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美内すずえ『黒百合の系図』

 

 美内すずえ『黒百合の系図』(『ホラーコミック傑作選 第3集 人形の墓 〜美内すずえ作品集〜』角川書店 1994 角川ホラー文庫 H601-3 所収)

 1977年、雑誌『月刊 LaLa』に短期連載されたオカルト伝奇ロマン。ある一族に代々振りかかる強烈な呪いの原因を究明し、それを解決しようとがんばる女の子の話だ。しっかりと幽霊も出る。多少入り組んだストーリーなので、さわりのところだけ少し↓

 主人公「安希子」の母親が陸橋から落下して死亡した。事故か自殺かは分からない。しかし母は少し前、庭に黒百合の咲いたころから、すでにおかしくなっていたのだった。母の死と黒百合の花には何らかの関連があるらしい。父が一度だけ聞いたことがあるという「鬼姫谷」という地名、母が残した懐剣と護符、それから黒百合の花。これらを手がかりに、安希子は母の死の真相を確かめるべく、夏休みを待って行動を開始する。
 安希子はまず旅行家なる男から得た情報を頼りに「竜野」という集落を訪れた。山深い辺鄙な土地柄で、そう遠くない場所に鬼姫谷という山村があるらしい。民宿に腰を落ち着けた安希子は、早々と蚊帳を張り巡らせた布団にもぐりこんだ。真夜中、ふと目覚めると体が動かない。金縛りだ。蚊帳の向こう側の暗闇に、白い人影がおぼろげに立ちあがり安希子を凝視している。「おまえで最後……」白い人影が発したそのつぶやきを聞いて、安希子は意識を失ってしまう。

 これが最初の幽霊登場シーン。静まり返った深夜の日本家屋、結界のように張られた蚊帳の中、雰囲気満点だ。幽霊もシンプルながら暗い背景によく映える表現で、安希子を凝視する恨みがましい目付きが怖かった。またここに至るまでに、母親の遺影が出かけに倒れたり、サンダルの鼻緒が切れたりと、古典的な「虫の知らせ」がきっちりと描かれているのも好ましい。
 このシーンを皮切りに、物語の要所に幽霊の登場シーンが配置されてるのだけれど、なかには小さい子が見たらトラウマになりそうな怖い絵もあって、どれも素晴らしい仕上がりだった。当時の読者はさぞかし怖かったろうと思う。もちろん今読んでも問題なく怖いけど。

 そんな怖い場面もさることながら、この作品のおもしろさは魅力的な二人のヒロインの造形に負うところが大きい。作品の鬱になりすぎない明朗さは、やたらにポジティブな安希子のキャラによるものだろう。とにかくめっちゃいい子で、彼女がいかに両親の愛情を受けて育ったのかがよく伝わってくる。もう一人のヒロイン「鬼姫(千也姫)」は、武勲と引き換えに父親に鬼神に捧げられ、ツノをはやして産まれたという『どろろ』の百鬼丸を思わせる悲劇的なキャラだ。領民を虐殺して楽しむような強烈な「性格異常者」だったらしく、その死にざまも酷い。
 この二人のヒロインのアルディスとオリゲルドのような鮮やかな対比が、単に主人公が逃げまどうホラーとは一線を画する、陰陽相克の物語として作品を成立させている。

 あと作品中の地名を探すついでに色々と検索してみたのだけど、この作品の鬼姫と黒百合の伝説には、モデルとなった歴史上の逸話が残されているらしい(「黒百合伝説」←詳しくはwiki等参照)。そっちの側面から掘り下げてみるのも楽しそう。さんざんハラハラドキドキさせたあとには、少女マンガらしいさわやかENDで安心して読める作品。結構なボリュームで読み応えがあった。


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美内すずえ『白い影法師』

 美内すずえ『白い影法師』(『白い影法師』講談社 1976 講談社コミックスミミ 所収)

 長きにわたって女子小学生を恐怖のどん底に叩き込んできた傑作オカルト少女マンガ。今の小学生がもともと誰のものかも分からないような、くたくたになったコミック本を回し読みしてるかどうかは分からないけど(してないならちょっと寂しい)、現場に投入されさえすれば今でも間違いなく第一線で通用する作品だ。この本のもとの持ち主である妹(←結構いい歳)によると、未だに「なんとなく気持ち悪いからあんまり触りたくない」らしい。ついでに「授業中にこの本を読んでた○○子が突然悲鳴をあげた」という、噓かほんとか分からないような話も聞かせてくれた。本当だとすると、もちろんあのページを開いて叫んだのだろう。

 雑誌『週刊少年マガジン』誌上に『うしろの百太郎』の連載がスタートしたのが1973年、映画『エクソシスト』(1973)の日本公開が1974年、当時は空前のオカルトブームであった。本作はそんな盛り上がりの真っただなか、1975年(昭和50年)に雑誌『月刊 ミミ (mimi)』の創刊号に発表されている(雑誌『花とゆめ』に著者の代表作『ガラスの仮面』の連載が開始される前年だ)。扉を含めて60ページ強の作品だが、そのなかに霊感少女、コックリさん、心霊写真、地縛霊、霊能者などのオカルト的な要素が、これでもかってくらいに詰め込まれている。

 改めて読み返してみると、この作品には古い作品にありがちな展開のまだるっこさがまったくない。驚くほどのテンポのよさで、上記のような盛り沢山なオカルト的要素を手際よく処理している。主人公のニュートラルさ、キャラ立ちの弱さも、欠点ではなく、むしろ作品の普遍性に寄与しているように思う。そして特筆すべきはめくりの演出の効果的な用い方である。シンプルながらお手本のようなめくりの演出が随所に用いられていて、後世に語り継がれるほどの効果を生んでいる。妹のクラスメートが叫んだというのも、あながち噓ではなさそうだ。

 幽霊の造形も見逃せないポイントだろう。例えばつのだじろうの幽霊が、怒りや怨念などの激情をあらわにした強い表現で描写されるのに対して、本作の幽霊は薄ら笑いを浮かべ、惚けたような焦点の合わない目をしている。このふわっとした柔らかさ、自然さが本当に薄気味悪い。絶妙の外し方である。そして後に『ガラスの仮面』の連載を通して洗練されていく「手」の描写の上手さも、本作ですでに発揮されていて、その這うような表情が素晴らしい。

 ストーリーはごくオーソドックスで、教室のなかに不自然に置かれたままの主のいない机、そこに座った者が怪奇現象に見舞われる。どうやら何らかの因縁のある席らしい。転校生の主人公は霊感少女などの助けを借りて、その空席の秘密を探りはじめるというもの。マンガに限らず、本作以前にも、また以降にも、ごく似たシチュエーションを用いた作品はいくつもある。しかし上記のような様々な点で、この作品は群を抜いている。もちろん後のオカルト系の少女マンガに与えた影響も少なくはないと思う。
 このジャンルのマンガに興味があって、代表的な作品を一通り読みたいという人には強くお勧めできる作品、しかし小さい妹やお子さんがいる家庭では、うっかり目に触れさせないよう保管場所には充分に留意する必要がある。


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