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ラムジー・キャンベル『湖畔の住人』

 

 ラムジー・キャンベル(Ramsey Campbell)著, 尾之上浩司訳『湖畔の住人』(“Inhabitant of the Lake” R・キャンベル, C・ウィルソン他著『古きものたちの墓 クトゥルフ神話への招待』扶桑社 2013 扶桑社ミステリー 所収)

 創作の霊感を得るために友人の画家「カートライト」が住み始めたのは、湖畔に軒を連ねた廃屋寸前の家屋の一軒だった。そこは郵便さえ配達されないような辺鄙な土地で、湖の周辺には人を遠ざけるような気味の悪い雰囲気が漂っている。奇怪な画風で知られるカートライトにはもってこいの住処だ。
 そんな友人から手紙が届いた。そこには夜毎に見る悪夢と、彼の住居の前の住人が同じような悪夢に苦しめられていたことなどが綴られていた。カートライトは創作の傍ら、湖と並んだ廃屋についての調査を始めたらしい。定期的に届く手紙には、彼の精神状態が危ぶまれるような記述が増えていく。彼によると湖には「グラーキ」と呼ばれる怪物が棲息していて、湖畔に近付く人間を夜な夜な狙っているという。もちろんたった今も。
 彼の住む家屋はもともとグラーキを崇拝する信者によって建てられたもので、決定的な証拠として『グラーキの黙示録』という全集本を発見したらしい。数日の間返信を躊躇していたところ、助けを求めるカートライトからの連絡が入った。

 イギリスの架空の土地を舞台にしたクトゥルフ神話もの。前半と後半で極端に雰囲気が違うのでびっくりした。
 前半は渦中の人物の手紙や、怪しい書物からの引用で構成された古き良き怪奇小説って感じ。アーティストが旧支配者やその眷属から何らかの形で強烈な影響を受ける……という、ラヴクラフトの『クトゥルフの呼び声』(“The Call of Cthulhu”)由来の伝統と格式の筋立てだ。ただ本作には創始者ラヴクラフトのような病的に詳細な書き込みもなく、語り手の対応がめっちゃドライなこともあって、色々書いてるわりにあまり危機感が伝わってこない。超まったり。このままの感じで最後まで行くのかなーと思いきや、後半は『インスマウスの影』(←前の記事へのリンクです)の最後の方を低予算で映像化したかのような、アクション重視の展開に切り替わる。名状しがたい怪物やゾンビっぽいのが出てきて大騒ぎになってる。
 前半と後半の激しい落差と、濃厚なラヴクラフトへのリスペクト臭、これをどう捉えるかによって本作の評価は大きく分かれそうだ。

 本作の収録されている表紙のイラストがかっこいいアンソロジー、『古きものたちの墓 クトゥルフ神話への招待』の巻末には、森瀬繚による「〈エッセイ〉「クトゥルフ神話」のトレンド」が附載されていて、これがとても読み応えがあった。クトゥルフ神話についての簡単な解説から、『這いよれ! ニャル子さん』によって生じたプチクトゥルフ神話ブームを取っ掛かりに、1980年代以降のわが国のエンタメ分野におけるクトゥルフ神話関連作品の動向が実に手際よくまとめられている。


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