「勁文社文庫・「超」怖い話 」カテゴリ記事一覧


樋口明雄『新「超」怖い話』

 樋口明雄編著『新「超」怖い話』勁文社 1993 勁文社文庫21 Q-019

 勁文社文庫版『「超」怖い話』、シリーズ3冊目の本。この巻から後に編著者となるデルモンテ平山(平山夢明)が参加している。ちょっとややこしいので整理しておくと、勁文社文庫の本シリーズは、『「超」怖い話』→『続「超」怖い話』→本書『新「超」怖い話』→『新「超」怖い話2』→『新「超」怖い話3』〜という順で全11冊が刊行されている。ちなみに『新「超」怖い話4』は縁起が悪いってことで欠番。「3」の次が「5」となる。また「9」も同様の理由から「Q」という表記になっている。

 内容は「空の章」「風の章」「火の章」「水の章」「地の章」の五つの章に分かれていて、それぞれのテーマに沿ったエピソードが、わりと厳密に分類収録されている。

「空の章 身に降りかかったこと」より「ちくしょう」
「空の章」には以下の各章には分類し難い多様な心霊体験が「身に降りかかったこと」して、最多19編が収録されている。
 このエピソードは神奈川県の「ヤビツ峠」を舞台にした自動車の怪談。体験者は深夜、助手席の彼女をナビに峠を走行していた。最初のうちは極度に峠を怖れていた彼女だったが、やがてすっかり静かになって、「右よ、ね」「次、左でしょ」という具合に驚くほどのナビぶりを発揮していた。体験者はその声に生返事をしながらハンドルを切る。しばらくすると右側のガードレールの失われた大きな左カーブに差し掛かった。彼女の声、「次、右だよね……」
 自動車の怪談の古典って感じの、非常に完成度の高い一編。場所やシチュエーションを変えて類話が語られているので、それを聞いたことがある人もいるかと思う。舞台となった「ヤビツ峠」は走り屋と多くの心霊現象で有名なスポット。過去に死体遺棄事件も発生しているらしい。心霊関係なく怖い。

「風の章 目撃譚」より「殺してしまいましょうか」
 寝付かれない夜、天井を見つめている。小さな染みが二つ浮き出てきたかと思うと、みるみる大きくなっていく。やがて女の顔だと分かるほどの大きさになると、宙に浮かんで何やら小声で話しはじめた。慌てた体験者は寝たふりをしながら、二つの顔を盗み見ようとするが、偶然にも浮遊する女の顔と目が合ってしまう。「ねえ、あの人こっち見てるよ」「私たちに気付いてるんじゃないかしら……」
 シンプルなシチュエーションながら、もしもこんなことあったら確実にちびるわーって感じの話だった。幽霊までの距離が近すぎる。「目撃譚」が10編集められたこの「風の章」には、単にこっちが目撃しただけではなく、この話をはじめ「踏切の少女」「覗かれる」など、あっちからもガン見されてるようなエピソードが複数収録されている。

「火の章 おかしなもの」より「もしもし」
 突然公衆電話が鳴り出したので思わず受話器を取ってしまう。電話の相手もまた同じように公衆電話に出たのだという。聞いてみれば相手がいるのは遠く離れた土地らしい。二人は驚き合いながら電話を切ったのだった。
 まさにちょっと「おかしなもの」って感じのエピソードだが、実は二台の公衆電話にはある不吉な共通点があった……かもしれない、という話。どんどん減ってる公衆電話だけど、未だにそれにまつわる怪談は数多い。実際にベルが鳴ることはあるらしくて、知人は病院のバス停の電話が突然鳴りはじめたのを聞いて、数人のバス待ちの人たちと一緒に悲鳴が出るほどびびったと言ってた。
 6編が収録されたこの章には、思わず笑ってしまうような突飛な現象の目撃談の他に、過酷な労働環境で知られるアニメスタジオにまつわる話が2編収録されている。

「水の章 祟り・因縁話」より「おじぎ人」
「眼球が眼窩から外れかかって顔は血まみれであるにも関わらず、口元はダランと笑っているように見える。」そんなワイシャツ姿の男が、アパートの玄関に正座しておじぎを繰り返している。……トンデモない幽霊が出るいわく付き物件の話。繰り返しわけの分からない行動を続ける幽霊はやっぱ怖い。幽霊じゃなくても怖いけど。この話で特徴的なのは体験者とその母親が強力な霊能力を有しており、事前にヤバイ物件らしいことを感知していて、それに対する対抗策がとられる点だ。
 祟りや因縁話を集めたこの「水の章」には、このエピソードを含めていわく付き物件の話が全10編中、3編収録されている。同じ「いわく付き物件」と言っても様々で、単に幽霊的なものが出るものばかりではない。

「地の章 あやかし」より「狐三千匹」
「狐憑き」にまつわる話で、なんとなく民話調。狐憑きというと「キエーッ!!」って叫びながら暴れるイメージだけど、このエピーソドで憑かれた人は、ただどんどん衰弱していって、ついには寝込んでしまう。霊障的にはごく地味な印象だが、憑いてる数がハンパない。「狐三千匹」。そんな狐の大群を祓うべく、霊能者の指導のもととられた対策は……。
 思わず突っ込みたくなる楽しいエピソードだった。無駄にスケールがでかくて、むしろ信憑性が増してるように感じた。
 この「地の章」には「あやかし」……妖怪っぽい何かの話が8編収録されている。このエピソードのように怖さよりも不思議な感じのするエピソードが多い。

 この本はすでに絶版になってしまっているが、収録されたエピソードのいくつかは竹書房文庫、ハルキ・ホラー文庫から刊行されている複数の本で今も読むことができる。



『新「超」怖い話』
 勁文社 1993 勁文社文庫21 Q-019
 編著:樋口明雄
 執筆者:樋口明雄/加藤一/デルモンテ平山/氷原公魚

 ISBN-13:978-4-7669-1832-8
 ISBN-10:4-7669-1832-0


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樋口明雄『続「超」怖い話』

 樋口明雄編著『続「超」怖い話』勁文社 1993 勁文社文庫21 Q-016

「「超」怖い話・シリーズ」の変遷については前に少し書いたので割愛。本書は勁文社文庫版の二冊めで、1992年に刊行された新書判『「超」怖い話2』を再編集(二話削られている)したもの。この時点で編著者が交代している。
 中身は「霊の章」「妙の章」「奇の章」「妖の章」「変の章」という五つの章に分かれていて、それぞれにゆるく分類されたエピソードが収録されている。全体の印象としては、古き佳き怪奇読物って感じだった前巻と比較して、ぐぐっとシリーズの近作に近づいていて、なかなか読み応えがあった。印象に残ったエピソードをあげると↓

「霊の章」より「富士の哀話」
 富士山にドライブに出た夫婦が樹海で自殺した女性の霊と共感し、彼女が最後に辿った旅路をめぐるという話。死者の思いを追体験した夫妻に女性の霊が挨拶に来るあたり、でき過ぎって気がものすごくするけど、全体に漂う寂寞とした雰囲気は上々。描写が押さえ気味で、大げさにお涙頂戴になってないのもよかった。

「妙の章」より「テープに録音された声」
 聞きたいラジオ番組をラジカセの留守録機能(そんな機能あったんだ!)で録音したところ、肝心な番組は録れておらず、かわりに幼い少女が囁きあう声が録音されていた。それはタンスの上で埃まみれになっている、二体の少女人形が交わした言葉に違いなかった。
 古典的な怪談ネタながら、留守録を聞く体験者の背後の空間の緊張感のある静けさ、じとっと様子を窺う人形の視線を巧みに想像させて、ぞくっとくる一編。人形たちの会話が身に詰まされる。

「奇の章」より「桜の樹の下で……」
 子供のころインコの死骸を埋めるために桜の樹の根元を掘ってみると、大人の人差し指、それも付け根からちぎれた人差し指が出てきて、土の上をもぞもぞ這い回った。まるで古賀新一のマンガのような気味の悪い話。はじめでっかいミミズに見えたというのがリアルだ。このエピソードもまた「泥まみれで蠢く人差し指」のイメージを鮮明に描き出している。

「妖の章」より「石へ……」
 とある旧家で暮らしていた体験者が、幼少時に体験した話。真夜中、ひとりで汲取式のトイレに向かった体験者は、ある部屋の障子の前で立ちどまった。そこは「何があっても、便所の隣にある部屋に入ってはならない」(p.175)という「開かずの間」だった。ふいに障子の破れる音がした。見ると一本の指が障子を突き破って出ている。指は障子を破りながらゆっくりと移動し、不完全ながら「石へ」という文字を書いた。
 誰もいないはずの部屋から障子を破って突き出した指が文字を書く。ドカンと幽霊が現れるような話と比べると地味な現象だけれど、こっち側と向こう側を区切る障子紙の効果は絶大。嫌な感じで想像力を刺激されて、とても気味が悪かった。ブラインド効果ってやつだ。オチが少々蛇足っぽいような気もするが、印象的なエピソードだった。

 という感じで四編選んでみたのだけど、「富士山」「人形」「桜」「障子」って感じで、めっちゃ和風なラインナップになった。これはまったくたまたまで、本書全体が和風なわけではない。またこの四編のほかにも「妖怪」「踊る爺さん」など、おもしろい話がいくつもあった。警察官の体験談が複数話収録されているのも結構珍しいと思う。

 最初にシリーズの近作に近くなってるって書いたけど、他の目立った特徴としては、特定の体験者から複数の話を聞き取っていること、「パソコン通信」を積極的に用いて情報を収集しているところがあげられる。このあたりの特徴は最近のシリーズにもしっかりと受け継がれている。それから前巻の感想で顕著な点として書いた「著者による考察」がかなり削られて、現行の「実話怪談集」の体裁が整いつつあるように感じた。全五十五話収録。


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安藤君平『「超」怖い話』

 安藤君平編著『「超」怖い話』勁文社 1993 勁文社文庫21 Q-013

 現在も調子よく刊行が続いている竹書房文庫の「「超」怖い話・シリーズ」。その前身は勁文社から新書判と文庫版を合わせて、全11冊が刊行されていた。(「超」怖い話←詳しくはwiki等参照)。本書は文庫版の最初の一冊で、1991年に刊行された新書判を再編集したものだ(4話削られている)。「当然ながら、本書に収録された話は、すべて実話です」(p.5)というコンセプトはこの段階で確立されている。

 現行の竹書房版とざっくり比較すると、全体になんとなくゆるいというか、アットホームな雰囲気で、それが味わい深い魅力となっている。収録されたエピソードには不思議系の話が多く、どぎつさは感じられない。取材して集めたというより、たまたま耳に入った話をまとめたって感じで、体験者も著者自身、もしくは著者の身近な人物であることが多い。また著者がエピソードについての考察を展開していることも、現行のシリーズではほとんどみられなくなった趣向だ。そんな中から興味深いエピソードを二つほど↓

「第三章 日常に潜む間の空間」より「電柱から生えた老婆」
 こうした実話怪談集を読んでいると、妙な場所から妙な体勢で「生えている」人騒がせな、しかし出る方の立場になって考えると、なんとなく不憫な感じがしないでもない幽霊の話をたまに見かけることがある。ただ「目撃した!」って話が多いから、なぜそんなところに出るハメになったのかは想像するしかないのだが、当然状況が不条理なほどおもしろいし印象に残る。このエピソードでは土砂降りの雨の中、タイトル通りの場所に老婆が生えている。問題はその容貌。これはかなり怖い。

「第三章 日常に潜む間の空間」より「顔だけは見たくない!」
 北軽井沢のロッジで女性作家が体験した話。夜、薄汚れた風呂場のバスタブから、この世ならざるものが這い出してくる。まずバスタブの青い蓋が「ずるっ」と横に滑り、そこから痩せこけた腕が、そして裸の肩が、真っ黒な髪の毛が現れる。体験者は歯を磨きながら、その一部始終を洗面台の鏡越しに眺めている……。
 これは怖い。幽霊がじわじわと姿をあらわす様子が克明に、映像的に描写されている。全52話中、最恐のエピソードだ。

 この2編はシンプルな怖さという点で、現行のシリーズに比肩すると思う。ほかにも興味深い話がいくつも収録されているが、すべてがクライマックスの一点に収束するように、無駄をとことん削り落とした現行シリーズに慣れてしまっていると、いささか枝葉が多いように感じられる(このあたりの変遷は、Jホラー→『呪怨』→「呪いのビデオ」の流れを彷彿とさせる)。「著者による考察」なんていうのも枝葉の一つだろう。しかし「枝葉」の部分がまったく活かされてないかというとそうでもない。
 例えば「第四章 物にまつわる話」の「マリア様のミイラ」などは「枝葉」のみで構成されたようなエピソードだ。怪異が起こってるのかどうかさえ、はっきりとしない。それでもミッション系の学校で、小学生が「マリア様のミイラ」を探すというネタは非常に魅力的だ。ちょっとした伝奇物の端緒のようで、興味深く読むことができた。
 また上記のようなアットホームさを醸し出しているのも、この「枝葉」の部分なのかもしれないが、仲間内で怪談話をするような気が置けない雰囲気は決して欠点ではないと思う。

 ……とまぁ、だらだら書いてしまったけれど「え、どゆこと?」って感じの不思議な話が多くて楽しかった。電車で読むにはもってこいの本だ。それと怖がりの人にも。



『「超」怖い話』
 勁文社 1993 勁文社文庫21 Q-013
 編著者:安藤君平

 ISBN-13:978-4-7669-1793-2
 ISBN-10:4-7669-1793-6


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