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日野日出志『赤い蛇』

 日野日出志『赤い蛇』ひばり書房 1986 ヒット・コミックス 67 日野日出志ショッキング劇場

『地獄変』『恐怖・地獄少女/呪われた赤ん坊が…』と並び称される著者の代表作。よくある日野日出志の漫画で一番好きなのは? って話題でタイトルが出てくるよりも、古今東西の漫画の中で一番好きな作品は? で出てくる方がしっくりくる作品である。
 長らくこの作品に対しては、たまーに読み返しては嫌悪感を確認する、というよく分からない接し方をしてきた。「怪奇系多め」なブログなのに、日野日出志の作品を全く取り上げてこなかったのは、実はこの作品がネックになっていたからだ。妙な思い入れがありすぎて、感想が書き辛いったらない。

 主人公の「ぼく」は、物心ついた時から、この家を出たいと思っていた。どうしてもこの家が好きになれなかった。いや、むしろこの家が怖かったといった方がいいだろう。彼の家はいわゆる旧家だったが、その広さは想像を絶していた。何部屋くらいあるのかさえわからない。ところが青銅の巨大な鏡によって廊下が封じられていて、彼は家族が暮らす十数部屋の他には行ったこともなかった。鏡の向こう側には「開かずの間」があるらしい。
 家族は主人公を含めて五人。「父親」は鶏を飼い、卵を産ませ、卵を産まない鶏を潰し、狂った「祖母」に強く執着していた。祖母は自らを鶏だと思い込み、部屋の中に大きな鳥の巣を作ってそこで暮らしている。「母親」は鶏が産んだ卵を「祖父」の頬にぶら下がったでっかいコブに擦り込み、踏んで膿を絞り出すことに喜びを感じているらしい。「姉」は一人部屋に引きこもり、父親が鶏に与えるために飼育したイモ虫を身体中に這わせ恍惚としている。蒼古とした巨大な屋敷に対するのと同じような怖れを、主人公はこの家族にも感じていた。そしてある時、彼は家を出ることを決めた。

 ちょっと前に加門七海の『203号室』って本を読んだのだが、次のような美しい一節が印象に残った。「実家の部屋は、思い出という埃にまみれたもので溢れかえっている。(中略) 愛着があるからこそ取ってあるのは間違いないが、それらは皆、どこか鬱陶しかった。彼女は家族から遠ざかると同時に、少女時代をそのまんま抱え込んでいるような部屋からも目を逸らしたかった。」(※) 少女でなくてもこうしたアンビバレントな感情って、多かれ少なかれ誰もが抱いているのではないかと思う。そんな感情を極度に増幅させて、怪奇と幻想に全振りしたのが、この『赤い蛇』。著者によると「本気で書いた最後の作品」だという。

『赤い蛇』はある家族の日常と崩壊を描いたホームドラマだ。病的で、性的で、血と膿にまみれた悪夢のようなイメージの数々を、上記のようなハチャメチャな家族が、影絵のように演じあげていく。テーマは「業」とか「宿命」とか、そんな感じのやつ。メインのターゲット小学生だったはずなのに……って気がしないでもないが、実際にその年頃にこの作品に接したことを思い出すと、怖い漫画っていうより、穢らわしい、超嫌な漫画って印象の方が強かったように思う。星雲社版のインタビュー記事にも似たようなことが書かれていたが、両親がセックスしてることを知ってしまった時のような、めっちゃ嫌な感じというか。……ふーむ、とか思いながら、まともに鑑賞できるようになったのは、随分経ってからのことだったと思う。あ、多分、『イレイザーヘッド』(1977)をLDで初めて見たときに、あれーこれ『赤い蛇』に似てね?? って思ったのが、ふーむってなるきっかけだったかもしれない( ≈トラウマを克服するきっかけだったかもしれない)。てことは中学の頃か。単に繰り返し読みすぎて慣れただけって気もするが、なんかそれらしいのでそーゆーことにしておこう(これ、似てね?? のくだりは本当です)。

 この作品の奇怪な光景の数々は、著者の幼い頃の心象風景らしい。作画はまさに渾身って感じで、すべてのコマが考え抜かれ、グロテスクなシーンであっても独特の美しさが感じられる。傑作ホラー漫画。

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 本の話から外れてしまうが、これは「犬神サーカス団╳グルグル映畫館」のアナログレコード『赤い蛇』。天野君からの頂きものだ。うちではアナログ盤を聴くことができないのだが、「これ描いてもらったんですよー」って嬉しそうに置いていってくれた。なんとED.No.001/500。限定版とか好きなの知ってて持ってきてくれたのだろう。ジャケ絵はもちろん日野日出志である。天野君とはガンプラとか、ホラー漫画とか、最近読んだ本とか、そんな話ばかりしていた。考えてみればいつも彼が一方的に話してたような気もするが、よくまあ毎回あんなに話すことがあったものだと思う(そういえば音楽の話はしたことがなかった)。深夜に携帯が鳴ると今でも天野君のことを思い出す。当然、この『赤い蛇』を読み返したときも。


 ※加門七海『203号室』光文社 2004 光文社文庫 p.9




『赤い蛇』
 ひばり書房 1986 ヒット・コミックス 67 日野日出志ショッキング劇場
 著者:日野日出志

 ISBN-13:978-4-8280-1067-0
 ISBN-10:4-8280-1067-X


 

『赤い蛇』
 星雲社 2005 マジカルホラーシリーズ 4
 著者:日野日出志

 巻末特集
 1) 日野日出志、自伝的長編『赤い蛇』を語る。
 2) 日野日出志仕事場訪問奇談

 ※ひばり書房版のカバーイラストが、タイトルロゴなし、カラーで収録されている。判型も大きくてオススメ。

 ISBN-13:978-4-4340-6578-1
 ISBN-10:4-4340-6578-5


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