「小原愼司 」カテゴリ記事一覧


小原愼司『地球戦争〈5〉』完

 

 小原愼司『地球戦争〈5〉』完 小学館 2015 ビッグ スピリッツ コミックス スペシャル

 なんとこれが最終巻! 先月はこれゾンの最終巻も出たし、読んでる作品が月に2作も完結するなんてまず滅多にない。なんか寂しい。

 女王陛下の避暑地の城でアリスの両親と合流したオリバーたち主人公一行。最終巻はずっとこのお城が舞台となる。ストーリーのポイントはこれから先の「坊や」の処遇と、オリバーの孤児院時代との決別って感じ。オリバーとアリスの成長ぶりがじっくりと描かれるが、子供が子供らしい柔軟性を発揮して、成長というより状況に慣れただけのように見えなくもない。ただ二人の関係は確かに深化していて、ここを出ると告げたオリバーに、迷わず一緒にいくと言い切ったアリスにはぐっとくるものがあった。個人的にはこのシーンと、下記の火星人の解説のくだりがクライマックスだった。

 残念なことにSFっぽい展開はここに来てほとんどなくなってしまった。途中火星人について語られる場面があるんだけど、SFっぽさという点ではそのあたりが一番の盛り上がりどころか。円盤の大群のシーンもあったし。しかし最後までぶれることなく描かれたボーイ・ミーツ・ガールと比べると、最初はもう一本の柱かと思ってた「地球戦争」の描かれ方はかなり物足りない。これだと戦時下のボーイ・ミーツ・ガールなら宇宙戦争でなくてもよくて、SF的なガジェットは単にフックとして引用されただけのように感じられてしまう。

 実は世界名作劇場テイストの子供たちのドラマが結構続いたから、次の巻くらいからは「地球戦争」くるかなーなんて楽しみにしてたのだ。ところが話が進むうちに様々な装飾がバサバサ取り払われていって、最後にボーイ・ミーツ・ガールだけが残った。もう少し引いた絵の入ったストーリーをあと5巻くらいは読みたかったが、「ボーイミーツガールである、と心に決めて進めてきました」という著者の言葉からすると、目指していたのは間違いなくこの着地点だったようだ。


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小原愼司『地球戦争〈4〉』

 

 小原愼司『地球戦争〈4〉』小学館 2014 ビッグ スピリッツ コミックス スペシャル

 毎回書いてるような気もするが、表紙のイラストについて。この第4巻はこれまでになくでっかいアリス(とオリバー)。なんて手法なのかは分からないけど、色ガラスみたいな透明感のある彩色が素晴らしい。今回の帯の煽りは↓

火星人、/地球ノ疫病ニ/倒レル!!/ダガ、争イノ火種ガ/地上カラ消エタ/ワケデハナク…


 グレイブのもとを離れたアリスとオリバーと仲間たちは、途中象使いのマラティと合流。彼らを追うグレイブ商会から逃れるべく、破壊された街の瓦礫の山を抜けて、ひとまずアリスの家へと向かう。ところがアリスがかつて見知っていたはずの街は、火星からきた植物に覆われ、すっかり様変わりしてしまっていた。火星人は地球の疫病に侵されて滅びつつあったが、彼らの持ち込んだトライポッドと、それを起動させるための「人間モドキ」は地上に残されたままである。

 時系列的にH・G・ウェルズの『宇宙戦争』の後日談にあたるこの第4巻は、SF冒険活劇というより、未曽有の惨事のあと子供たちがどう生き延びるのかって感じの話になっている。焼け跡の子供たちとかそういう雰囲気。ただ登場人物の多くがもともと「持たざるもの」だったこともあって、あまり悲壮感は感じられない。喪失のダメージがないから、むしろせいせいしたような印象を受ける。

 引き続き子供たちの心情は丁寧に描写されていて、いい意味で「世界名作劇場」っぽい。アリスのリボンのちょっとしたエピソードをはじめ、淡い恋心を描いた場面も印象に残る。ただし後半の火星人虐殺とシスターのくだりは別。この先とんでもないことはもう起こらないんじゃないか、って空気を吹き飛ばす久々の緊張感だった。この作品世界最大の不確定要素は、有事に乗じてなにかを企んでる野心家でも、主人公の子供たちでもなく、今のところ家畜のように扱われている「人間モドキ」らしい。


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小原愼司『地球戦争〈3〉』

 

 小原愼司『地球戦争〈3〉』小学館 2014 ビッグ スピリッツ コミックス スペシャル

国家転覆ノ/陰謀ヲ巡ラス/野心家ニ/惹カレテユク少年。/女王ニ忠誠ヲ/誓ウ少女。/誰モガ、大人ヘノ/階段ヲ駆ケ足デ/登リ始メル…


 以上は帯のあおりより。前巻で登場した野心家の商人、グレイブは女王の軍隊を殲滅し「階級のない社会」、理想的な「新世界」の到来を語る。オリバーとアリス、そしてもと孤児院の子供たちは、そんなグレイブの庇護下にあった。グレイブに憧れ「こんな男になりたい」と願うオリバーだったが、その言動を見聞きするうちに、言いようのない違和感を感じはじめ、仲間たちと連れ立ってグレイブから離れる決心をする。

 前巻の感想で「人類対人類の争い、タイトル通りの『地球戦争』に、利用される異星人という構図になっていくのだろうか」って書いたけど、ストーリーは今のところ子供たちのドラマが中心となっている。異星人の出番や戦闘シーンは少なめで、そういうのを期待していると少し物足りないかもしれない。そのかわり子供たちに強い影響力を持つやっかいな大人、グレイブに見え隠れする子供っぽい全能感や酷薄さに、彼に憧れながらも徐々に覚めていくオリバーの心情が綿密に描かれている。オリバーは状況を自分なりに捉え、考えることのできる柔軟なキャラだ。劇中「オリバーの女版」なんていわれているアリスは、むしろここまでまったくぶれることのない、オリバーとは正反対のキャラに見える。

 結局子供たちはグレイブの庇護から離脱することを選んだのだが、この先の展開はどうなっていくのだろう。グレイブから離れるということは、人類対人類、もしくは人類対異星人というストーリーの中心から遠ざかっていくような気がするのだけれど。すでに子供たちだけでどうにかできるような状況じゃないし。それと女王はどこでなにしてるんだ。すごく気になる。

 表紙のイラストはこれまでの怪しい絵柄とは少し印象の異なる爽やかなもの。もちろん冒険活劇っぽい雰囲気は上々で、透明感のあるピンクとブルーの彩色が美しい。本編の銅版画ふうの作画も健在で、p32-33のグレイブとレディたちのいかがわしさ満点のシーン、p162-163の謎の巨大生物の登場シーンはとくに素晴らしかった。早く続きが読みたい。


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小原愼司『地球戦争〈2〉』

 

 小原愼司『地球戦争〈2〉』小学館 2013 ビッグ スピリッツ コミックス スペシャル

 前巻に続いて雰囲気抜群の表紙が嬉しい第2巻。世界観や時代設定については前回の感想に書いたけど、帯に現状を外電っぽく、端的にまとめたあおりが載ってたので引用↓

蒼空ヨリ飛来セシ/異星ノ砲台ニヨリ/倫敦壊滅。/被害キワメテ/甚大ナリ。/外国カラノ/救助ヲ求メ/港町ニ向カウ/少年ト少女ノ/運命ヤ如何ニ!?


 港に辿り着いたオリバーたち三人は、オリバーのいた孤児院の子供たちと再会するが、アリスが何者かによって連れ去られてしまう。船倉に閉じこめられたアリスは、そこで人間モドキの女たちと遭遇し、スカートをめくられたりしてる。密航に成功したオリバーと孤児院の面々はアリスと合流。アリスを攫ったのは商社の社主、グレイヴという若い男だった。異星人襲来に乗じて野望を叶えるべく、陰謀を張り巡らしている様子。手なずけた異星人のトライポッドで、英国の艦船を攻撃する。

 前巻ではSF心を刺激しまくる見開きの絵が印象的だったけど、この巻ではそういった描写はごく少なめ、子供たちのやり取りを中心に、より世界名作劇場っぽい雰囲気になっている。好みによると思うが、この子供たちの一連のシークエンスは少し長いように感じられた。トライポッドもあまり出てこないし、思ったより多くの住民が生き残ってたこともあって、とんでもなくヤバいらしいことがヒリヒリと伝わってくるような、前巻にあった緊張感はかなり希薄になっている。ただ有事に仲間を売って小銭を稼ごうとしたサムの行動が、新キャラグレイヴの野望のスケールダウン版になってるあたり、こうしたストーリーに丁寧に組み込まれた入れ子構造からは、著者が相当長く広い物語の展開を念頭に置いていることが推察できる。

 グレイヴの登場によって、下敷きとなった『宇宙戦争』からは大きく逸脱することになった。人類対人類の争い、タイトル通りの『地球戦争』に、利用される異星人という構図になっていくのだろうか。いずれにせよこの先の展開が楽しみだ。前巻に続いて「空想科学漫画」、それから「世界名作劇場」の雰囲気満点で、そういうの好きな人にはすごくおすすめの作品。

 あと巻末の「メイキング オブ 銅版画ふうにトーンを貼るよ のコーナー」も面白かった。プラモの製作記事じゃないけど、こういうのも楽しい。しかし見開きに6〜8時間って、効果は絶大だけどすごい大変そう。


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小原愼司『地球戦争〈1〉』

 

 小原愼司『地球戦争〈1〉』小学館 2013 ビッグ スピリッツ コミックス スペシャル

 なんかわくわくする表紙のイラストに魅かれて買ってきました。『二十面相の娘』は読んでなかったのだけど(アニメはしっかり見た)著者はレトロなモチーフを好んで使う人なのかな。

 舞台は1851年、産業革命によって絶頂期を迎えたヴィクトリア朝のイギリス。ロンドンのハイドパークにはクリスタル・パレスが築かれ、第1回万国博覧会が開催されている。ホームズや森薫の『エマ』よりも40年ほど昔の時代設定だ。そこにトライポッドっぽい巨大メカがドカンと現れて、ロンドンを蹂躙しはじめる。
 主人公は孤児院で暮らす少年オリバーと、大混乱のなか出会った上流階級の少女アリス。彼らには世界の状況なんて全然分からないし、大人たちが口にする情報の真偽も定かではない。ただ二人(ともう一人の子供)連れ立って、戦火のなかを逃げ延びていく。『宇宙戦争』+ボーイ・ミーツ・ガール+αって感じ。

 当時はまだ航空機が発明される前だから、巨大な兵器に対しては地上戦力に頼るしかないって状況。それでもどうにか敵を撃破しようとする騎兵連隊(の生き残り)の活躍は、なかなか頼もしい。『宇宙戦争』に沿っているなら、トライポッドは世界中に出現してるはずで、日本では幕末のころである。サムライvsトライポッド……。
 まだまだ序盤でこれからの展開はわからないけど、劇中の人物がオリバーに言った「経験を次へ次へと継いでいけ」という言葉は重要っぽい。
 そしてこの作品の最大の見所はなんといっても見開きの絵。アリスをはじめ女の子キャラも可愛いけれど、エドゥアール・リウーの挿絵を彷彿とさせる、見開きいっぱいに描かれた絵は必見。正直これだけでも結構満足してしまうほどのかっこよさである。

 唯一残念だったのは、最初の数ページが滲んだように黒くて見辛かったところ。雑誌掲載時にはカラーだったのだろうけど、せっかくだからカラーのまま収録して欲しかった。
 巻末の対談は、90年代の漫画雑誌と漫画家にまつわる話。漫画雑誌を読んでないので、残念なことにA誌とかJ誌と書かれても全然ピンと来ないんだけど、当時をよく知ってる人にとっては、楽しかったり懐かしかったりするのかもしれない。

 全体を通して「空想科学漫画」って雰囲気満点で、そういうの好きな人にはすごくおすすめの作品。表紙に魅かれて買ってみて大成功だった。宇宙人もしっかり出てくるよ。


  H・G・ウェルズ『宇宙戦争』東京創元社 2005 創元SF文庫


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