「押切蓮介 」カテゴリ記事一覧


押切蓮介『ツバキ〈3〉』完

 

 押切蓮介『ツバキ〈3〉』完 講談社 2013 シリウスKC

 白と紫の表紙が綺麗な第3巻。椿鬼(ツバキ)のムチムチ感が素晴らしい。「美しい少女。美しい大自然。押切蓮介史上、最も美しい物語。」という西尾維新の帯の言葉は、本作を端的に表わしていると思う。収録されているのは「狩人の子」「臓腑の檻 前編」「臓腑の檻 後編」「雪化粧」「山の娘」の5編。最終巻である。

「狩人の子」では椿鬼の生い立ちが語られる。第1巻に登場した「咲」との交流によって、山の霊と感応する椿鬼の巫女的な側面が育まれたとするなら、父親はマタギとしての生きざまを椿鬼に見せる。それが椿鬼を導き、生かし、そして縛るものであったことは、前巻において描かれた。人里で暴走する熊のイメージは北海道の「三毛別羆事件」(詳しくはwiki等参照、閲覧注意です)のヒグマだろうか。でっかい熊怖い。

 2話めと3話めの前後編は、前巻の姉弟を彷彿とさせる炭坑の弟妹との交流。マヨイガを経た椿鬼に迷いはなく、本作にしては珍しくストレートに勧善懲悪な展開で爽快感がある。混浴したり緊縛されたりと、色々な表情の椿鬼が見れる。
 表紙のモチーフは恐らく、第4話「雪化粧」。椿鬼が里の人々から「雪男」と恐れられる雪山の親子のもとに身を寄せる。自らの幼少時を重ねているのか、彼らへの思い入れはいつになく強い。最強の椿鬼による激しい戦闘シーンがあったりもするのだけれど、静かで穏やかな印象の作品。

 第5話「山の娘」は、映画のロケ隊に捕まった椿鬼が、むりやりヒロインに抜擢される話。「お山」云々以外のことに関しては、てんで押しに弱い椿鬼がかわいらしい。また表情も豊かだ。これまでとはかなり雰囲気の異なった明るい話で、ボーナストラックっぽい感じ。

 この最終巻の構成は、椿鬼にフォーカスしたエピソードを始めと終わりに置いて、その間にいつものノリながら結末に希望や癒しを感じさせる2話(前後編を合わせると3話)を配置するというもの。全体に陰惨な、ホラーっぽい感じは薄め。既刊分と比べると椿鬼が随分と文明に接近していて(もしかして時代も少し下ってる?)、そのために椿鬼の特異さ(清浄さ)がより際立って見える。

 著者の「あとがき」によると「太ももをもっともっと上手く描ける様になったら、さらに話をグレードアップさせてまたお会いしましょう」とのこと。いや、もう充分だと思うけど、太もも。……今から再開が待ち遠しいです。


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押切蓮介『ツバキ〈2〉』

 

 押切蓮介『ツバキ〈2〉』講談社 2011 シリウスKC

 こうして感想文を書いてると、今まで知らなかった自分の嗜好に気付かされることがある。一例をあげると表紙について。普段はほとんど意識してないのに、さーて感想書くかってときには、まず表紙ってなる。ちょっと書いてからじゃないと先に進めないから、とりあえず表紙について何行か書いておいて、後から消してたりしてる。よっぽど表紙が気になるらしい。表紙を頼りにコミック本を買うことが多いから、変に思い入れが強くなってしまってるのかもしれない。
 この『ツバキ』もまた、平積みになってた第1巻の、紫の表紙に魅かれて買った本だった。第2巻は黄色い秋っぽい雰囲気のイラストで、これまた綺麗な表紙だと思う。椿鬼(ツバキ)のでっかい目の透明感と、白い肌の質感、そして著者独特の微妙な口元の表情が印象的。

 本書には「朧月夜」前中後編、「マヨイガ」前後編の、全5話が収録されている。「朧月夜」と「マヨイガ」はそのまま繫がっているから、「朧月夜」を「起・承」、「マヨイガ」を「転・結」って感じで捉えることもできると思う。

津山事件」(詳しくはwiki等参照)を下敷きにした「朧月夜」では、性的に乱れまくった山村の姉弟に椿鬼が絡む。村中の男に姉(可愛い)を慰みものにされ、その鬱憤を晴らすかのように、村の女たちと関係を持つ弟。夜ごと聞こえる姉の情事の音に、弟の心は蝕まれていく。
 この作品では津山事件の背景にあった、戦争や結核や因習といったややこしい(底知れない)要素を取捨選択して、ピュアで分かりやすい犯行動機を再構成している。ntrの末の暴走である。暴走のスタイルはもちろん懐中電灯を頭の両側に立てたおなじみのスタイル。内臓がデロッと出たりとかの直接的な描写こそ見られないが、犯行の凄惨さを伝える著者の筆は相変わらず冴えている。今回の椿鬼は姉弟に対してまるで無力な指導霊のようで、あまりいいところがない。あれこれと助言をするのだが、それらがすべて裏目に出てしまう。彼女には誰も救えない。鬼ではなく人として暴走した弟に、椿鬼の弾丸は届かない。そして「マヨイガ」へ。

 ストレートで生々しい「朧月夜」と比べて、「マヨイガ」は登場人物の内面を反映して、幻想的に混乱している。超自然的な力によって、山奥の屋敷に閉じこめられた椿鬼と数人の登場人物は、それぞれ自らの過去の悔恨と向き合うことになる。帝国の逆襲の洞窟のシーンみたいな感じだ。
 屋敷は彼らを強制的に癒そうとするが、それは即ち死を意味している。現世と黄泉の真綿のように優しい狭間から脱出するためには、世界がいかに過酷であっても、そこで限界まで生きることを選択しなくてはならない。拝一刀の「死をもって生きる」に通じる境地である。後悔が過去からの呪縛であるように、椿鬼にとっての「おっ父の言いつけ」もまた、彼女を束縛する過去からの声であった。それを振り切り「自らの心のままに生きる」ことに目覚めて、椿鬼は現世に帰還する。

 人とお山と椿鬼の関係を示した前巻に対して、椿鬼の内面に踏み込んだ第2巻。一段ステージを上がった椿鬼の、今後の活躍が楽しみだ。


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押切蓮介『ツバキ〈1〉』

 

 押切蓮介『ツバキ〈1〉』講談社 2011 シリウスKC

 出版社が変わってタイトルが片仮名になったけれど、本書は前に感想文を書いたぶんか社刊『椿鬼〈1〉』の続編にあたる。キャラクターも世界観も同一のもので、経緯は分からないが、続編というより仕切り直しって感じなのかもしれない。下記の短編5話が収録されている。

「鬼となりて蛇を討つ」「夜叉の滝」「一輪花 前編」「一輪花 後編」「咲 ―サキ―」

 3話めと4話めは前後編の構成で、閉鎖的な山村に捕われた椿鬼(ツバキ)の脱出劇と、村の崩壊を描く。ストーリーの中心に椿鬼が据えられているのが珍しい。
 ぶんか社版の『椿鬼〈1〉』には、伝説のソニー・ビーン(詳しくはwiki等参照)ばりの生活スタイルで、お山に捨てられた老人を食糧にしてる一団が登場したが、この「一輪花」の山村の連中も、人間狩りを生業にしてるというのだから、いい勝負である。旅人から略奪したあげく、男なら殺し、女なら跡継ぎを産ませるために監禁して犯す。もちろん椿鬼が捕われたのは、後者の理由によるものだ。
 薄衣一枚で髪をおろした椿鬼を前に、狂喜した村のババア連中(←主犯)のコメントが、「白い肌、澄んだ眼」「花じゃ、清き花じゃ」「拝みたくなる娘じゃて」(p.86)などなど、自分の感想とほぼ同じなのがアレだ。でもババアのいう通り、ここでの椿鬼はどことなくはかなげで、本当に美しく描かれている。前にも書いたけど、しっとりと柔らかな肌が、淡く光っているように見える。
 後編の冒頭では、その白い肌にノコギリの刃が入る。拘束されてもなお気丈に抵抗する椿鬼に向かって「足二本」「切ってしまえば、村から出る気も失せるじゃろ」(p.105)と言い放ち、ズズッと。ノコギリの刃に沿って、鮮血が走る。むっちりとした太腿の艶かしさもさることながら、怒り、おののき、苦痛に唇を噛み締める椿鬼の表情がまた素晴らしい。村人のタガの外れた感性の怖ろしさよりも、椿鬼のリアクションばかりに目が行ってしまう名シーンである。
 こんな感じで椿鬼の魅力満載の前後編、サブタイの「一輪花」はもちろん椿鬼を指しているのだろう。ぴったりの表現だと思う。

 そのほかの短編にも少し触れておくと、1話の「鬼となりて蛇を討つ」では、椿鬼と他のマタギたちの出会いを通して、マタギとお山の関係を端的に描いている。幼いころの自らを重ねているのか、コマタギの少女「ツツジ」に対して、椿鬼は女として普通に生きる道を説く。
 2話の「夜叉の滝」はひと捻りあるゴーストストーリー。5話の「咲 ―サキ―」は、幼いころの椿鬼とお山の神との交流。この二つの話では人外に対する椿鬼のスタンスと、神さえも宿命からは逃れられないという本作の世界観が、短いページ数で巧みに表現されている。

 表紙は珍しくやや甘ったるい表情の椿鬼。薄暗い背景に浮かんだ白い顔が美しい。本編ではもっと凛とした、厳しい表情が多いのだが、いずれもとてもかわいらしい。童顔で肉感的なミニスカマタギの活躍を堪能できる一冊。


 ※フキダシからの引用は、読みやすいように改行を調整しています。


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押切蓮介『椿鬼〈1〉』

 

 押切蓮介『椿鬼〈1〉』ぶんか社 2010 ぶんか社コミックス

 物語の舞台は山中か山里に限定されていて、時代設定もはっきりしない。村田銃が使用されていることから明治以降であることが推測されるが、この作品にとって厳密な時代設定がそれほど意味をなすとも思えない。ミニスカのマタギ少女が人知れずお山を守り、幼子がケモノを孕み、洞窟には人を喰ってる奴らがいる。荒唐無稽だけど、それでもそんなことが起こってそうな、微妙な世界観が上手く表現されていると思う。

 色々と興味深い要素が詰め込まれているが、本作品のハイライトは何といっても主人公のマタギの少女「椿鬼(ツバキ)」そのものだろう。高い画力で描き出された椿鬼は、薄暗い画面のなかで燐光を放っているかのように白くて美しい。作中でも白いとか柔らかそうとかいわれてるけど、そんなこと書いてなくても椿鬼の肌の白さやしっとりした質感が伝わってくる。素晴らしい表現力だ。
 椿鬼の登場するページとそれ以外とを比較すると、画面から受ける印象が全然違うことにも驚かされる。椿鬼の出てないページからは総じて暗く沈んだ印象を受けるし、出ているページには何ともいえない艶がある。椿鬼をより凛々しく、可憐に見せるために、すべてが用意されているような印象さえ受ける。

 ストーリーはお山とお山を穢す人々との対立があって、そこに椿鬼が関わっていくというもの。人を諭したりもするけれど、椿鬼は基本的にお山寄りのスタンスで、必要があれば人を殺めることも厭わない。
 毎話殺しあったりお山に殺されたりで、かなりの数の人間が惨死する。その派手な死に様もまた見所のひとつとなっている。人というよりもケモノじみてるキャラが多く、そのせいかあまり恐ろしさや悲痛さは感じられない。残酷だけど激しいアクションの描写が爽快感さえ感じさせる。

 本書には椿鬼が登場する三つの短編と、椿鬼は出てこないけど世界観を共有する好短編「ひかりの森」が収録されている。著者の卓抜した表現力は、本書以降もますます磨きがかかり、女の子もよりかわいくなっていく。あとおまけとして「椿鬼初期案」が載ってるんだけど、第四案、第五案にならなくて本当によかった。


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