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睦月影郎『姫の秘めごと』

 

 睦月影郎『姫の秘めごと』実業乃日本社 2015 実業乃日本社文庫

 山中で孤独に暮らしていた農夫「十郎」のもとに、ある時、天からお姫さまが降ってきた。なんと彼女は藩主の姫君「小巻」だという。輿入れに向かう途中、つむじ風に巻き上げられ、崖から落ちてしまったのだ。すっかり小巻に懐かれた十郎は、江戸の上屋敷に奉公することになり、小巻の周辺の美女、美少女たちと情交を重ねていくのだが……。

 まず何と言ってもタイトルが素晴らしい。めっちゃ好奇心を刺激される。今まで誰も思いつかなかったのか、思いついても「ないわー」って感じでボツにされてきたのかは分からないが、「姫」と「秘めごと」、この取り合わせは「おっぱいアイス」クラスの魅惑的な発明だ。壮絶な出オチを懸念される人がいるかもしれないが、心配は無用。しっかりしっぽりと「姫の秘めごと」が描かれている。
 その内容はというと、著者の時代もののファンには「いつもの感じで、あ、今回は超常的な要素なしです」で、概ね伝わるかと思う。というのも、著者の時代もの(とくに近作)は、大まかなストーリーの進行や人物の配置などがごく似通っていて、一作ごとの微妙な差異を楽しむ作品って感じになっているのだ。
 ざっと説明すると、冴えない主人公が何かの拍子に上流階級の子女と親密になり、おっそろしく都合のいい立場を(計らずも)確保しつつ、知り合った女性と片っ端から性交渉を持つというもの。主人公の性欲を妨げるものがまるで存在しない、この上なくお気楽な世界観だ。お気楽極楽ヴィクトリアンポルノに通じるおおらかさがある。

 主人公は多くの場合、17〜20才くらいの青年、お武家だったり町人だったりするが、性格は控えめでやたら淫気が強い。腋と股間と足の指の股に執着する重篤な匂いフェチである。彼と関係を持つ女性陣は大まかに四つのパターンに分類される。
 まず年上の女武芸者。『剣客商売』のヒロイン「三冬」を彷彿とさせるキャラで、決まって「脛にはまばらな体毛もあって野趣溢れる」とか「突っ立ったオサネは大きめ」とか描写され、もれなくMである。本作の「胡蝶」は二十代半ばの家老の娘で、藩の剣術指南役を務めている。もっと年上のキャラも登場する。後家さんや夫婦生活に不満を抱いた武家の女性が多く、本作では姫の乳母兼お世話係となっているが、主人公の奉公先のおかみさんだったりすることもある。お屋敷で下働きをしている町娘は年下枠(ロリ枠ってほどではない)。ときにヒロインの中でも群を抜いた存在感を見せる。立場上動かしやすいキャラなのか、様々な特徴を付加されることも多い。忍者だったりとか。
 そしてお姫さま。著者の作品に登場するお姫さまは例外なく魅力的だ(巫女っぽいキャラも魅力的だが本作には登場しない)。今度のお姫さまはどんなかなーって興味だけでも、充分に新刊の購入動機となる。主人公と同年代に描かれることが多く、浮世離れした可憐なキャラである。純粋無垢過ぎて下々の者を下々の者として認識さえしてない。本作の「小巻」は性に対する好奇心が旺盛な反面、羞恥心が極端に薄く、主人公の眼の前で平然と用を足したあと(←全裸で)後始末までさせている。どことなくぽやーっとしてるところが可愛らしい。やっぱりハズレないな、お姫さま。

 著者の多くの作品には妖怪や付喪神や、超常的な能力を持ったキャラが登場するが、本作には残念ながら超常的な要素はない。そこのところがやや物足りない気もするが、最近の著者の時代ものとしてはスタンダードな作品で、多忙な毎日からの逃避にはもってこいな一冊。日頃のストレスを脳ミソのシワもろとも消し去ってくれる。微スカ注意。



『姫の秘めごと』
 実業乃日本社 2015 実業乃日本社文庫
 著者:睦月影郎

 ISBN-13:978-4-4085-5216-3
 ISBN-10:4-4085-5216-X


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