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尾崎みつお『女吸血鬼マリーネ』

 尾崎みつお『女吸血鬼マリーネ』ひばり書房 1986 ヒット・コミックス 104

 ヒロインは平野恵子、15歳になったばかりのボーイッシュな中学3年生だ。両親を早く失い、医師の兄と二人で暮らしている。ここ清丘市へ越してきて1年が過ぎたが、最近兄の様子がおかしい。毎夜どこかへ出かけていくのだ。行き先を聞いても教えてくれない。気がかりなのは、あれほど陽気だった兄がすっかり無口になってしまったこと。しかも日に日に痩せ衰えていく。兄の同僚の医師に相談すると、戦前この一帯に猛威を振るった謎の風土病、清丘病ではないかという。原因不明のまま体内の血液がどんどん失われてしまう怖ろしい病気らしい。
 兄は今夜もどこかへ出かけていく。こっそり後をつけてみることにしたが、古い屋敷の跡で兄の姿を見失ってしまう。さらに兄を捜すうちに、墓地へと迷い込んでしまっていた。怖ろしくなって家に逃げ帰ったが、外は土砂降り。雷まで鳴っている。一人でいるのが怖い。ふと物音を聞いて玄関に出てみたが、気のせいだったようだ。気付けばさっきまでいた部屋の明りが消えている。そしてその暗闇の奥から、長く髪の毛を垂らした女があらわれた。

 劇画タッチというか、一昔前のジュブナイルの挿絵のような味わいの作画が特徴的。コマ→コマ、ページ→ページの流れにぎくしゃくしたところがあって少々読みづらかったが、怪奇マンガらしいかっこいい大ゴマは見応えがあった。もともとはカバーのイラストにも、本編と同じ画風のものが用いられていたようだが、うちにある本のイラストは怪奇マンガ家の浜慎二によるもので、本編とのギャップがすごい。
 ストーリーはこのあとオカルトの研究家で哲学、心理学の博士や超心理学者といった怪しげなキャラがどんどん出てきて、ヒロインそっちのけで物語の中心に居座ってしまう。アグレッシブな彼らが登場して以降、状況はみるみる悪化していく。

 女吸血鬼というとレ・ファニュのカーミラをベースにした作品が多いが、この作品が下敷きにしているのはゴーチエの『吸血女の恋』(←前の記事へのリンクです)。吸血鬼があまり出てこないこともあって、クラリモンド(マリーネ)の可憐さが再現されてないのは残念だが、墓を掘り返す研究家たちの鬼気迫る様子は『吸血女の恋』の老神父を彷彿とさせるキレっぷりだった。再現度が高い。さらにこの作品にはオカルト要素がてんこ盛りになっている。なにせ1ページ目からゴヤの『魔女の夜宴』("Aquelarre")。ストーリー上に生かされているかどうかはさて置き、雰囲気は確実に盛り上げている。オカルトネタがいっぱいで楽しい。

 で、そのオカルトネタについて、気になる記述があった。「太古、万物の創造主り表れる以前のカオスの時代に、彼等、邪悪の神々がこの世界を支配していたのですよ。やがて創造主の善なる神の手により、邪悪の神々は異郷へと追放されてしまったのです。この異郷とは現代風にいえば異次元とでもなるでしょうか。神話や伝説という形で現代へと伝わる怪物たちは、彼等の記憶の一部なのです」(p115-116) ……どこかで聞いたことがあるような、ないような。さらにこの女吸血鬼マリーネは「堕落した霊媒者、ウェトリー一族と悪霊との交りによって生まれた醜悪な魂だったのだ。邪悪な怪物こそ彼女の父親だったのだ!」(p.197)とある。そしてマリーネを滅ぼすための呪文「UOYE VOLI OKO TOIWI AWAO USTIM IKIA SO YOG SOHOOT…… YOG SOHOOT……」(p.178)
 驚くべきことに本作はクトゥルフ神話体系に包含される作品だったのだ。邪神はこんなところにまで触手を伸ばしていたのか。


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