「江戸川乱歩 」カテゴリ記事一覧


江戸川乱歩『湖畔亭事件』

 

 江戸川乱歩『湖畔亭事件』(『江戸川乱歩推理文庫〈3〉湖畔亭事件』講談社 1988 所収)

 主人公の趣味は覗き。それもがっつり装置を設えて挑む凝りに凝った覗き。自称「レンズ狂」。学校を卒業して、別段勤め口を探さねばならぬ境遇でもなく、なにがなしブラブラと暮らしている。趣味と合わせてなかなかのクズっぷりである。そんな彼がH山中のA湖畔にある「湖畔亭」という旅館に静養に出かけることになった。神経衰弱症を患ったのである。家族の勧めに従って、とはいうものの体のいい厄介払いだったのだろう。
 しばらく旅館の二階の部屋で、何をするでもなくぼやーっと過ごしていた主人公だったが、やがて悪いムシが騒ぎはじめた。幸か不幸か愛用のグッズ「覗き目がね」はしっかりトランクの底にある。旅館だけに獲物はよりどりみどりだ。早速、複雑に屈曲したシュノーケル状の「覗き目がね」を、湯殿の脱衣場に向けてセット。部屋にいながらにして快適な覗き生活を満喫する主人公だったが、あるときとんでもないものを目撃してしまう。脱衣場で女が刺されたのだ。犯人も被害者も不明。大量の血痕が発見され警察が呼ばれたが、捜査は進展しない。主人公は同宿していた洋画家の「河野」とともに、犯人を探しはじめた。なにせ主人公は犯行の決定的な瞬間を目撃しているのだ。

 この作品、ドラマの方を先に見てたので、この原作を読んでびっくりした。マジで全然違ってる。地下の水槽も、中継モニタも、スワンボートもない。何よりこの作品には明智探偵が出てこないのだ。原作だと言われてもわからないレベル。
 明智君に代わって本作で推理を披露するのは、青年画家の「河野」。主人公との関係性も含めて、なんとなくD坂の頃の明智探偵を彷彿とさせる。主人公はレンズ、幻灯(スライドみたいなやつ)、覗きに熱中する高等遊民で、乱歩作品の主人公にもってこいの好キャラである。自作にやたら厳しい著者は本作について「最初の部分はいくらか面白くかけたが、全体的には無理に辻褄を合わせたという外語るべきこともない〜」などといつものトーンで評しているが、主人公の開き直ったような独白は非常にキャッチーで、彼がいかにして仄暗い趣味に耽溺するようになったかを語るくだりには多くのページが割かれ、暗闇に浮かぶ幻灯のような〜と形容されるレンズの向こうの描写には、事件そのものや推理のパート以上に著者の熱気が感じられる。
 事件はわりと複雑な犯人と死体探しで、最後にどんでん返しがある。正直、河野の長い謎解きを読んだ後も全然ピンとこなかったのだが、サスペンスの点において本作のメインは覗きがばれそうでやばいってハラハラ。主人公がバカすぎて気が気じゃなかった。他人事ながら「早くシュノーケル片付けろよ!」って何度も思ってしまった。

 それにしてもドラマ。最近またまた見返す機会があったのだけど、なぜあんな感じになったのかさっぱり分からない。分からないけど、ドラマの方もしっかり面白かったので、後日そっちの感想も書こうと思う。



『江戸川乱歩推理文庫〈3〉湖畔亭事件』
 講談社 1988
 著者:江戸川乱歩
 解題:中島河太郎
 巻末エッセイ・乱歩と私:佐野洋(作家)「ある命日のこと」

 収録作品
 『闇に蠢く』
 『湖畔亭事件』

 ISBN-13:978-4-0619-5203-4
 ISBN-10:4-0619-5203-X


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江戸川乱歩『虎の牙』

 

 江戸川乱歩『虎の牙』(『江戸川乱歩推理文庫〈33〉虎の牙/透明怪人』講談社 1987 所収)

 舞台は世田谷の屋敷町。そこに「魔法博士」と名乗る派手な格好をしたおっさんが越してきた。フサフサした髪の毛を黄色と黒の虎縞に染め、太いべっこう縁の眼鏡をかけている。近所の子供達は魔法博士が披露する見事なマジックに魅せられ、博士の洋館へと招かれた。子供達の中には少年探偵団の「小林少年」と、その親戚「天野勇一」君という小学生がいたが、ショーの真っ最中に勇一君が連れ去られてしまう。犯人は魔法博士。最初から勇一君に狙いを定めての犯行だろう。
 勇一君の行方は杳として知れず、頼りの明智探偵はここしばらく病気で臥せっている。そんな状況下で少年探偵団に巨大な虎の影が忍び寄る。

 少年に対する悪質な犯罪に血道をあげる「怪人二十面相」がまたしても登場。全体にゆるい印象の本作だが、二十面相は怖かった。ストーリーが相当進んでも、まともな犯行動機が全然見えてこないのだ。度を越した嫌がらせじゃねーかこれって思ったら、本当にそんな感じだったからびっくりした。いかれてる。「怪人二十面相」というネーミングには、もともと「怪盗」にするつもりが、時節柄「盗」の文字が使えなかったので「怪人」にしたという逸話が残されているが、本作の二十面相はまさに「怪人」そのもの。スマートな怪盗ルパンというより、殺しはしないものの、ぶっ壊れ具合はジョーカー(←バットマンの)を彷彿とさせる。

 劇中には小手先のものから大掛かりなものまで、数多くのマジック・トリックが散りばめられている。もっとも大掛かりなのは「館」のトリックで、これは著者の『類別トリック集成』(『続・幻影城』所収)において「[第六]その他の各種トリック(九三例)」の中の「(8)「二つの部屋」トリック」に分類されるトリックである。あまり推理小説読まない自分にも同様のトリックを用いた作品にはいくつか覚えがあるし、ドラマやコミック、アニメでも見たことがある。コナンの歯医者の話とか。もとは古いけど、その時代背景に沿ってカスタムしやすい、古びないトリックなのだろう。この作品が発表された昭和25年当時の読者は、明智の種明かしにきっと驚いたに違いない。それから地下道での消失トリックも面白かった。風船ぶっこ抜き。
 タイトルにもなってる虎については、終始さすがに「虎」が本物かどうかは分かるんじゃないかなー、と思いながら読んだ。もちろん続刊で披露されるとんでもない仮装に比べれば、まだまだ全然おとなしいけど。ちらっと見かけたとか、望遠鏡で見たとかじゃなくて、がっつり見て触って、跨がったりしてるし。やっぱりゆるい。本文挿絵は山川惣治。

 少年探偵団といえば、今期『TRICKSTER -江戸川乱歩「少年探偵団」より』ってアニメやるらしい。まだ見てないけど楽しみ。


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江戸川乱歩『暗黒星』

 江戸川乱歩『暗黒星』(『江戸川乱歩推理文庫〈22〉暗黒星』講談社 1988 所収)

 震災を免れた東京の麻布は、古びた建物や瓦礫が点在する淋しい地域である。そこには風変わりな資産家が暮らす西洋館があった。災厄の前兆はごく些細な出来事だった。館の室内の小物がいつの間にか移動しており、資産家の長男は家族が殺害される夢をたて続けに見た。気に留めなければなんて事のない出来事。ところが長男が見た夢の通りの事件が発生したのである。まず長男が生死に関わる深手を負い、駆けつけた明智探偵によって危うく一命を取り留める。目撃された犯人は覆面にインバネスコートをまとった黒ずくめの男。明智が警戒にあたるなか、資産家の妻と次女が次々に惨殺され、明智もまた犯人の放った凶弾に倒れた。館の塔に夜な夜な出入りし、明らかに不審な行動をとった長女こそが犯人だと思われたのだが……。

 この作品はヨーロッパで第二次世界大戦が勃発した昭和14年、雑誌『講談倶楽部』に丸々一年かけて連載されている。著者が「陰栖の決意をなす」と記した年の作品で、時節柄色々な配慮を必要としたのか、あまり調子の出ない執筆だったようだ。確かに得意のエログロいシーンは皆無で、いわゆる「本格探偵小説的」な要素も希薄である。トリック(アリバイトリック)については明智探偵の解説を読むまで皆目分からないが、普通に読んでいても最初の夢のシーンで犯人の目星がついてしまう。巻末の解説には著者の言葉が載っていて、「まことに熱のない、長くもないくせに冗長な感じ」なんて書かれている。

 これは自分が古めの怪奇小説が好きなせいもあると思うが、この『暗黒星』は乱歩の長編の中でも好きな作品の一つだ。塔のあるお城みたいな洋館なんてゴシック小説の舞台そのまんまだし、冒頭のフィルムが焼けるシーンはまさに怪奇小説って感じの見事な不吉さである。焼けただれていく美男美女の顔貌が、映像のように鮮やかに浮かぶ。派手なギミックがない代わりに、文章はいつもより微妙に格調高く感じられるし、熱血な熱さはないけれど底の底の方にインモラルな火種が青白く燻っている。姉妹の扱いの雑さには驚かされてしまうが、明智探偵と長男の感応は細やかに、じっくりと描かれていて妖しい雰囲気満点。

 タイトルの「暗黒星」については劇中、明智探偵によって「暗黒星というのは、まったく光のない星なんだ。(中略) 今度の犯人は、つい眼の前にいるようで、正体が掴めない。まったく光を持たない星、いわば邪悪の星だね」(p.176-177) と説明される。以前感想を書いたSF小説に『暗黒星』(“The End of the World” ←前の記事へのリンクです)という作品があって、著者は黒岩涙香によるその翻案に『「暗黒星」について』(『子不語随筆』所収)という解説を書いている。それが本作のタイトルの元ネタかと思われるが、相変わらずネーミングセンスは抜群だ。


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江戸川乱歩『悪魔の紋章』

 江戸川乱歩『江戸川乱歩推理文庫〈21〉悪魔の紋章』講談社 1988

「一家を皆殺しにする。」会社取締役の「川手氏」はここ一ヶ月ほど、そんな脅迫を受け続けていた。ところがいくら記憶をたどっても、脅迫者に心当たりがない。そこで法医学者で探偵としても名高い「宗像博士」に捜査を依頼したのである。
 最初の犠牲者は宗像博士の助手の一人だった。続いて脅迫状の予告の通りに、川手氏の次女が殺害される。死体を衛生博覧会の会場に晒すという残酷な手口だった。犯人らしき人物が目撃されたが、その行方は杳として知れない。ただ現場には明瞭な手掛かりが一つ残されていた。それは三重渦状の指紋、「悪魔の紋章」である。この三重渦状紋は動員された捜査陣をあざ笑うかのように、悲しみに暮れる川手氏の周囲で次々に発見される。そして第三の殺人が発生する。川手氏の長女が殺害されたのである。悪魔的な犯人の手口に、常に後手に回ってしまう宗像博士と捜査陣。犯人の狙いは残すところ川手氏ただ一人となった。

 今回、明智探偵は朝鮮半島へ出張中。明智シリーズなのに最後の最後まで明智は出てこない。ずーっと連続殺人犯の暗躍と、それに右往左往する捜査陣が描かれている。全編の九割くらいが犯人の圧勝なので、犯人と探偵の好バトルを期待していると少々物足りないかもしれない。それでも展開は抜群に速いし、いちいち犯行が凝っているから、最後まで飽きずに楽しむことができた。
 犯行の手口はこれまでの乱歩作品から、美味しいとこだけ摘んだ感じ。一つ一つのシーンをじっくりとみれば、さすがにオリジナルの雰囲気には及ばないけど、「衛生博覧会」が舞台だったり「鏡地獄」に迷い込んだりと、「全部盛り」の豪華さがある。またガストン・ルルーやモーリス・ルブランの作品から着想を得たところがあるらしい。残念ながら自分はルルーの作品では『オペラ座の怪人』(“Le Fantôme de L'Opèra”)と「恐怖夜話」(“Histoires épouvantables”)くらいしか読んだことがなくて、ルブランに至っては名前とタイトルしか知らない。なのでその辺の事については全然書けないが、古典的な推理小説の読者にはより楽しめることと思う。

 最後にようやく明智探偵が登場して(最初はその辺の誰かに化けているんじゃないかと思ったけど、本当に出張に行ってた)、解決編に突入する。ここまでのところで、きっとほとんどの読者には主犯の見当がついてるに違いないが、明智の鮮やかな解決ぶりにはカタルシスが感じられる。もしも見当が付いてないなら尚更。あと些細なポイントだが、指を切り落としたキャラの死に関して、多分あいつがやったんだろうなーって感じで雑に読んでしまっていたが、明智探偵の考察には本当に感心させられた。おかげで読後感はスッキリ。



『江戸川乱歩推理文庫〈21〉悪魔の紋章』
 講談社 1988
 著者:江戸川乱歩
 解題:中島河太郎
 巻末エッセイ・乱歩と私:内田康夫(作家)「乱歩からの逃走」

 ISBN-13:978-4-0619-5221-8
 ISBN-10:4-0619-5221-8


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江戸川乱歩『少年探偵団』

 江戸川乱歩『少年探偵団』(『江戸川乱歩推理文庫〈31〉怪人二十面相/少年探偵団』講談社 1987 所収)

 東京に黒い魔物の噂が広がった。影のような怪人物があちこちに現れ、人々を驚かせては消える。他愛のない悪戯のようにも思われたが、後に恐るべき犯罪を企んでいたことが判明する。少年探偵団の団員の家から、貴重なインドの宝石が盗み出されたのだ。現場で目撃されたのが、その「黒い魔物」。
 もともとインドの仏像の額に嵌め込まれていた宝石には、インド人によって呪いがかけられており、宝石の持ち主は絶えず真っ黒な奴に狙われると伝えられていた。そして持ち主の家に女の子がいると、誘拐され、人知れず殺されてしまうのだという。そこで「小林少年」はその家の5歳になる娘「緑ちゃん」の警護に乗り出したが、二人揃って謎のインド人の手に落ち、地下室で水攻めにされてしまう。水嵩はどんどん増し、やがて小林少年は緑ちゃんを背負って泳ぎ始めた。果たして二人は脱出する事ができるのだろうか。

 怪人二十面相と少年探偵団+明智小五郎の2ndバトル。二十面相がストーカー化して少年探偵団をつけ狙う後年の作品群とは異なり、独自に活動する二十面相に少年探偵団が関わっていく展開。二十面相は怪盗稼業に専念していて、明智たちに目を着けられることがなければ、全てを謎のインド人におっ被せて、正体を明かすつもりさえなかったようだ。小耳に挟んだ呪いの伝説をもとに繊細(遠回り)な犯行計画を練り上げ、コツコツと実行する二十面相が怪盗らしくて好ましい。後の少々雑な犯行と比べると尚更である。劇中、彼の冴えっぷりを賞賛するのが、ほぼ彼自身だけってのが気の毒だけど。
 怪盗らしいと言えば、気球での逃走、マンホールからの逃走、犯行予告、地下の宝物室などなど、二十面相の怪盗ライフはお手本のような充実ぶりで、それに対する少年探偵団もBDバッジの活用や集団での変装など、シリーズ第二弾にしては相当組織立った活躍を見せる。作品の前半は怪盗の奇怪な犯行を、後半は探偵の活躍を中心に描く構成で、VSものとしての完成度は高い。どうにか逃げ延びようとする二十面相の悪あがきっぷりと、無情に攻め続ける明智探偵の攻防を最後まで楽しむ事ができた。惜しむらくは折角の小林少年の女装の描写が乏しい所か。

 ~ 大探偵時代、美しさを競いあう二つの花、その名を探偵と怪盗と言った ~



『江戸川乱歩推理文庫〈31〉怪人二十面相/少年探偵団』
 講談社 1987
 著者:江戸川乱歩
 解題:中島河太郎
 巻末エッセイ・乱歩と私:安部譲二(作家)「顔の大きな怪老人」

 収録作品
 『怪人二十面相
 『少年探偵団

 ISBN-13:978-4-0619-5231-7
 ISBN-10:4-0619-5231-5


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江戸川乱歩『魔法博士』

 

 江戸川乱歩『魔法博士』(『江戸川乱歩推理文庫〈36〉灰色の巨人/魔法博士』講談社 1988 所収)

 少年探偵団の凸凹コンビ「井上君」と「野呂君」(愛称「ノロちゃん」)が市中で怪しい男と遭遇、追跡を始める。男はオート三輪の荷台にセットした移動映画館で子供を集めると、駄菓子を売り、のろのろと次の現場へと移動していく。そして運転席から降りてくるたびに姿を変える。道化師だったり、西洋悪魔だったり、大きな虎だったり。男はわざと車をゆっくり走らせて、二人の少年を誘っているらしい。虎の着ぐるみ姿の男に声をかけられた二人は、誘われるがままに森の奥へと分け入っていく……。
 この怪しい男は自称「魔法博士」。どう考えても無理っぽい野望を叶えるために、少年探偵団の二人をかどわかし、地下に「悪魔の国」なる壮大な施設を築いている。その野望とは名探偵「明智小五郎」とその弟子、少年探偵団の「小林少年」を「盗み出し」、自らの配下とすることであった。

 頭のおかしいおっさんプレゼンツ、恐怖の一大アトラクションって感じの作品。魔法博士を名乗る怪しい男の正体は、当然あの洞窟大好き男「怪人二十面相」である。
 この作品の二十面相は支離滅裂ぶりに拍車がかかっていつも以上に怖い。少年探偵団の面々を接待するだけのために、地下に変態っぽい巨大なアトラクション(まじでアトラクション)を作ってしまってるのだ。作品の大半はそのアトラクションと、大いにエンジョイする少年たちの描写で占められている。このブログはいわゆる突っ込み系のブログではなくて、寝る前の読書っぽく、気に入った本をまったり鑑賞ってスタンスなんだけど、それにも関わらず何度も何度も突っ込みたくなった。ほんと何がしたいんだ、二十面相。

 少年探偵団のために用意された出し物の中で、まず一番大掛かりなのが「胎内くぐり」。これは巨人の口から飲み込まれた少年たちに、人体模型を千倍も大きくしたような巨人の胎内を無理やり見学させるという、科学的かつ変態的な趣向のアトラクションで、『ミクロの決死圏』(1966)の十数年先を行っている。ランドセルサイズの歯とかブツブツ泡立ったようなネズミ色の肺臓とか、描写がいちいち生々しい。続いて幼い黒人の子供をバラバラにする猟奇的なマジック「インド魔術」が演じられ、ここで探偵団の三人は黒人の子供の復活を祝って喜びのダンスを踊らされることになる。わけが分からない。他にも巨大なゾウが煙のように消える部屋など、小林君たちが羨ましくなるようなアトラクションが目白押し。ほんと何がしたいんだ、二十面相……。

 終始、暴走する二十面相の狂気に引っ張り回されっぱなしっで、ストーリーは何処へやらって感じだったけど、それでもこの作品は非常に面白い。上記の他にも古井戸から貞子ばりに登場する黄金仮面とか、沢山のロボットや蝋人形が置いてある「人造人間の部屋」とか、楽しいシーンが最後まで切れ目なく続く。劇中の幻想の数々が、すべて超絶アナクロテクで構築されているのが素晴らしい。
 物語はいつもの通り最後の方で明智探偵が大活躍、二十面相との知恵比べに勝利して終わり。味わい深い挿絵は古河亜十夫によるもの。ちっこい黄金仮面が可愛らしい。


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江戸川乱歩『海底の魔術師』

 江戸川乱歩『海底の魔術師』(『江戸川乱歩推理文庫〈35〉鉄塔の怪人/海底の魔術師』講談社 1988 所収)

 房総半島の沖合、沈没船で作業をしていた二人の潜水夫が、海中の怪物を目撃する。それは全身が鉄でできた人間とワニの間の子のような怖ろしい姿をしていた。直後、今度は近隣の漁村の少年が同様の怪物と遭遇する。鉄の人魚のようなその怪物は、怯える少年に「マモナク、ニッポンジュウガ、オオサワギニナルダロ、オレガ、シゴトヲ、ハジメルカラダ」と言い残し、海中に消え去った。
 話は変わって東京都、世田谷区。少年探偵団の団員「宮田賢吉」君が、帰宅途中に謎の人物から鉄の小箱を託された。小箱には莫大な金塊を積んだまま沈んだ「大洋丸」の、沈没地点を記した書類が収められていた。鉄の人魚はそれを狙っているらしい。ここに海底の金塊を巡って、明智探偵と少年探偵団、それから現場の潜水夫(はだかの勇士)の皆さんと、鉄の人魚を操る謎の軍団との戦いの火蓋が切って落とされた。

 沈没船の財宝、鉄の人魚、巨大ガニ、クラシックな潜水服、潜航艇などなど、凄まじく魅力的なガジェットがてんこ盛りの海鮮丼みたいな作品。かなりSF色が強い。メインの舞台が珍しく海洋に設定されていて、スリリングな水中イベントが矢継ぎ早に発生する。沈没した「あしびき丸」の船内で潜水夫が初めて鉄の人魚を目撃するシーン、少年が磯で鉄の人魚と遭遇するシーンなど、冒頭からぞくぞくするようなシチュエーションが続く。鉄の人魚の群れを操り、金塊を狙って暗躍する謎の怪人の正体は、毎度おなじみ洞窟大好きなあの男。……という感じで、確実に面白いだろって品揃えだ。最初に数ページ読んだ時には、これ凄いの来たなーって思った。ところが肝心のストーリーが今一つ盛り上がらない。多少無茶だけど、とんでもない展開にびっくり! ってこともなく、ふわーっとメリハリなく話が進んでいく。あまり上手い例えじゃないけど、ハリー・ハウゼンの映画を小説にしたみたいな感じだ。
 また財宝探しと水中バトルがメインなこともあって、多くの場面で敵と直接対峙するのは潜水夫(はだかの勇士)の皆さん任せ。明智探偵 with 少年探偵団の活躍はごく少ない。最後の最後に敵のアジトに侵入するまでは、出番自体が少なくて寂しかった。

 そんなわけで海洋小説が大好きな自分にとっては、めっちゃご馳走のはずだったのだが、冒頭で期待値を引き上げられたこともあって、結局、不完全燃焼のまま読み終えてしまった。ただもしもこれが映画だったら、確実に好きな作品になっていたと思う。上記の他にもかっこいいシーンがやたら多いから。雰囲気抜群の本文挿絵は谷俊彦によるもの。



『江戸川乱歩推理文庫〈35〉鉄塔の怪人/海底の魔術師』
 講談社 1988
 著者:江戸川乱歩
 解題:中島河太郎
 巻末エッセイ・乱歩と私:内藤陳(俳優)「いざ翔ばん乱歩世界(ワールド)へ」

 収録作品
 『鉄塔の怪人
 『海底の魔術師

 ISBN-13:978-4-0619-5235-5
 ISBN-10:4-0619-5235-8


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江戸川乱歩『仮面の恐怖王』



 江戸川乱歩『仮面の恐怖王』(『江戸川乱歩推理文庫〈41〉仮面の恐怖王/電人M』講談社 1988 所収)

 東京上野、不忍池のほとりの蝋人形館で、二人の少年が奇怪な出来事に遭遇した。蝋人形の鉄仮面がにわかに動き始めたのだ。少年たちはスタスタ歩いていく鉄仮面を追跡し、自動車で走り去るまでの一部始終を目撃する。ところが再度蝋人形館に戻ってみると、そこには鉄仮面の蝋人形が何事もなかったように展示されているのだった。
 その夜、港区の資産家の屋敷で盗難事件が発生した。家人が目撃した犯人の姿は、西洋の甲冑を装着した蝋人形館の鉄仮面という異様なものだった。その鉄仮面こそ、最近巷を騒がせる怪盗「恐怖王」である。探偵「明智小五郎」は資産家からの依頼を受けて調査に乗り出すが、直後何者かによって拉致されてしまい、目覚めると洋上の汽船の一室に監禁されていた。危うし明智小五郎。

「全部盛り」って感じの少年探偵シリーズの一編。明智小五郎をはじめ少年探偵団の面々が大活躍する。敵役は「恐怖王」「黄金仮面」等々姿や名前を変えてはいるが、何をどう盗むかよりも何に化けてどう子供をびびらせるかを行動原理とするサイコパス怪盗がそう頻繁に出現するわけもなく、開始早々あーこれまたあいつだよなぁと思わせるオーラを撒き散らす男「怪人二十面相」である。
 本作には様々な形で旧作からの引用が盛り込まれている。上記の明智探偵が拉致されて以降の展開は、以前感想を書いた『魔術師』(←前の記事へのリンクです)そのままで、そのジュニア版といった趣だし、『黄金仮面』(←前の記事へのリンクです)は二十面相の仮の姿の一つとしてだけではなく劇中作としても大々的に登場する。乱歩作品の読者へのサービスって感じ。
 終盤は著者お得意の洞窟を舞台にした小林少年とポケット小僧の大冒険だ。色々な意味で本作の白眉である(他にも映画館のスクリーンの前に黄金仮面が現れるシーンもよかった)。年少者向けの作品ではあるが、閉ざされた洞窟内でのチェイス&脱出劇は『ランボー』(1982)の廃坑のシーンみたいでスリル満点。小林少年のハイレベルなポジティブシンキングはまじで見習いたい。そして洞窟の中で二人をさんざん追いかけまわしていたでっかい獣の正体は? ?

 ……という感じで盛り沢山な作品だった。唯一残念というか、著者らしいなと感じたのは、汽船に乗ってた「美しい少女」がそれっきり出てこなかったところ。二十面相の配下らしい彼女は、『魔術師』なら「文代」の役回りで明智探偵に即堕ちだったのに、結局あの子は誰だったんだろ。「二十面相の娘」?
 二十面相の無茶な仮の姿の数々を端正に描き出した挿絵は中村猛男によるもの。



『江戸川乱歩推理文庫〈41〉仮面の恐怖王/電人M』
 講談社 1988
 著者:江戸川乱歩
 解題:中島河太郎
 巻末エッセイ・乱歩と私:大谷羊太郎(作家)「乱歩が人生を変えた」

 収録作品
 『仮面の恐怖王
 『電人M

 ISBN-13:978-4-0619-5241-6
 ISBN-10:4-0619-5241-2


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