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三津田信三『夢の家/ついてくるもの』

 

 三津田信三『夢の家』
 三津田信三『ついてくるもの』(『ついてくるもの』講談社 2015 講談社文庫 み58-16 所収)

『夢の家』
 著者がたまたま出会った男性に聞いた話。彼にはあるパーティーで知り合い、親しくなった女性がいたが、やがて彼女の言動に異様なものを感じるようになった。いつの間にか彼女の中では、彼にプロポーズされ、遠からず結婚することになっていたらしい。たまに会ってはお茶を飲んでいただけなのに。そんなつもりのないことを告げると、罵詈雑言を書いたメールが届いた。怖くなった彼が完全に連絡を断ってホッとしていると、今度は夢の中に彼女が出てくるようになった。夢の中の彼女は、様々なシチュエーションで「うちにお寄りになって」と彼を誘う。そして彼は夜ごと少しずつ、夢の家の奥へと進んで行くという。

 夜ごとの夢が連続していて、しかも少しずつ進行している。怖い方に。どうにかしたいが全く思い通りにならない。この手の連続する夢の話は、怪談ではわりとポピュラーなネタだ。印象深いものとしては「次は活けづくり~」で有名な「猿夢」、これは2chのオカ板が初出だったと思う。それから『新耳袋』の何巻だったかに載ってた、階段を登ってくる女の夢。雑にジャンル分けすると「迫り来る系の怪談」だろうか(巻末の解説では「夜ごとの夢に同じ家が出てくる話」としてアンドレ・モーロワの『夢の家』、内田善美の『星の時計のLiddell』を挙げている)。この怪談における「夜ごとの夢」は「ここでもなぁーい」って怪談の中の、主人公が身を隠すトイレの個室や、大きな瓶や、布団と同じような役割を担っているが、どれだけ怖くても寝ないわけにはいかない分、ピンチ感はハンパない。
 そんな思い通りにならない、逃れられない夢の話に、思い通りにならない、逃れられない病的なストーカー女の話を、足して二で割らないのがこの作品。最恐ポイントは意外にもオチではなくて、その前ポンと挿入された次の一節だった。

「それほどの夢を男に見させるために、いったい彼女は何をしたのか」(p.41)


『ついてくるもの』
 著者が知人から聞いた話。体験者は知人の知人の女性。これは彼女が高校2年の頃の出来事である。
 ある日の下校時、体験者は近所の廃屋の裏庭に飾られた七段飾りの豪華な雛人形を発見、お雛様(お姫様)を持ち帰ってしまう。お雛様のほかの人形の左目がことごとく潰されていて、ただ一体両目の揃った美しいお雛様がなんとなく不憫に思えたのだ。家までの帰路、何者かがざわざわと後をつけてくるような、怖ろしい気配を感じたという。その日以来、彼女の周囲に次々と不幸が起きはじめた。お雛様を持って帰ったからだと考えた彼女は、どうにか人形を処理しようとするのだが……。

 捨てても壊してもしつこく戻ってくる人形の話。これまた怪談によく用いられるモチーフで、「雛人形」に限っても相当な数の話があると思われる。この作品はそんな数多くの人形怪談から、有効成分だけを抽出、濃縮した人形怪談ファン必読の一編。さすが表紙になってるだけあって、とにかく怖い。凄惨な形で突然「そこにある」人形の不気味さもさることながら、やはり廃屋の裏庭に並べられた七段飾りのイメージは強烈。実は雛人形を所持しているせいではなく、お雛様(お姫様)を捨てようとしたタイミングで不幸が起こってるようにも読めるところも良かった。作品の冒頭には「明らかに憑き物テーマに分類できる事例なのに、その正体がさっぱり分からない話が増えている」(p.49)とあり、この話はそれに該当するという。


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三津田信三『禍家』

 三津田信三『禍家』光文社 2007 光文社文庫

 両親を亡くし祖母と二人で東京郊外に越してきた「棟像貢太郎」(もうすぐ中1)は、初めて見るはずの町並みに妙な既視感を覚える。町の奥に位置する鬱蒼とした森。その近寄りがたい禍々しさが貢太郎に言い知れぬ不安を感じさせた。隣近所の住人に暖かく迎えられながらも、貢太郎の不安は拭い去れない。そして貢太郎にとって最悪なのは、これから祖母と暮らす一軒家に途轍もなく嫌な気配が漂っていることだった。
 案の定、引っ越しの当日から数々の心霊現象が貢太郎を襲った。そこで貢太郎は近所に住む同級生の女の子「礼奈」と彼女の兄の家庭教師「詩美絵」とともに、家の来歴を探り事態の収拾を図ろうとする。やがて彼の住む家が過去に発生した一家惨殺事件の舞台だったことが判明する。

 怪異を目撃するのがほぼ主人公だけに限られているので、純粋なホラーとしても、サイコサスペンスとしても解釈できる作品。小難しいところのない、あっさりめのジュブナイルだが、怖いシーンはばっちりある。まずは何回かある廊下で主人公が追いかけられるシーン。具体的に幽霊の姿こそ見えないが、「ぴたっ、ぴたっ」「ガチャ、ガチャ」などの稲川淳二を思わせるオノマトペの効果に、主人公のひびりっぷりが相まってスリル満点。畳み掛けるように怪異が発生する風呂場の場面も良かった(浴槽のフタがじりじりと持ち上がって……)。暗い廊下の気配、風呂場でシャンプーなど、定番のネタがしっかり描かれているのが印象的だった。
 残念なのは冒頭から仰々しく書かれた「森」が前半以降ほとんどスルーされているところで、ここはもう少し書いて欲しかったと思う。主人公が踏み込んだ森の中の雰囲気がすごく良かっただけになおさら惜しい。他に主人公がどうも小学生らしくないとか、シミちゃんの正体がわりと早い段階で割れてしまうなど、多少気になるところもあったけど、それで楽しさを削がれるようなことはなかった。エピローグはB級ホラー風味。タイトルは「まがや」と読む。


  三津田信三『禍家』角川書店 角川ホラー文庫


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