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福島正実『地底怪生物マントラ』

 福島正実『地底怪生物マントラ』朝日ソノラマ 1975 ソノラマ文庫

 著者は『S-Fマガジン』の初代編集長にして作家、評論家、翻訳家で、日本にSF小説を定着させた功労者だ。個人的には江戸川乱歩をもっとエキセントリックに、先鋭化した感じの人だったのかなと勝手に想像している。そんなSF業界の巨人の著したジュブナイルは、30年後に製作される『ガメラ2 レギオン襲来』(1996)を彷彿とさせるような、ものすごいSF怪獣小説だった。とにかくスケールがでかい。

 人類を絶体絶命の大ピンチに陥れる怪獣の名は「マントラ」。地下3000キロのマントル層の中で進化した超高密度植物で、通常兵器はおろか原潜からの核攻撃にさえビクともしない。地球の地下全体に根を張り巡らせているらしく、目視できる範囲で一本の幹のサイズは数10キロ。それがさらにタコの木のように分岐して、先端部に生えた無数の鞭のようなヒゲで人類を攻撃する。また侵攻時に戦闘斥候のような役割を担う、カブトムシとよく似た体長2〜3メートルの怪生物の群れと共生関係にある。攻撃対象は地球上のあらゆる場所。最強の怪獣といっても過言じゃないと思う。

 物語は無人となった日本のはえなわ漁船団が、大変洋上で発見される所からはじまる。マントラに襲われたのだ。続いてチリ沖の海中でアメリカ第七艦隊に属する原潜「シー・ウルフ号」が、次に千葉県N大学の海洋工学研究所、北極海で海洋調査にあたっていたソ連の原子力砕氷艦「エニセイ号」が破壊される。大迫力の海洋工学研究所への襲撃シーンでは、スケール的に本来なかなか絡めることが難しい人間キャラと大怪獣を見事に同じフレームに収めて、強烈なハラハラ感を演出している。
 マントラは草体、群体でグアム島のアメリカ軍基地を強襲、壊滅させると、再び日本本土への侵攻を開始する。人類にはもう対抗手段が残されていない……。

 この作品も著者のSF普及活動の一環だったのだろう。対象読者に合わせて多少平易な文体で書かれてはいるけれど、安易な妥協や配慮は感じられない。人がいとも容易く酷い死に方をするし、核兵器がとくに議論されることもなく、さっさと使用されることにも驚かされる。絶望的なシミュレーションだ。しかも全然効いてないし。また激しい戦闘の合間には、物資が買い占められたり、新興宗教がはびこって民衆を煽動するといった、殺伐としたエピソードが挿入されている。

 戦闘が大きな比重を占めるだけあって、次々に登場する現用兵器の活躍(やられっぷり)も見どころのひとつだ。とくに航空機は多種多様な機体が投入されていて「ミラージュIV」「F-111」「F-4 ファントム」「B-52 ストラトフォートレス」航空自衛隊の「F-104 スターファイター」などの軍用機が物語を彩り、「PA-30 ツインコマンチ」や「デハビランド・ビーバー」といった渋めの民間機までが活躍している。やはり見知った兵器が登場すると楽しい。

 カバーイラストは「マントラの群体 vs 陸自の61式戦車」という素晴らしいもので、本文の挿絵と共に兵器や怪獣関連の挿絵に多大な業績を残した画家、南村喬之によるもの。軍用機や怪獣好きな人にはおすすめの本です。


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福島正実『マタンゴ』とW・H・ホジスン『夜の声』

 

 福島正実『マタンゴ』(東雅夫編『怪獣文学大全』河出書房新社 1998 河出文庫 所収 )
 W・H・ホジスン(William Hope Hodgson)著, 井辻朱美訳『夜の声』("The Voice in the Night"『夜の声』東京創元社 1985 創元推理文庫 所収)

 W・H・ホジスンの『夜の声』は、船員が海上で遭遇した遭難者らしいボートの男から、身の上話を聞くという構成の短編。暗い夜の海のいつまでも晴れない霧や、姿を見せないボートの男の得体の知れなさ、そのいちいちのリアクション、真偽不明の奇怪な身の上話などがぎゅっと凝縮されて、不気味で幻想的な雰囲気を醸し出している。

 この『夜の声』を東宝映画『マタンゴ』(1963)の原作として翻案したものが福島正実著『マタンゴ』。雑誌『笑の泉』昭和38年(1968年)8月号に、映画の公開に合わせて発表されている。

 遭難の顛末が海上での会話で説明される『夜の声』と比べて、『マタンゴ』では遭難者がキノコの群生する島に漂着して以降の出来事に主眼が置かれている。遭難者は若い六人の男女となり、各人の性格付けもよりしっかりとなされている。『夜の声』の遭難者が恋人と二人で生きようと足掻いた末に、静かに死を(キノコ化を)受け入れようとしているのに対して、『マタンゴ』の遭難者たちは食料や女を奪い合い殺し合うというドロドロの人間ドラマを展開する。そして『マタンゴ』はエロい↓

暁子が、口いっぱいに白いキノコを頬ばって、口の端からよだれの糸をひき、目をほそめ、身もだえしていた。けもののうめきと聞いたのは、暁子の歓喜の叫びだった(東雅夫編『怪獣文学大全』河出書房新社 1998 河出文庫 p.171)


 映画の原作として求められたものなのか、こういう傾向の作品が流行っていたからなのかは分からないけど、やっぱりエロい。翻案に際して『夜の声』を「これってエロくね?」と捉え、それをきっちり押さえて作品化した著者の慧眼と力量には並外れたものがあると思う。その結果『夜の声』の卓抜した着想をベースにしながらも、肉付けによって大きく姿を変え、独自の妖しい魅力を獲得するに至っている。「幻想的」な『夜の声』に対して、「官能的」な『マタンゴ』って感じ。

『マタンゴ』は知名度のわりに短編集などに収録される機会が少ない作品で、手元の本(下記)はアマゾンで調べたところ2冊とも品切れ「出品者から~」となっていた。BOOKOFFなどでたまに見かけることもあるが、『マタンゴ』以外のどの収録作も読み応えのある良い本なので、復刊が望まれる。

 香山滋, 福島正実著 『怪獣総進撃 怪獣小説全集Ⅰ』出版芸術社 1993 ※『マタンゴ』関連では本編の他に、鮮明なモノクロの映画スチル写真多数と、デザイン画、カラー口絵には当時の映画ポスターが収録されている。

 東雅夫編『怪獣文学大全』河出書房新社 1998 河出文庫 ※『マタンゴ』関連では本編の他に、橋本治著『マタンゴを喰ったな』『更にマタンゴを喰ったな』、大槻ケンヂ著『マタンゴ』が収録されている。

 ※関連記事です↓W・H・ホジスン『夜の声』
 http://serpentsea.blog.fc2.com/blog-entry-11.html


 マタンゴ [DVD]』東宝 2003


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