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佐藤春夫『化物屋敷』

 

 佐藤春夫『化物屋敷』(紀田順一郎, 東雅夫編『日本怪奇小説傑作集〈1〉』東京創元社 2005 創元推理文庫 所収)

 これも実体験に基づく小説。著者のことを思わずハルオ~と呼びたくなるようなダメダメっぷりがおもしろく、怪談なのにその印象ばっかり強かった。佐藤春夫ってまじでこんな人だったんかな……。また劇中に登場する石垣という青年が、若かりしころの稲垣足穂だというのだから、これにもびっくりした。朴訥かつ豪放磊落な体育会系の青年って感じで、作品のイメージとは随分異なっている。

 それはさておき『化物屋敷』。当時谷崎潤一郎との「細君譲渡事件」で精神的に参っていた著者は、弟夫婦の家に門弟とともに転がり込んだあげく、今度は弟夫婦の不仲を見るに耐えないとか言い出して、荷物や門弟を残したまま家出してしまっている。そりゃ不仲にもなるだろ! って気もするが、結局弟夫婦は離婚、行き場を失った著者と荷物と数人の門弟は、とある一戸建ての住宅に入居することになった。それがこの作品の舞台となった「化物屋敷」である。

 物件は三階建ての和風建築物で、所在地は現在の渋谷道玄坂界隈。最高の立地だが、著者は建物を見た途端、なんとも言えない不吉な印象を受けたという。
 具体的に生じた怪異らしい怪異は、軽微なものばかりで物音や気配が中心。それでも屋敷の内に何者かが巣食っているかのような、気味の悪い雰囲気は抜群で、かなりリアルだと思う。おもしろいのは著者が自分の神経質さや臆病さをつぶさに描写しているところで、こんな表現はどうかと思うが、なんかかわいらしい。最終的には門弟のなかの二人が、精神と体調に著しく異常来したところで全員屋敷から退去している。

 著者はこの化物屋敷に対して感じた「嫌な気持ち」について、下記のような興味深い記述をしている。ちなみに著者は「借家生活約二十年」のあいだに、「化物屋敷」と呼ばれる物件に七、八度も住んだことがあるらしい。

「室の外にいて自分の部屋へ帰らなければならないと考える事のさびしさが我慢出来ないものであった。〔中略〕人々を同伴して入る時でさえもそれは自分の居室へ入るというよりは何か他人の密室へ侵し入るような緊張した不気味なやましいに似た気持ちがしてならないのであった。自分の今迄の経験によると化物屋敷に共通な怖ろしさは帰っていく時のこの気持ち一つにあるような気がする」(p.468-469)



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