加藤一『恐怖箱 超-1コレクション 彼岸花』

 

 加藤一編『恐怖箱 超-1コレクション 彼岸花』竹書房 2008 竹書房文庫 HO-54

 実話怪談本の感想を書き始める前に、いつも最近聞いた怖い話を一つ書いて、それをマクラにできれば……なんて思ってはいるのだが、びっくりするほど思い当たるフシがない。「言い伝え」みたいなのを書き留めたのがあるけれど、お年寄りの話が多いから実話怪談って感じがしない。キツネやカッパがバンバン出てくるし。「民話」って感じ。そこで普段から数少ない友人に話を振ってはみるものの、誰一人として適当な話を知らない。唯一妹がそれっぽい話を知ってそうな人材なんだけど、ここしばらく口をきいてない(ケンカしてるわけではない)。オバケ的なものを見るセンスが無いのは仕方ない(ありがたい)としても、周りに一人くらい「そういえばこの前さぁ……」とか語ってくれる奴がいても良さそうなのに。考えてみれば、この部屋(と廊下とetc)には怪奇小説やこの手の実話怪談本やオカルト関連の本が千冊以上はあるわけで、本同士の相互作用や濃縮還元かなんかで、まずここで何か起きないとおかしいような気もする。そんな怪談をいくつか読んだ覚えがある。まあ実際に幽霊とか出てこられてもめっちゃ困るんだけど。

 この本はweb上で開催された実話怪談コンテスト「超-1 2008年大会」の傑作選である。厳しい相互講評の目に鍛えられた、粒揃いの作品を収録した一冊になっている。

「塩壁」触っちゃダメなものに触ってしまった話。改修のため隣家との境界のブロック塀を壊そうとした際、ブロックの下の方の穴に詰め込まれた塩のダンゴが見つかった。深く考えずに全てを取り壊して、新築の住居に移り住んだ体験者とその妻。しかしその日以来、平穏だった体験者の家庭が少しずつ狂い始めた。まず最初は家屋に異変が出始め、やがてそれはペットや妻の肉体や精神に及んだ。あの塩ダンゴは何だったのか。
 とんでもない出来事が起こってるらしいのだが、体験者にそれを感知することはできない。当然読者にも何の説明もないから、ポイっと放り出されたような気分になる。それがとても実話怪談らしい。冒頭塩ダンゴ発見のくだりから、不吉な雰囲気は満点。また後の方のページの「箱」という話では、禁忌とされてきた「箱」に触れてしまったために、ある一族が苛烈な祟りに見舞われている。

「少女時代」女性の体験者が彼女の姿を初めて見たのは、小学6年生の頃だった。17歳くらいの、死装束をまとった長い黒髪の少女。それがごく自然に体験者の部屋に佇んでいる。それ以来、高校を卒業するまでの間、体験者は家のあちこちに何をするでもなく佇む彼女の姿を見る。
 それだけのごくシンプルな話なんだけど、このエピソードには「見える」ってこんな感じなのかなーっていう不思議なリアリティがあった。この話より少し前に「餓鬼」という話が載っていて、そこには死んでもなお激しい飢えから逃れられない哀れな霊が登場する。何をするでもなくただ佇んでいるこの話の彼女は、一体この世にどんな思いを残したのだろうか。寂寞とした美しさを感じるエピソードだった。この世ならざるものとの自然な交流を描いた話としては「冬のアレ」も印象に残った。

「根」「股間が凄く乾く……。ちょうど陰部の辺りがパリパリになるぐらい乾くのである。」(p.115) という一節から始まる1ページほどの話。そんな妙な悩みを持つ男性の体験者が、ある時、これまでにない強烈な乾きに襲われ風呂場に飛び込んだ。水に濡らそうと股間に手を当てると、そこには異様な感触があった。陰部から肛門にかけて何かが貼り付いているのである。
 うげーっ。そもそも「股間が乾く」という感覚が全然ピンとこないのだが、超気味の悪い現象が生じていることだけはよく分かる。これは一体何なんだ。何か病気っぽいものを特殊な形で感知したのだろうか。

「原因」最近体験者には少々気掛かりなことがあった。焚き返しで使っている風呂桶の水が減ってしまうのだ。調べてみても風呂釜には異常がない。水の減り具合が日によって違うことも不可解だった。ある夜、トイレに行こうとガラス戸を開けると、トイレの隣の風呂場がぼんやりと光っているのが見えた。そこには風呂桶の中に頭を突っ込んで、残り湯をがぶ飲みする女の姿があった。
 怪異と同居する男の話。前述の「少女時代」と似てなくもないが、ここで登場するのは儚げな幽霊ではなく、もっと奇怪なモノだ。劇中でその正体が仄めかされているが、かなりメジャーな妖怪の眷属かと思われる。体験者がそんな薄気味の悪い部屋から退去しなかった理由は、とても共感できるものだった。うちにも出ないかな。

「苦い」かつて悪徳リフォーム業に手を染めていた男性の体験者が、ある集落の家を訪れた。そこは老夫婦だけが住む古い家。適当な工事を終えた夜、体験者は異常な疲れに襲われた。部屋中に異様な気配や臭気を感じ、朦朧としたまま眠りにつけない。気付けば三日間も経過していた。シャワーを浴びようと裸になると、体のあちこちに小さな歯形のような痣が付いている。全身が痛い。それでもどうにか出勤して再びあの集落を訪れたが、体験者を待ち構えていたのは村の老婆の罵倒だった。「お前、何した! あの家に何した! 」
 村の老婆のリアクションが素晴らしい。これも触っちゃダメなものに触ってしまったエピソードだが、祟りの根源らしきモノが明記されている。天罰覿面って感じの話でもある。この一連の出来事の後、体験者は口中に常に「苦味」を感じるようになる。

「痛む雪」両親の離婚の都合で、東北地方の母方の実家で暮らすことになった体験者が、引越し早々複数の怪異と遭遇する。体験者は女性、これは彼女が小学3年生頃の出来事である。夜、窓明りを頼りに、雪の積もり始めた裏庭で雪だるまを作っていると、不意に女が現れた。女の姿は次のように描写される。「薄手のカットソーが明りでうっすらと透けていて、ガリガリに痩せていることだけはすぐにわかった。」(p.209) この後女は体験者の真正面にかがみ込むと、髪や肩についた雪を払ってくれたという。女のイメージは漂白されたかのように白々としていて、幻想的な雪の降る夜の風景にぴったりだ。体験者は後に別の怪異とも遭遇するが、そっちの方は黒い粉を撒き散らす真っ黒な姿をしていた。この2体の怪異は母親の実家で発生した、過去の事件に関係があるらしい。収録作の中では長めの、劇場版って感じのエピソード。

 好みで選んでるのでいつも偏ったチョイスになってしまうが、本書にはここに挙げた他にも興味深い話が多数収録されていた。話の長さ、傾向も様々で飽きのこない一冊。



『恐怖箱 超-1コレクション 彼岸花』
 竹書房 2008 竹書房文庫 HO-54
 編:加藤一
 著者:高田公太/眠/すねこすり/怪聞亭/へみ/宇津呂鹿太郎/黒ムク/じゅりんだ
    山際みさき/ねこや堂/北極ジロ/矢内倫吾/maggi/SPダイスケ
    ちあき/ナルミ/ぼっこし屋/久遠平太郎/比良坂泉

 ISBN-13:978-4-8124-3603-5
 ISBN-10:4-8124-3603-6


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加藤一『恐怖箱 学校怪談』

 

 加藤一編著監修『恐怖箱 学校怪談』2015 竹書房 竹書房文庫

 ありそうで無かった学校にまつわる怪談を集めた『恐怖箱』シリーズの本。おなじみの実話怪談作家がそれぞれ1〜4話のエピソードを持ち寄っている。全28話収録。一般にイメージされる「生徒が怖がる」学校の怪談とは異なる、「生徒そのものが怖い」話が含まれているのが特徴。対象となる学校も小学校〜専門学校、大学までと幅広い。

 ところで学校の怪談といえば、高校の頃に変なことがあった。何の授業だったか忘れてしまったが、とにかく退屈な授業中のことだった。机に突っ伏して爆睡していた真横の席のデブのS君(友人、普段は温厚な性格)が突然跳ね起きて、こっちに向かってブチ切れ出したのだ。涙目で。静まりかえった教室に響き渡る怒号。後からよくよく話を聞いてみると、爆睡してただけに見えたS君は、実は授業開始直後から強烈な金縛りにみまわれていて、隣の席の自分にずーっと助けを求めていたらしい。

 ……とまあそんなアホな話はさて置き、極端に長い話も短い話もない収録作の中で、印象に残ったのは以下の4編。

「ランドセル」来年小学生になる娘に届いたピカピカのランドセル。蓋を開けると部屋中に潮の香りが広がった。ランドセルを覗き込んだ父娘がそこに見たものは……。収録作の中では3ページ弱と短めだが、印象的な短い話ならではのキレのあるエピソード。親娘はすごく意外なものを見る。
 
「家庭訪問」体験者が受け持った1年生のクラスに気になる生徒がいた。授業態度が良く、笑顔を絶やさないその少年にはある問題があった。クラスメイトと全く交流を持とうとしないのだ。理由は分からない。いじめられているわけでもない。そこで体験者は家庭に問題があるのではないかと考えたのだった。家庭訪問の日、体験者は狭いアパートの一室で、いつも通りの笑顔の少年とその父親と向かい合った。室内にはゴミが散乱し、お世辞にも清潔とは言えない環境だ。話しかけても全くノーリアクションの二人。ふと天井を見上げると、そこには赤黒い煙が漂っていて、ゆっくりと動き始めると、やがて一つの形をとりはじめた。
 前述の「生徒そのものが怖い」エピソード。この後、体験者は逃げるようにアパートを辞去するが、父親と少年には過酷な運命が待ち構えている。心霊云々はさて置き、社会から取り残されたような生活環境で暮らす親子の姿が哀れ。エピソード内で明かされてない謎が多いから、掴みどころのないどんよりとした気分が尾を引く。

「随時制作中」プール掃除をしていた体験者(教師)が、ドロドロに汚れた水に半身を浸けた女生徒の姿を目撃する。二週間前に溜池で溺死したはずの生徒である。幸い彼女はすぐに消えてしまったが、プールの水を抜いてみると、ちょうど彼女がいた辺りから小さな人形が発見される。針金で縛られ石を結わえ付けられた、手作りの制服姿の人形である。名札にはさっきの女生徒の名前が書かれている。続いてもう一体、別の生徒の名の書かれた人形が、今度は焼却炉の中から発見される。
 上の「家庭訪問」と共に、収録作の中では長めのエピソード。強力な「呪い」にまつわる話である。彼女たちはなぜ死ななければならなかったのか、人形を「制作」したのは誰だったのか。こっちは謎がほとんど詳らかになるため、読後感はスッキリ。なんとなくオチが読めてしまうが、やはり呪いの話は面白い。

「授業参観」体験者は6年生になった。担任は女子の間で人気のある若い先生。早速授業が始まったが、体験者は教室の隅に見知らぬ女が立っているのに気付いた。パジャマ姿で裸足という場違いな格好の女に、クラスメイトたちは何の反応も見せない。女は所謂「あぶない人」で、余計な刺激しないように皆黙っているのか。やがて女が一人の男子生徒に顔を近づけ何やら話しかけると、男子は弾かれたように立ち上がり、教室から飛び出して行った。それ以来彼は登校拒否になり、二度と教室に来ることはなかった。しばらくの間平穏な日々が続いたが、ある日投稿者は再び教室であの女を目撃する……。
 女の正体は最後の方で明らかになるが、それで話は終わらない。現象のユニークさもさることながら、体験者の反撃が心地よいエピソードだった。イメージがはっきり浮かぶのは、簡潔明瞭な文章によるところが大きい。

 他にも有名な幼女連続殺人事件にまつわる「湖畔にて」や、宗教団体にずっぱり嵌まった人の話「約束の日」、教室に置かれた「死者の席」の話「あちらさんの席」など、興味深い話が収録されている。学校の怪談といってもバラエティに富んでいて、単調になってないのが良かった。ノスタルジックな読後感の一冊。



『恐怖箱 学校怪談』
 竹書房 2015 竹書房文庫 HO-257
 編著監修:加藤一
 著者:鳥飼誠/渡部正和/戸神重明/神沼三平太/つくね乱蔵/高田公太/ねこや堂
    鈴堂雲雀/久田樹生/橘百花/三雲央/深澤夜/雨宮淳司

 ISBN-13:978-4-8019-0538-2
 ISBN-10:4-8019-0538-2


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加藤一『恐怖箱 怪泊』

 

 加藤一編著, 深澤夜, つくね乱蔵, ねこや堂, 戸神重明, 高田公太, 神沼三平太, 三雲央, 鳥飼誠, 渡部正和, 久田樹生, 鈴堂雲雀, 雨宮淳司共著『恐怖箱 怪泊』竹書房 2013 竹書房文庫

 子供のころ隣町で藁人形が見つかったことがある。週刊誌とかで取り上げられたらしく、ちょっとした騒ぎになった。現場は人家から離れた吹きさらしの堤防の上で、雑木が適当に生えてるばかりで街灯も何もない寂しい場所だった。さっそく数人の友達と見学に向かったのだけれど、藁人形はすでに跡形もなくて、ただ細い木の幹には何本かの釘がそのままになっていた。今考えてみるとあれが藁人形の釘だったのかどうかは分からない。それでもあの力任せに、ぐちゃぐちゃに打ち込まれた釘には、嫌な説得力があった。強烈な悪意が伝わってくるような、そんな気がしたのだった。

 ……という感じで、本書には↑こんな思い出を喚起させる気味の悪い藁人形の話をはじめ、全31話が載っている。こういった怪談を読むことって、ぽやーっとした暮らしのそのすぐそばに口を開けている、ブラックホールみたいな悪意の存在を再確認するような行動だよなぁ……などと思いつつ、今回とくに気になったのは以下の7話。全体に水準の高い読み応えのある一冊だと思う。

「遺物」旅館に併設された郷土資料館に子どもの幽霊が出る。あまり怖くない、大人しい幽霊だ。この話のキモはそれにどう対処したのかというところで、幽霊そのものの怖ろしさではない。体験者はあっけらかんとその経緯を話しているようだが、その微妙にズレた感覚がなんともいえない不快感を呼ぶ。

「幸せ人形」体験者とともに山歩きをしていたその妻が山中で人形を拾う。それ以来、妻はその人形を肌身離さず持ち歩いて、幸せそうに過ごしている。ただそれを決して見せようとはしない。地雷のように仕掛けられた悪意の塊に蝕まれて、急激に狂気へと突っ込んでいく妻の様子が簡潔に描かれている。夫妻の子どもに関しては触れられてないが、妻の「願い事」とはなんだったのだろうか。

「山の一軒家」山中で道に迷った体験者が、ようやく一軒家にたどりついた。窓から灯りが漏れている。助けを求めて声をかけたが返事はない。よく見ると家の引き戸には外側から鍵が掛けられ、窓には鉄格子が嵌っている。窓から屋内を覗いてみると、襖を開けて女が現れた。体験者の目の前で、女は異様な行動をとりはじめる。
 山中にこつ然と現れた家屋の古色蒼然とした雰囲気や、そこで暮らす女のただならぬ様子が情感たっぷりに描かれている。映像で見てみたい一編。

「平手打ち」舞台はフィリピンのホテル。そこにワンピース姿の女の幽霊が出る。これも悪意の感じられない幽霊で、あまり怖くはない。ただ幽霊の洋服の下が確認できるという点で、とても珍しいエピソードだ。おもしろ系。

「ぽっちゃりホテル」タイトルからは想像できないような、シャレにならない事態が発生している。親戚と泊まったホテルで、体験者は従弟と一緒に見覚えのないフロアに迷い込んでしまう。赤かったはずのカーペットが真っ黒だったという時点で、嫌な予感しかしない。矢継ぎ早にわけの分からない出来事が生じていて、短いながら気味の悪いエピソードだった。……この夜以前の従弟の写真やビデオはなかったのかな?

「パーキングエリア」車中泊をしていた体験者が、真夜中の公園で怪異と遭遇した。一見人に似てはいるが、見れば見るほど異様な姿をしたそれが、公園の真ん中で和式トイレにしゃがむ格好をしたかと思うと……。
 幽霊なのか妖怪なのか、とにかくその怪人の奇怪さと、それに続く気持ち悪い描写が衝撃的。生理的な不快感では収録作のなかでも屈指の一編だ。このほかにも「車中泊」がタイトルの通り車中泊を扱った怪談で、「パーキングエリア」とはまた違った趣向が凝らされていて興味深く読むことができた。

「骨が哭く」一人の青年(体験者)の魂の遍歴って感じのエピソードで、一般的な実話怪談とはやや趣を異にしている。精神的に疲れ果て、それまでの生活をすべて投げ出して放浪生活に入った体験者がいかにして現世に復帰したのか、その過程が描かれている。体験者は行く先々で怪異に遭遇するが、それらすべてが彼の自己との対話のようにも読めるため、シンプルな怪談とはまた別の奥行きが感じられた。

 本書には「旅」や「宿」にまつわる怪談を集められているが、個々のエピソードによって状況は様々だ。散歩してたはずが山で迷ったり、書き置きをして家出をしたり。レジャーに浮かれている体験者もいれば、多くの体験者は生活に疲れて住み慣れた町をあとにしている。何らかの事情で住処を離れた体験者の話といえば、よりしっくりとくるかもしれない。
 最初に書いた通り収録された作品は総じて高水準で、上記の他にも「やっと分かった」「壷」「トッケイの鳴く町で」「関連し得るもの」などなど、印象的なエピソードが多かった。旅の好きな人にはとくにおすすめの本。


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松村進吉, 深澤夜『恐怖箱 しおづけ手帖』

 

 松村進吉, 深澤夜共著『恐怖箱 しおづけ手帖』竹書房 2009 竹書房文庫

 取材はしたものの様々な理由から発表されないできた話のなかから、よりすぐりを蔵出しするというコンセプトの一冊。そのためほどほどの長さの短編が並んだいつもの「恐怖箱」とは、少し異なった構成になっている。目立ったところで「異聞フラグメントA」と「異聞フラグメントB」では、こま切れの断片が「造築されたアパート」→「リフォーム済みの一軒家」→とか、「青い小便」→「経血」→って感じの、連想ゲームのようなゆるい関連を持って並べられている。取り上げられている怪異は幽霊、妖怪っぽいもの、不思議な話、わけの分からない話と幅広く、「異聞フラグメント」に限っては『新耳袋』の雰囲気に近いかもしれない。ひとつずつのエピソードはあまり怖くないけど、全部読み終わるとなんともいえない不気味な気分になる。

 それから一般的な「実話怪談集」と比べて、著者の顔がよく見えるのが本書のもうひとつの特徴。「まえがき しおづけ手帖」「余録」など、著者の自分語りが多い。ひとつ間違えればうざくなりそうなところだけど、著者の怪異に対するスタンス、というかびびり方がおもしろくて親近感が持てる。
 それと全体にヤンキー色(DQN色)が強い印象。よく分からないプライドをかけて、なにかと危ない目にあってる彼らの様子が、滑稽に、いきいきと描かれている。なかでも対立するグループが原付バイクで激突する「チキンレース」は白眉で、迫力のある怪奇現象もさることながら、登場人物のリアクションがおもしろい。ドタバタ怪談って感じ。

 もちろん怖い方面にもばっちり力の入ったエピソードもあって、ガチな幽霊譚の「星を見る人」は三人の親子の「向き」が判明する場面を恐怖のピークに据えた、技巧的で良質な怪談。一緒に寝てる彼女に異変が起こる「安眠妨害」、死んだ彼氏の霊魂を召還しているらしい女性の話「毛布」なども、「恐怖箱」の名に恥じないしっかりとした怪談だった。
 短いものでは「異聞フラグメント B」のなかのキリストっぽい姿が風呂場に出る話と、もろに人面犬が登場する話、また「ネムリ、イツワリ、サトリ」では三話目の「サトリ」が面白かった。とくに後者は霊的な相談をどんどん持ちかけられるものの、まったく解決能力のない霊感少女の話で、疎外感から他人との付き合いが希薄になっていく過程が、克明に描かれている。

 本書には「異聞フラグメント」や「ネムリ、イツワリ、サトリ」など、いくつかのエピソードがまとめられているものを一つとして数えると、全部で14話が収録されている。「まえがき しおづけ手帖」を入れて15話である。長短、硬軟バラエティに富んでいて、飽きずに読むことができる。


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鈴堂雲雀, 戸神重明, 鳥飼誠『恐怖箱 空蝉』

 

 鈴堂雲雀, 戸神重明, 鳥飼誠共著, 加藤一監修『恐怖箱 空蝉』竹書房 2012 竹書房文庫

 以前読んだ『恐怖箱 赤蜻蛉』がこのレーベルとしてはやや変化球気味だったのに対して、本書はまさに「正調恐怖箱」って感じで、幽霊と呪いがたっぷり。全24話という収録話数からも分かるように、長めの話が多くて読み応えがあった。ただし人体が激しく損壊したり、とんでもない姿の幽霊が出たりはしないので、そういうの好きな人にはちょっともの足りないかもしれない。傾向としては後ろの方にいくほど、こってりした話が配されているような気がする。

「人命救助」冬の朝、鮒釣りに出た体験者が、川の流れのなかに女の姿を見る。不思議なもので水と女を扱った怪談には、なぜかイメージが明晰なものが多い。このエピソードもその例に漏れず、川面の薄青さと赤いセーターのコントラストが印象的。体験者が心ある人なだけに理不尽さを感じるが、引っぱられるとか、呼ばれるっていうのは、こういうことなのかなとも思う。

「マシなほう」体験者は会社員の男性。残業中の出来事を書いた2ページほどの小品だ。知らぬまにコーヒーの入った紙コップの縁に、口紅がべったりとついている。気味が悪いから捨てようとすると、今度は口紅のついていた部分が、かじりとられたようになくなっている。それを先輩に告げたところ……。収録作のなかでは特別に少々生臭い、気味の悪い話。

「祖父の葬儀」通夜の夜、祖父の遺体が動きはじめる。確かに心臓は止まっているし、体も冷えきっている。ゾンビ、アンデッドである。日本風にいうなら死人憑(詳しくはwiki等参照)ってところか。フィクションに限らず、民話や伝説のなかにも様々な形でその姿を現わすアンデッド。しかし現代の実話怪談においてはどうだろう。かなり珍しいんじゃないかと思う。そもそも火葬が発達した日本では、土葬をベースに発想されたアンデッドは活躍し辛いのだ。とは言うものの、実際こんな事態に遭遇すれば、とても体験者家族のような対応はできそうにない。

「似」神様憑きと称される悪質な霊能者の女性と、神主から退魔の鏡を借り受けた体験者の父親が繰り広げる、ご近所霊能力バトル。両者のエキセントリックな性格のおかげで、まったく怖くはないが、一体どうなるんだこれ? って好奇心から一気に読み通してしまう。

「黒鳥居」信頼している友人や同僚が、実は内心では自分を激しく嫌っていたとすれば、それだけで充分に怖ろしい出来事だ。このエピソードではそれに呪いが絡むから、さらにタチが悪い。しかも対象となった体験者はおろか、その関係者にまで災いを及ぼすような強烈な呪いだ。唯一の救い、というかこのエピソードの特異な点は、体験者にその呪いが形になって「見える」ところ。そこがとてもおもしろかった。鳥居というと朱のイメージが強いけれど、検索してみると、全国各地に黒い鳥居が点在していることが分かる。体験者の見たのはどの鳥居だったのだろうか。

 という感じで、怖さはほどほどながら、粒の揃った話が並んでいる。上記のほかに、人形の話や双子にまつわるかなり重めの話もあって、冒頭で書いた通り読み応えがあった。ただ少し気になったんだけど、作品によっては効果や意味のあまり感じられない改行が多すぎるように思う。また本書に限ったことではないけれど、実話怪談では往々にして体験者の名字だけが記されることが多く、なかにはしばらく読み進めるまで体験者の性別がまったく分からない作品がある。性別は意外と重要な要素なので多少の配慮が欲しい。

 それから恒例の「稲川淳二・怪談朗読CD全員プレゼント」の締切が、2012年12月31日(当日消印有効)と迫っている。買ったけどまだ送ってないって人は要注意です。


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鳥飼誠, 怪聞亭, つきしろ眠『恐怖箱 赤蜻蛉』

 

 鳥飼誠, 怪聞亭, つきしろ眠共著, 加藤一監修『恐怖箱 赤蜻蛉』竹書房 2009 竹書房文庫

 おなじみ竹書房の実話怪談集。でも内容はおなじみって感じでもない。心霊、祟りのイメージが強い「恐怖箱レーベル」にしては、奇談をメインに収録した本書はかなり異質な雰囲気。短めの話、全50話が収録されている。

「白い車の男、黒い車の女」黒いクラシックカーに乗って現れる美しい黒衣の女が、事故現場の大破した車両を、嬉々として見てまわっている。その姿はどうやら体験者にしか見えてないらしい。
 決して怖ろしくはないけれど、女の醸しだす邪悪さは魅力的で、とてもインパクトがあった。自動車にまつわるものらしいが、その正体を窺わせるような記述は一切ない。ただ一連の行動には、何らかの秩序があるようにも感じられる。どことなく外国の怪談の雰囲気。

「骨董品屋」日本刀に惹かれて骨董品屋を訪れた中学生の話。そこで見せられた日本刀の刀身には、いくつもの女の目が映り込んでいた。その刀には強烈な因縁があるという。
 日本刀の持つイメージからすると、もっと多くの怪談があってもいいような気もするけど、さすがに身近なアイテムってわけでもないので、こうした実話怪談集ではたまにしか見かけない。しかしその数少ない話には、どれも独特の血なまぐささが漂っている。

「おぶつだん」1ページにも満たないほどの短編ながら、気味の悪い日常の断片が、切れ味よくまとめられている。園児に池のスケッチさせると……という話。

「りんごジュース」定年を迎えた体験者の男性が、滞在先のホテルで少女の霊と遭遇する。生前の印象を濃厚にとどめた少女の幽霊は、体験者にそれと感じさせないほどに愛らしくあどけない。こんな幽霊なら遭遇しても悪くないかも、と感じさせる魅力がある。薄暗いホテルの廊下で、少女が一瞬かいま見せる凄惨な姿は、類例がないわけではないけれど、美しく切ないイメージだ。

「おかいこさま」幼い頃、母親の実家が養蚕業を営んでいたという体験者の話。もちろん怪異は養蚕にまつわるものである。「回転簇(かいてんまぶし)」「変わり者探し」など、聞き慣れない言葉を交えつつ、まったく馴染みのない養蚕をなりわいとするの家の生活が、短いページ数でいきいきと描かれている。「おかいこさま」とは金色に光る蚕の繭から生まれる猫で、蚕室の守り神であるという。
 怪異自体もさることながら、半世紀前という時代設定や、地方色豊かな登場人物のセリフには、まるで民話でも読んでるような気分になった。

 他にも猫や犬など動物にまつわる話、器物にまつわる話などが、まとまって収録されている。印象的なものをあげるだけでも結構な数になりそうだったので、今回は最初から特徴的なものを5編程度選ぶつもりで読んだ。怖いかどうかっていうと、あまり怖くはない。でも奇談っぽいのを好きな人にはきっと楽しめる一冊だと思う。


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加藤一『恐怖箱 十三』

 

 加藤一編著, 鳥飼誠, 怪聞亭, つきしろ眠, つくね乱蔵, 矢内倫吾, 高田公太, 原田空, 渡辺正和, 久田樹生, 深澤夜, 松村新吉, 雨宮淳司共著『恐怖箱 十三』竹書房 2004 竹書房文庫

 13人の著者による「恐怖箱レーベル」13番目の実話怪談集。テーマは一応「呪いと祟り」。必ずしもそれに沿った作品ばかりではないけれど、比較的長めの話から短いものまで、全28話が収録されている。とくに印象的だったのは以下の5編。

「流れ」3ページほどの短編。用水路を流れる女と少年の邂逅。女の首には絞殺か縊死を思わせる痕跡が見られるが、なんとなく人外の雰囲気が漂っている。怖いかどうかっていうと、作中の少年同様、正直あまり怖くはない。しかしこのエピソードのようなイメージの鮮明な話は、作品集全体を引き締めると思う。

「山麓の家」田舎暮らしをはじめた家族の生活が、得体の知れないなにものかによって蝕まれていく。徐々に悪化する状況が、コンパクトにまとめられていて読み応えがあった。家族に障っていたのは、映画にでも出てきそうな怪物で、お祓いや祈祷の類いではどう見ても話にならなそうだ。こんなのに行き当たったら逃げるしかない。怖いというよりなんか凄い。生理的に一番キツかったのは、娘が座布団で子犬を押さえつけてるシーンだった。

「成就した恋」恋のおまじないのつもりで、うっかり相手を呪ってしまう話。おまじないの手法は墓場の土を使うなど、少しばかり不気味だけれど案外お手軽で、ちょっと思い詰めた小中学生なら深く考えずにやってしまいそうなレベルのもの。しかしその威力は絶大だった。対象とした女の子の家庭に、うっかりでは済まされないレベルの不幸が次々と訪れる。体験者はそれをきっかけに話すことができた、なんて無邪気に喜んでいたが、強力な呪いはやがて女の子本人にも及ぶ。なんの屈託もなかった分、自分の愚かさに気付いたときの体験者の絶望は深い。これ、恋は成就してないよね……。

「顛末」カップルが同棲をはじめた一軒家にまつわる後味の悪い話。この作品もまた長期間にわたって、怪奇現象がエスカレートしていく過程が描かれている。異様な状況に目を瞑って、騙し騙し日々を過ごすという心情が真に迫っていて痛々しい。直視すれば、ささやかな幸せが吹き飛んでしまいそうな、そんな気持ちが伝わってくる。
 不気味な現象が次々に起こって、気味の悪い幽霊が出たりもするけど、一番気持ち悪いのは、これらすべての現象が誰かの「呪い」である可能性が示唆されていることだった。家のあちこちから発見される呪符。体験者が一人で荷物を運び入れたらしいから、呪符が仕込まれたのはそれ以降のはずだ。一体誰の仕業だったのだろうか。彼女がなにかを知っているような気がしないでもない。彼女の父親の口をついて出た「いや、ウチの親戚とか」という要領を得ない答えの意味は? 実に後味の悪い話である。

「神とは呼ばず」タイトルが秀逸。たまたま同時期に憑きものについての本を読んでいたこともあって、とても興味深かった。この話の舞台もやはり四国か山陰のあたりだろうか。憑きもの筋、厭われる側のリアクションが全くなく、ただ結果として同じ症状の者が出る。ときに死にいたるような苛烈な症状だ。祟る祟られるの構図が、集落のなかで演劇のように様式化しているのが不気味。あいつはそういう役回りって感じなんだろうか。「いつもシャンとしたブラウスを着て」(p.181)いるという、その家の娘のキャラクター描写が鮮明で、短いながら印象に残った。

 他には『黒髑髏』なども良かったけど、スケッチ集見てたらいきなりタブローが出たみたいな座りの悪さを感じた。書き込んだ作風のものがあと何本かあればバランスがとれたのかも知れないが、最後に一本ポンと載っているだけだから、どうしても浮いてしまっている。とはいえ、全体に見て読み応えのあるものが、特に長めの作品に多く、水準以上の作品集になっていると思う。


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深澤夜, 寺川智人, 三雲央『恐怖箱 海月』

 

 深澤夜, 寺川智人, 三雲央共著『恐怖箱 海月』竹書房 2012 竹書房文庫

 三人の著者による実話怪談集。人形の怪談、ミクさんで成仏する幽霊の話など、比較的短く、軽めの話を中心に全33話を収録。

 今回一番印象に残ったのは「ラジオ」というエピソードだった。幽霊、妖怪の出るたぐいの話ではないし、呪いや因縁話でもない。奇妙な深夜ラジオという地味めなネタを扱っている。
 電話やラジオ、スピーカーなどにまつわる怪談は数多いけれど、この話はラジオを通して未知の場所の出来事をたまたま聞いてしまうという趣向で、それが一方通行でないところがミソ。聞かれていることを知らない「向こう側の人々」の様子に不思議な魅力があって、盗み聞きを気付かれたらしいときのハラハラ感、それに続くリアクションも良かった。

 他に「賃貸ビリヤード」「借車ドライブ」が本格的な幽霊譚で面白く読むことができた。
 帯には今年も稲川淳二朗読CDの応募券が付いている。


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