の晩餐』集英社 1987 集英社文庫 血の本〈Ⅱ〉所収)

 ちょっと前に読んだ『腐肉の晩餐』(←前の記事へのリンクです。以下同じ)が予想外にサイコサスペンス、サイコスリラー枠の作品だったので、これもタイトルからしてそっちのジャンルかなーと思ってたんだけど、全然違ってた。砂漠で住民と怪物が戦う『トレマーズ』(1990)をグロくしたみたいな作品だった。著者の作品だと『髑髏王』("Rawhead Rex”)や『ミッドナイト・ミートトレイン』("The Midnight Meat Train")の系統。

 舞台はアリゾナの砂漠の町「ウェルカム」。その町に住む美しい人妻が悪魔たちに輪姦され妊娠する。やがて彼女の子供が成長すると、それを狙って再び悪魔の群れが現れた。気味の悪い悪魔 vs ゲスい住民という、どっちを応援しても後味の悪そうな、壮絶なバトルが始まる。

 劇中にスバリ書かれてるわけじゃないけど、クトゥルフ神話色が強く感じられる作品。『ミッドナイト・ミートトレイン』の感想では「ラヴクラフトの『ピックマンのモデル』("Pickman's Model")をアップデートしたかのような世界観」と書いたけど、本作は様々な点で『ダンウィッチの怪』(ダニッチの怪 “The Dunwich Horror”)を彷彿とさせる。ただし登場する怪物には旧支配者のようなオーバーロードな貫禄はなく、零落して触手系の妖怪に成り果てている感じで、そこはかとない切なさを漂わせている。劇中では「悪魔」と呼ばれている。
 突っ込んで描かれてないのが残念だが、この悪魔と人類の関係について、もともと人類は女性だけで悪魔と共存していたという面白い設定がある。それと悪魔が意外とハートウォーミングなところも印象に残った。人間側がとにかくゲスいので、奇妙な優しさがより顕著になってる。

 著者お得意のゴアシーンは本作でも健在。単に惨酷なだけじゃなくて、被害者の心情ががっつり書かれているのが特徴。一例を挙げると、これは住民の一人が悪魔に腕をかじられるシーン↓

パッカードの手、というより手の残骸は、ふたたび外気に触れた。その右手からは指がなくなっていて、親指だけがかろうじて半分残っているだけだった。ぐしゃぐしゃになった指の骨が、ところどころ噛み跡のついた手のひらから醜く突き出ていた。〔中略〕すでに片手を、酒を飲み、セックスするのに使う手を失ってしまった。失った指と過ごした歳月への郷愁の波が押し寄せ、目の前が突然真っ暗になった。(p.207)


 ……という感じでいちいち気合が入っている。怪物やそのドロドロぐちゃぐちゃした物体Xばりの変態の描写も詳細で、怪物の出てくる小説好きな人にはおすすめの作品。今ひとつピンとこないタイトルは聖書の一節をもじったもの。


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クライヴ・バーカー『腐肉の晩餐』

 

 クライヴ・バーカー(Clive Barker)著, 大久保寛訳『腐肉の晩餐 - 恐怖の研究』(“Dread”『ジャクリーン・エス with 腐肉の晩餐』集英社 1987 集英社文庫 血の本〈Ⅱ〉所収)

 全然関係ない話なんだけど、今日電車の中で初老の女性がホライゾンを読んでた。5の下巻。二代と誾がバカかっこいい巻だけど、さすがにあの表紙&厚さはよく目立つ。思わず二度見してしまって、これが二度見か! って思った。

 大学生の「スティーヴ」は「クウェード」という年上の哲学科の学生と知り合いになった。人の恐怖の本質を見極めようとするクウェードは、他人のトラウマを穿り出して増幅、その心が壊れる様子を観察しようとする病的なサディストである。スティーヴはそんな彼の危うさに惹かれていく。クウェードはやがて極端な菜食主義者で動物の肉を忌避する「シェリル」という女性を監禁し、飢餓状態に陥った彼女に腐った肉を食わせることに成功する。そして彼女が肉を口にするまでの過程をすべて写真に収め、それをつぶさにスティーヴに告げたのだった。暴れ、眠り、排泄し、飢え、腐肉を口にして嘔吐するシェリル。クウェードを詰問するスティーヴだったが、ふいに気が遠くなり、気付けば狭い密室に監禁され耳を塞がれていた。スティーヴがもっとも怖れていたのは、幼少時の難聴の経験から突然耳が聞こえなくなることであった。

 ドログチャってしたのがいつ出るかとビクビクわくわくしてたのだが、ドログチャは結局最後まで出てこなかった。これまでに感想を書いた著者の作品には、笑えるほど大量の死体が登場したが、この作品では死亡者も0。予想してたのとジャンルが違ってた。サイコサスペンス、サイコスリラー枠だ。ただし怖さ、不快感は極上。めっちゃ怖かった。
 全体のトーンは会話主体の古典的な怪奇小説、もしくは推理小説っぽい雰囲気で格調高め。いつもより静かな感じだが、やってることはえぐい。とくにシェリルに対する仕打ちは残酷で、仄かにエロい。閉じ込められて精神的にも肉体的にも衰弱していく彼女の様子が克明に描写されている。観察日記みたいな感じで淡々と書かれているのがまた怖い。クウェードの抱く恐怖がやや弱い(平凡な)ように感じられたが、彼自身は『ヘル・レイザー』(1987)の魔導師まっしぐらだ。自分は肉が苦手でも閉所恐怖症でもないけど、そういう傾向の人にとってはシャレにならない作品だと思う。不快感MAX。

 一読後、人物の配置や作品の構成、キャラの病的な傾向の似てる蘭郁二郎の探偵小説『魔像』を思い出したが、訳者による「あとがき」では「恐怖とは何であるか」をテーマにした作品として竹本健治の『恐怖』が紹介されている。これ読んだことのない作品なので、見つかったら読んでみたい。
『腐肉の晩餐』は2009年に著者の製作総指揮で映画化されている(未見)。


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クライヴ・バーカー『ミッドナイト・ミートトレイン』

 

 クライヴ・バーカー(Clive Barker)著, 宮脇孝雄訳『ミッドナイト・ミートトレイン』("The Midnight Meat Train"『ミッドナイト・ミートトレイン 真夜中の人肉列車』集英社 1987 集英社文庫 血の本〈1〉所収)

 いやーひどい話だった(←褒めてます)。まじで血みどろ。

 主人公のカウフマンがニューヨークで暮らしはじめて三ヶ月少々が経った。ニューヨークの街に対する憧れはすっかり薄れてしまっていたが、それでも「あばずれ女」に抱くような愛情を彼はなおも持ち続けていた。そんなとき地下鉄の車内で猟奇的な連続殺人事件が発生する。被害者は吊り革に吊るされ、アンコウのような状態で解体されていた。犯人はマホガニーという初老の男で、もう一人の主人公である。彼は《祖父たち》という何者かの意思に従って犯行を重ねているらしい。そんな二人の主人公が、爆走する地下鉄の血まみれの犯行現場でばったりと出会った。

 このあと主人公二人によるバトルがあって、さらにラヴクラフトの『ピックマンのモデル』(←前の記事へのリンクです)をアップデートしたかのような驚きの世界観が開示される。最後の方までシリアルキラーものっぽく話が進むから、《祖父たち》が登場して以降の展開には唖然としてしまう(←もちろん褒めてます)。
 様々なタイプのホラー小説をものにしている著者だが、なかでも「ハチャメチャな出来事の背後に、実は「歴史」の意思のようなものがあって、それが現在の人々に人知を越えた強烈な作用を及ぼしている」といった、伝奇ロマン色の濃い作品には、ビジュアル的にもスケールが大きく、おもしろいものが多い。この作品や以前感想を書いた『丘に、町が』(←前の記事へのリンクです)など。血まみれで、バラバラだったりするわりに、「なんかスゴい」って印象が先に立つためか不快感は少ない。

 この作品が収録されている「血の本・シリーズ」の一冊『ミッドナイト・ミートトレイン 真夜中の人肉列車』は、著者クライヴ・バーカーのデビュー作で、八十年代のホラー(ビデオ)ブームの終わりのころに、日本で翻訳された著者の最初の本でもある。スプラッタームービーからの強い影響を肯定的に、前面に押し出したものとして先駆的な作品となった。解説はイギリスのホラー小説界の巨匠ラムゼイ・キャンベル(ラムジー・キャンベル)。「数十年に一人の脅威の新人」の登場を熱っぽく語っている。


 ※この作品は数年前に『ゴジラ FINAL WARS』(2004)の北村龍平監督によって、突如ハリウッドで映画化されている↓

 ミッドナイト・ミート・トレイン [DVD]』角川書店 2012


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クライヴ・バーカー『髑髏王』

 

 クライヴ・バーカー(Clive Barker)著, 宮脇孝雄訳『髑髏王』("Rawhead Rex"『セルロイドの息子』集英社 1987 集英社文庫 血の本〈Ⅲ〉所収)

「ヘルレイザー・シリーズ」(1987〜)のようなホラー映画史に残るような作品をはじめ、著者が製作に携わった数々の映画には、小説家が趣味で作ったような作品とは一線を画す高品質なものが多い。そんななかにあって著者が脚本、原案を担当した『ロウヘッド・レックス』(1986)は、ものすごくガッカリな方向でひときわ異彩を放っている。確かに原作にはそのまんま映画化するには難しそうなところも多々あるのだが、とにかくメインの怪物「髑髏王」がしょぼい。ちっこい。そしてダサい。その昔レンタルのVHSで見たきりなんけど、未だに印象は鮮明なままだ。ゴアシーンと怪物だけしっかりやってくれば何の文句もないのに、そういった肝心のところが盛大にずっこけている。

 で、そんな迷作の原作がこの『髑髏王』。こっちはいいよ!

 イギリスの田舎の畑に封印されていた「髑髏王」が復活、行き当たりばったりに村人を殺し、子供を喰らう。村人はそれに対抗しようとするがまったく歯が立たない。「髑髏王」には致命的な弱点があるらしいのだが、今ではすっかり忘れ去られている……というのが大まかなストーリー。
 映画ではゴリラのマスクをかぶった変な人って感じだったけれど、原作の「髑髏王」は身長2.5メートルの巨漢で、人類の文明が生まれる以前に当地を支配していたという設定の禍神だ。殺戮の限りを尽くし、放尿、脱糞、射精となんでもありのキャラなんだけど、草原で月を見上げて物思いにふけるような感傷的な側面も持ち合わせている。「髑髏王」の内面を人間の登場人物並みに描写しているのがこの作品のユニークなところで、映像で表現するのは難しそうだけど、おかげで「髑髏王」のキャラはめっちゃ立ってる。

 また「髑髏王」に惨殺される登場人物(子供が多い)の描写からも強烈なインパクトを受けた。例えば「巨人はデニーのもとに素早く駆け寄ると、その愛しい顔を糞のように踏みつぶした」(p.96)「涙に濡れたアメリアの顔が、怪物の上下の歯で噛み砕かれている」(p.99)「怪物の喉に反吐を吐いた瞬間、少年の頭の上半分が噛みちぎられた」(p.138)などなど、死に直面した犠牲者の表情が端的に描写されていて、無常観を強く感じさせる。続けざまにどんどん人が死ぬわりに単調にならないのは、死にざまにバリエーションが多いからだろう。

 飽きのこない残酷描写や、自動車をずっと生き物だと思ってたりする「髑髏王」の絶妙なボケ具合、以前感想を書いた『丘に、町が』と同様に、伝奇ものっぽい要素を積極的に盛り込んで演出された物語のスケール感など、映画とは違って読み応え満点の作品。


 こっちも一応 ↓ パッケージで腕を振りあげてるのが「髑髏王」……

 ロウヘッド・レックス [DVD]』キングレコード 2003


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クライヴ・バーカー『丘に、町が』

 

 クライヴ・バーカー(Clive Barker)著, 宮脇孝雄訳『丘に、町が』("In the Hills,the Cities,"『ミッドナイト・ミートトレイン 真夜中の人肉列車』集英社 1987 集英社文庫 血の本〈1〉所収)

 フォルクスワーゲンで旅行中のゲイのカップルが、たまたま訪れたユーゴスラヴィアの田舎の町でとんでもない事件に巻き込まれた。二人が訪れた町とその近隣の姉妹町は、10年に一度ごとにある特殊な方法で戦闘を行っているという。住人が組み体操のように巨大なヒトガタを形成して、そのヒトガタ同士で戦闘を行うのだ。古来からの祭祀のようなものらしい。今回の戦闘で1体のヒトガタに参加した住人の総数は38765人……。二人の旅人の眼前に、雲を衝く巨人が現れた。

 ホラ話でもこのくらいのスケールになると爽快感を感じる。イメージソースとしては「あとがき」にもあるようにゴヤの(助手の)作とされる『巨人』("The Colossus")あたりなのだろうけど、とにかくビジュアル的な訴求力が半端ない作品だった。

 巨人の描写はかなり緻密で読み応え満点。そうでないと住人の体を集めて、巨人の「骨格、筋肉、骨、目、鼻、歯、男女の体でそのすべてをつくる」(p.276)なんて発想を作品として成立できなそうだ。
 雲を衝くような巨人である。当然この重力下でそんな体形が維持できるわけがない。だから各部を構成している住人はどんどん潰れて死んでいく。なかでも足の裏なんかに配属された奴は悲惨この上ない。「足をつくってる連中は、誰もが屈強な大男ばかりだった。死んでいる者も多かった。仲間の体重に押しつぶされた血まみれの死体が、ジグソーパズルのように足の裏にへばりついている」(p.288)なんてことになっている。数万人の人々による法悦と恐怖の絶叫、赤い川のように流出する血液。まさに地獄絵図だ。

 また主人公のゲイの二人の好対照な性格付けも気が利いていておもしろい。一人は政治的に偏狭な思想の持ち主で、どこかで聞きかじったようなご高説をドライブの間中垂れている。もう一人は行く先々の文化遺産が醸しだす夢の世界に浸れれば満足、という乙女チックなハートの持ち主。二人のうちどちらが「町」に祝福されるのか……。

 著者は映画「ヘルレイザー シリーズ」(1987〜)をはじめ、『ロウヘッド・レックス』(1986)や、クローネンバーグが変な袋をかぶって活躍する『ミディアン』(1990)など、多くの映画の原案、監督、脚本家として知られている。この方面での活躍ぶりを見ると、もともと超ビジュアル先行型の作家なのだろう。CG全盛の現在、この作品なんてとくに映画に向いていると思う。モザイクのように人体で構成される巨人、……ものすごい絵面だ。でっかい怪物や怪獣が出てくる小説大好きって人にはすごくおすすめ。


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