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岩川隆『死化粧師』

 岩川隆『死化粧師』(中島河太郎編『恐怖推理 衝撃ミステリー集』KKベストセラーズ 1975 ベストセラー・ノベルズ 所収)

 中島河太郎編『恐怖推理 衝撃ミステリー集』からもう一編、とんでもなくえぐい作品について。筋立てはごくシンプルだ。愚鈍で粘着質な主人公、死化粧師の「のろ坂」こと坂井が、様々なかたちで臨終を迎えた死体に形成と死化粧を施す。基本的にはそれだけ。一応犯罪は発生するのだけれど、謎を解いたり犯人を捜したりといった類いのものではない。幽霊も出ないし、そもそも超常的な現象が起こらない。それじゃなんで「恐怖推理 衝撃ミステリー」なのかっていうと、次々にでてくる死体の凄まじさに尽きる。それが淡々と描写されているからなおのことおぞましい。

 一つめ。孤独死をした老婆の死体↓

ぷうンと鼻腔を刺すアンモニアの臭いがして、さらに濡れた毛布をはぐと、とぐろを巻いた蛇がそのまま木乃伊になったような、土気色に変った老婆のすがたが眼に入った。屍体は躰を海老のごとく折り曲げ、みずからの細い腿のあいだに頭をのめりこませている。あるかなしかに黒いものの残った股間には、これはなんと、雑巾のように汚れた布が申し訳けの程度に置いてある。〔中略〕上に持ちあげたとたん、ざあッと雨のような音を立てて、屍体から水が降り落ちた。へばりついた着物の袖に小便がたまっていたらしく、彼女は死の寸前までおそらく糞便のなかに放っておかれ、寝たきりであったのだろう(p.93)


 二つめは高速道路の建設現場でブルドーザーの下敷きになった作業員の死体↓

ブルドーザーに腹を断ちきられ、直腸も躰の外へ押し出され、坂井がまず排泄物を綺麗に取り除こうとすると、昼食に食べたらしい味噌ラーメンが、ずるずるとかれの手にまつわりついて、はなれなかった(p.94)


 こんな感じの場面が続く。死体の凄惨なありさまと、黙々と、しかし情熱を持ってそれを処理していく坂井の鈍感さが怖ろしい。彼は死化粧師を自分の天職と考え、ひたすら死者の顔を美しく仕上げることに専心し、葬儀の参会者から「まるで眠ってらっしゃるようよ」という賛嘆の声を聞くことに無上の悦びを感じている。

 そんな坂井が自らの「完全な作品」を作りあげたいという歪んだ感情から、ある生きた女に執着する。そして最終的には彼女を手にかけてしまうのだけれど、このくだりは日野日出志の名作『赤い花』を彷彿とさせる。『赤い花』では花の栽培を生業とするする主人公が、品評会で発表する作品を栽培するために女性を殺害する。この『赤い花』の主人公と「のろ坂」からは非常によく似た印象を受ける。両者の共通点は欲望のすべてがその生業、作品製作に収斂しているところで、他者への共感能力の低さと、倫理観の欠如が特徴的だ。猟奇的なキャラの多くには、多かれ少なかれこうした傾向が見られるのだが、ある程度の社交性を備えていて、人並みに社会生活を営んでいるってところがとくにやばい。近所にいたら一番嫌な殺人鬼キャラだ。

 ……という感じで幽霊よりも人間が一番怖い的なことを書いて締めるつもりだったのだけど、ことこの作品に関しては、浮かんでくるのは激しく損壊した死体のイメージばかり。幽霊よりも人間よりも死体が一番怖かったです。


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