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草野唯雄『死霊の館』

 草野唯雄『死霊の館』(中島河太郎編『恐怖推理 衝撃ミステリー集』KKベストセラーズ 1975 ベストセラー・ノベルズ)

 強烈な性欲をもてあまし、日々を悶々と過ごしていた主人公の男は、ある朝どエロい夢を見て目覚めた。それは蔦の絡まる洋館で、見知らぬ女と淫戯に耽る夢だった。男は三度同じ女の夢を見た。彼は意図して夢を見るテクニックを獲得しつつあったのだ。ところが回を重ねるごとに、夢は不安で、わけの分からないものへと変化していく。デヴィット・リンチの映画のような三度目の夢のあと、夢の誘惑を断ち切った男は、のちに旅先で夢に出てきた洋館を見つける。かつてその館では家族同士が殺しあう凄惨な事件が発生したという。

 タイトルの通り一応ある館にまつわる怪談話ではあるんだけど、一筋縄ではいかない奇怪な作品。もちろん死霊はしっかりでてくる。短い作品ながら、血まみれで笑う狂女や、見えない何者かに強姦される女など、印象的な場面が多く、やけにエロ度が高い。なかでも白眉は三度目の夢のシーンだ。主人公が赤ん坊に乳を含ませたままの女と性交をする。すぐ隣には女の夫らしき男が眠っている。

赤ん坊が女の左の乳房、わたしが右の乳房をくわえた。そしてもとの体位にもどってコイツスを再開した。/およそ一分ぐらい経過したときであったろうか。/突然女がすさまじい絶叫を上げて、わたしをはじきとばした。〔中略〕恐ろしい、身の毛もよだつような悲鳴をあげつづけながら、女のからだは、ベッドからころげ落ち、床の上をはいずりまわる。だがそれでも赤ん坊は、食いついた乳房を離そうとはしない。ドクドクとほとばしる血潮が、赤ん坊の口中から溢れて流れ落ちる。またたく間に母と子の姿は全身朱にまみれてきた(p.213)


 夫と赤ん坊の目の前で性交するという背徳感もさることながら、母親の乳首を今にも食いちぎろうとしながら、ぞっとするほど冷たい目つきで主人公を睨みつける赤ん坊が怖い。
 この作品で描かれる一連の奇怪な出来事の背景には、ミステリーらしい犯罪が潜んでいるのだけれど、インパクトの強い血まみれのシーンが目白押しで、スプラッター映画のような楽しさ(怖ろしさ)が感じられた。そのうえ館に引きこもって崩壊していく家族の断片的ながら鮮烈な描写と、濃厚なエロ描写が渾然となって、独特の世界観を構築している。極上の作品。

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