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大阪圭吉『とむらい機関車』

 大阪圭吉『とむらい機関車』(『とむらい機関車』国書刊行会 1992 探偵クラブ 所収)

 この作品、収録されている本の帯にはでっかく「本格派復活」なんて書いてあって、おどろおどろしいタイトルとの違和感にまず興味を持ったのだけれど、推理小説らしい骨格に怪奇趣味が濃厚に塗されたとても面白い作品だった。提示される謎は、ブタの連続轢死事件。

「葬式(とむらい)機関車」と呼ばれる車輌があった。形式、番号はD50・444号。妙な事にこの機関車はH駅に所属する沢山の機関車の中でも、一番轢殺事故を起こしている。轢殺事故がこの車輌に集中して発生しているのだ。さらに妙な事に、十年近くにわたって、この機関車が事故を起こすたびに必ず乗り込んでいた二人の運転乗務員があった。最初は呑気に構えていた二人だったが、事故がたび重なるに従ってどうにもやりきれなくなってきた。そこで被害者の霊に対する供養の意味で、事故のたびに小さな花環を操縦室の天井にぶら下げるようになった。そしていつの頃からか、D50・444号は「葬式(とむらい)機関車」と呼ばれるようになったのだった。
 このD50・444号が不思議な事故に、しかも数回にわたって見舞われる事になる。別々の日の、同じ時刻、同じ場所で、四度もブタを轢き殺したのだ。ブタは近隣の農家から盗まれたものだった。悪戯にしては度が過ぎている。誰が一体何の目的でこんな悪質な事をしでかしたのだろうか。

 この後、探偵役の「片山助役」が登場して、犯人のほろ苦い犯行動機(八百屋お七的な)や手段が解き明かされ、不可解な事件は違和感なく解決される。推理小説を読んでいて、たまーに謎解きのパートの乖離が気になる事があるが、この作品に関してはそんな風に感じられる事は全くなかった。事務的で即物的な血なまぐさい描写の数々は、怪奇系の小説でもあまり見かけないほど冴えていて、そっちのファンにもオススメできると思う。また脳漿が飛び散るような直接的な表現だけじゃなくて、夜の機関庫、線路際のうら寂しい雰囲気も抜群。著者は幼い頃から機関車が大好きだったそうで、機関車の描写にも抜かりがない。

 昔私鉄の運転手をしていた人から聞いた話だが、その人の同僚の一人に、事故なんて滅多に起きない田舎の路線で、やたら人身事故が集中する運転手がいたらしい。前に書いたので詳しくは書かないが、交代で同じ路線、同じ時刻を、同じ車輌で走っているのだから、誰が事故にあってもおかしくないはずなのに、あれは不思議だったなーという話だった。幽霊や呪いとの関連が語られない、この手のひたすら「ついてない」事物の話はかなり古くからあって、この作品もそんな話をヒントに書かれたのかもしれない。鉄道とは違うけど実話怪談には、使った人が確実に退院できなくなる車椅子やベッドの話もあった。確実にヒットが打てるバット……は違うか。
 驀進する黒い鋼鉄の塊と、それに轢き潰されてミンチになる柔らかな肉、その鮮やかな対比が印象に残る作品。


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