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光石介太郎『霧の夜』

 光石介太郎『霧の夜』(鮎川哲也編『怪奇探偵小説集〈続〉』双葉社 1976 所収)

 夕闇がせまり魑魅魍魎が跋扈する「逢魔時」。これはもともと薄闇に即座に順応することができない、人の目の構造に由来する概念だといわれている。「霧」もまたそんな夕闇と似たような効果を持っている。様々なジャンルの作品のなかで、霧はこの世ならざる雰囲気を盛りあげ、ときに人を異界へと誘うアイテムとして多用されている。夜霧ともなればなおのこと。
 本作はW・H・ホジスンの『夜の声』(←前の記事へのリンクです)と同じように、霧の中の二人の男の会話だけで構成されている。降りしきる霧の中で語られるのにぴったりなホラ話である。

 ストーリーは自分の愛する女を殺害した(というか消し去った)男の告白というシンプルなものだ。ただその殺害方法がふるっている。立たせた女に向かって短剣を投げる。もちろん女に突き刺すわけではない。薄皮一枚、ギリギリのところで外す。もともとサーカスで投剣業(ナイフ投げ)をやっていた男は、移り気な女に嫉妬してこの暴挙に出たのだった。
 矢継ぎ早に突き刺さる短剣に身を竦めたからか、あるいは「身を縮めて!」という男の念が通じたのか、標的となった女は、やがてじわじわと小さくなりはじめ、ついには芥子粒くらいのサイズになってしまったかと思うと、そのまま「ぽっ」と消えてしまったのだという。これは大勢の観客が固唾を呑んで見守った舞台の上での出来事だったらしい。

 そんなアホなって感じの殺害方法だ。その内容そのものよりも、これを涙を流しながら語ったという男の方がどっちかというと怖い。劇中の聞き手の男もリアクションに窮している様子だ。ところが最後の最後で、ここまで奇妙な味の作品といった感じだった本作が、にわかに猟奇色、怪奇色を帯びる。男がずっと小脇に抱えていた新聞包みを開こうとしたのだ。そこには男の話の傍証となる、なにやら強烈に怪しいものが包まれているらしいのだが……。

 本作は昭和10年の『新青年』の新年号に発表されている。今から80年近く昔、推理小説の揺籃期だ。当時は本当に色々なタイプの作家が活躍していたんだなーと再認識させられる作品だった(カンブリア爆発みたいな感じ)。あとそれから、この作品が収録されている『怪奇探偵小説集〈続〉』では、二人の画家が挿絵を担当している。本作にぴったりの、非常に雰囲気のいい挿絵は花輪和一によるもの。なんだかすごく得した気分になった。


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