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L・E・スミス『船を見ぬ島』

 

 L・E・スミス(Lady Eleanor Smith)著, 宇野利泰訳『船を見ぬ島』(“No Ships Pass” ジョン・コリアー他著, 中村能三, 宇野利泰訳『怪奇小説傑作集〈2〉』東京創元社 1969 創元推理文庫 所収)

『怪談イズデッド』というアホな漫画に、「ひくひく」というウサギの地縛霊が出てくる。ウサギ大好きでひくひくの死を嘆き悲しむ小学4年生の女子、マナちゃんに執着してウサギ小屋の地縛霊と化した。ところがマナちゃんはひくひくの死の翌日にはすっかり立ち直って、別のウサギをベタベタに可愛がり始めたのだった。……マナちゃんのそばにいたい、そんなひくひくの願いは叶えられた。しかしよりにもよってウサギ小屋に自らを縛ったばかりに、見たくもないいちゃつきを延々と見せつけられるハメになった。ネトラレ無間地獄の始まりである。
 この『船を見ぬ島』の主人公「パターソン」もまた、ひくひくに負けず劣らずの気の毒な境遇の男だ。

 沈没するヨットから脱出したパターソンは美しい島の浜辺に泳ぎ着いた。その楽園のように快適な島では、人は老いることも死ぬこともない。死ぬほどの負傷をしても、しばらく苦しむだけで完治してしまうのである。島には別々の時代に流れ着いた四人の漂流者が暮らしていて、その中の紅一点「イネス」にパターソンは強く惹かれた。しかし彼女には見るからにヤバげな情夫がいる。「キャプテン・サンダー」というその男は、かつてカリブ海を荒らし回った正真正銘の海賊である。自分はこのまま彼らを間近に眺めながら、無限の時を過ごすのか……。イネスへの思いを振り切るように、パターソンは未だに誰も成功していないという島からの脱出を試みるのだった。

 天国か地獄か、どっちかといえば地獄の方が楽しそう。中学生くらいの頃、割とマジに考えてそんな結論に達した。なんたって自分の好きなモノがことごとく、天国よりも地獄にあるのが似合ってるように思われたからだ。深夜アニメやホラー映画なんて確実に地獄向きだ。恐竜や軍用機が天国にあるとはとても思えない。当然エロ系は全滅。天国にあるのは羽布団とプリンっぽい食べ物とウーパールーパーくらいなものだ。てことはこの世のだいたい80%くらいは地獄的なアイテムが占めてるってことなのかな……とか。まあアレな中学生が考えたことだからアレだけど、そんなアレな考えは今もってあまり変わらない。困ったことに。

 蜃気楼のように存在が不確かな島については、古くから船乗りの間で語り継がれてきた。有名なところでは最近CSの『古代の宇宙人』でもやってたイギリスのハイブラジル島。この島は普段濃い霧に包まれていて、7年に一度しか現れないという。14世紀から19世紀にかけて作成された多くの古地図にその存在が認められ、目撃談だけじゃなくて上陸したって話まであるのに、20世紀以降はやっぱ無かったわってことになって地図上から抹消されている。この作品はそんな伝説の島を舞台にした海洋奇譚である。登場人物の心理描写は繊細で、不死となった人々の微妙に虚ろな様子が巧みに表現されている。百年も経てば愛も憎しみも空っぽになるというイネスの言葉が印象的だった。ぞぞっとするような怪奇小説ではないけど、とにかく主人公が気の毒な作品。


 飯島しんごう『怪談イズデッド〈3〉』講談社 ↓ 表紙のブサイクな生き物がこの巻から登場するウサギの地縛霊「ひくひく」

 


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