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潮寒二『蛞蝓妄想譜』

 潮寒二『蛞蝓妄想譜』(鮎川哲也編『怪奇探偵小説集〈続〉』双葉社 1976 所収)

 非常にヤバイ雰囲気の幻想的な犯罪小説。

 高校生くらいの少年が精液を採取されている。警察署の一室である。精液は照合に用いられるらしい。彼はついさっき、小学校二年生の女の子を強姦し、絞殺した現場で逮捕されたのだ。被害者の女の子は、不幸にもホタル狩りに来た池のほとりで、覚醒剤中毒の少年に遭遇してしまったのだった。
 ひとしきり取調べを終えて、警察署から抜け出した少年は、激しい禁断症状に苛まれながら犯行現場の池に向かった。あそこに戻れば女の子を殺した奴に会える。池から現れた巨大なナメクジ(蛞蝓)に。以前知っていた年上の女の体や、自分を包み込んだ巨大なナメクジ、ナメクジの水銀色の粘液の跡を光らせる少女の体、そんなイメージが混沌となって少年の脳裏をよぎる。あそこに戻れば奴に会える。女の子を殺した巨大なナメクジに……。

 後味が悪いどころか、不快でない所を探すのが難しいような異様な作品だった。全く救いがない。大まかなストーリーは年上の女から手ほどきを受けた覚醒剤中毒の少年が、少女を殺害して逮捕されるだけ。そんなシンプルな作品だが、薬物中毒患者の混沌とした感覚が鮮やかに描き出されて凄みのある作品となっている。全身から青臭い粘液が流れ出すような禁断症状の感覚、断末魔のT-1000(←ターミミーターの)のようにぐにゃぐにゃと移り変わる淫靡なイメージの数々、この辺りの描写は現在でも充分以上に通用する素晴らしさ、気味の悪さだ。また団扇を振ってホタルを追う少女の様子や、ナメクジが残した水銀色の粘液の跡など、所々にドブの中の宝石のような美しい描写もある。底光りする散文詩のような作品。

 著者は戦前から怪奇色の濃い短編を何本か発表しているが、残念ながら現在読めるのは本作を含めてほんの数本とのこと。本作は昭和29年に雑誌『探偵実話』に発表されている。本文イラストは渡辺東。


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