「川島のりかず 」カテゴリ記事一覧


川島のりかず『怨みの猫がこわい!』

 川島のりかず『怨みの猫がこわい! 恐怖の黒い占い師』ひばり書房 1988 ヒット・コミックス 怪談シリーズ 228

「どこからみてもなんの変てつもないただの石だが、少女が狂ったようにその石をみがくと、ただの石が意味をもつ」(p.3-p4)

 主人公の「沙里」は少々おてんばでこましゃくれた女の子だ。ある日友達の「圭子」と一緒に、金魚を食べた黒猫に大きな石を投げつけて潰してしまう。多少後味の悪さを感じたものの、一週間も経つころにはそんなこともすっかり忘れてしまっていた。ところがKKKみたいな装束の占い師に軽い気持ちで運勢を尋ねたところ、一週間前の残酷な所業をズバリと指摘される。占い師によると、二人はこれから二ヶ月の間、猫を殺した石を一日一回、休まずに磨かなければならない、もしもそれを怠ったら圭子は事故で、沙里は高熱に苦しんで死亡するという。当たるも八卦~ってことで気にしないことにする二人だったが、それから三日後、下校中の圭子が不慮の事故で死亡してしまう。落下してきた鉄骨に潰されたのである。その夜から沙里は高熱に浮かされ、翌日には足取りもおぼつかないまま森に入って、あの猫を潰した石を磨きはじめた。家族が引き止めようとしても沙里は石を磨き続けようとする。沙里の精神はみるみる常軌を逸して、異常な妄想の世界へと沈降していく。

 ここまでが全編の1/3くらい。以降はオチの数ページを除いて、沙里の精神世界の描写に費やされている。主人公の少女の生き生きとした小憎らしさや、子供でも容赦なく殺してしまうノリはいつも通りだが、精神世界をメインにした大胆な構成で、基本尖った作風の著者の作品の中でもとりわけピーキーな作品となっている。
 圧感はその精神世界、主人公の沙里がシルクハットにタキシードの猫に導かれ、迷い込む猫の世界(国)の描写だ。超カオスでサイケデリックでゆるい。その世界では象のようにでろんと鼻の伸びた矮人(微妙に性的)が列を成して石を運び、猫たちはカッパドキアみたいな奇岩にボコボコ穴を空けてその中で暮らしている。そして町には決まった時間に空から石が降る。「まぁったく、よくふる石だぜ」「うん、今年は例年より石ふりが多いんじゃないか」(p.146)なんて会話を交わしながら、作業服姿の猫たちが石を積んだリヤカーを引いている。沙里はあたり一面を覆い尽くした石の中から、たった一つの石を探し出さなければならないのだ。

 少女が抱いて頬ずりして磨き倒す石は一抱えもある漬物石然とした丸っこい石で、エメラルドを含むような美しい鉱石とは随分違うけれど、この作品、ジブリ映画の『耳をすませば』(1995)と共通点が多い。「耳すま」を思いっきりマイナスに振ったみたいな作品である。もちろん共通点が多い以外の何物でもないんだけど、「耳すま」にはモニョ~っとなるセンシティブな怪奇マンガファンにはオススメの作品。異世界を描いた作品としても、子供の精神の危機を描いた作品としても一読に値する著者の代表作。


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川島のりかず『狼少女のミイラ』

 川島のりかず『狼少女のミイラ』ひばり書房 1986 ヒット・コミックス 怪談シリーズ 109

 山間の集落に迷い込んだ子供たちが、毛むくじゃらの怪物に撲殺されバラバラに解体されていく。その集落にはいつのころからか「奇病」が蔓延しており、怪物は奇病に罹患した村人の変わり果てた姿なのだ。

 そんなわけありの集落で生まれ育った主人公の「奇利絵」は、ある夜「山が崩れるから村から逃げろ」との啓示を受け、父親と二人で村を離れる。直後、轟音とともに大規模な土石流が発生。……数日後、遠くの町の小学校には、学校生活をエンジョイする奇利絵の姿があった。取り巻きにチヤホヤされてご満悦の奇利絵。ところがある日を境に奇利絵は学校を休むようになった。奇病を発症した父親が自らを町はずれの洞窟に隔離したため、毎日そこに出かけていっては様子を窺っていたのだ。もちろん洞窟内には入らないよう注意を払っていたのだが、遊び半分で後をつけてきた同級生たちとともに洞窟深く迷い込んでしまう。

 ここまでが大体全編の半分くらい。なんの迷いもなく子供たちが惨殺される衝撃的なプロローグからの怒濤の展開だが、この先にはもっと無茶なシーンが控えている。プロローグに続く土石流のシーンでは、土砂に呑まれ流木に潰されるモブの村人たちの死にざまが、数ページにわたって描写される。ここは物語の本筋にはほとんど関係のない場面なんだけど、著者はノリノリだったらしく、濁流が渦を巻く大迫力のスペクタクルを見事に描き切っている。

 後半は洞窟に迷い込んだ奇利絵と同級生たちのサバイバル&バトルに終始する。次々に襲われ、頭部を切断される子供たち。完全に怪物化した奇利絵の父親による犯行である。地底湖からぽっかり顔を出した友達に「なにをやってんだ?」と声をかけると、ゆっくりと頭部が倒れて、それが生首だったことが判明するシークエンスが面白い。
 あわや全滅かと思われたそのとき、落盤が発生し閉じこめられてしまう奇利絵たち。後に洞窟の崩落を調査した大学の研究チームは、そこにオオカミ人間と化した奇利絵のミイラを発見する。

 とまあ、ここで終われば綺麗にまとまるような気がしないでもないのだが、まだまだ終わらないのがこの作品の尋常ではないところ。実はこの「狼少女のミイラ」、ミイラになってもなお「ぜったいにあきらめない!!」とばかりに、生き続けていたのだ。研究室でおもむろに起き上がり、首が転がり落ちても、目玉だけになっても、しぶとく生き続ける奇利絵=狼少女のミイラ。そして、そう来たか! って感じの奇跡的なハッピーエンドへ。

 ……盛り沢山過ぎてまとめられない。デフォで目玉飛び出してる生首とか、怪しい集落とか、気合の入った土石流とか、毛虫人間みたいになってるオオカミ男とか、見どころが多過ぎる。ちょっと前に流行ったシチュエーション・ホラー色が一番濃いかなーなんて思うけど、とにかく「全編クライマックス」って感じだ。これよくある煽り文句だけど、本当にその通りにやってみたらこんな風になっちゃうのかと、妙な感心をしてしまう作品だった。


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川島のりかず『血ぬられた処刑の島』

 川島のりかず『血ぬられた処刑の島』ひばり書房 1988 ヒット・コミックス 怪談シリーズ 229

 おでこにピンクの星形のアザが出た子供は死刑。それを匿ったりした者も同罪。物語の舞台はお手本のようなディストピアと化した日本だ。

 牢屋みたいなところに監禁されている主人公の花林。そのおでこにはピンクのアザがばっちり浮かんでいる。このアザは致死性の謎の伝染病の感染者に現れるという。彼女はアザの意味も知らないままに、家族によって監禁……匿われているらしい。
 しかしそんなシチュエーションは長く続かなかった。隣人の密告により花林の罹患が当局に発覚したのである。牡牛のマスクを被った係官(死刑執行人)に連れ去られる花林。泣き叫ぶ両親たち。ところが偶然にも事故を起こして大破した護送車から、花林は無傷で脱出に成功する。逃走劇のはじまりだ。

 ……しぶとい! 前に感想を書いた『みな殺しの家』(←前の記事へのリンクです)の紫音も相当にしぶとく図太かったが、本作の花林も実にしぶとい。見た目はかなりか弱い感じなんだけど、度々捕らえられても常に逃げ延びてるし、目の前で人が惨殺されてもケロッとしている(←逃亡仲間がどんどん死んでる)。押切蓮介のマンガにでも出てきそうな逞しさがある。
 終盤、拿捕された花林が連行される刑場は、子供の生首がうずたかく積み上げられた夢の島(ゴミ捨て場)のような景観で、畳み掛けるように死肉をついばむカラスの群れや、吊り下げられた首の無い子供の胴体が描写される。このあたりの一連のシーンは、昨今なかなかお目にかかれないビジュアルで非常に見応えがあった。

 この作品の世界観は過酷で残酷だ。人間不信と疑心暗鬼、悪意と殺意に満ちている。ただそんな環境だからこそ、ヒロインに付与された上記のような心身の強靭さには、そこはかとない著者の優しさが感じられる。この作品に限らず、相当無茶な設定の作品にもぼんやりとした光明が感じられるのは、悲観的楽観主義者っぽい著者のメンタルが大いに反映されているからに違いない。
 あと花林を匿った咎で逆さ吊りにされた花林ママが、律儀にスカートを太腿で挟んでるシーンも良かった。なんか慎ましくて。もちろん読後感はスッキリ。


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川島のりかず『みな殺しの家』

 川島のりかず『みな殺しの家 恐怖の都市へ』ひばり書房 1987 ヒット・コミックス 怪談シリーズ 217

 いかがわしさ満点。悪意の塊のような侵略SF。おもしろかった!

 ある朝ポニーテールの小学生、紫音(しおん)が目覚めると、家の真上に巨大な球体が浮かんでいた。普通の戸建て住宅くらいのサイズのでっかい黒い玉だ。原因不明の怪現象に、マスコミや近所の住民が昼夜の区別なく詰めかけ、球体に触れようとした警察官はその場で感電死してしまう。騒ぎに辟易とした紫音と家族は脱出を試みるが、球体はどこまでもついてくる。仕方なく紫音たちは自宅に戻ることに。同じころ町内では子供や赤ん坊が行方不明になる事件が頻発していた。黒衣の怪人が跋扈し、子供たちを襲う。紫音も危うく連れ去られそうになったが、友達のミドリちゃんを犠牲にからくも逃げ延びる。結局その事件は解決されないまま、次第に忘れ去られていく。
 とかなんとかやってるうちに、謎の球体には変化が生じていた。オレンジジュースのようなしずくを垂らしはじめたのだ。その液体には飲んだ者の願望、例えば病気平癒、精力増進、学業成就、昇進、美顔、発毛などなど、あらゆる願いを叶える効力が備わっていた。液体を瓶詰めにしてあこぎな商売をはじめる紫音の家族。一瓶百万円という高額にも関わらず、購入希望者はあとを絶たない。毎夜札束を数えながら、紫音の家族は次第に狂気に陥っていく。
 球体には再び変化が生じていた。膨張をはじめたのだ。球体は日々膨らみ続け、とうとう大爆発を起こした。爆風が吹き荒れ、その内部からはUFOが出現。同時に紫音の家族が販売したすべての魔法の水の効力が失われてしまう。

 ここまでがクライマックス直前までの大まかな流れ。色々な要素がてんこ盛りで、こうして粗筋をまとめていても、すごく楽しそうな作品だ。次々に状況が変化するから、全然先が読めない。このあと紫音の家族は暴徒と化した近隣住民から『デビルマン』の牧村一家のような目に合わされ、紫音は一人だけ宇宙人に救われるのだけど、すべての元凶である宇宙人の目的は「地球人の性格を知りたい」というご無体なものだった。また暴徒から紫音を救い出した理由もひどい。宇宙人上司「本当ハペットニシタインダロ」、宇宙人部下「マァソウデスガ」(←頭を掻きながら)って感じ。
 とはいえ作品全体からすると宇宙人分はごく僅かだ。メインで描かれるのは、魔法の水を巡って七つの大罪を体現していく人間の浅ましさと、追いつめられていく主人公の姿。

 著者についてはひばり書房の末期に、「SFミステリー」と銘打って30冊前後の作品を発表したという以外全然分からない。作品の傾向はSF、サイコ、スプラッターとなんでもありな感じ。本作のように主人公が精神的に追いつめられていくタイプの作品が多く、どちらかと言えば「古き良き」が主流のひばり書房の怪奇マンガのなかではかなりモダンな印象。語り口はドライで、緩急が激しい。この作品の印象的なシーンの一つ、紫音の放尿シーンでは1ページ5コマをフルに使って、草原にしゃがみ込んだ少女の背後にじわじわと忍び寄る不穏な影を描き、効果をあげている。
 とまあ色々書いてきたが、著者の作品の最大の美点はその読後感だろう。精神的にキツい描写やスプラッターなシーンも多いのに、なぜか読後感はスッキリ。まったくあとに引かない。不思議な作風だ。


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