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小田イ輔『実話コレクション 呪怪談』

 

 小田イ輔『実話コレクション 呪怪談』竹書房 2015 竹書房文庫 HO-256

 2015年に出た本。出た時に感想書いてなかったので、再読しました。「良い方の娘」(後述)以外、ほぼ忘れてしまってた。実話怪談38編収録。
 本書の特徴はまず何と言っても文章が読みやすいところ。整った淡白な文体で、派手、大げさな表現がない。宮城県出身の著者らしく、所々に出てくる台詞の東北弁(宮城弁?)がいいアクセントになっている。それぞれのエピソードは1ページに満たない短いものから数ページにわたる長いものまで様々だが、文体同様、外連味のない落ち着いた感じで、怖い話というより「奇談」って感じの話が多い。著者には「実話怪談」に対する強いこだわりがあるらしく、盛ってない感が嬉しい。ただしその分、投げっぱなしで、何が何だか分からない話もある。
 構成は本の最後に行くほど、やや長めの、とっておきって感じの話が並んでいる。また中程には「幼少時の体験」がまとめられている。

「その日の朝」家の中で赤ん坊の声が聞こえる。家族には聞こえないらしいが、天井裏を走る足音を聞いた父がネズミ捕りを置いた。きっとネズミだろうと父は言う。しかし体験者には赤ん坊の声にしか聞こえない。そればかりか、その声が徐々に自分に近づいてくるようにさえ感じる。朝方に悲鳴のような叫び声が聞こえたその日、祖母が捨てようとしていたネズミ捕りには……、という話。女性の生理に深い関わりがあるような書かれ方をしているが、得体の知れない、気味の悪い話である。ネズミは「鼠算」の言葉通りの代表的な多産動物で一族の繁栄を象徴する。大黒天にくっついていることからも縁起のいい動物として知られている。反面ちょっとしたストレスで自らの子を食べてしまうこともある。収録作の中では比較的長めの話で、そこはかとなく血の臭いがする。真相を暗示するかのような後日談がついている。

「その光景」ある日曜日の早朝、二階の自分の部屋から外を見下ろしていた体験者が奇妙なものを見る。ちょうど家の前の道を全裸のおじさんが、四つん這いになって歩いてきたのだ。しかも同じようなおじさんが他に二人もいる。呆然と眺める体験者の前で、眼下の状況はどんどん混沌としていく。
 本書にはこの世ならざるものが見たり聞こえたりする人の体験談が複数収録されているが、どれもふつーに幽霊見るのとは違って、いちいち一筋縄ではいかないものを見たり聞いたりする。それがごく自然で嘘臭くならないのは、語り口のうまさによるものだろう。この話はその好例。
 なぜか実話怪談には全裸に近い姿の謎のおっさんが頻繁(ってほどでもないが)に登場する。おばさんじゃなくて決まっておっさん。しかもこの話のように、獣めいた雰囲気のものが多い。おっさんで獣というと、かつて一世を風靡した人面犬が思い出されるが……。

「笛の音」親友の実家へ泊りがけで遊びに行った大学生の体験者が、夜、笛の音を聞く。広い日本家屋である。認知症のお婆さんが離れにいるらしいから、笛は彼女が吹いているのかもしれない。親友の家族は体験者を暖かく迎え入れ、もてなしてくれている。ところが件の笛の話をした途端、彼らの態度が豹変する。
 ろくに怪異らしい怪異は書かれてないのだが、一連の出来事の背後にでっかい蛇がとぐろを巻いてるような禍々しさを感じる一編。適当な推論を持ち出してオチをつけようとしないスタイルが、話に奥行きを感じさせる。

「良い方の娘」結婚の挨拶に彼女の実家を訪れた体験者が、近海での漁を生業とする彼女の父親から聞いた話。休暇の続いたある日、彼は幼ない彼女を連れて、近くの磯へ遊びに出向いたのだそうだ。ビールを飲んでぼんやりしているうちに、少し眠ってしまっていたらしい。ふと見ると鬱陶しくはしゃいでた娘が二人になっている。どちらも自分の娘だ。全く見分けがつかない。仕方なく片方だけ連れて帰ることにしたのだが……。
 真昼の磯とそこで遊ぶ子供の姿が印象的な、チェンジリングを思わせる話。残された方の娘、連れ帰った方の娘とこれから生涯を共にする体験者、この二人の気持ちを想像すると、めっちゃ怖い。思うに父親は、彼の抱いた恐れを押し付ける意味で、この話を体験者に聞かせたのではないだろうか。白昼夢のようなエピソードで、父親の東北弁がよく効いている。今回数年ぶりに本書を読み返したのだが(二度目)、しっかり覚えていたのはこの話だけだった。

 この他にも幼少時の体験を描いた「落下と思春期」「チャリンコライダー」が印象的だった。えぐいキツイ話は苦手だけど、じわっと怖い、なんか不思議、そんな話が好きな人にはおすすめ。



『実話コレクション 呪怪談』
 竹書房 2015 竹書房文庫 HO-256
 著者:小田イ輔

 ISBN-13:978-4-8019-0507-8
 ISBN-10:4-8019-0507-2


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「竹書房 夏のホラー文庫フェア」について

「物忘れはしない」なんて書いてある下の記事に、見事に書き忘れたことがあったので書いときます。

 今、竹書房の「ホラー文庫フェア対象商品3点」を購入すると、もれなく特製冊子「実話怪談傑作選2016」が貰えるフェアが実施されてます。全プレです。応募には今年「6、7、8月発売の新刊及びフェア対象の既刊文庫の帯折り返しについてる応募券」が3枚必要。帯の端に付いてる三角形の応募券です。締め切りはもうすぐで、9月30日当日消印有効。プレゼントの発送は「2016年10月下旬より順次発送」とのこと。
 自分は本屋で買ってるけど、通販で買うと帯が付いてないかもしれないので注意です。本屋で買う場合も要確認。

 フェア対象商品など、詳細は竹書房のHPで↓
 http://kyofu.takeshobo.co.jp


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加藤一『「極」怖い話 地鎮災』

 

 加藤一『「極」怖い話 地鎮災』竹書房 2013 竹書房文庫

 土地、建物にまつわる怪談だけを集めた本。「円形マンションについて」など数十ページにわたるような長い話から、2ページほどの短いものまで、全28編が収録されている。一口に土地、建物といっても、舞台は普通の一軒家、アパートやマンション、ホテル、飲食店のテナントと結構バラエティに富んでいる。映画館やゴルフ場が舞台の話もあった。物件の状態も建設中のものから、新築、廃屋と様々だ。題材がごく身近なだけに、実話怪談ファンでなくても楽しく読めそうだけど、引っ越しの多い人、ホテルや旅館に投宿する機会の多い人の方が、より色々共感できるのではないかと思う。

「瑕疵物件」体験者夫婦が移り住んだ分譲マンションに嫌な出来事が起こった。それは気に留めることもないほどの些細な出来事だったが、それをきっかけに妻は精神に異常を来たし、夫婦の関係は崩壊していく。
 徹底した事前調査にも関わらず、発生する怪異。やっぱり安すぎる物件は危険。それと説明はされないが、話の核とおぼしき姿見の存在も気味が悪い。この二点でもしも自分が部屋を探していたとしても、このマンションには入居しないと思う。ましてや分譲なんて。一番最初に置かれてることもあってスタンダードな話かと思いきや、ひとヒネリされている。

「井戸」前に少し書いたかもしれないが、数年前「お祓いをせずに埋められた井戸への対処法」について、神職の方に尋ねる機会があった。貞子の井戸……は死体が遺棄されてるし、そもそも埋められてもないけど、そんな背景がなくてもぞんざいに埋められた井戸が身近にあるとすれば、やっぱなんか怖い。というわけで尋ねてみたのだが、答えはいたってシンプルだった。物理的な危険が生じないならスルーしてOK。いやもっと強いニュアンスで、スルーすべしって感じだった。曰く「井戸は御神木と同じようなものだから、もしも障りがあるとするなら切り株のそばを往来する人ではなくて、その木を切り倒した人に対してでしょう」とのこと。そう言われてみれば、御神木と井戸、地面を挟んでシンメトリーだし機能的にもなんとなく似てるような気がしてくる。また意外だったのが、御神木や井戸に限らずその手のモノに手をつけるときには、ほとんどの業者がきっちりお祓いを受けているということ。効率優先でそんなことに気を配らない場合も多いのではないかと思っていたけど、これは間違いだった。なにも考えずにやっちゃうのは圧倒的に個人の方らしい。
 このエピソードに出てくるのは、不幸にもお祓いなしで潰されてしまった井戸だ。マンションを建てるのだそうだ。話のなかで怪異らしい怪異はなにも起こらない。しかしなにかが起こりそうな嫌な雰囲気は濃厚に漂っている。人も死なない。今のところは。

「円形マンションについて/他4編」北海道にある有名な心霊スポットの関係者に対する聞き取りと、現地のルポが少々。5部構成の力の入ったエピソードで、珍しく物件の写真まで載ってるし、関連の噂話に登場する宜保愛子に関してもばっちり言及されている。「円形マンション」(←Google検索)については色々なサイトが記事を載せているのでここには書かないが、あの土地には北海道の歴史の暗い側面に根差した怨念と、かつてそこにあった病院の経営者家族(体験者の家族)の宿業が、混沌となってわだかまっているらしい。体験者の語る怪異も凄まじいものだ。興味深かったのは、ネット上も含めて巷間を賑わせている噂の数々が、変形しながらも結構マトを得ているということ。数十年も前の、当事者にしか知りえないようなエピソードを含む出来事が、こんなふうに伝わるものだろうか。実に不思議だ。……それにしてもこの一連の話、現地取材etcをプラスして一冊の本にまとめてくれないかな。絶対に買うのに。

 このほかにも「小金井のアパート」「従業員寮」など、しっかり幽霊の出てくる話も載っている。「枠組み足場」は祈祷やお祓いのされてない墓地の跡地の話、「ご神木 二柱」は御神木と祓いに関する話だ。なんだかまとまりのない感想になってしまったが、幽霊屋敷もののファンにはとくにおすすめ。


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久田樹生『无明行路 怪談 真暗草子』

 

 久田樹生『无明行路 怪談 真暗草子』竹書房 2012 竹書房文庫

「これは友人の友人から聞いた話だけど……」という前置きではじまる怪談や噂話を、一度は耳にしたことがあると思う。このお約束な前置きを、民俗学の分野では「フォウフ」(FRIEND OF A FRIENDの略)というのだそうだ。試しにその友人の友人に聞いてみても、また「これは友人の友人から聞いた話だけど……」とはじまる。いつまでも同じことの繰り返しで、ほとんどの場合、話の起点となる事実にはたどり着けないという。

 本書はある怪談のフォウフをさかのぼり、奇跡的に発生源にいたるまでの長い行程と、その話の起点となる事実の正体に迫ったルポルタージュだ。そのため短編作品を集めた一般的な「実話怪談集」とは、異なるフォーマットが採用されている。

 きっかけは山田さんという女性にまつわる怪談だった。有りがちでもないけど特別に目立ったところもない、なんとなくピントがずれているような、据わりのよくないエピソードである。ただ体験者によれば、この話を聞いたり語ったりすることによって、当事者にしか分からない何らかの異変が身辺に生じるという。ビデオテープが呪いを媒介する映画『リング』(1998)とは少々趣が異なるが、この「山田さんの話」もまた、伝染する類いの怪談らしい。

 著者は細い糸をたぐるように慎重にフォウフをさかのぼっていく。比較的地味めなこの話の、まずどのあたりに著者が引かれたのかははっきりと分からない。さかのぼりやすい環境にあったというだけかもしれない。著者自身に何らかの異変が生じたのかどうかも、作中では明らかにされない。

「友人の友人」から語られる「山田さんの話」は、さかのぼるほどに微妙に情報量を増やし、訂正を加えられ、少しずつ明確になっていく。どんどんピントがあっていく感じが、怖いけど気持ちいい。
 この過程において、とくに初期の段階では変化の少ないバリエーションが繰り返されることになるが、各々の体験者の身辺に起こった個別の怪異をメインに置くことによって、できるだけ読者を飽きさせないような工夫がなされている。そしてこの「友人の友人」たちの体験談もやがて、「山田さんの話」という物語のなかに取り込まれていく。

 ここまでの展開がとてもおもしろかったから、おそらくタネ明かしとなるであろう後半のパワーダウンはお約束みたいなものかなー、などとうっすら諦めながら読み進めたけれど、その適当な予想は大はずれだった。
 ようやくたどり着いた「山田さんの話」の震源地とおぼしきひとりの女性。後半は彼女に対して繰り返し行われた聞き取り取材の記録となっている。取材を通して少しずつ心を開いていく彼女の様子が丹念に描かれ、やがて話の起点となる事実がぼんやりと見えはじめる。全てのはじまりは、ある家系にまつわる強烈な「祟り」であるらしい。

 誰もがちらっとは考えてもまず実行には移さない、たとえ実行したところで堂々巡りになるのが目に見えているような遠大な作業を、時間をかけて淡々と行う著者の姿勢には強い感銘を受ける。単に怖いだけじゃなくて、無性に好奇心を刺激される一冊。


 ※参考. 東雅夫「すべての怪談は “不幸の手紙” から始まる! 」『伝染る「怖い話」』別冊宝島編集部編 宝島社 1999


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