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ヘンリー・ジェイムズ『エドマンド・オーム卿』

 

 ヘンリー・ジェイムズ(Henry James), 平井呈一訳『エドマンド・オーム卿』("Sir Edmund Orme" ブラックウッド他著, 平井呈一訳『怪奇小説傑作集〈1〉』東京創元社 1969 創元推理文庫 所収)

 小説の表現手法のひとつに「朦朧法」というのがある。巻末の解説でちらっと触れられていたので検索してみたところ、おおむね「漠然とした描写を積み重ねて解釈を読者にゆだねる」って感じの手法らしい。面白いのはこの手法が怪奇小説専用みたいに書いてあるところで、どこを引いても同じようなことが載っている。「小説」じゃなくて「怪奇小説」なのだ。似たような美術用語に、明治ごろの日本で確立された「朦朧体」という技法があって、こっちはジャンル問わず絵画や詩歌に広く用いられている。「法」の方はなんで怪奇小説専用なんてことになったのだろう。
 解説にはこの「朦朧法」が、本作の著者ヘンリー・ジェイムズよって「案出」されたとある。本作の数年後に発表された『ねじの回転』は「朦朧法」を用いて書かれた怪奇小説の傑作として名高いが、その発想の経緯が新潮文庫版(蕗沢忠枝訳)の解説に詳しく書かれていた。なんでも『ねじの回転』は著者が実際に耳にした断片的な亡霊談と、その曖昧さから生じる不気味なニュアンスからヒントを得て創作されたらしい。あのなんとも言い難い不気味な感じ、いやーな感じこそが著者の目論んだ「朦朧法」の顕著な効果で、先行する本作『エドマンド・オーム卿』にもばっちりその萌芽を認めることができる。

 ある美しい女性に惹かれた途端、主人公には彼女にまとわりつくように現われる男の姿が見えるようになる。男は彼女に特別な感情を抱いた者と、彼女の母親にしか見えない。もちろん彼女本人にも見えていない。どうやら彼は彼女の母親に因縁のある男の幽霊らしいのだが……。
「アメリカ近代文学心理派の父」とも呼ばれる著者らしく、本作も一人の女性に惹かれ、まるで生者のようなゴーストを慢性的に目撃し続ける主人公の、繊細な心理描写で構成されている。ただメインのストーリーが恋愛モノなので、怖いかというとかなり微妙で、幽霊そのものよりも幽霊に関する母親のリアクションの方が不気味だった。色々な疑問が晴れないまま終わるのでモヤモヤが残る作品。


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