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島田荘司『寝台特急「はやぶさ」1/60秒の壁』

 

 島田荘司『寝台特急「はやぶさ」1/60秒の壁』光文社 1988 光文社文庫

 マンションの一室で浴槽に浸かった女の変死体が発見される。捜査関係者を驚かせたのはその死体の状況だった。顔面の皮膚を剥がされ、持ち去られていたのだ。捜査が進むと不可解な証言が得られた。死亡推定時刻、彼女は寝台特急「はやぶさ」に乗車していたというのだ。目撃者は複数で写真まで撮られている。捜査一課の吉敷竹史は事件関係者の足取りを追って東奔西走するが、容疑者は絞りきれない。そして第二、第三の殺人が発生する。

 前に感想を書いた『出雲伝説7/8の殺人』の一つ前の作品で、吉敷竹史を主人公としたシリーズの一作目である。『寝台特急「はやぶさ」1/60秒の壁』→『出雲伝説7/8の殺人』→『北の夕鶴2/3の殺人』→ という順番で現在15冊ほど刊行されている。刊行順に読むのが望ましいとは思うが、最初にタイトルだけで選んでるので、結局バラバラの順番で読んでしまっている。幸いそんな読み方をしても、ほとんど不都合を感じることなくどの作品も楽しめている。この作品も言われなければシリーズの一冊目とは気付かなかったと思う。くどくどしい人物紹介などすっ飛ばしてどんどん話が進むのが実に気持ちいい。読者は緩急自在な文章に引っ張り回されて、主人公の思索と旅の道程を辿ることになる。

 特に印象的なシーンが二つあった。まず一つ目は当然冒頭の死体発見シーン。青みがかった真冬の早朝の雪景色の中、マンションの浴室の小さな窓の奥に、浴槽に身を横たえる女の姿が垣間見える。女は昨夜から全く微動だにしない。あの小さな窓の内は時間が凍り付いているかのようだ……。幻想的で静謐な光景と、直後に判明する死体の惨状が美しいコントラストをなしている。発見者は近隣のマンションの覗きを趣味にしているおっさんで、ドラマでは稲川淳二が好演していた。
 もう一つはシーンというより、第三章の前半まるまる。「もう一人の千鶴子を捜して」というサブタイのこの章で、吉敷は被害者の家族と面会するため列車で新潟へ向かう。著者の文章は時にびっくりするほど叙情的になる。で、そんな時は、いつもの何割り増しかで綺麗さが増すように感じられる。このくだりが顕著な例だ。寒さの厳しい日本海側の風景が、吉敷の追想を交えて情感たっぷりに描かれていて、読んでるうちに、ちょっと日本海でも見てくるかなーって気分になってくる。こんな感じで旅への感興を読者に抱かせるのがトラベルミステリーの要件なのだとしたら、本作は非常に充実したトラベルミステリーだと思う。

「ミステリー」の方は著者の作品らしく、トリッキーで最後の最後まで捻られている。なので途中から全然別の人物を犯人だと思い込んで最後まで読むことになってしまったが、第一の殺人については鑑識の船さんが色々話してくれるので、早い段階(容疑者が揃ったあたり)で、犯行の概要が掴めてしまうかもしれない。冬の日本海を見に行きたくなる一冊。



『寝台特急「はやぶさ」1/60秒の壁』
 光文社 1988 光文社文庫
 著者:島田荘司
 解説:綾辻行人

 ISBN-13:978-4-3347-0672-2
 ISBN-10:4-3347-0672-X


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島田荘司『出雲伝説7/8の殺人』

 

 島田荘司『出雲伝説7/8の殺人』光文社 1988 光文社文庫

 バラバラにされた七つの女性のパーツが、それぞれ異なった電車で運ばれて、七つの駅に漂着する。犯行の動機も、なぜそんな面倒な手段で死体をばらまいたのかも分からない。なにより頭部が見つからないから、被害者の身元さえ確定できない。休暇で山陰地方を訪れていた警視庁捜査一課の吉敷竹史は、たまたまこの犯罪の渦中に巻き込まれていく。

 この本を買ってきたのは「出雲伝説」って所に惹かれたのと、これまでに読んだ著者の作品がもれなく面白かったから。で、読んでみたらやっばり面白かった。『占星術殺人事件』の印象がものすごく強かったので、最初またバラバラかよ! って思ったけど全然違ってた。
 今回はすごく珍しく、トリックの概要が早い段階で掴めたから、読み進めるうちに自分の思いつきがどんどん証明されていく感じが楽しかった。こういう事はまずないので珍しい経験だった。

 タイトルの「出雲伝説」は記紀の三割程度を占める「出雲系神話」の事を指していて、それがややこしいトリックに見事に融合されている。スサノオノミコトのヤマタノオロチ退治をはじめ、五穀の起源や因幡の白兎の話なども取り入れられているし、ここぞという場面で女性に化けた男が活躍するのも、それとは書かれてないけどなんとなく日本神話っぽい。
 (実はこのあとヤマタノオロチついて、いつも以上に長々と書いてしまったのだけれど、いつも以上に本題からかけ離れてしまったので今回は削除してしまった。もうちょっとぴったりな記事の時にでも書き直そうと思う。)

 ところで上の方で「謎はすべて解けた!」的なことを調子にのって書いてるけれど、最後まで読んでも分からなかった事がある。犯人はなぜ親族を巻き込んでまで、あんな面倒で足のつきそうな手段を選んだのだろう。単にアリバイを作るためとも思えないし……。もしかすると一気に読んでしまったから、おもっきり見落としているのかもしれない。色々うっすら忘れたころに再読してみよう。
 これまで時刻表が載ってるトラベル・ミステリーは、ほとんど読んだことがなかったけど、上記のような興味深いネタがラストまで途切れずに出てきて、とても楽しく読むことができた。ほろ苦いエンディングも、作品全体のなんとなく寂寞とした雰囲気にぴったりだったと思う。



『出雲伝説7/8の殺人』
 光文社 1988 光文社文庫
 著者:島田荘司

 ISBN-13:978-4-3347-0722-4
 ISBN-10:4-3347-0722-X


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