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F・G・ローリング『セアラの墓』

 F・G・ローリング(F.G.Loring)『セアラの墓』("The Tomb of Sarah" 岡達子編訳『イギリス怪奇幻想集』社会思想社 1993 現代教養文庫 1623 所収)

 教会の修復工事や室内装飾を生業とする主人公の日記を引用するという形で、ロンドン近郊のハガーストーンで発生した吸血鬼事件の顛末を描く作品。工事をきっかけに教会の敷地内の墓で目を覚ました女吸血鬼を、再び葬るべく主人公と司祭(←びびってばっかり)のコンビが立ちあがる。清々しいほど直球ど真ん中なストーリーだ。これも前回感想を書いたマーガレット・アーウィンの『早朝の礼拝』と同じ、現代教養文庫の『イギリス怪奇幻想集』に収録されている。そういえば前回書き忘れたけど『早朝の礼拝』とこの『セアラの墓』は、2作とも新人物往来社の「怪奇幻想の文学」にそれぞれ『暗黒の蘇生』(吉田誠一訳)『サラの墓』(平井呈一訳)というタイトルで収録されている。各巻の口絵に1葉ずつ版画(エッチング? ドライポイント?)の付いたかっこいい本なんだけど、電車のなかや寝る前には読みづらくて、結局いつも同じ作品が載ってる文庫本ばかり読んでる。
 この作品の著者F・G・ローリングについては、マーガレット・アーウィン以上に分からない。前述の「怪奇幻想の文学」でもこの著者の来歴はほんの数行、「英国の文芸雑誌「ペル・メル・マガジン」(1893-1914)の寄稿者だったという以外何もわからない」とだけ記述されている。ウィキペディアによると軍人一家に生まれ、彼自身も軍人として無線技術の開発に携わっていたようだ。詩と短編小説を『ペル・メル』誌に発表していたらしいが、やっばり詳細は不明。どうやら創作は趣味っぽい感じだけど、この作品の完成度の高さからしてめっちゃ気になる作家だ。ほかにも怪奇小説を書いていたのだろうか。
 著者についてはそんな感じだけど、1900年に発表されたこの作品は、先行するブラム・ストーカーの『ドラキュラ』(Dracula)を彷彿とさせる日記からの引用というスタイルを採用して、ヴァンパイアハンターものの王道を行く仕上がりだ。

 女吸血鬼セアラは300年ほど前、巨大なオオカミを使い魔に子供や小動物をさらい、その血を吸っていたという。墓に安置されていた彼女の死体は異常ほど生々しく、作業のために墓の仮蓋を開けるたびに、より瑞々しさと美しさを増していた。何日もかけて蘇っているのだ。村には巨大な獣が徘徊するようになり、何体もの惨殺された羊の死体が発見される。この獣、でっかいオオカミがセアラにエネルギーを供給しているらしい。
 吸血鬼といえばコウモリだが、蝶々や鶏、ロバ、馬、ネコ、ネズミetc、そして犬やオオカミにも変身するといわれている。とくにオオカミとの関連は深くて、吸血鬼発祥の地であるスラヴ地方では吸血鬼と人狼は同一視されてきた。人狼の姿で描かれるセルビア語の"vukodlak"は、もともと吸血鬼と人狼の両方の意味を兼ねるという。この作品にも「スラヴ系やハンガリア系のヨーロッパ諸国には吸血鬼の迷信がある」(p.40)という一節があり、著者の念頭には『ドラキュラ』以前の吸血鬼伝説があったのではないかと思う。吸血鬼退治グッズとして「鋭い小刀、先の尖った棒、生のニンニク、野生の野イバラ」が用意されたり、首に太い紐を巻きつけたままのセアラの埋葬状況からも、それを窺うことができる。また霧をまとって夜の村を徘徊する「巨大な黒い獣」には、ホームズの『バスカヴィル家の犬』("The hound of the Baskervilles")の下敷きになったダートムーアの魔犬伝説や、有名なジェヴォーダンの獣がイメージソースとしてあったのかもしれない。


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