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伊藤三巳華『スピ☆ヲタ子ちゃん〈1〉』

 

 伊藤三巳華『スピ☆ヲタ子ちゃん〈1〉』講談社 2017 ヤンマガKCスペシャル

 主人公は著者の少女時代「ミミカ」。「オバケ団地」と噂される千葉県N市の某団地で暮らしていた。本人によるとあまり裕福な家庭ではなかったらしい。幼い頃からミミカには人に見えない不可思議なモノが見えた。そして三日に一度という頻度で「幽霊に襲われて」育ったという。長じるにつれて、彼女は自身の体質をひけらかすことのリスクを自覚し、霊感アピールを封印する。しかし彼女には他人に知られてはならないもう一つの顔があった。昼間こそはバレーボールに励む健全な部活少女だったが、夜な夜な自作マンガに没頭する「ゲーム、アニメ、マンガヲタク」だったのである。当時、ヲタクへの風当たりは今以上に強く、「イケてる青春」を送りたいなら「霊感」共々封印必至という状況なのだった。自らの本性を隠し、他人を傷つけ他人に傷つけられながら、スクールカーストでのし上がろうとする主人公の日常は、まさにサバイバルである。←こういう感じの話が全9話収録。

『視えるんです。』『スピ☆散歩』などの霊感エッセイ漫画で知られた著者が、自らの少女時代をセキララに描く。って帯にあったから、霊感少女の日常とか興味深いなーなんて思いつつ読み始めたのだが……。印象は全然違ってた。「霊感」は二の次三の次で、ひたすら著者の痛々しい子供時代(小学校から高校入学くらいにかけて)と贖罪の思いが切々と描かれた懺悔マンガだった。デフォルメ調の絵柄で随分緩和されているが、内容はかなりヘビー。霊感、心霊、怪奇的にじゃなくて、残酷な人間関係的に。
 作品の紹介には「ミミカの周りには、個性的な友達がいっぱい」と楽しげな感じで載ってるけど、その友達が一筋縄ではいかない。極道の息子と噂される「タグチ」、パーマ屋の娘でヤンキーの「アケ」、猟奇的恋愛脳「くき(く)」、BLマンガに救いを求める悲劇の美少女「ちさとちゃん」などなど、個性的どころじゃない壮絶なメンツ。それぞれのエピソードもいちいち濃い。とりわけ家に帰りたがらないちさとちゃんの話「生霊になりたいですか?」は、その救い難さで印象に残った。子供には荷が重すぎる。
 前述の通り霊感よりも人間関係に重きが置かれているが、ほとんどのエピソードで霊感が人間関係の構築(と後悔)のとっかかりになっているところがスピリチュアルマンガらしい。ミミカはやや自意識過剰な少女で、幽霊そのものよりも、それが見えることで他人にキモいと思われることの方を怖れているようだ。繰り返し出てくる「見えるけど、全てが自分の妄想かも……」的なセリフは、成長したミミカが社会との折り合いをつけるために編み出したフレーズなのだろう。怖いシーンは少ないけど読み応えは充分なので、霊感少女の生い立ちに興味がある人にはおすすめ。



『スピ☆ヲタ子ちゃん〈1〉』
 講談社 2017 ヤンマガKCスペシャル
 著者:伊藤三巳華

 ISBN-13:978-4-0638-2969-3
 ISBN-10:4-0638-2969-3


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伊藤三巳華『濡れそぼつ黒髪』

 

 伊藤三巳華『濡れそぼつ黒髪』朝日新聞出版 2012 HONKOWAコミックス

 以前なら「怖っ!」って思うはずのところを「凄っ!」って思うことが多くなっている。CSでやってる怪奇系の番組を見ながら、そんなことをふと思った。頻度でいえばそんな風に感じること自体、少なくなっているような気もする。
 もともと怪談やホラーなんて全然怖くないって人もいるかもしれないが、自分は本来怖がりな方で、子供の頃は刑事ドラマに出てくる白目を剥いた死体を見てびびりまくっていたのだ。それなのに気付けば「ほんとにあった~」とか見ながら夕飯食べるようになってる。これは由々しき自体だ。怖いシーンを見たら「今のは良かった」なんて感心するより、「怖っ!」って思う方が楽しいに決まっている。

 子供の頃、周囲にはオカルトっぽいものが溢れていた。当時は何度めかのオカルトブームで、TVも漫画も学校での雑談も怪しげなオカルトネタが幅をきかしていた。そんな有象無象、玉石混淆の数あるオカルトネタの中で、最も強烈で禍々しい恐怖アイテムだったのが、中岡俊哉の『恐怖の心霊写真集』である。中身を見るどころか、触るだけでも呪われそうな、リアルネクロノミコンな本だった。目につくところに置いてあることが嫌で嫌でたまらなかった。それなのに新刊が出ると友達から借りてきて、夜になると借りてきたことを後悔する、そんなアホな行動を繰り返していた。今見ると草むらにやたら「コダマ」(もののけ姫の)みたいな顔が白く書き込んであるページばかりで、怖いというより面白くなってしまっているのだが。

 といった具合にオカルト関連本を借りてきて眺めたり、TVの心霊番組を家族で見たりしてオカルト生活をエンジョイしてたのだが、ずっと不満に思っていたことがあった。それは小学校高学年くらいの自分から見ても、次々に登場する霊能者の方々の絵があまりにも下手すぎるということだった(宇宙人の目撃者もひどかったけど、たまたま見ただけの人なのでまあ仕方がないって思った)。ちょっと下手とか、苦手そうって感じじゃなくて、とにかく雑。天は二物を与えずというけれど、せめて一回見直せよ、絵心がないなら真心をって感じだった。

 この手のグチを書きはじめるとキリがなくなるし、何書いてるのかわからなくなってきたのでやめとくけど、この『濡れそぼつ黒髪』は ↑ のような積年の恨み、じゃなくて長年の不満解消の一助となる好著である。
 古来、漫画家、特に少女漫画家の中には、霊感がある、心霊体験がある、お告げが聞こえる、私こそ神の依代だ等々公言して憚らない作家がいて、実体験を反映した作品を発表してたりするが、本作はそういった作品群とは一線を画していると思う。めっちゃざっくりいうと、この作品は「漫画家が実体験をもとに描いた心霊漫画」ではなくて、「霊能者が実体験をもとに描いた心霊漫画」なのである。同じようなもんだろと思われるかもしれないが、なんかちょっとやっぱちょっと違う。
 著者は『視えるんです。』『スピ☆散歩』といった心霊・スピリチュアルエッセイ漫画で知られる伊藤三巳華。これらの著作では主にデフォルメ調のファンシーな絵柄が採用されており、ごくたまーにシリアスな心霊描写が挿入されて効果を上げているが、この『濡れそぼつ黒髪』は全編シリアスな絵柄。心霊ものにぴったりのギクギクした感じの神経質そうなタッチで、これがまた上手い。『視えるんです。』をイメージして読むと落差にびっくりする。デフォルメが上手い人はシリアスも上手いというのは本当らしい。

 本書に収録されたエピソードは全部で6編。著者「みみか」をはじめ登場人物は共通するが、ストーリーに連続性はない。全て著者の実体験や知人から聞いた話をもとに描かれている。基本「見ただけ」の話だが、怪異を感知するのが著者だけではなくて、他にも程度は違えどそれを感じるキャラが配置されておりリアリティを補強している。どのエピソードも甲乙つけがたい出来映えだったが、表題作の「濡れそぼつ黒髪」「悪戯(いたずら)」「居候(いそうろう)」の3編は特に好みだった。どれも幽霊の出る部屋や建物にまつわるエピソードである。
 自分は幽霊の類いは一切見たことがないし、本書に出てくるタイプのものはお断りだが(かわいいのは歓迎)、こんな風に見えるのかーとワクワクしながら読むことができた。心霊漫画が好きな人にはオススメの一冊。



『濡れそぼつ黒髪』
 朝日新聞出版 2012 HONKOWAコミックス
 著者:伊藤三巳華

 収録作品
 「濡れそぼつ黒髪」『ほんとにあった怖い話』2005年1月号 掲載
 「悪戯(いたずら)」『ほんとにあった怖い話』2005年9月号 掲載
 「黒煙の土地」『ほんとにあった怖い話』2006年3月号 掲載
 「肝だめし」『ほんとにあった怖い話』2006年9月号 掲載
 「聖夜の遺言」『ほんとにあった怖い話』2007年1月号 掲載
 「居候(いそうろう)」『ほんとにあった怖い話』2007年7月号 掲載

 ISBN-13:978-4-0227-5309-0
 ISBN-10:4-0227-5309-9


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