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城昌幸『その家』

 城昌幸『その家』(『怪奇製造人』国書刊行会 1993 探偵クラブ 所収)

 家にまつわる恐怖譚。この作品も先日の柴田錬三郎『恐怖屋敷』(←前の記事へのリンクです)と同様、伝統的な日本の伝統家屋の不気味さを見事に表現している。面白かった!

 登場人物はたった二人。主人公と女中。7月下旬の暑い日の午後、所用でとある屋敷を訪れた主人公は、女中に座敷へと通された。ところがいくら待っても誰も現れない。邸内は静まり返っていて、コトリとも音がしない。聞こえてくるものといえば、降るような蝉時雨。待ちくたびれた主人公はとうとう立ちあがると、叫ぶような大声で家人を呼びながら、屋敷の中を探し回った。誰もいない、返事もない。聞こえてくるのは、ただ降るような蝉時雨……。

 実はこの作品のストーリーは、主人公が訪問先の家でただひたすら待たされ続けるだけという、これ以上ないくらいシンプルなもので、上記のようにふわっとした粗筋では、なにが怖いんだかさっぱり伝わらないと思う(まとめるのがヘタっていうのもある)。実際には待たされながらどんどん過敏になっていく主人公の感覚や、そんな彼の目を通して見た屋敷の様子などが、キレのある美しい描写で表現されていて、全編に異様な緊張感がみなぎっている。もちろん怖い。

 この城昌幸という作家、作品は色々なアンソロジーにぽつぽつと取りあげられてはいるのだけれど、まとまった本はこの作品が収録されている『怪奇製造人』しか持ってなくて、著者についてもその解説と、江戸川乱歩の評論に書いてある以上のことは知らない。著者は大正の末期に探偵作家としての活動をはじめ、第二次世界大戦後は探偵小説雑誌『宝石』の主幹を、のちに「宝石社」の社長をつとめているが、もともとは日夏耿之介、西条八十、堀口大学らに近しい詩人だったらしい。江戸川乱歩は評論集『鬼の言葉』のなかで著者に触れ、「この作者は日本探偵小説壇の最も特殊な存在である。彼は探偵小説を一つも書いていない。探偵小説の親類筋に当る怪奇と幻想の文学のみによってわれわれの仲間入りをしている〔中略〕彼は人生の怪奇を宝石のように拾い歩く詩人である」(※)と記している。

 そう言われてみると無駄を削ぎ落としたソリッドなスタイルや、随所にみられるイメージの喚起力の強い美しい表現は確かに詩人の作品っぽい。この作品自体、散文詩として書かれたものかもしれない。
 

 ※江戸川乱歩『鬼の言葉』(『江戸川乱歩推理文庫〈49〉鬼の言葉』講談社 1988 所収) p.188-189


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