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小栗虫太郎『方子と末起』



 小栗虫太郎『方子と末起』(中井英夫他著『不思議の国のアリス・ミステリー傑作選』河出書房新社 1988 河出文庫 所収)

 おもしろかった!

 密室殺人に『不思議の国のアリス』をからめた作品。療養所に入院中のグラン・スール探偵が登場する。このキャラ設定はかなり珍しいんじゃないだろうか。
 主人公は「方子」(まさこ)と「末起」(まき)という二つ違いの女の子二人。「お姉さま」「末起ちゃん」とたがいに呼び合い、手紙に「末起ちゃん、御免なさいね、あたくしの、可愛くって可愛くって嚥みこんでしまいたいあなたに、あんなことさせて」(p.147)とか素で書いてしまうような、スールな関係にある。樹木に二人のイニシャルを彫り込んだりしてる。
 そんな二人だったが、近頃はちっとも一緒にいられない。グラン・スールの方子が療養所に入ってしまったからだ。しかしそうなればなったで「遠くあれば一日一夜も思はずてあるらむものと思ほしめすな」って感じで、思いはますますつのっていくのだった。

 あの『黒死館殺人事件』の著者が「アリス」。またとんでもないのが来そうだなーなんて思ってたら、少女小説がはじまった。予想外。著者には本作が発表された前年にカリエスで夭折した娘(方子のキャラ造形に投影されてると思う)がいたそうだし、このままジュブナイルっぽく進むのかなーなんて思ってたら、方子が「アリス」をネタに法水麟太郎みたいな暗示に富んだ超推理(?)を展開しはじめた。予想外!

 プティ・スールの末起の母親が殺されたのは、四年ほど前のことだった。犯人は祖母ってことになってるけど、末起にはそれが信じられない。真犯人を突き止めるには密室の謎を解かなければならない。さんざん思いあぐねた末起が療養所の「お姉さま」に救いを求めたところ、返信と一緒に『不思議の国のアリス』が送られてきた。「お姉さま」によると、この本には末起の悩みに対する答えが示唆されているらしいのだが……。
 結局、方子があっさり解いてしまった密室のトリックは、著者ならではのスタイルで、ものすごく実現可能性が低そうな感じ。なぜわざわざ末起の髪を用いたのかもよく分からない。愛人とかいたはずなのに。とはいえ方子にとっては、ことの真偽はあまり重要ではなかったようだ。

 本作では上記のように不思議な推理(?)のネタとして『不思議の国のアリス』を引用しているが、主人公の二人がかりそめにも「姉妹」だったり、末起が「お姉さま」のもとへ帰るためには「鍵」が必要だったりと、作品自体「アリス」を念頭に書かれているように思う。物語のラストもまた「アリス」と同様に、土手の上で姉が一人、愛しい妹に思いを馳せるシーンで終わる。この場面は「方子は、口をとがらせ、うっとりと抗議を呟いた。腹んばいの、したからは土壌の息吹きが、起伏が、末起の胸のように乳首に触れる。回春も近い。方子は自分の呼吸にむっと獣臭さを感じた」(p.148)って感じの、本家に勝るとも劣らない美しい表現で、とても印象に残った。


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