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エドワード・ブライアント『夜はいい子に』

 エドワード・ブライアント(Edward Bryant)著, 小梨直訳『夜はいい子に』(“Good Kids” エレン・ダトロウ編『血も心も 新吸血鬼物語』新潮社 1993 新潮文庫 所収)

 前に感想を書いたA・ブラックウッドの『移植』(←前の記事へのリンクです)は、無能力者が傍から見てる分には取り立てて何も起こらない、ただ登場人物の一人がやけに憔悴してるだけという、至極地味な超能力バトルを描いた不思議な作品だった。『移植』の登場人物が戦って奪い合っていたのは、互いの生体エネルギー(オド/od)だ。ときにオドは血液として表象されるため、吸血に類する行為が一切書かれてないにも関わらず、解説では「吸血鬼テーマをひねり、透視(千里眼)をサブテーマにした奇妙な味の小品」と評されていた。

 この『夜はいい子に』は、ブラックウッドの『移植』を、外国の甘ったるいキャンディーと、少女の頭皮の脂っぽい匂いでベトベトにコーティングしたような、妖しい雰囲気満点の好編である。もちろん吸血鬼もの。全然関係ないんだけど、ヤプーズの名曲『Daddy the Heaven』が思い出された↓

暗くなる前に 帰っておいで
街はもうすぐ 大騒ぎ
部屋に入って 遊びなさい
見ててあげるわ いつものように

あやしい姿に 光る涙は
そっとこぼれる 朝露のよう
ほら伯父さん もう泣かないで
いつものように 天国へ

Daddy daddy daddy my daddy Daddy the Heaven
Daddy daddy daddy my daddy Daddy the Heaven


 ……主人公は四人の少女、みんなそれなりに裕福な育ちで、子供らしく大人を舐めきっている。利発な分、余計にタチが悪い彼女たちは、「夜間勤務の親のための託児所」で夜を過ごしている。施設には40人ほどの子供たちが預けられていたが、四人は特別に親密だった。ある時「ウラジソフさん」という新しい「先生」が施設にやって来た。彼は小説に出てくる吸血鬼のイメージにぴったりの男性で、フランク・ランジェラに似ているらしい。で、彼女たちの推測どおり、ウラジソフさんは本当に本当の吸血鬼だったのである。
 翌朝目がさめると、仲間の一人の喉元に二つの赤い点が付いていた。眠っている間にウラジソフさんに襲われたのだ。彼は何の躊躇もなく、彼女たちを餌食にするつもりだ。今夜もまた同じことが起こるに違いない。何とかしなければ……。

 著者はもともと「猫と赤ん坊をいっしょにしておくと、その小さな胸から息をみな吸いとってしまう」(p.314)という迷信をもとに作品を書くつもりだったらしい。で、できたのがこれ。確かに作中で、ちらっとそのフォークロアについて触れられているが、結局は「大人は子供と一緒の部屋に寝てはいけない」という迷信をコアにした作品となった。
 なぜ大人と子供が一緒の部屋に寝てはいけないか、それは大人が子供のエネルギーを吸いとってしまうかららしいのだが、この作品で正気を吸い取るのは子供の方である。
 クライマックスではそんな感じでエネルギーを吸い取る能力を持った子供たちと、赤い目を輝かせた伝統的な吸血鬼との真夜中のバトルが展開される。『移植』直系の作品らしくアクションのない地味なバトルだが、40人近い子供たちが吸血鬼を輪になって取り囲み、哀れな彼を凝視するラストシーンは荘厳な雰囲気でかっこ良かった。映像で見てみたいと思った。短いながら登場人物が活き活きと憎たらしい、楽しい作品だった。


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