「マクノートン (ブライアン) 」カテゴリ記事一覧


ブライアン・マクノートン『食屍姫メリフィリア』

 

 ブライアン・マクノートン(Brian McNaughton), 夏来健次訳『食屍姫メリフィリア』(“Meryphillia” ワインバーグ&グリーンバーグ(Robert E. Weinberg and Martin H. Greenberg)編著, 夏来健次, 尾之上浩司訳『ラヴクラフトの遺産』("Lovecraft's Legacy")東京創元社 2000 創元推理文庫 所収)

「その墓地において、メリフィリアは最も例外的な食屍鬼(グール)だった。彼女を美女と呼ぶ者がいたわけではなかったものの、しかしほかの女食屍鬼たちとは異なって、痩せ衰え方が極端ではなく、顔色の蒼白さもさほど恐ろしくはなく、また歩き方にもグロテスクさが欠如していた。
 例外的にやさしい心を持っていた彼女は、本能に強いられ幼児の死体でもむさぼり食わねばならない事態となれば、ときとして目に涙した。(中略) 最も例外的な点は、これは仲間たちの苦笑を買ったことだが、彼女が今は失った、日の光と人のぬくもりに満ちたかつての世界をなつかしんで、消しがたい悲しみをいだいていることだった。」(p.313)

 生前のメリフィリアはいわゆるナードな感じの17歳の少女で、怪奇小説を好み、深夜に墓地をうろついたりしてる。そのせいでうっかり食屍鬼になってしまったのである。当然恋愛ごとにも疎かった彼女は、食屍鬼の恋人と激しく交尾をしたり、血みどろになって仲間と死体を奪い合ったりしながらも、「恋愛の情」に強い好奇心を抱いていた。そんなキュートな食屍鬼「メリフィリア」が、あるときヒトの男子と急接近(於墓場)。さて、どうなることやら……。

 この『食屍姫メリフィリア』はバラエティ豊かな『ラヴクラフトの遺産』の収録作のなかでも、とくに毛色の異なる作品だった。『ピックマンのモデル』(←前の記事へのリンクです)でおなじみ「食屍鬼(グール)」の少女の日常系。解説でも触れられているが、本家ラヴクラフトからは絶対に出てこない類いの作品である。これだけ聞くとヘタすればコメディかと思われるかもしれないが、色モノは色モノでも食屍鬼の生活(生態)と恋心をガチで描いたハードな色モノだ。グールが恋愛て、という心理的なハードルを超えてしまえば、人体をバラバラして貪り食う凄惨な描写、静謐な墓場の情景(ここすごくいい)、食屍鬼の少女としての説得力のある心理描写など、どれも一級品で格調さえ感じさせる。オススメの作品。
 著者ブライアン・マクノートンは70年代の終わりから80年代にかけて「クトゥルフ風味の珍作ホラー」でもてはやされた人で、この作品で再評価され、本作を収録した短編集で1998年度の「世界幻想文学大賞」の短編集部門を受賞している。


にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ
(この一行は、各ページ下部に固定表示するサンプルです。テンプレートを編集して削除もしくは非表示にしてください。)