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E・T・A・ホフマン『廃屋』

 

 E・T・A・ホフマン(Ernst Theodor Amadeus Hoffmann)著, 池内紀訳『廃屋』("Das öde Haus" 池内紀編訳『ホフマン短篇集』岩波書店 1984 岩波文庫 所収)

 普段からなにかとお世話になっているのだが、まじですごいなインターネット! って思った代表が、事故物件公示サイトの存在。全国津々浦々の「事故物件」をマップを用いて公示するwebサイトだ。ここでいう「事故物件」とは、人の死に関わる事件が発生した「心理的瑕疵物件」のことで、建物の構造や土地、地盤に問題がある方の「事故物件」ではない。当前、幽霊屋敷なんてのは含まれていない。

 そんな「事故物件」の数々を、たまーにストリートビューで見学に行く。バチあたりな気がしないでもないし、かなり悪趣味かつ暗い趣味だけど、これがなぜかわくわくする。きっとあー俺も(私も)それやったことあるわって人もいるに違いない……と思う。ときに未解決事件の情報サイトなどを併用することもある。すごい事件のあった物件の周囲をぐるぐるまわって、犯人はあの窓から入ったのか……などと思ったり、ちょうどバグっているのを見つけてびびったりする。

 もちろん近隣の「事故物件」は一番最初にチェック済みだ。直近はうちから車で二十分くらいのところにある店舗兼住宅(現在廃屋)。怖がりだからがっつり見学に行くような度胸はないけれど、ものすごく意識してしまってるので、前を通るたびにチラ見してしまう。とくに目立ったところのない普通の建物なんだけど、ここで……なんて思って見ると、また違った情緒が漂っているように思う。夜の深い時間ともなればなおさら。

 ホフマンの『廃屋』は、町並みに溶け込んだいわく付き物件と、その建物の謎に迫るうちに精神に変調を来した主人公の話。といっても普通のホーンテッドハウスものとは一味も二味も違っている。なにせ主人公が全然建物に入らない。周辺をうろうろ歩きまわり、入りたいとは思ってるらしいのだけれど、入らない。ようやく入るのが残り1/3を過ぎたあたりで、入ったと思ったら今度はすぐに(2ページ強で)出てきてしまう。

 そのあいだ主人公がなにをしてたかっていうと、『ビデオ・ドローム』(1982)のマックスみたいにテクノロジーの網膜に映ったバーチャルな女性(←廃屋在住)に恋をしたり、「精神とは」みたいな話を長々と展開している。実はこのあたりがホフマンの真骨頂らしいのだが、自分としては幽霊屋敷はよ! って感じでもやもやしてました。で、肝心の廃屋突入はというと、上記の通りごく短いもののすごいインパクトで、一番嫌なタイプの出来事が発生している。

 この「廃屋」の謎は物語の大詰めで詳らかになるのだが、「廃屋」を「廃屋」たらしめていたのは、建物に詰まった強烈な愛憎と狂気、それからひと匙のオカルティズムだった。普通にイメージする幽霊屋敷ものとは随分異なっているけれど、町なかに潜むいわく付き物件の不気味さについては大いに共感できる作品。考えてみればストリートビューで事故物件見学って、主人公の行動と酷似しているような気がする。挿画はA・クービン。


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