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遠藤周作『三つの幽霊』

 

 遠藤周作『三つの幽霊』(『怪奇小説集』講談社 1973 講談社文庫 所収)

「全国の幽霊屋敷を探検するというのは、私の年来の希望」(p.327)と語る著者の、エッセイ風味の幽霊屋敷もの。著者自身が体験した三つのエピソードで構成されている。すべて本当にあった……という体なので、それぞれの体験談は小説っぽい結構を持たない。

 一つめのエピソードの舞台はフランス。留学中だった著者はルーアンという港町のホテルの一室で、太い腕で胸を締め付けられるような奇妙な体験する。のちにそのホテルが新聞で報じられるほど有名な心霊スポットだったことが判明。ホテルに隣接する空き地では、第二次世界大戦中のドイツの爆撃によって大勢の労働者が死亡したらしいが、それと著者の体験との因果関係は分からない。著者がはじめて渡仏したのは1950年、当時はまだ日本大使館が設置されておらず、邦人の数も十人足らずだったという。

 次のエピソードの舞台も同じくフランス。著者が暮らしていたリヨンの学生寮での出来事だ。クリスマスで舎監や学生がみんな帰省してしまい、一人きりになった(門番はいる)真夜中の寮内で、著者は長い階段をそっと登る自分以外の誰かの足音を聞く。「コウリッジ館」というその学生寮は、昔は汚い「淫売ホテル」だったらしい。著者の孤独感がひしひしと伝わる好エピソードで、三つのうち最も印象に残った。がらんとした夜の洋館の寂しげな雰囲気が素晴らしい。

 三つめは日本での体験。友人の三浦朱門と二人で投宿した熱海の旅館で、ガチな心霊現象に遭遇、ゲロを吐くほどびびっている。就寝中、最初のエピソードの現象に似た圧迫感で目覚めると、「ここで、ここで俺は首をつったのだ」(p.23)と、誰かに耳もとで囁かれたという。また同室の三浦朱門はそのときまだ眠っておらず、部屋の片隅に後ろ向きに座る男を目撃して、パニックに陥っている。おもしろいのはこの強烈な体験にしばらくのあいだ凹みまくっていた著者が、恐怖を断ち切るために再び熱海に赴いて、くだんの旅館に関する聞き込みを行っているところ。旅館はかつて有名な役者の別荘だったらしい。
 このエピソードが最も長く、矢継ぎ早に発生する怪奇現象と著者たちのリアクションが克明に、少しコミカルに描かれていて読み応えがあった。後日談的に家族に生じた障り(のようなもの)についても書かれている。

 ちなみに著者はもともと幽霊や妖怪を全く信じておらず、この体験ののちにも「ぼくは本当に幽霊が実在しているのか、どうか、未だにわからない」(p.6)と記している。だからこそ全国の幽霊屋敷探険なんてことを思い立つのだろう。「あとがき」では読者に幽霊屋敷の情報を募ったりしている。全然懲りてない。


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