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木原浩勝, 中山市朗『新耳袋 第一夜』

 

 木原浩勝, 中山市朗共著『新耳袋 現代百物語 第一夜』角川書店 2002 角川文庫

『新耳袋』各巻にはそれぞれ99話が収録されている。一晩に何冊も読む人には全く関係のない話だが、百物語にするのは止めとこうって配慮らしい(扶桑社版ではきっちり100話収録されていた)。1話に割かれるページ数は少なめで、シリーズものっぽく数話にまたがる場合もあるけど、1ページに満たない話も少なくない。
 巻によって傾向は異なるものの、印象としてはグロテスクな話、ハードな怪談よりも、「不思議」な話が多く、一般的にイメージする「怪談」からはかけ離れた趣向のものも多数収録されている。正直怖くない話も結構ある。ところが一冊読み終えてみると、部屋のどこかから覗かれているような、妙な感じがなぜかする。具体的にどこがどうってのはないんだけど、身近にうっすらと怖い感じ。

 そんなわけで今さらって感じもしないでもないが、『新耳袋』の「第一夜」。印象的だったのは「くだん」に関する話、それから以下の4編。

「第三十三話 天井裏」天井裏から何かが引きずられるような音が聞こえる。気になって天井裏に入ってみると、そこには天井裏を封じるように格子の柵が設けられている。京都の旧家での出来事だという。歴史の澱のようなものが感じられて、不気味な余韻を残す。

「第四十話 女だけに見えるもの」ある家で暮らす家族の、女性だけに見えるという怪異の話。見えないからといって男に障らないわけではない。怪異のターゲットは体験者の父親らしいが、パニックを起こしている母親と姉の言葉を信じようとしない。定番のパターンをしっかりと踏まえた好編。最後に霊能者が登場する。実話怪談にはこうした女性にだけ見える怪異が結構ある。

「第四十八話 隣の女」体験者のアパートの隣室には母娘が暮らしていた。母親は普通のおばさん、娘は少し風変わりだった。全身黒尽くめで、肌を完全に覆っている。夏が近付いてもそんな出で立ちだったという。あるときふとした拍子に、体験者は隣の娘の黒い衣服の下の素肌をかいま見てしまう。それは素肌ではなかった。静まり返った隣室では、いったい何が行われていたのだろうか……。本書に収録された99話のうち、もっとも不気味で得体の知れない話。

「第六十五話 もののけの影」深夜、いけすを巡回していた体験者が、魚を盗んだとおぼしき侵入者と遭遇する。その描写はこんな感じ。「小学生くらいの大きさの、ヌルッとした皮膚、真っ黒い顔に耳まで裂けた口、目はらんらんと光り、細く異常に長い三本の指の間には薄いマクが張り、そこには血管が浮き出ている」(p.195)
『新耳袋』には「天狗」や後述する「くだん」など、有名な怪異と出くわした話がいくつも収録されている。ガメラを意地でも亀って呼ばせなかった平成ガメラシリーズと同様、本文ではその正体に一切触れられていない。

「第九十四話」~「第九十七話」は「第十二章 "くだん"に関する四つの話」として、妖怪「くだん」に関する話がまとめられている。章の最初の解説には「"くだん"とはなにか。それは小松左京氏の短編小説「くだんのはは」に登場する」(p.272)とあり、小説由来のもののようにも読めてしまうが、「くだん」は古くから伝わるれっきとした妖怪だ。頭は牛、体は人というミノタウロスに似た姿をしている。「第九十四話」で理科の教師が目撃した「くだん」は赤い着物を着て、口から血を滴らせていたという。「第九十五話」「第九十六話」に登場する「牛女」「くだん」も同様の姿だ。
「第九十七話」の「うしおんな」は上記のような「くだん」とは全く異なった姿をしていて、丑三つ時に出る子連れの幽霊を「うしおんな」と呼んでいるらしい。またここでは余談として『週刊朝日』から、次のような記事が引用されている。舞台は兵庫県の六甲山。「それは、ローリング族には『牛人間』と恐れられている。首から下が黒い牛で、首の上が般若の顔。これが前足二本とうしろ足二本を同時に揃えて追っかけてくるそうだ」(p.285)

 実は随分前に神戸の須磨区出身の知人から、この『週刊朝日』の記事に出てくる「牛人間」によく似た話を聞いたことがある。彼は「うしおんな」と呼んでいたが、舞台は同じく六甲山。深夜バイクの後ろを「前足二本とうしろ足二本を同時に揃えて」白いワンピースを着た長髪の女が、ものすごいスピードで追ってくるという。「首から下は牛」といった描写は無かったけれど、頭部には牛の角が生えているらしい。だから「うしおんな」と呼ばれているとのことだった。この話を聞いたのは『週刊朝日』の記事以前のことなので、六甲山周辺ではかなり昔から、こうした噂が囁かれていたのかも知れない。

 ……話は逸れたけど、この「第一夜」ですでに『新耳袋』の方向性はしっかりと確立されているように思う。これまであまり怪談本は読んだことないけど、試しに読んでみようかなって人にはおすすめの本。


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