小田イ輔『実話コレクション 呪怪談』

 

 小田イ輔『実話コレクション 呪怪談』竹書房 2015 竹書房文庫 HO-256

 2015年に出た本。出た時に感想書いてなかったので、再読しました。「良い方の娘」(後述)以外、ほぼ忘れてしまってた。実話怪談38編収録。
 本書の特徴はまず何と言っても文章が読みやすいところ。整った淡白な文体で、派手、大げさな表現がない。宮城県出身の著者らしく、所々に出てくる台詞の東北弁(宮城弁?)がいいアクセントになっている。それぞれのエピソードは1ページに満たない短いものから数ページにわたる長いものまで様々だが、文体同様、外連味のない落ち着いた感じで、怖い話というより「奇談」って感じの話が多い。著者には「実話怪談」に対する強いこだわりがあるらしく、盛ってない感が嬉しい。ただしその分、投げっぱなしで、何が何だか分からない話もある。
 構成は本の最後に行くほど、やや長めの、とっておきって感じの話が並んでいる。また中程には「幼少時の体験」がまとめられている。

「その日の朝」家の中で赤ん坊の声が聞こえる。家族には聞こえないらしいが、天井裏を走る足音を聞いた父がネズミ捕りを置いた。きっとネズミだろうと父は言う。しかし体験者には赤ん坊の声にしか聞こえない。そればかりか、その声が徐々に自分に近づいてくるようにさえ感じる。朝方に悲鳴のような叫び声が聞こえたその日、祖母が捨てようとしていたネズミ捕りには……、という話。女性の生理に深い関わりがあるような書かれ方をしているが、得体の知れない、気味の悪い話である。ネズミは「鼠算」の言葉通りの代表的な多産動物で一族の繁栄を象徴する。大黒天にくっついていることからも縁起のいい動物として知られている。反面ちょっとしたストレスで自らの子を食べてしまうこともある。収録作の中では比較的長めの話で、そこはかとなく血の臭いがする。真相を暗示するかのような後日談がついている。

「その光景」ある日曜日の早朝、二階の自分の部屋から外を見下ろしていた体験者が奇妙なものを見る。ちょうど家の前の道を全裸のおじさんが、四つん這いになって歩いてきたのだ。しかも同じようなおじさんが他に二人もいる。呆然と眺める体験者の前で、眼下の状況はどんどん混沌としていく。
 本書にはこの世ならざるものが見たり聞こえたりする人の体験談が複数収録されているが、どれもふつーに幽霊見るのとは違って、いちいち一筋縄ではいかないものを見たり聞いたりする。それがごく自然で嘘臭くならないのは、語り口のうまさによるものだろう。この話はその好例。
 なぜか実話怪談には全裸に近い姿の謎のおっさんが頻繁(ってほどでもないが)に登場する。おばさんじゃなくて決まっておっさん。しかもこの話のように、獣めいた雰囲気のものが多い。おっさんで獣というと、かつて一世を風靡した人面犬が思い出されるが……。

「笛の音」親友の実家へ泊りがけで遊びに行った大学生の体験者が、夜、笛の音を聞く。広い日本家屋である。認知症のお婆さんが離れにいるらしいから、笛は彼女が吹いているのかもしれない。親友の家族は体験者を暖かく迎え入れ、もてなしてくれている。ところが件の笛の話をした途端、彼らの態度が豹変する。
 ろくに怪異らしい怪異は書かれてないのだが、一連の出来事の背後にでっかい蛇がとぐろを巻いてるような禍々しさを感じる一編。適当な推論を持ち出してオチをつけようとしないスタイルが、話に奥行きを感じさせる。

「良い方の娘」結婚の挨拶に彼女の実家を訪れた体験者が、近海での漁を生業とする彼女の父親から聞いた話。休暇の続いたある日、彼は幼ない彼女を連れて、近くの磯へ遊びに出向いたのだそうだ。ビールを飲んでぼんやりしているうちに、少し眠ってしまっていたらしい。ふと見ると鬱陶しくはしゃいでた娘が二人になっている。どちらも自分の娘だ。全く見分けがつかない。仕方なく片方だけ連れて帰ることにしたのだが……。
 真昼の磯とそこで遊ぶ子供の姿が印象的な、チェンジリングを思わせる話。残された方の娘、連れ帰った方の娘とこれから生涯を共にする体験者、この二人の気持ちを想像すると、めっちゃ怖い。思うに父親は、彼の抱いた恐れを押し付ける意味で、この話を体験者に聞かせたのではないだろうか。白昼夢のようなエピソードで、父親の東北弁がよく効いている。今回数年ぶりに本書を読み返したのだが(二度目)、しっかり覚えていたのはこの話だけだった。

 この他にも幼少時の体験を描いた「落下と思春期」「チャリンコライダー」が印象的だった。えぐいキツイ話は苦手だけど、じわっと怖い、なんか不思議、そんな話が好きな人にはおすすめ。



『実話コレクション 呪怪談』
 竹書房 2015 竹書房文庫 HO-256
 著者:小田イ輔

 ISBN-13:978-4-8019-0507-8
 ISBN-10:4-8019-0507-2


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渡辺正和『「超」怖い話 鬼市』

 

 渡辺正和『「超」怖い話 鬼市』竹書房 2013 竹書房文庫 HO-163

 凄みのある表紙のイラストに負けず劣らず、中身も充実した一冊だった。目立った特徴としては、各エピソードが関連のあるモチーフやシチュエーションごとにゆるくまとめられている点だ。この構成は似た傾向の話が連続しても退屈させないという著者の自信の表われだろう。あと器物の怪談が多いのも特徴。全27編収録。印象的な話が多かったが、気になったエピソードを簡単に紹介します↓

「廃棄物」「釣行夜話 其之壱〜其之陸」「ケイムラ」
 これ全部「釣り」にまつわる話。巻頭からずらっと並んでいる。自分は釣り自体にはさっぱり興味がないのだが、釣りの話を聞くのは楽しいし、魚介類と水の怪談は大好物。なのでこの八つのエピーソドはとても楽しむことができた。
「廃棄物」はゴミ捨て場で拾ったクーラーボックスにまつわる話だが、具体的に幽霊が出るとかそういう類いの話ではない。クーラーボックスを用いることによって生じる気味の悪い(嫌な)出来事と、それにどうにか対処しようとする体験者の悪あがきがメイン。なので怖っ! って感じの話ではないが、クーラーボックスのえも言われぬ禍々しさが伝わってきて不気味だった。捨てられる以前のクーラーボックスの用途をあれこれ想像させられてしまう。
「釣行夜話」の6編は長さもまちまちで、似たようなシチュエーションながら内容はバラエティに富んでいる。一番印象に残ったのは「其之陸」、水路でタナゴを釣ってた体験者が水中で切れたと思しき釣り糸を引き上げようとすると……って話。何かを釣り上げたわけでも、見たわけでもないのだが、類例のない得体の知れない現象が生じている。
「ケイムラ」では磯でイカを釣ってた体験者が、幽霊だかなんだかわからないものに遭遇する。その結果大きな釣果を得ることになるのだが、話の焦点は餌木(疑似餌)。そこが変わってる。「ケイムラ」という聞きなれない用語は餌木に塗る「蛍光紫」の略とのこと。しかしこの体験者、釣ったイカ食べたのか。見上げた食欲だ。釣りにまつわる怪談といえば大陸書房の本に『海釣り奇談』という好著があるので、そのうち感想を書こうと思う。

「鍋蓋」上で触れた3編「クーラーボックス」「釣り糸」「餌木」に続いて、このエピソードもまた器物にまつわる怪談である。使わない鍋には必ず番(つがい)の蓋を閉じておかなければならない。体験者の家では、そうやって皆過ごしてきたし、これからもそうなのである。もしも蓋を閉じないでおくと……。
「廃棄物」と似た感じの話だが、こっちにはもっと深くて暗い「一族の業」みたいなのが感じられる。怪異の背景は一切語られないので、もどかしいったらない。

「プレイ」ペットショップに勤務する体験者の女性が深夜、鎖を引きずる音を聞く。アパートの二階の一室である。窓のすぐ下の小道で誰かが犬の散歩でもしているのだろう。音はしつこく鳴り続いたが、いつしか彼女は眠りに落ちいてた。数日後、眠ろうとしているとまたしても鎖の音が聞こえてきた。もう我慢できない。飛び起きてカーテンを思いきり開けた彼女は、そこにとんでもないものを目にする。
 幽霊なのか変質者なのか……いや、幽霊なんだろうけど。腐ったりとか形が崩れてるわけじゃないが、非常に不快なタイプの幽霊だ。グーで殴りたい。ペツトショップからオチまで、なんとなく関連があるような気がしないでもない。

「セラピー人形」「私の人形は良い人形」
 人形怪談2編。「セラピー人形」は介護老人福祉施設に紛れ込んだ人形にまつわる話。人のように動き、言葉を発し、施設に不幸を呼ぶチャッキー系の人形が登場する。
「私の人形は良い人形」は収録された中ではやや長めの、悪意に満ちたエピソードである。語り手は小学校の養護教諭。彼女には高校時代からの親友がいて、家族ぐるみの付き合いを続けてきた。親友「小夜子」には二人の子供がいるのだが、下の男の子「翔」が生まれつき左足に障害を持っており、それを娘「希美」のせいだと思い込んでいるらしい。翔が生まれた当時、希美はどこへ行くにも人形を抱いていた。弟が産まれる直前、彼女が母親の検診について行ったとき、知らない女から渡されたものだという。ある日、幼稚園から帰ると、母親が彼女の頬をいきなり張り倒し、こう罵ったのだそうだ。「翔の足はアンタのせい! 全部、アンタのせいよ! 」……あの人形は捨てられてしまっていた。母親は人形に何を見たのだろうか。
 強烈な悪意が込められた人形と、それに侵食される家族(主に母親)。弟の障害と人形の因果関係は不明のままだが、怪異の全貌はおよそ把握できる程度に書き込まれている。とても読み応えのあるエピソードで、意外なことに読後感が良かった。器物に人の念が籠もった話としては他に「デッドスペース」があって、これも好編。

「カスコ」体験者が中学生時代の出来事である。優しく美しく勉強もできた友達の「和子」が、ある日を境に苛烈ないじめのターゲットとなり、やがて交通事故で死亡してしまう。以来、和子をいじめていた生徒の様子がおかしくなり、次のいじめのターゲツトとなった。体験者は沈み込んだ生徒の背後に朧げな和子の姿を見る。
 重苦しいエピソード。大半は和子に対するいじめの描写で占められている。類話のありそうな話だが、「見える」体験者の存在が異彩を放っており、その「見える」描写にもリアリティが感じられる。

 自分はわりと本を積まない方なんだけど、それでも買うペースの方が早いことが多いから、未読の本がじわじわと増えていく。とくに刊行ペースが早く、タイトルもよく似てる竹書房の本にはその傾向が強い。実はこの本も買ったまま読んだ気になっていて、今回が初読。最近とみに管理できなくなってきてるなーなんて反省しつつも、ちょっと得した気分になるから困ったものだ。



『「超」怖い話 鬼市』
 竹書房 2013 竹書房文庫 HO-163
 著者:渡辺正和

 ISBN-13:978-4-8124-9426-4
 ISBN-10:4-8124-9426-5


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深澤夜『「超」怖い話 鬼胎』

 

 深澤夜『「超」怖い話 鬼胎』竹書房 2014 竹書房文庫 HO-215

「き‐たい【鬼胎】
 1. おそれ。心配すること。「―を抱く」
 2. 子宮内の胎児をおおう胎盤絨毛膜の異常増殖によって起る病。子宮内容は小嚢状の塊となって、葡萄状となり、胎児は全くその姿を消す。奇胎。胞状鬼胎。葡萄状鬼胎。」

 不気味、奇妙、奇怪、少々風変わりな実話怪談集。長めの話、18話が収録されている。特徴的なのは幽霊がほとんど出てこないところで、ついでにグロ描写もない。ヘビーな幽霊に頼らない、実話怪談の様々な側面が提示されている。この手の本をよく読む人には分かってもらえると思うが、実話怪談ってわりとマンネリとインフレに陥りやすいのだ。
 本書には被害の惨状だけが書かれて、肝心の原因にはまるで触れない話がある。何やらSFっぽい話もあるし、突飛すぎで分類のできそうにない話もある。記憶の底を掘り返してみれば、似たような要素を備えた先行事例が無いわけではないが、どれも新鮮で興味深いエピソードばかりだった。特に印象に残ったエピソードついて少々↓

「本数」人の顔面に数字が見えるタクシーの運転手「杉本さん」の話。普段は数字しか見えない彼が、あるとき女性の乗客の顔に不思議な文字列を見る。ラノベのキャラのような杉本さんの微妙な特殊能力が面白い。ラストの僧侶の登場でフィクションぽさが増すが、反面、怪談としてのフレームは強固になっているように思う。本書にはタクシーの話が3編収録されていて、うち2編はこの「杉本さん」の話。

「峠のバス停」バスで寝過ごした赤ん坊連れの母親が辺鄙な峠の停留所に降り立った。待合所の中で次のバスを待っていると、天気が崩れはじめた。雷雨である。しばらくすると男女三人連れが待合所に駆け込んできた。彼らは近くの廃病院で何かの撮影をしていたらしい。やがて三人連れの紅一点、モデルの「メルル」と呼ばれる女が不吉なことを言いはじめた。「……さっきから、変な感じがしてるんです」
 大人四人+赤ん坊による密室劇。怪異らしい怪異が生じるまでに随分ページを割いているが、その分雰囲気は抜群。雷雨の中の待合室の、心細い母親の心境が繊細に描き出されている。正調実話怪談って感じのエピソードで、モデルの女「メルル」のヒステリーっぷりも怖い。

「空と海の間」とある海水浴場に遊びに行った高校生のグループがとんでもない出来事に遭遇する。海水浴シーズンを外したとはいえ、その海岸には彼らのほかには誰もいなかった。ビーチバレーをはじめたが、対戦相手の三人の様子がどうもおかしい。体験者の背後をしきりに気にしている。振り返って見ると、遠くに男が立っている。波の中にである。男は左手を伸ばし陸の方を指差した。そちらを見る。砂浜の先の雑草の上に、もう一人の男が立っている。男は左手で上方を指し示している。その方向を見上げるとそこには……。
 伝奇ロマン的な背景を想像させるエピソードで、わけの分からなさが不気味だった。前振りとして「その海岸に行くときは必ず神社に参るように言われていたのだが、そのときはお参りしなかった」というくだりがある。季節ははっきりしないが「海水浴シーズンを外した」とあるので、いわゆる「盆過ぎの海」にまつわる話かもしれない。
「謎の男たち」が登場する話にはこのほかに「高原の交差点」があって、このエピソードとともに本書を特徴付けている。
 
「再開発 蹂躙」「再開発 人形の家」「再開発 とても遠いところ」
 ヤバいものに触れてしまった話。登場人物は下町の再開発に携わる作業員の面々。彼らが手を出してしまったのは、とある集落で秘密裏に祀られ続けてきたモノだった。怪異そのものは直接書かれないが、それに影響を受けたと思しき作業員たちの惨状が3編にわたって詳細に描き出されている。この本の中核をなすエピソードである。
 前に少し書いたことがあるけど、自分はこのエピソードの家によく似た特徴のある借家で暮らしてたことがある。これまでに7回ほど引越しているが、一戸建てに住んだのはそのときだけである。京都の町屋とはいかないまでも、時代がかった雰囲気の住み心地のいい家だったと思う。自分の場合は特に怪奇現象が起きたりはしなかったけど、床板をめくってそれを見たときは、まじで目眩がするほどびびった。知人の実家では建て替えに母屋を壊したところ、地下から「遺跡」が出てきたという。思いもよらないモノが隠された家って、もしかすると想像以上に多いのかもしれない。

「贖罪」戦時中、疎開したまま村に定住した美しい姉妹と、彼女たちを犯し殺害した復員兵にまつわる話。復員兵は「背乗り」で村の青年に取って代わったらしい。姉妹を、それこそ村をあげて慈しんでいた村人たちは、男に残酷な罰を与えた。
 全く救いのない、後味の悪い話で、しかもそれが最後に収められている。戦中、戦後ってだけで、ストーリーがにわかに真実味を帯びるのが不思議。全体にセピアがかった感じなのに、所々突然ピントが合うみたい鮮やかで、映像で見てみたいと思った。

 ……というわけで、これ勢い余って実話怪談からはみ出してるんじゃね? なんて感じるところも無くはなかったが、それで全体の面白さが損なわれることはなかった。怖い話が読みたいけど、ストーカー系の話はピンとこないし、最近は幽霊もなぁ……って人にはオススメの一冊。



『「超」怖い話 鬼胎』
 竹書房 2014 竹書房文庫 HO-215
 著者:深澤夜

 ISBN-13:978-4-8124-8896-6
 ISBN-10:4-8124-8896-6


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「竹書房 夏のホラー文庫フェア」について

「物忘れはしない」なんて書いてある下の記事に、見事に書き忘れたことがあったので書いときます。

 今、竹書房の「ホラー文庫フェア対象商品3点」を購入すると、もれなく特製冊子「実話怪談傑作選2016」が貰えるフェアが実施されてます。全プレです。応募には今年「6、7、8月発売の新刊及びフェア対象の既刊文庫の帯折り返しについてる応募券」が3枚必要。帯の端に付いてる三角形の応募券です。締め切りはもうすぐで、9月30日当日消印有効。プレゼントの発送は「2016年10月下旬より順次発送」とのこと。
 自分は本屋で買ってるけど、通販で買うと帯が付いてないかもしれないので注意です。本屋で買う場合も要確認。

 フェア対象商品など、詳細は竹書房のHPで↓
 http://kyofu.takeshobo.co.jp


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加藤一『「超」怖い話 申』

 

 加藤一編著, 久田樹生, 渡辺正和, 深澤夜共著『「超」怖い話 申』竹書房 2016 竹書房文庫 HO-263

 この本の感想は今年初めに書いたつもりでいたのだが、記事がどこにも見当たらなくてびっくりしてしまった。書くには確かに書いたはずで、書き終えてから付箋もはがしたし、後からもう一度読み直したりしている。アップロードし忘れたのか、アップロード時に何かミスをしたのか。我ながら忘れ物はやや多いが、物忘れはしない奴だと思っていたので、こうも現実と認識が違うと少々びびってしまう。
 実は昨日、夏に出た十干シリーズ「丙」の感想を書くにあたって、なんとなく過去記事を見ようとして↑このことに気付いたのだった。放置しとくと気持ち悪いので、先にこの十二支シリーズ「申」の感想から書きます。

「心にしんと落ちる怪。」というのが今回の帯の煽り、史上最恐! とかそんな感じじゃない、じんわり怖い本書の特徴を端的に表している。全29話収録。印象に残ったのは以下の7編。

「神域」ヤバいものに関わった、触れてしまった話。体験者は宅地造成業を営んでいる。このエピソードのヤバいものとは、まるっと森ひとつって感じの「土地」。お守りが破裂したり神主が倒れたりと、祟り系の話の王道を行くエピソードである。印象的なのは事前に事態を察したと思しき知的障害者の存在で、冒頭の彼の登場によって話に引き込まれた。

「四つ辻」体験者の部屋の窓からは、四つ辻がよく見渡せた。真夜中を過ぎると、そこを不思議なモノが行き来するという。2ページ強のごく短い話だが、イメージはくっきりと強い。なんとなく宮沢賢治の世界を彷彿とさせる。以前自分も似たような環境の部屋に住んでたことがあったから、とても共感することができた。もっとも自分が住んでたのはずっと田舎で、妖しいモノを目撃することもなかったんだけど(暴走族を追いかけてるパトカーは何度も見た)。夜の道路を眺めながらいつも不思議に思ったのは、覗いてるわけじゃないのに、なぜか覗いてる気分になることだった。

「車」体験者の女性が中学生の頃の話。体調を崩して学校を休んだ彼女は、庭を眺めているうちにあるものに気付いた。庭を囲んだブロック塀の向こうに赤い車が停まっている。それが透かしブロックの穴から見える。女性が乗っているようだ。あんな小さな穴から向こう側がはっきり見えるわけがない、そう言って両親は信じてくれなかったが、翌日にはなぜか父がすべての穴を埋めてしまっていた。それからも塀の向こうに赤い車を見かけることがあったが、やがて彼女はそのスペースには車を停められないことに気付いた。数年後、引越しをした直後に父親が急死、葬儀の後、彼女はあの赤い車と女性の正体をぼんやりと知ることになる。
 終わってみれば、体験者は数年~数十年に及ぶ奇妙な出来事を目撃し続けていたことになる。出来事自体はごく地味なものだが、繊細な描写が積み重ねのおかげでこの話のイメージも実に鮮やかだ。どことなく初期の本シリーズ(勁文社時代)の雰囲気があるエピソードで、「じんわり怖い」本書の特徴をよく表している。

「黄ばんだ骨」真夜中のマンションの外廊下で、体験者の女性はとんでもないモノに遭遇する。得体の知れない黒い影が跳躍しながら彼女に迫ってきたのだ。そこで彼女のとった行動は、そしてそのモノの正体とは?
 恐怖のスラップスティック。上記「四つ辻」に続いて、こっちの体験者の住居は自分の今住んでる建物に酷似していて、状況がリアルに想像できて怖かった。前にちらっと書いたけど、今でも自分の部屋があるフロアでは、うち以外の全てのドアの両側に盛り塩がしてある。他の階を見てみたけど、たまに盛ってる部屋があるって程度。流行ってるのかな。

「契り」ある日、大学生の体験者は一枚の写真を拾った。可愛い女の子が写っている。それを何気なく家に持ち帰った投稿者は奇妙な夢を見た。写真の女の子と何かを誓う夢である。ただ何を誓ったのかは思い出せない。それ以来、彼は散発的に彼女の夢を見るようになった。ただし夢は次第に不快感を増し、目覚めると体のいたるところにありえない傷が付いている。そしてある夜、たまたま目覚めた彼は怖ろしいものを見た。
 上の「車」と同様に、人の激しい「思い」が歪んだ形で表出する話。特に怪談においては古典的、普遍的なテーマである。この2編の他にも「見つけた」が同じテーマを扱っている。写真の女の子と何を「契った」のか、全く分からないところが不気味。

「五十日の客」体験者は子供の頃、近所の子供達から「メカケの子」と呼ばれていた。彼の家には父がいなかったが、「五」と「十」が付く日の夜更けには必ず来客がある。彼と姉が奥の間に引き取った後にやってくるので、その顔を見たことはない。息をひそめて耳をすますと、隣室からはボソボソとした会話の声と、押し殺したような母のうめき声が聞こえてきた。その出来事は彼が小学校5年、姉が中2のときに起こった。インフルエンザで臥せっていた母親に拒まれた客が、姉の布団にのしかかったのだ。客の姿を初めて目にした体験者は……。
 今回収録された中で最も好みのエピソードがこれ。具体的に書かれてるわけではないのだが、得も言われぬ「昭和感」が終始濃厚に漂っている。闇の深い和風の建築物を舞台に、影絵のような登場人物が蠢いたり、ささやき合ったりしている。単純な怖ろしさよりも、人の業の深さとか、そういうドロドロとしたものを感じさせるエピソードだった。雰囲気抜群。

「海と恋人」事故で恋人を失って自分の殻に閉じこもるようになった友人から、体験者の元に連絡が入った。亡くなった恋人を見つけたのだという。彼の言動に不安を感じた体験者は、とりあえず友人が恋人と二人でいるという砂浜に駆けつけた。そこで体験者は、友人と、彼のすぐ横に突然現れた人影を見た。
 これめっちゃ怖い。笑いと恐怖は紙一重っていうけど、まさにこのエピソードはそんな感じ。幽霊的なキャラじゃなくても充分に怖かったと思う。

 上記の他にも、前後編にわたる話や、シックな幽霊屋敷の話「廃屋の夜」、切ない「命日」など読み応えのあるエピソードが多かった。あと、グロ描写がほとんどないこと、極端にバカな人が出てこないのも特徴で、全体に落ち着いたトーン。じんわり怖い一冊。



『「超」怖い話 申』
 竹書房 2016 竹書房文庫 HO-263
 編著者:加藤一
 共著:久田樹生/渡辺正和/深澤夜

 ISBN-13:978-4-8019-0616-8
 ISBN-10:4-8019-0616-7


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加藤一『恐怖箱 超-1コレクション 彼岸花』

 

 加藤一編『恐怖箱 超-1コレクション 彼岸花』竹書房 2008 竹書房文庫 HO-54

 実話怪談本の感想を書き始める前に、いつも最近聞いた怖い話を一つ書いて、それをマクラにできれば……なんて思ってはいるのだが、びっくりするほど思い当たるフシがない。「言い伝え」みたいなのを書き留めたのがあるけれど、お年寄りの話が多いから実話怪談って感じがしない。キツネやカッパがバンバン出てくるし。「民話」って感じ。そこで普段から数少ない友人に話を振ってはみるものの、誰一人として適当な話を知らない。唯一妹がそれっぽい話を知ってそうな人材なんだけど、ここしばらく口をきいてない(ケンカしてるわけではない)。オバケ的なものを見るセンスが無いのは仕方ない(ありがたい)としても、周りに一人くらい「そういえばこの前さぁ……」とか語ってくれる奴がいても良さそうなのに。考えてみれば、この部屋(と廊下とetc)には怪奇小説やこの手の実話怪談本やオカルト関連の本が千冊以上はあるわけで、本同士の相互作用や濃縮還元かなんかで、まずここで何か起きないとおかしいような気もする。そんな怪談をいくつか読んだ覚えがある。まあ実際に幽霊とか出てこられてもめっちゃ困るんだけど。

 この本はweb上で開催された実話怪談コンテスト「超-1 2008年大会」の傑作選である。厳しい相互講評の目に鍛えられた、粒揃いの作品を収録した一冊になっている。

「塩壁」触っちゃダメなものに触ってしまった話。改修のため隣家との境界のブロック塀を壊そうとした際、ブロックの下の方の穴に詰め込まれた塩のダンゴが見つかった。深く考えずに全てを取り壊して、新築の住居に移り住んだ体験者とその妻。しかしその日以来、平穏だった体験者の家庭が少しずつ狂い始めた。まず最初は家屋に異変が出始め、やがてそれはペットや妻の肉体や精神に及んだ。あの塩ダンゴは何だったのか。
 とんでもない出来事が起こってるらしいのだが、体験者にそれを感知することはできない。当然読者にも何の説明もないから、ポイっと放り出されたような気分になる。それがとても実話怪談らしい。冒頭塩ダンゴ発見のくだりから、不吉な雰囲気は満点。また後の方のページの「箱」という話では、禁忌とされてきた「箱」に触れてしまったために、ある一族が苛烈な祟りに見舞われている。

「少女時代」女性の体験者が彼女の姿を初めて見たのは、小学6年生の頃だった。17歳くらいの、死装束をまとった長い黒髪の少女。それがごく自然に体験者の部屋に佇んでいる。それ以来、高校を卒業するまでの間、体験者は家のあちこちに何をするでもなく佇む彼女の姿を見る。
 それだけのごくシンプルな話なんだけど、このエピソードには「見える」ってこんな感じなのかなーっていう不思議なリアリティがあった。この話より少し前に「餓鬼」という話が載っていて、そこには死んでもなお激しい飢えから逃れられない哀れな霊が登場する。何をするでもなくただ佇んでいるこの話の彼女は、一体この世にどんな思いを残したのだろうか。寂寞とした美しさを感じるエピソードだった。この世ならざるものとの自然な交流を描いた話としては「冬のアレ」も印象に残った。

「根」「股間が凄く乾く……。ちょうど陰部の辺りがパリパリになるぐらい乾くのである。」(p.115) という一節から始まる1ページほどの話。そんな妙な悩みを持つ男性の体験者が、ある時、これまでにない強烈な乾きに襲われ風呂場に飛び込んだ。水に濡らそうと股間に手を当てると、そこには異様な感触があった。陰部から肛門にかけて何かが貼り付いているのである。
 うげーっ。そもそも「股間が乾く」という感覚が全然ピンとこないのだが、超気味の悪い現象が生じていることだけはよく分かる。これは一体何なんだ。何か病気っぽいものを特殊な形で感知したのだろうか。

「原因」最近体験者には少々気掛かりなことがあった。焚き返しで使っている風呂桶の水が減ってしまうのだ。調べてみても風呂釜には異常がない。水の減り具合が日によって違うことも不可解だった。ある夜、トイレに行こうとガラス戸を開けると、トイレの隣の風呂場がぼんやりと光っているのが見えた。そこには風呂桶の中に頭を突っ込んで、残り湯をがぶ飲みする女の姿があった。
 怪異と同居する男の話。前述の「少女時代」と似てなくもないが、ここで登場するのは儚げな幽霊ではなく、もっと奇怪なモノだ。劇中でその正体が仄めかされているが、かなりメジャーな妖怪の眷属かと思われる。体験者がそんな薄気味の悪い部屋から退去しなかった理由は、とても共感できるものだった。うちにも出ないかな。

「苦い」かつて悪徳リフォーム業に手を染めていた男性の体験者が、ある集落の家を訪れた。そこは老夫婦だけが住む古い家。適当な工事を終えた夜、体験者は異常な疲れに襲われた。部屋中に異様な気配や臭気を感じ、朦朧としたまま眠りにつけない。気付けば三日間も経過していた。シャワーを浴びようと裸になると、体のあちこちに小さな歯形のような痣が付いている。全身が痛い。それでもどうにか出勤して再びあの集落を訪れたが、体験者を待ち構えていたのは村の老婆の罵倒だった。「お前、何した! あの家に何した! 」
 村の老婆のリアクションが素晴らしい。これも触っちゃダメなものに触ってしまったエピソードだが、祟りの根源らしきモノが明記されている。天罰覿面って感じの話でもある。この一連の出来事の後、体験者は口中に常に「苦味」を感じるようになる。

「痛む雪」両親の離婚の都合で、東北地方の母方の実家で暮らすことになった体験者が、引越し早々複数の怪異と遭遇する。体験者は女性、これは彼女が小学3年生頃の出来事である。夜、窓明りを頼りに、雪の積もり始めた裏庭で雪だるまを作っていると、不意に女が現れた。女の姿は次のように描写される。「薄手のカットソーが明りでうっすらと透けていて、ガリガリに痩せていることだけはすぐにわかった。」(p.209) この後女は体験者の真正面にかがみ込むと、髪や肩についた雪を払ってくれたという。女のイメージは漂白されたかのように白々としていて、幻想的な雪の降る夜の風景にぴったりだ。体験者は後に別の怪異とも遭遇するが、そっちの方は黒い粉を撒き散らす真っ黒な姿をしていた。この2体の怪異は母親の実家で発生した、過去の事件に関係があるらしい。収録作の中では長めの、劇場版って感じのエピソード。

 好みで選んでるのでいつも偏ったチョイスになってしまうが、本書にはここに挙げた他にも興味深い話が多数収録されていた。話の長さ、傾向も様々で飽きのこない一冊。



『恐怖箱 超-1コレクション 彼岸花』
 竹書房 2008 竹書房文庫 HO-54
 編:加藤一
 著者:高田公太/眠/すねこすり/怪聞亭/へみ/宇津呂鹿太郎/黒ムク/じゅりんだ
    山際みさき/ねこや堂/北極ジロ/矢内倫吾/maggi/SPダイスケ
    ちあき/ナルミ/ぼっこし屋/久遠平太郎/比良坂泉

 ISBN-13:978-4-8124-3603-5
 ISBN-10:4-8124-3603-6


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樋口明雄『新「超」怖い話』

 樋口明雄編著『新「超」怖い話』勁文社 1993 勁文社文庫21 Q-019

 勁文社文庫版『「超」怖い話』、シリーズ3冊目の本。この巻から後に編著者となるデルモンテ平山(平山夢明)が参加している。ちょっとややこしいので整理しておくと、勁文社文庫の本シリーズは、『「超」怖い話』→『続「超」怖い話』→本書『新「超」怖い話』→『新「超」怖い話2』→『新「超」怖い話3』〜という順で全11冊が刊行されている。ちなみに『新「超」怖い話4』は縁起が悪いってことで欠番。「3」の次が「5」となる。また「9」も同様の理由から「Q」という表記になっている。

 内容は「空の章」「風の章」「火の章」「水の章」「地の章」の五つの章に分かれていて、それぞれのテーマに沿ったエピソードが、わりと厳密に分類収録されている。

「空の章 身に降りかかったこと」より「ちくしょう」
「空の章」には以下の各章には分類し難い多様な心霊体験が「身に降りかかったこと」して、最多19編が収録されている。
 このエピソードは神奈川県の「ヤビツ峠」を舞台にした自動車の怪談。体験者は深夜、助手席の彼女をナビに峠を走行していた。最初のうちは極度に峠を怖れていた彼女だったが、やがてすっかり静かになって、「右よ、ね」「次、左でしょ」という具合に驚くほどのナビぶりを発揮していた。体験者はその声に生返事をしながらハンドルを切る。しばらくすると右側のガードレールの失われた大きな左カーブに差し掛かった。彼女の声、「次、右だよね……」
 自動車の怪談の古典って感じの、非常に完成度の高い一編。場所やシチュエーションを変えて類話が語られているので、それを聞いたことがある人もいるかと思う。舞台となった「ヤビツ峠」は走り屋と多くの心霊現象で有名なスポット。過去に死体遺棄事件も発生しているらしい。心霊関係なく怖い。

「風の章 目撃譚」より「殺してしまいましょうか」
 寝付かれない夜、天井を見つめている。小さな染みが二つ浮き出てきたかと思うと、みるみる大きくなっていく。やがて女の顔だと分かるほどの大きさになると、宙に浮かんで何やら小声で話しはじめた。慌てた体験者は寝たふりをしながら、二つの顔を盗み見ようとするが、偶然にも浮遊する女の顔と目が合ってしまう。「ねえ、あの人こっち見てるよ」「私たちに気付いてるんじゃないかしら……」
 シンプルなシチュエーションながら、もしもこんなことあったら確実にちびるわーって感じの話だった。幽霊までの距離が近すぎる。「目撃譚」が10編集められたこの「風の章」には、単にこっちが目撃しただけではなく、この話をはじめ「踏切の少女」「覗かれる」など、あっちからもガン見されてるようなエピソードが複数収録されている。

「火の章 おかしなもの」より「もしもし」
 突然公衆電話が鳴り出したので思わず受話器を取ってしまう。電話の相手もまた同じように公衆電話に出たのだという。聞いてみれば相手がいるのは遠く離れた土地らしい。二人は驚き合いながら電話を切ったのだった。
 まさにちょっと「おかしなもの」って感じのエピソードだが、実は二台の公衆電話にはある不吉な共通点があった……かもしれない、という話。どんどん減ってる公衆電話だけど、未だにそれにまつわる怪談は数多い。実際にベルが鳴ることはあるらしくて、知人は病院のバス停の電話が突然鳴りはじめたのを聞いて、数人のバス待ちの人たちと一緒に悲鳴が出るほどびびったと言ってた。
 6編が収録されたこの章には、思わず笑ってしまうような突飛な現象の目撃談の他に、過酷な労働環境で知られるアニメスタジオにまつわる話が2編収録されている。

「水の章 祟り・因縁話」より「おじぎ人」
「眼球が眼窩から外れかかって顔は血まみれであるにも関わらず、口元はダランと笑っているように見える。」そんなワイシャツ姿の男が、アパートの玄関に正座しておじぎを繰り返している。……トンデモない幽霊が出るいわく付き物件の話。繰り返しわけの分からない行動を続ける幽霊はやっぱ怖い。幽霊じゃなくても怖いけど。この話で特徴的なのは体験者とその母親が強力な霊能力を有しており、事前にヤバイ物件らしいことを感知していて、それに対する対抗策がとられる点だ。
 祟りや因縁話を集めたこの「水の章」には、このエピソードを含めていわく付き物件の話が全10編中、3編収録されている。同じ「いわく付き物件」と言っても様々で、単に幽霊的なものが出るものばかりではない。

「地の章 あやかし」より「狐三千匹」
「狐憑き」にまつわる話で、なんとなく民話調。狐憑きというと「キエーッ!!」って叫びながら暴れるイメージだけど、このエピーソドで憑かれた人は、ただどんどん衰弱していって、ついには寝込んでしまう。霊障的にはごく地味な印象だが、憑いてる数がハンパない。「狐三千匹」。そんな狐の大群を祓うべく、霊能者の指導のもととられた対策は……。
 思わず突っ込みたくなる楽しいエピソードだった。無駄にスケールがでかくて、むしろ信憑性が増してるように感じた。
 この「地の章」には「あやかし」……妖怪っぽい何かの話が8編収録されている。このエピソードのように怖さよりも不思議な感じのするエピソードが多い。

 この本はすでに絶版になってしまっているが、収録されたエピソードのいくつかは竹書房文庫、ハルキ・ホラー文庫から刊行されている複数の本で今も読むことができる。



『新「超」怖い話』
 勁文社 1993 勁文社文庫21 Q-019
 編著:樋口明雄
 執筆者:樋口明雄/加藤一/デルモンテ平山/氷原公魚

 ISBN-13:978-4-7669-1832-8
 ISBN-10:4-7669-1832-0


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加藤一『恐怖箱 学校怪談』

 

 加藤一編著監修『恐怖箱 学校怪談』2015 竹書房 竹書房文庫

 ありそうで無かった学校にまつわる怪談を集めた『恐怖箱』シリーズの本。おなじみの実話怪談作家がそれぞれ1〜4話のエピソードを持ち寄っている。全28話収録。一般にイメージされる「生徒が怖がる」学校の怪談とは異なる、「生徒そのものが怖い」話が含まれているのが特徴。対象となる学校も小学校〜専門学校、大学までと幅広い。

 ところで学校の怪談といえば、高校の頃に変なことがあった。何の授業だったか忘れてしまったが、とにかく退屈な授業中のことだった。机に突っ伏して爆睡していた真横の席のデブのS君(友人、普段は温厚な性格)が突然跳ね起きて、こっちに向かってブチ切れ出したのだ。涙目で。静まりかえった教室に響き渡る怒号。後からよくよく話を聞いてみると、爆睡してただけに見えたS君は、実は授業開始直後から強烈な金縛りにみまわれていて、隣の席の自分にずーっと助けを求めていたらしい。

 ……とまあそんなアホな話はさて置き、極端に長い話も短い話もない収録作の中で、印象に残ったのは以下の4編。

「ランドセル」来年小学生になる娘に届いたピカピカのランドセル。蓋を開けると部屋中に潮の香りが広がった。ランドセルを覗き込んだ父娘がそこに見たものは……。収録作の中では3ページ弱と短めだが、印象的な短い話ならではのキレのあるエピソード。親娘はすごく意外なものを見る。
 
「家庭訪問」体験者が受け持った1年生のクラスに気になる生徒がいた。授業態度が良く、笑顔を絶やさないその少年にはある問題があった。クラスメイトと全く交流を持とうとしないのだ。理由は分からない。いじめられているわけでもない。そこで体験者は家庭に問題があるのではないかと考えたのだった。家庭訪問の日、体験者は狭いアパートの一室で、いつも通りの笑顔の少年とその父親と向かい合った。室内にはゴミが散乱し、お世辞にも清潔とは言えない環境だ。話しかけても全くノーリアクションの二人。ふと天井を見上げると、そこには赤黒い煙が漂っていて、ゆっくりと動き始めると、やがて一つの形をとりはじめた。
 前述の「生徒そのものが怖い」エピソード。この後、体験者は逃げるようにアパートを辞去するが、父親と少年には過酷な運命が待ち構えている。心霊云々はさて置き、社会から取り残されたような生活環境で暮らす親子の姿が哀れ。エピソード内で明かされてない謎が多いから、掴みどころのないどんよりとした気分が尾を引く。

「随時制作中」プール掃除をしていた体験者(教師)が、ドロドロに汚れた水に半身を浸けた女生徒の姿を目撃する。二週間前に溜池で溺死したはずの生徒である。幸い彼女はすぐに消えてしまったが、プールの水を抜いてみると、ちょうど彼女がいた辺りから小さな人形が発見される。針金で縛られ石を結わえ付けられた、手作りの制服姿の人形である。名札にはさっきの女生徒の名前が書かれている。続いてもう一体、別の生徒の名の書かれた人形が、今度は焼却炉の中から発見される。
 上の「家庭訪問」と共に、収録作の中では長めのエピソード。強力な「呪い」にまつわる話である。彼女たちはなぜ死ななければならなかったのか、人形を「制作」したのは誰だったのか。こっちは謎がほとんど詳らかになるため、読後感はスッキリ。なんとなくオチが読めてしまうが、やはり呪いの話は面白い。

「授業参観」体験者は6年生になった。担任は女子の間で人気のある若い先生。早速授業が始まったが、体験者は教室の隅に見知らぬ女が立っているのに気付いた。パジャマ姿で裸足という場違いな格好の女に、クラスメイトたちは何の反応も見せない。女は所謂「あぶない人」で、余計な刺激しないように皆黙っているのか。やがて女が一人の男子生徒に顔を近づけ何やら話しかけると、男子は弾かれたように立ち上がり、教室から飛び出して行った。それ以来彼は登校拒否になり、二度と教室に来ることはなかった。しばらくの間平穏な日々が続いたが、ある日投稿者は再び教室であの女を目撃する……。
 女の正体は最後の方で明らかになるが、それで話は終わらない。現象のユニークさもさることながら、体験者の反撃が心地よいエピソードだった。イメージがはっきり浮かぶのは、簡潔明瞭な文章によるところが大きい。

 他にも有名な幼女連続殺人事件にまつわる「湖畔にて」や、宗教団体にずっぱり嵌まった人の話「約束の日」、教室に置かれた「死者の席」の話「あちらさんの席」など、興味深い話が収録されている。学校の怪談といってもバラエティに富んでいて、単調になってないのが良かった。ノスタルジックな読後感の一冊。



『恐怖箱 学校怪談』
 竹書房 2015 竹書房文庫 HO-257
 編著監修:加藤一
 著者:鳥飼誠/渡部正和/戸神重明/神沼三平太/つくね乱蔵/高田公太/ねこや堂
    鈴堂雲雀/久田樹生/橘百花/三雲央/深澤夜/雨宮淳司

 ISBN-13:978-4-8019-0538-2
 ISBN-10:4-8019-0538-2


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