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タニス・リー『ジャンフィアの木』

 タニス・リー(Tanith Lee)著, 小梨直訳『ジャンフィアの木』(“The JanfiaTree” エレン・ダトロウ編『血も心も 新吸血鬼物語』新潮社 1993 新潮文庫 所収)

 主人公はなぜか世の中を疎んじて、口には出さないが死にたがってる女性。ただし積極的に死のうという気は全然ないらしく、ぼんやりと誰か殺してくれないかなあ、などと考えている。文筆業で身を立てているようだが、その辺りのこともどうもはっきりとしない。そんな彼女が田舎にある友人の別荘で静養することになった。数人の使用人付きで、別荘を丸ごと提供するという。憔悴した彼女を慮ってのことだった。しかし別荘に着いても彼女の気分は晴れなかった。
 別荘には「ジャンフィアの木」という珍しい植物の鉢植えがあった。日が落ちると強い芳香を放つこの植物には、美しい男性の悪霊が憑いていて、「教会では固く禁じられている行為」によって人の生気を吸い取るという。主人公は鉢植えを自分の寝室に運び込み、夜を迎えた。

 前回の『夜はいい子に』と同じアンソロジー『血も心も』の中の一編で、ファンタジー作家による一風変わった吸血鬼小説。わりと珍しい植物の怪談でもある。著者の作品は初期の長編と、角川ホラー文庫の短編集くらいしか読んだことがないのだが、それらのファンタジー作品と比べると装飾少なめで、表現が随分とあっさりとしてるような印象を受けた。といっても植物の匂いがいっぱいに立ち込める真っ暗な部屋の、妖しい雰囲気は上々。部屋の薄暗い片隅が無性に気になるような、嫌な感覚が絶妙に表現されている。吸血鬼は具体的に姿を現さないが、主人公の予期しない形で死者は出る。
 著者はこの作品(の一部)を夢からヒントを得て書き上げたという。何となく掴み所がないのはそのせいなのかもしれない。主人公の陶酔ぎみのダウナーさ加減には、どうしても突っ込みを入れてしまって共感することができなかったが、繊細で雰囲気のいい作品。


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