「小説・日本 」カテゴリ記事一覧


岡本綺堂『蛇精』

 

 岡本綺堂『蛇精』(結城信孝編『岡本綺堂 怪談選集』小学館 2009 小学館文庫 所収)

 江戸の終わり頃、とある村に「うわばみ」退治の名人が住んでいた。通称「蛇吉」。特殊な方法でうわばみを退治することで知られていた。彼は手斧を一丁持ち、粉薬で地面に三本の線を引くと、常に二本目の線より手前でうわばみを屠った。いつも「三本目を越して来るようでは、おれの命があぶない」と言っていた。
 ところがある時、二本目の線を平気で越えてくるうわばみが現れた。見物人が「もうダメだ」と溜息をつく中、やにわに半股引を脱ぎとった蛇吉が、呪文のようなものを唱えながらそれを二つに引き裂いた。するとうわばみもまた真っ二つに裂けて死んだのだった。それ以来人々はさらに蛇吉を畏敬するようになった。「蛇吉は人間ではない。あれは蛇の精だ」などと言う者も出た。蛇吉はというと、嫁を貰いそれなりに仲睦まじく暮らしていたが、徐々に覇気を失い、蛇取りを厭うようになった。しかし周囲からの懇願により、渋々ながら凶暴なうわばみと対峙することとなった。

 怪談集『青蛙堂鬼談』からの一編。蛇にまつわる奇談である。どことなくなんとなく洋風。↑のあらすじを書きながらそんな風に感じた。ドラゴンスレイヤーもの(蛇もドラゴンと同様に財宝を守護するキャラだ)というか、AVGのようなノリ。読んでるあいだは、舞台となった集落の因習や奇怪な蛇取りの様子に、民話(日本の)みたいだなーって思ってたんだけど。
 かつてはこの作品に出てくるような蛇取りを生業とする人が、全国の至るところにいたらしい。生業としてるかどうかはさておき、沖縄には今でもハブ取り名人がいる。沖縄以外の地域でも、マムシを捕まえて役場に持っていくと買い取ってくれるという話を聞いたことがある。蛇除け、蛇封じのまじないはとんど焼き(どんど焼き)にまつわるものをはじめ、全国各地に様々な形で現存する。最後に蛇を見たのはいつだったか、なんて暮らしをしてるとピンとこないけど、毒ヘビの生息する地域において、蛇避けは生死に関わる重大事なのだ。
 こんな風に書くと蛇の忌み嫌われぶりがハンパない感じだが、こと日本において蛇ほど崇拝と排斥が極端な生物はない。忌避されてる分だけ神聖視もされている。神社のしめ縄は交合する蛇を模したもの、といった説もある。

 蛇についてはこれまでにもちょこちょこ書いた(ヘビ好きなので)ので重複は避けるが、蛇のでかいのを「うわばみ」と呼ぶ。オロチ>ウワバミ>ヘビの順でサイズがでかく、呼び名が変わる。もちろん具体的に何メートル以上といった基準はない。うわばみにはなぜか耳が付いてるという説があって、耳のある大蛇に太腿をかぶりつかれた隠居が刀を持った下男に「早まるな耳のないのは違うぞ」と言った、なんて笑い話がある。「半股引」(はんだこ)は「股引」(ももひき)の膝丈のもので、祭りで着用してる人を見かける。これを引き裂いた途端、うわばみも真っ二つになるというのが呪術っぽくて面白い。また「蛇精」と言えば「蛇性」の『雨月物語』だが、本作の蛇精は色気皆無のおっさんである。最初あだ名程度の「蛇精」だったのが、最後の方ではマジで蛇精なのでは? って感じになってる。真相がわからないのがもどかしいけど、不思議な余韻が残る。この怪談選集には本作も含めて『青蛙堂鬼談』から七編が収録されている。

「少年の蝮を捕りて水渉る」 高浜虚子


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菊地秀行『妖山鬼』

 菊地秀行『妖山鬼』徳間書店 1991 徳間文庫 き-3-4

 ホラームービーの偉い人、菊地秀行によるヒロイック伝奇ホラー。『山童子』と『剣鬼山』の二編が収録されている。ともに雑誌に発表された作品で、『山童子』は掲載時から大幅に加筆されているとのこと。
 新潟県の山奥の廃村に踏み入った強盗殺人犯の三人(男2女1)が、次々に山中の邪悪な霊の餌食になっていく。そんな山の邪気を払うために遣わされたのは、ぱっと見普通の「少年」だった。少年と魑魅魍魎との壮絶なバトルが始まる……というのが『山童子』。同様の「少年」が登場する『剣鬼山』では、自らの先祖にあたる孤高の刀鍛冶の足跡を求めて山中に分け入った青年が、山の魔に憑かれて暴走する。彼に取り憑いた邪霊は、刀鍛冶の打った妖刀に魔力につられて山に集まったらしい。彼を追って山に入った恋人の「安代」もまた強烈な霊の影響を受けるが、危うく難を逃れることができた。彼女を救ったのは超常の能力を持った一人の少年だった。

 どちらもグロと戦闘に全振りした思い切りのいい作品である。伝奇色は妖刀「餓竜剣」の出てくる『剣鬼山』の方が濃い。エロ描写にもかなりのページが割かれているが、やってることのエグさに反してエロさはほとんど感じられなかった。単に好みの問題って気もすごくするが、本作のようなキメキメの文体は、エロ描写との相性があまりよくないように思う。というか本作の場合は、濡れ場もバトルの一環って感じ。
 で、その戦闘シーンだけど、ノリノリのキレキレ。著者の作品の特徴を一つ挙げるなら、なんといってもそのスピード感だが、本作でも映像的で無性にかっこいい神速のバトルが何ページも続く。「少年」「坊ちゃん刈り」といったバトル中の呼称が煩雑で、読んでてごちゃごちゃしてくるところもあったけど、勢いに任せて一気に読んだ。「あとがき」によると人間以外のものを都会で活躍させるのはかなり大変で、『山童子』では舞台を山中に設定したことで、驚くほど楽に筆が進んだという。
 あとキャラクターについては、『剣鬼山』の「安代」がよかった。どっちの作品にも無理にキャラを立たせたような人物は出てこないが、安代はビビりながらもギリギリでど根性を発揮する蘭姉ちゃん(←コナンの)みたいなキャラクターで、少年との距離感が絶妙。ヒロインの見本のようなヒロインになっている。酷い描写が盛り沢山の作品だけど、なぜか読後感は良かった。

 本書の巻末には「あとがき」の後ろに「はじめにホラーがあった」で始まる「あとがきの逆襲 (我がSF・ホラー映画)」が収録されており、怪猫映画と吸血鬼映画について著者が熱く語っている。



『妖山鬼』
 徳間書店 1991 徳間文庫 き-3-4
 著者:菊地秀行
 解説:三橋暁

 収録作品
 『山童子』
 『剣鬼山』
 
 「あとがきの逆襲 (我がSF・ホラー映画)」

 ISBN-13:978-4-1958-9329-6
 ISBN-10:4-1958-9329-1


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横溝正史『首』

 

 横溝正史『首』(『』角川書店 1976 角川文庫 金田一耕助ファイル11 所収)

 最近午前中にずーっと古谷一行の金田一シリーズがやっている。毎日録画してるんだけど、なかなか見れないのが歯がゆい(このすば見ました! )。昨日は『悪魔の花嫁』をやってて、レコーダーの番組内容を見てみると「おなじみ、古谷一行扮する金田一耕助が鋭い推理で事件に挑む大人気シリース! 金田一宛に届いた手紙に、次々起こる殺人、謎が謎を呼ぶ事件に巻き込まれ…」とある。めっちゃ汎用性の高い解説だ。ちなみに今日やってた『黒い羽根の呪い』は「金田一耕助が、過去の事件に絡んで起こる連続殺人事件の謎に挑む!」って感じで、これまた汎用性が高いというか、ほとんどの金田一ものに当てはまるなこれ。

 この作品も『獄門岩の首』というタイトルでしっかりドラマ化されている。舞台は岡山県の山中の集落。そこで三百年前の名主殺害を再現したかのような事件が発生した。滝の途中に突き出た「獄門岩」に男の生首が遺棄されていたのだ。胴体は下流の「首なしの淵」で発見された。犯人が逮捕されないまま一年ほどが過ぎて、「磯川警部」に連れられた「金田一耕助」が捜査に着手した矢先、再び獄門岩の上に生首が発見される。被害者は映画撮影のため村に滞在していた映画監督だった。去年と今年、二つの事件の関係者にはなんの関連もみられない。再度発生した凄惨な事件に「名主の祟りではないか」などと言い出す者までいる。同じ手口で行われた二つの犯行の関係とは??

 また生首かよ! というのはさておき、この作品は導入部の雰囲気がすごくいい。というのも金田一ものって、なかなか金田一が出てこない作品が結構あって、ヤキモキさせられることが多いのだ。しかしこの作品に関しては最初の最初から金田一が出ずっぱり。冒頭の奥歯にものの挟まったような磯川警部と、また面倒なことになりそうだなーと感じながらも、唯々諾々と観光案内されてる金田一、二人の間のなんとも言えない空気が絶妙だった。ぐたぐたしてるうちに自然に巻き込まれていってるのが面白い。三百年前の事件とその祟りが、あまりクローズアップされないのが少々物足りなかったけど、いい具合に騙されつつ楽しく読むことができた。
 で、生首について。今回の生首にはしっかり生首ならではの理由があって、自分にはわからなかったけど、推理小説をよく読む人にはすぐに犯行状況に察しがついてしまうかもしれない。それにしても金田一シリーズ、さすがに生首多すぎだろって感じなんだけど、ちょっと前に読んだ小林信彦との長い対談のなかで著者はこんな風に語っている。「ぼくは首取るのが好きなのよ。(※)」


 ※小林信彦編『横溝正史読本』角川書店 1976 p.38



『首』(旧題『花園の悪魔』)
 角川書店 1976 角川文庫 金田一耕助ファイル11
 著者:横溝正史

 収録作品
 「生ける死仮面
 「花園の悪魔
 「蝋美人」
 「

 ISBN-13:978-4-0413-0443-3
 ISBN-10:4-0413-0443-1


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櫛木理宇『ホーンテッド・キャンパス 幽霊たちとチョコレート』

 

 櫛木理宇『ホーンテッド・キャンパス 幽霊たちとチョコレート』角川書店 2013 角川ホラー文庫 Hく5-2

 正月に読んだばかりなので忘れないうちに。第1巻(←前の記事へのリンクです)は半年ほど前に読んだけど、なんとなーく気分が乗らなくて、この第2巻「幽霊たちとチョコレート」は今回が初読。冬の初めからバレンタインまでの、今の季節にぴったりな五つの短編とプロローグ+エピローグで構成されている。どれもほど良い長さで読みやすかった。

 基本設定等は前に書いた通りなんだけど、以前読んでて違和感があった点(ゲスい台詞の夾雑物感など)は見られなくなって、1巻と比べてチューニングがよく整ってる感じ。「第一話 シネマジェニック」はモキュメンタリー・ホラーを製作していた映研から持ち込まれた心霊映像についての案件(後述)。「第二話 彼女の彼」はかつて行方不明になった一人の女の子と、彼女をめぐる二人の男子学生の切ない系の話で、サブタイが秀逸。「第三話 幽霊の多い居酒屋」は害のない居酒屋ゆうれいの話で、主人公たちのリア充生活と幽霊が一番ガッチリ嵌合してるのがこの話かもしれない。「第四話 鏡の中の」は呪いの鏡にまつわる古典的な器物の怪談。「第五話 人形花嫁」も第四話に続いて古典的な人形怪談かなーと思いきや、ひとひねりある。以上のようなラインナップ。短編小説! って感じのキレはないけど、各話ごとの怪異が工夫されてるのがよかった。主人公の恋愛もじりっと進行。

 書き忘れていたが、本作は「大学生の主人公(男子)の淡い恋心をライトなタッチで描いた、オカルト風味のジュブナイル」である。印象としては学生生活8割、ゴースト2割。ガチホラーを期待していたらがっかりしてしまいそうだけど、今回は軽めであまり不吉じゃないのが読みたかったので(お正月ってことで)丁度よかった。気になったのはその8割と2割の乖離で、例えばチョコレートと幽霊は全く関係がない。チョコはチョコ、幽霊は幽霊。こんなに書いといて伏線じゃなかったのかと思うことが度々だった。あと主人公たちの周囲にある様々なオブジェクトの羅列にページが割かれているが、それが積み重なってどうになかった……ってならないのも惜しい。
 そんな収録作の中で一番面白かったのは「第一話 シネマジェニック」で、冒頭のナンパから盗撮、案件の持ち込みから解決に至るまで、撮影に使用したカメラを軸に最後まで綺麗に話が繋がっている。「映像」も目新しさこそないけれど、丁寧に描写されていてよかった。途中、あの盗撮をこんな風に絡めてきたよ! とワクワクしたのだが、全然ピンチ感なくてワロタ。もったいない。けど、それメインにしたら『リング』になっちゃうか。

 今月は読書の時間だけはどうにか確保できてるものの、プラモ作る時間は全然ないし、今期のアニメもまだちっとも見れてない。なかでも楽しみにしてたのがこのすばの2期、今日こそ寝る前に見ます!



『ホーンテッド・キャンパス 幽霊たちとチョコレート』
 角川書店 2013 角川ホラー文庫 Hく5-2
 著者:櫛木理宇

 ISBN-13:978-4-0410-0663-4
 ISBN-10:4-0410-0663-5


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小松左京『空飛ぶ窓』

 小松左京『空飛ぶ窓』(『夜が明けたら』勁文社 1985 ケイブンシャ文庫 113 こ01-05 所収)

 今は廃業してしまったが、昔近所に双子のおっさんがやってる自動車修理工場があって、小学校への行き帰りにはその前を通った。工場の建物の隣のスペースには廃車やサビサビのドラム缶が並べられていて、なぜか年中でっかい水たまりができていた。その水たまりは当時の自分にとって、磯の潮溜まりと並ぶ絶景スポットだった。油が浮いた虹色の水面を雲がすごいスピードで流れていく。それがやけに綺麗で、面白く思えた。じーっと見てると吸い込まれそうで、微妙に不安になってくる。でも見るのをやめられない。……『空飛ぶ窓』はそんな子供の頃の、ざわざわした、妙な気持ちを思い出させる作品だった。以下あらすじ等。

 粉雪が舞う日に、小学校から遅く帰った娘が妙なことを言いはじめた。近所の原っぱに「窓」を見たというのだ。窓枠が空中に貼りついたように浮かび、その向こう側には青空が広がっていたという。寄り道した言いわけ、そう考えた母親が娘の話を夫に告げると、意外な応えが返ってきた。娘は嘘をついてるのではない。きっと「窓」を見たのだろう、あまりに寒いと子供にはそういうものが見えることがある。ただし大人からすれば、現実にはない、白昼夢のようなものだけれど、とのこと。彼は幼い頃、雪原で追いかけっこをするカウボーイとインディアンを見たのだそうだ。娘もやはり白昼夢を見たのだろうか。それにしては今日は夫が言うほど寒くはなかったはずだが……。

 作品の舞台はちょうど今日みたいな天候の地方の町で、はっきりとは書かれてないけど、人口密度はかなり低いっぽい。そんな寂れたどこかの町に、マグリットの絵のような不思議な光景が現出する。雪に覆われた原っぱに浮かぶ窓と、ぽつんと佇む赤いコートの少女。鮮烈で、どこかうら寂しいイメージである。なぜそんな場所に「窓」が現れたのか、なぜ「窓」に不思議な特性が備わっていたのかについては、劇中にそれらしい種明かしがある。因果の「因」が書かれない作品に馴れきってるので、わりと唐突な種明かしに戸惑ってしまったが、そこまできっちり書くのがSF作家らしいところか。神隠しの話でもある。

 自分が水たまりの観察に勤しんでた同じ頃、たまーに512BB(LP500Sとか言わないのがリアル)を近所で見たとか、河原に飛行機が着陸してたとか言い出す奴がいた。それで「証明しろよー」なんて責められたりしていたが、今にして思えば彼らには嘘をついてるつもりはなかったのかもしれない。確か三島由紀夫の小説にも、幼年時は夢と現実がごちゃまぜになっている的な一節があったと思う。『仮面の告白』だったかな。子供には時に大人には信じられないものが見えるらしい。


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竹河聖『おさわがせ幽霊(ゴースト)』

 竹河聖『おさわがせ幽霊(ゴースト)』朝日ソノラマ 1989 ソノラマ文庫〈497〉

 今年は31日と1日しか休めなかったので、のんびりプラモでも作りながら買ったきりになってる映画や、ハードディスクを圧迫してるアニメでも消化するか……なんて目論見はもろくも崩れ去り、結局隙間の時間に読書する通常営業になってしまった。ただ一応正月ってことで重めのはやめといて、楽しめの本を何冊か出してきて読んだ。竹河聖『おさわがせ幽霊(ゴースト)』、櫛木理宇『ホーンテッド・キャンパス 幽霊たちとチョコレート』、キャロリン・キーン『幽霊屋敷の謎』、ウェン・スペンサー『ようこそ女たちの王国へ』など。『〜女たちの王国へ』は今2/3くらいまで読んだところ。なかなか面白い。『おさわがせ幽霊』は多分数十年(十数年じゃなくて)ぶりの再読で、ほとんど初読ってレベルまで内容を忘れていた。

 主人公は高校生でつのだリスペクトなネーミングの「一太郎」、それから一太郎のいとこの美人姉妹「華藻」「玉緒」。華藻は一太郎と同学年で、玉緒は一つ年下、二人合わせて玉藻前姉妹である。この三人が旅先や近所や学校で、やたらに幽霊に遭遇する。収録されているのは「第一話 首なし美女でございます」「第二話 幽霊屋敷でございます」「第三話 学園七不思議でございます」「第四話 背後霊でございます」の四話。それぞれ独立した短編だが、相互にゆるーく繋がっている。
 全体は幽霊の描写と三人のリアクションと、あと睦月影郎の本に出てきそうな「甘い少女の匂いが鼻腔をいっぱいにし、柔らかい胸が身体に密着してくる」って感じの微妙なフェチ描写で占められていて、それで全253ページ。セリフが多いし描写もなんとなくト書き調なので、アニメのシナリオでも読んでる気分になる。昨今のライトノベル以上にライトな作品である。書き忘れてたけど、コメディ作品だ。

 で、超久々に読み返してどうだったかというと、これが結構楽しめた。なんといっても主人公の美人姉妹がいい。普段人前では深窓の令嬢のように振舞っているのだが、一太郎の前でだけ本性をあらわして彼を虐待する。まあ虐待といってもプロレス技をかける、言葉で攻める、という非常に羨ましい虐待なのだが。この二人のお転婆ぶりのさじ加減が絶妙。話が進むにつれて微妙ながらじわっとデレてくる。
 肝心の幽霊は出るべき場所に出るべくして出たって感じのが出る。幽霊出る→主人公遁走の繰り返しだが、幽霊自体は各話ごとに工夫が凝らされていて(グロ描写はない)、そこだけ見ればコメディ作品とは思えないほど充実している。タイトルは最後の最後でしっくりとくるが、それまで「おさわがせ」なのはどう見ても主人公側。



『おさわがせ幽霊(ゴースト)』
 朝日ソノラマ 1989 ソノラマ文庫〈497〉
 著者:竹河聖
 イラスト:橘田幸雄

 ISBN-13:978-4-2577-6497-7
 ISBN-10:4-2577-6497-X


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横溝正史『花園の悪魔』

 

 横溝正史『花園の悪魔』(『』角川書店 1976 角川文庫 金田一耕助ファイル11 所収)

 主な舞台は東京近郊のS温泉にある「花乃屋旅館」と、その旅館が経営する大規模な花壇「花乃屋花壇」、そして「京王百草園」から多摩聖蹟へ抜ける山中である。昭和2X年4月の朝、花乃屋花壇を見回り中の園丁が異様なものを発見した。チューリップの花壇の真ん中に全裸の女があお向けに寝ているのだ。声をかけてみたが身動きひとつしない。激しく揺さぶってみると、首にかかった髪の毛の下から紫色のヒモの跡があらわれた。殺人事件である。被害者はヌードモデルの「南条アケミ」。絞殺された後、犯されていることが判明した。犯人と目された人物「山崎欣之助」の行方は杳として知れない。事件発生から一月あまり経ったころ、「金田一耕助」が花乃屋旅館にふらりと現れた。

 この作品には推理小説としての面白さや、興味深い死体の状況のほかにも、当時の生き生きとした風俗習慣をかいま見れるという楽しさがある。今回の事件の舞台となった「花乃屋旅館」は「はじめからアベック向きに設計」されており、都心から電車で50分、休憩もOKとのこと。今でいうラブホみたいなものかと思いきや、家族連れの客もあり、「花乃屋花壇」なんて大きな施設が併設されている。かなりオープンな雰囲気で、ラブホや連れ込みとは少々趣きが異なっているようだ。この作品が雑誌『オール讀物』に掲載されたのは今から60年以上も前、初代ゴジラと同じ1954年である。文章はそんな昔の作品とは思えないほど読みやすい。金田一と等々力警部が連れ立って出かけた「京王百草園」は今も昔もちょっとしたお出かけスポットで、二つの現場が「花」で繋がってるのが気が利いている。二つの現場に遺棄された二体の死体の状況も、一方は花壇に遺棄された美しい死体、もう一方は洞窟にうち棄てられた腐敗する死体と、見事に好対照である。

 今回金田一は最後の方まで全然出てこないが、帽子の血痕に着目し、論理的に犯人を絞っていく手腕は相変わらずの鮮やかさ。言われてみればそりゃそうだって感じだけど、言われなければ絶対に気付かない自信がある。特殊な業態の旅館、ヌードモデル、死姦された全裸の死体などなど、妖しげで扇情的なモチーフが詰め込まれた楽しい作品だった。
 この作品が収録されている短編集『首』は、以前は『花園の悪魔』というタイトルで出ていた。解説も付いているし、カバーのイラストもかっこいいので、手に入るならそっちの方がおすすめ。



『首』(旧題『花園の悪魔』)
 角川書店 1976 角川文庫 金田一耕助ファイル11
 著者:横溝正史

 収録作品
 「生ける死仮面
 「花園の悪魔
 「蝋美人」
 「首」

 ISBN-13:978-4-0413-0443-3
 ISBN-10:4-0413-0443-1


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江戸川乱歩『虎の牙』

 

 江戸川乱歩『虎の牙』(『江戸川乱歩推理文庫〈33〉虎の牙/透明怪人』講談社 1987 所収)

 舞台は世田谷の屋敷町。そこに「魔法博士」と名乗る派手な格好をしたおっさんが越してきた。フサフサした髪の毛を黄色と黒の虎縞に染め、太いべっこう縁の眼鏡をかけている。近所の子供達は魔法博士が披露する見事なマジックに魅せられ、博士の洋館へと招かれた。子供達の中には少年探偵団の「小林少年」と、その親戚「天野勇一」君という小学生がいたが、ショーの真っ最中に勇一君が連れ去られてしまう。犯人は魔法博士。最初から勇一君に狙いを定めての犯行だろう。
 勇一君の行方は杳として知れず、頼りの明智探偵はここしばらく病気で臥せっている。そんな状況下で少年探偵団に巨大な虎の影が忍び寄る。

 少年に対する悪質な犯罪に血道をあげる「怪人二十面相」がまたしても登場。全体にゆるい印象の本作だが、二十面相は怖かった。ストーリーが相当進んでも、まともな犯行動機が全然見えてこないのだ。度を越した嫌がらせじゃねーかこれって思ったら、本当にそんな感じだったからびっくりした。いかれてる。「怪人二十面相」というネーミングには、もともと「怪盗」にするつもりが、時節柄「盗」の文字が使えなかったので「怪人」にしたという逸話が残されているが、本作の二十面相はまさに「怪人」そのもの。スマートな怪盗ルパンというより、殺しはしないものの、ぶっ壊れ具合はジョーカー(←バットマンの)を彷彿とさせる。

 劇中には小手先のものから大掛かりなものまで、数多くのマジック・トリックが散りばめられている。もっとも大掛かりなのは「館」のトリックで、これは著者の『類別トリック集成』(『続・幻影城』所収)において「[第六]その他の各種トリック(九三例)」の中の「(8)「二つの部屋」トリック」に分類されるトリックである。あまり推理小説読まない自分にも同様のトリックを用いた作品にはいくつか覚えがあるし、ドラマやコミック、アニメでも見たことがある。コナンの歯医者の話とか。もとは古いけど、その時代背景に沿ってカスタムしやすい、古びないトリックなのだろう。この作品が発表された昭和25年当時の読者は、明智の種明かしにきっと驚いたに違いない。それから地下道での消失トリックも面白かった。風船ぶっこ抜き。
 タイトルにもなってる虎については、終始さすがに「虎」が本物かどうかは分かるんじゃないかなー、と思いながら読んだ。もちろん続刊で披露されるとんでもない仮装に比べれば、まだまだ全然おとなしいけど。ちらっと見かけたとか、望遠鏡で見たとかじゃなくて、がっつり見て触って、跨がったりしてるし。やっぱりゆるい。本文挿絵は山川惣治。

 少年探偵団といえば、今期『TRICKSTER -江戸川乱歩「少年探偵団」より』ってアニメやるらしい。まだ見てないけど楽しみ。


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