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五島慎太郎『吸血ドラキュラ』

 

 五島慎太郎『吸血ドラキュラ』ひばり書房 1986 ヒット・コミックス 12 怪談シリーズ

 ヒロイン「美奈・ハーカー」は日本人の父と英国人の母との間に生まれた、前髪ぱっつん&ツインテールの女の子だ。両親を失い、叔父「ジョナサン・ハーカー」の待つロンドンへの船旅の途上である。緊張感こそ感じられないが、そのとき船内では怖ろしい事件が発生していた。乗客が次々と殺害されているのだ。しかもその殺され方は「人が次々と殺されて、血が一滴も残されてなかったりして」(by船長)という異様なものだった。
 夜、船室で美奈が目を覚ますと、そこにドカン! って感じで「ドラキュラ」が登場。逃げ出す美奈。気付けば他の乗客は殺され、床に転がっている。船長室に助けを求めたものの、そこには無残にも殺害され逆さまに磔になった船長の亡骸が。二人揃って悲鳴をあげる美奈とドラキュラ。なんだこれ。やがて追い詰められた美奈は海に転落、リゾート地っぽいビーチに流れ着き「アーサー」とその婚約者「ルーシー」に救われるが、そこにもなぜかドラキュラの魔の手が迫っていた。

 どっかで聞いたような登場人物の名前からも類推できるように、ブラム・ストーカーの『吸血鬼ドラキュラ』(“Dracula”)をざっくり再構成し、舞台を現代に置き換えた無国籍な吸血鬼もの。メインの舞台はロンドン近郊らしいのだが、ビーチからちょっと行った所にものすごい崖があってそこにドラキュラ城とか、二頭立ての馬車が普通とか、いい感じに時空が歪んでいる。
 全体の印象としてはユルユルいのだが、引きちぎられた子供の首や、悲鳴を上げながら解体される吸血鬼の断末魔など、随所に盛り込まれた凄惨なサービスシーンはなかなかの見応えだった。ただし、常にお化け屋敷の人形っぽく登場する吸血鬼から、ひたすらヒロインが逃げ惑う場面が続くので、飽きるといえば飽きる。蘭姉ちゃんのように状況に慣れきってしまっているのか、ヒロインのリアクションも単調だ。「ドラキュラ」からは吸血鬼ものにありがちなかっこいい系の要素は潔く取り除かれ、完全にモンスター化したおっさんとして扱われている。

 心情が一切描かれないドラキュラとは対照的に、中盤吸血鬼化するめっちゃ気の毒なキャラ「ルーシー」は、「アーサー」を挟んで美奈と三角関係にあり、吸血鬼化してなお美奈に嫉妬心をつのらせている。そのためメインのドラキュラよりも印象的なキャラになった。ルーシーが「アーサーはあんたなんかに渡さないわ」とベッドの下から這い出すシーン、「キヒヒヒヒヒヒヒ」と笑いながら美奈をさらって森を行くシーンは、お化け屋敷的な怖さとは一線を画する名場面である。てこ入れって感じで挿入された『吸血鬼カーミラ』分が、中だるみを少なからず軽減している。本書の初版はおそらく1970年代。ラストページにはしっかり「ブラム・ストーカー原作より」とある。この作品の他にも著者はゴーゴンや半魚人など、メジャーなモンスターを題材にした作品をいくつも発表している。



『吸血ドラキュラ』
 ひばり書房 1986 ヒット・コミックス 12 怪談シリーズ
 著者:五島慎太郎

 ISBN-13:978-4-8280-1012-0
 ISBN-10:4-8280-1012-2


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