森由岐子『おじょも寺の妖怪地蔵』

 森由岐子『おじょも寺の妖怪地蔵』ひばり書房 1984 ヒット・コミックス 171 怪談シリーズ

「滝の近くにおじょも寺という古いお寺があるが、あそこだけは近寄るでないぞ……」
 夏休み、S村を訪れた「あゆこ」「可奈」「一馬」の仲良しグループに、可奈の祖母が話しはじめた。S村は可奈の母の実家がある静かな山あいの村である。祖母によるとその廃寺には「おじょも」という妖怪が出ると伝えられていて、これまでに何人もの僧侶が狂死したという。
 そんな祖母の話を迷信と決めつけ、易々と「おじょも寺」に足を踏み入れてしまう三人。ところが寺の様子が聞いた話とは少々異なっている。荒れ果てて、無人だったはずの寺に、一人の美しい尼僧が住んでいたのだ。三人は何事もなく帰路に着いたが、数日後、女子二人に内緒で寺に出向いた一馬が行方不明になった。そして発見されないまま夏休みが終わろうとしていた。可奈は寺を訪れ一馬の行方を尋ねるが、尼は何も知らないという。そしてその際、尼から一体の地蔵を手渡される。「これを持っていると、なんでも願いが叶えられますよ……」
 東京に戻ってしばらくすると、可奈の様子がおかしくなりはじめた……。

『亡霊怪猫屋敷』(1958)にブラム・ストーカーの『吸血鬼ドラキュラ』(“Dracula”)を足してふんわりさせた感じの、正統派オカルトモンスターホラー。珍しい怪猫ものである。

 今回著者はその作風を特徴付ける外面の美しさへの執着や妬みを隠し味程度に抑え、終始モンスターとして顕現する呪いと、それを封じるべく悪戦苦闘する現代っ子の描写に徹している。上記の田舎を舞台にした雰囲気のいいパートは作品の「序」、中盤で舞台を都会に移して「破」、再び田舎に戻って終わる「急」というシンプルな構成をとっており、この三部の構成自体『亡霊怪猫屋敷』が念頭にあったような気もするが、とにかく無駄のない展開でグズグズ足踏みをしないのが素晴らしい。個人的には散々ダメだって言われてたのに、嬉々として地雷原に踏み入るアホなハイカーと、怪しい尼僧を露悪的に描いた「序」が王道! って感じで好きなんだけど、もちろん後に続く「破」「急」にも見所は多い。冷蔵庫から魚を取り出して可奈がヨダレを垂らすシーン、犬の死骸の前で三角座りの可奈、あゆこと変身済みの可奈が揃って「はっ」とするシーン等々。
 ところで以前にもちょっと書いたけど、自分はこの著者の作品をネタ的にじゃなくがっつり好きなので、ネタ的に扱われてるのを見ると取り上げられて嬉しい反面、そこはかとなく切なくなってしまう。唯一のホラー漫画友達だったグルグル映畫館の天野くんにも、よく「マジで森由岐子好きっすよねー。面白いことは面白いけどなー」なとど不思議がられたものだ。マジで好きなんだけど、どこがっていうと上手く伝えられないのがもどかしい。

 閑話休題。この作品に出てくる「おじょも」という妖怪、調べてみたら著者の完全な創作ではなく、元ネタらしきものがあることがわかった。香川県坂出市に伝わる「おじょも」と呼ばれる巨人の伝説がそれである。郷師山と飯野山に足をかけて放尿したというから豪快にでかい。本作に出てくる「手や足が獣のようであり、頭には角があり、体つきは人間のようで、しかも長い尾を持つみにくい妖怪」という『ダンウィッチの怪』(“The Dunwich Horror”)のウィルバー・ウェイトリーに似たモンスターとは随分異なっている。単に名前を借りただけなのか、もしかするとどこかにもっと劇中の妖怪に近い姿のものがいるのかもしれない。余談だが上記の飯野山は古代のピラミッドじゃないかってことで、オカルトファンにはかなり有名。また香川県旧飯山町にはこの巨人おじょもの足跡を図案化したマンホールの蓋がある。

 怪猫ものはホラー漫画の中でも輪をかけてニッチなジャンルで、最近ではすっかり見かけなくなってしまった。本作は娯楽性の高い好編で作画も終始安定しているから、怪猫ファンにはオススメ。面白かった!



『おじょも寺の妖怪地蔵』
 ひばり書房 1984 ヒット・コミックス 171 怪談シリーズ
 著者:森由岐子

 ISBN-13:978-4-8280-1068-7
 ISBN-10:4-8280-1068-8


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いけ『ねこむすめ道草日記〈15〉』

 

 いけ『ねこむすめ道草日記〈15〉』徳間書店 2017 リュウコミックス

 今年も無事に『ねこむすめ道草日記』の新刊が出た。しかもまだわりと早い時期なので、めっちゃ上手く行けば年末にもう一冊読むことができるかもしれない。今回は第87話~第92話+おまけを収録。前巻には4話連続、計100ページの長編が収録されていて、続き物として過去最長だったのだが、この15巻ではそれを楽々と上回ってしまった。1巻丸々続き物である。人間側に新キャラが投入され、帯に「【ねこむすめ】史上最大のアクションが展開される!!!」とある通りの長いバトルもある。

 いつものコンビニに出現する化けガエル(ガマ子)。とにかく変化が下手くそなので、現地ではすっかり「蛙人間」として噂になってしまっている。それをどうにかしようとする妖怪と人間たち。「黒菜」たち妖怪が「化け学教室」にガマ子を入門させて猛特訓に励んでいた丁度その頃、コンビニの近くの川べりでは噂を聞きつけてやってきたJK式神使い「九条小夜子」と、蛙人間に間違われた「カッパ」との壮絶なバトルが始まろうとしていた。……というのが大まかなストーリー。

 正直1話目(第87話)を読んだ時点ではそれほどでもなかったのだが、後の方に行くほど尻上がりに面白くなった。通常のまったりドタバタしたノリも維持されているし、妖怪側と人間側がそれぞれしっかり描かれているのも良かった。後半は今回微妙なフラグを立てたカッパと新キャラによる高架下のバトルが中心となるが、カッパといえば、九州にはカッパのルーツを川に流された「人形」(式神みたいな感じ)とする説がある。それを踏まえた上での式神バトルだろうか。カッパが適度にふざけているので、バトルが殺伐としてなくてほどよかった。ナイスカッパ。
 この「ねこむすめ~」に関しては、長らく続き物には乗れないなーと感じていたんだけど、それも過去の話。そのイメージは前巻で大いに払拭され、この15巻はさらに楽しく読むことができた。あと「ちーちゃん」と一緒に出てきた見習い神使の「朱音」が可愛かった。



『ねこむすめ道草日記〈15〉』
 徳間書店 2017 リュウコミックス
 著者:いけ

 ISBN-13:978-4-1995-0553-9
 ISBN-10:4-1995-0553-9


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古賀新一『白衣のドラキュラ』



 古賀新一『白衣のドラキュラ』ひばり書房 1986 ヒット・コミックス 44 オカルトシリーズ 5

「僕にとってあなたは突然すぎたんだ。人同士ってこんなもんなんだよな」……これは戦闘中にチャクラが開いたアムロとララァの感応の一節だが、何から何まで突然すぎるのがこの『白衣のドラキュラ』。みごとに1ミリ先の展開も読めない、雑にいえば行き当たりばったりこの上ない作品である。著者の作品には往々にして同様の傾向が見られるのだが、だからといって面白くないとは限らない。この作品も対象とする読者を怯えさせるには充分な性能を有している。

 森の中らしき白い空間で、ノスフェラトゥタイプの吸血鬼に襲われる少女。彼女は近くの病院の入院患者だった。主人公の「綾子」も同じ病院の入院患者で、被害者「由紀子」とは同室の親しい間柄。由紀子は病院に運び込まれたあと、老婆のように衰弱して死亡してしまう。その夜、綾子は看護師が由紀子の死体をこっそり運び出すのを目撃するが、見つかって口止めをされる。この病院にはなにか怖ろしい秘密があるらしい。それをみんなして隠蔽しているのだ。頼りになるのは病院のすぐそばに住んでいる医師、「ユミ先生」だけ……。

 見知らぬ医療施設、白い壁と廊下がどこまでも続いている。両親は見当たらない、唯一の友人は死亡。頼るべき医師、看護師はどーみても怪しい。少女にはマンガ的な能力はなにひとつ備わってない。何者かに襲われたとしても、対抗する手段がないのだ。廊下の曲がり角の向こう、暗いドアの向こう側になにが待ち構えているのかわからない。こんな状況に、伏線もなく、お約束も通用しそうにない、行き当たりばったりの展開がよく馴染んでいて、吸血鬼ものというより脆弱な少女が病院内をひたすら逃げまどうシチュエーションホラーといった趣き。当然、主人公の少女に感情移入するほど作品は面白くなる。意図されてのことかどうかはわからないが、少女の知りえない情報がほとんど描かれないのも効果的だと思う。
 誰にでもオススメできる作品ではない。それでも自分はこの作品が好きだ。ちっこいビオランテみたいな怪物が出てきて以降の、ふっ切れたようなハイテンションさには変な爽快感があるし、なにより主人公の無個性なほどの天真爛漫さが素晴らしい。

 本書にはもう一編、『白衣のドラキュラ』とは随分異なる繊細な絵柄の短編、『黒髪の呪い』が収録されている。スタンダードな髪の毛の怪談かと思いきや、片足が飛び回りひたすら主人公を怯えさせるという、シンプルだが驚異的なシーンが頻出する。タイトルに偽りありの面白い作品だった。



『白衣のドラキュラ』
 ひばり書房 1986 ヒット・コミックス 44 オカルトシリーズ 5
 著者:古賀新一

 収録作品
 『白衣のドラキュラ』
 『黒髪の呪い』

 ISBN-13:978-4-8280-1044-1
 ISBN-10:4-8280-1044-0


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花輪和一『護法童子』

 花輪和一『護法童子〈1〉』双葉社 1985 アクションコミックス
 花輪和一『護法童子〈2〉』双葉社 1986 アクションコミックス

 日本の推理小説には三大奇書と呼ばれる作品がある。小栗虫太郎の『黒死館殺人事件』、夢野久作の『ドグラ・マグラ』、中井英夫の『虚無への供物』がそれで、どれもアンチ・ミステリーであるという共通点がある。「奇書」、『広辞苑』で引いてみると「珍しい文書・書籍。奇紀」というあっさりした記述。中国では単に「面白い書物、優れた書物」という意味の言葉らしいが、Wikipediaによると日本の推理小説における奇書には「実験性、幻惑性などに重きをおいた」ニュアンスがあるという。もちろん実験性と幻惑性だけでは「奇書」とはなり得ない。それだけならトンデモ本である。調子に乗ってうっかり読み始めた中学生を何度も挫折させ、どうにか読み終えても「……今日、学校やめとくわ」って気分にさせる、そんな圧倒的なWTF感。それこそが奇書の奇書たる所以だと思う。それから長期的に毀誉褒貶の評価にさらされながら、カルト的な支持を得続けていること。自分は読むジャンルが偏っているからアレだけど、あらゆるジャンルにおいて奇書と呼ばれる本が存在しているのだろう。例えば宮沢賢治の『春と修羅』あたりは確実にこれ奇書だろ! って感じなんだけど、そう呼ばれてたかどうかは知らない。

 花輪和一は出す本が片っ端から奇書オーラ(特濃)を纏っているという稀有なマンガ家である。読むジャンルも狭く、また読んだ作品数も普通にマンガ読むよって人と比べて確実に少ない自分から見ても、この人の筆力(ペン力?)は尋常じゃない。国宝『信貴山縁起絵巻』にインスパイアされたという『護法童子』は、そんな著者の代表作の一つだ。
 中世の世界を旅する男の子と女の子。一見ブサイクな双子にしか見えない二人だが、ひとたびウルトラマンA(またはガ・キーン、アイゼンボーグ)のように合体すれば、護法童子と化して天を駆け、様々な神通力を振るうことができるのだ。二人は旅の道すがら、いい加減に関わりあった人々を適当に救ったり救わなかったりしつつ、奈良の信貴山へと向かう。ロードームービー、もしくは道行といった感じの物語である。
 二人が関わる人々は概ね家族の絆という強烈な呪縛の中で苦しみ悶えている。著者の幼児体験が反映されているのかなと思う。ど変態な責め苦を受ける清らかな少女には多くの場合救いがもたらされ、責め手は酷たらしい死を遂げたり、奇怪に変形したり、狂ったりする。これが各話の黄金パターンなのだが、勧善懲悪ではなく因果応報の物語なので主人公が全く活躍しない話もある。作画は相変わらず極上、というかノリに乗っている感じ。本作は著者にとって初めての連載だったのだそうだ。夕空に梵字が浮かび、魑魅魍魎が跋扈し、美少女がおぞましい仕打ちに耐える、清濁がごちゃまぜとなった平安の世界が見事に描き出されている。今回は特に何話目が……って感じで書くのはやめとこうと思う。全ての話がとにかくすごくて、まさに圧倒的なWTF感。

 この双葉社から出てた全2巻の本は、少々痛みやすいのが玉にキズだけど、著者が「美しく立派な本に造っていただいた」(「あとがき」より)という通りの美しい本で、カラーページも非常に充実している。2009年にぶんか社から復刊された際に全1巻にまとめられ装丁が変わってしまったが、それでも気軽に読めるようになったのはよかった。



『護法童子 巻之(一)』
 双葉社 1985 アクションコミックス
 著者:花輪和一

 ISBN-13:
 ISBN-10:

『護法童子 巻之(二)』
 双葉社 1986 アクションコミックス
 著者:花輪和一

 ISBN-13:978-4-5759-3066-5
 ISBN-10:4-5759-3066-0


 こちらはぶんか社版で全1巻。カラーページもしっかり収録されている↓

 

 花輪和一『護法童子』ぶんか社 2009


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伊藤三巳華『濡れそぼつ黒髪』

 

 伊藤三巳華『濡れそぼつ黒髪』朝日新聞出版 2012 HONKOWAコミックス

 以前なら「怖っ!」って思うはずのところを「凄っ!」って思うことが多くなっている。CSでやってる怪奇系の番組を見ながら、そんなことをふと思った。頻度でいえばそんな風に感じること自体、少なくなっているような気もする。
 もともと怪談やホラーなんて全然怖くないって人もいるかもしれないが、自分は本来怖がりな方で、子供の頃は刑事ドラマに出てくる白目を剥いた死体を見てびびりまくっていたのだ。それなのに気付けば「ほんとにあった~」とか見ながら夕飯食べるようになってる。これは由々しき自体だ。怖いシーンを見たら「今のは良かった」なんて感心するより、「怖っ!」って思う方が楽しいに決まっている。

 子供の頃、周囲にはオカルトっぽいものが溢れていた。当時は何度めかのオカルトブームで、TVも漫画も学校での雑談も怪しげなオカルトネタが幅をきかしていた。そんな有象無象、玉石混淆の数あるオカルトネタの中で、最も強烈で禍々しい恐怖アイテムだったのが、中岡俊哉の『恐怖の心霊写真集』である。中身を見るどころか、触るだけでも呪われそうな、リアルネクロノミコンな本だった。目につくところに置いてあることが嫌で嫌でたまらなかった。それなのに新刊が出ると友達から借りてきて、夜になると借りてきたことを後悔する、そんなアホな行動を繰り返していた。今見ると草むらにやたら「コダマ」(もののけ姫の)みたいな顔が白く書き込んであるページばかりで、怖いというより面白くなってしまっているのだが。

 といった具合にオカルト関連本を借りてきて眺めたり、TVの心霊番組を家族で見たりしてオカルト生活をエンジョイしてたのだが、ずっと不満に思っていたことがあった。それは小学校高学年くらいの自分から見ても、次々に登場する霊能者の方々の絵があまりにも下手すぎるということだった(宇宙人の目撃者もひどかったけど、たまたま見ただけの人なのでまあ仕方がないって思った)。ちょっと下手とか、苦手そうって感じじゃなくて、とにかく雑。天は二物を与えずというけれど、せめて一回見直せよ、絵心がないなら真心をって感じだった。

 この手のグチを書きはじめるとキリがなくなるし、何書いてるのかわからなくなってきたのでやめとくけど、この『濡れそぼつ黒髪』は ↑ のような積年の恨み、じゃなくて長年の不満解消の一助となる好著である。
 古来、漫画家、特に少女漫画家の中には、霊感がある、心霊体験がある、お告げが聞こえる、私こそ神の依代だ等々公言して憚らない作家がいて、実体験を反映した作品を発表してたりするが、本作はそういった作品群とは一線を画していると思う。めっちゃざっくりいうと、この作品は「漫画家が実体験をもとに描いた心霊漫画」ではなくて、「霊能者が実体験をもとに描いた心霊漫画」なのである。同じようなもんだろと思われるかもしれないが、なんかちょっとやっぱちょっと違う。
 著者は『視えるんです。』『スピ☆散歩』といった心霊・スピリチュアルエッセイ漫画で知られる伊藤三巳華。これらの著作では主にデフォルメ調のファンシーな絵柄が採用されており、ごくたまーにシリアスな心霊描写が挿入されて効果を上げているが、この『濡れそぼつ黒髪』は全編シリアスな絵柄。心霊ものにぴったりのギクギクした感じの神経質そうなタッチで、これがまた上手い。『視えるんです。』をイメージして読むと落差にびっくりする。デフォルメが上手い人はシリアスも上手いというのは本当らしい。

 本書に収録されたエピソードは全部で6編。著者「みみか」をはじめ登場人物は共通するが、ストーリーに連続性はない。全て著者の実体験や知人から聞いた話をもとに描かれている。基本「見ただけ」の話だが、怪異を感知するのが著者だけではなくて、他にも程度は違えどそれを感じるキャラが配置されておりリアリティを補強している。どのエピソードも甲乙つけがたい出来映えだったが、表題作の「濡れそぼつ黒髪」「悪戯(いたずら)」「居候(いそうろう)」の3編は特に好みだった。どれも幽霊の出る部屋や建物にまつわるエピソードである。
 自分は幽霊の類いは一切見たことがないし、本書に出てくるタイプのものはお断りだが(かわいいのは歓迎)、こんな風に見えるのかーとワクワクしながら読むことができた。心霊漫画が好きな人にはオススメの一冊。



『濡れそぼつ黒髪』
 朝日新聞出版 2012 HONKOWAコミックス
 著者:伊藤三巳華

 収録作品
 「濡れそぼつ黒髪」『ほんとにあった怖い話』2005年1月号 掲載
 「悪戯(いたずら)」『ほんとにあった怖い話』2005年9月号 掲載
 「黒煙の土地」『ほんとにあった怖い話』2006年3月号 掲載
 「肝だめし」『ほんとにあった怖い話』2006年9月号 掲載
 「聖夜の遺言」『ほんとにあった怖い話』2007年1月号 掲載
 「居候(いそうろう)」『ほんとにあった怖い話』2007年7月号 掲載

 ISBN-13:978-4-0227-5309-0
 ISBN-10:4-0227-5309-9


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さがみゆき『血に炎える死美人』

 さがみゆき『血に炎える死美人』ひばり書房 1986 ヒット・コミックス 132 怪奇ロマンシリーズ

「純子」と「まり」の仲良し姉妹がTVの恐怖劇場(ひばり書房提供)に悲鳴をあげていると、兄が帰宅した。美しい女性を連れている。映画スターだろうか……。姉妹の兄は怪奇作家だ。小説がドラマ化されたりして、最近人気が出てきている。そんな兄へのファンレターの中に奇妙なものがあった。血で染め上げられたような真っ赤な着物が送られてきたのだ。同封されていた手紙には、着物にまつわる奇怪な伝説が綴られていた。
 ……明治のころ、富士の風穴のすぐそばの集落に「鈴子」という美しい娘がいた。彼女は自らの美貌に病的に執着し、美貌を維持するためと称して、蛇やムカデ、昆虫を好んで食べた。それを知っているのは彼女が嫁いだ先、村で一番醜く、一番金持ちの「源吉」ただ一人だった。鈴子はやがて娘をもうけたが、「かおる」と名付けられた娘は他家に預けられて育った。鈴子が娘を抱こうとさえしなかったからだ。それでもかおるは美しく成長し、年老いた父源吉が身罷ると母のもとを訪ねた。驚くべきことに母鈴子は未だに若さ、美しさを保ち続けていた。母の住居で夜を迎えたかおるは、母の怖ろしい秘密を知ってしまう。鈴子の美貌の秘訣は度を越した悪食だけではなかったのである。暗い風穴の中で殺害した人の血液を自らの花嫁衣装に吸わせ、それを身にまとうことで若さを保っていたのだ。
 この手紙の真偽を確かめるべく、純子は兄とその連れの女とともに富士の集落へ向かう。

 女性の美と若さに対する妄執を描いた和洋折衷ホラー。血の伯爵夫人エリザベート・バートリの伝説を、閉塞感たっぷりの過去と現在の日本の集落を舞台に展開する意欲作である。無理やりカテゴライズするなら吸血鬼ものだけど、雰囲気は横溝正史の金田一シリーズとかあのあたり。著者の作品らしく、蛇の串焼き(全長50cmくらい)を「ガブ!」って頭から食べる場面(p54)をはじめ、ゆるくてファニーなシーンも多い。なかでも一押しのシーンはp126の下段2コマ。「何百年もたっているのにこの布はうつくしすぎるわ……」「何百年もたっているのにこの着物は新しすぎるわ……」と純子が繰り返しつぶやくシーンだ。上のコマでは沈黙思考する表情、すぐ下のコマでは両頬に手を当てて驚いたように目を見張っている(ムンクの『叫び』のポーズ)。メリハリが半端ない。面白いだけじゃなくて、著者の直感的な表現の手腕が如実に発揮されている。
 トイレに行きたい、でも怖い、が繰り返されるのも、読者層を強く意識したサービス精神の表れだろう。あと永井豪のオモライくんがチラッと登場するコマがある。ファンだったのかな。

 このあたりの作品を読むと、ストーリーといいスケール感といい、ゆるめの2時間サスペンスドラマの原作にぴったりだと思うことが多い。とくにこの作品はコマ割りから何から、それらしい雰囲気がビンビンする。今更どうにかなるとも思えないが、こうしたポテンシャルを持つ作品が放置されたままになっているのは残念なことだと思う。ほんと惜しい。



『血に炎える死美人』(旧題:ミイラ死美人)
 ひばり書房 1986 ヒット・コミックス 132 怪奇ロマンシリーズ
 著者:さがみゆき

 ISBN-13:978-4-8280-1132-5
 ISBN-10:4-8280-1132-3


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さがみゆき『血まみれカラスの呪い』

 

 さがみゆき『血まみれカラスの呪い』ひばり書房 1986 ヒット・コミックス 58 怪奇ロマンシリーズ

「あの人が私を狂わせてしまったのです。けれど私はすこしもあなたを恨んではおりません……」(p.06)

 転校してきた「由利桜子」さんは絵に描いたようなサイコパス美少女。主人公の「小野けい子」がそのことに気付いたのは、彼女と互いの血を舐めあって心の友の誓い(Omertà)を立てた後だった。その直後から、由利さんの残虐な振る舞いはエスカレートしていく。カラスの雛と、その親ガラスを惨殺し、でかいアリンコを踏みにじる。自宅には等身大の奇怪な人形がぞろぞろ吊り下げられて、すっかりオバケ屋敷の様相を呈している。人形は全て彼女の母親のハンドメイドらしい。
 そんな由利さんに振り回されるけい子だったが、次第に自分自身の嗜虐的な性向に気付きはじめた。見渡せば世の中は残酷なことに満ちている。誰もが多かれ少なかれ残酷なものを好み、それをひた隠しにしているのだ。やがて二人は由利さんの母親に主導され、クラスメイトのメガネ女子を発狂させてしまう。二人の残酷な「いたずら」はどこまでエスカレートするだろうか。

 衝撃的な入れ歯、カツラのキャストオフシーンや、キャッチーな絵柄が頻出してネタっぽく扱われることの多い作品だが、古典的な少女小説の要素を備えていることも見逃せないポイントだ。というか本質的には「少女小説の読者の女の子たちが、思いつくままてきとーに(ときにふざけたりしながら)話した怖い話」って感じの作品だと思う。そのためピー音でまるまる聞こえなくなるような暴言を吐くキャラが出てきたり、とんでもない出来事が起こっても、どことなく慎ましやかで、そこはかとない品が感じられる。こういうニュアンスって簡単に狙って出せるものではないから、もともと著者に備わったセンスなのだろう。
 よく言えば『ジュニア それいゆ』とかに載ってそうな本作のクラシックな絵柄も、そんな作風によく似合っている。絵的には非常に見せ場が多いが、一番のおすすめは由利さんがけい子の腕にかぶりつくシーン。「ガブ」っといってるのに、無表情なつぶらな瞳がかわいい。血筋の「血」、誓いの「血」、流れ出す「血」など、いろいろな意味合いの「血」に囚われた少女たちの妖しく楽しい日常を、品良く、たどたどしく描き出した愛すべき作品。



『血まみれカラスの呪い』(旧題:美少女とカラス)
 ひばり書房 1986 ヒット・コミックス 58 怪奇ロマンシリーズ
 著者:さがみゆき

 ISBN-13:978-4-8280-1058-8
 ISBN-10:4-8280-1058-8


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『本当にヤバイ ホラーストーリー 友だち地獄』

 

 永遠幸 地獄少女プロジェクト, 瀬田ハルヒ, 寿えびす, 秋本葉子, 瑞樹しずか著『本当にヤバイ ホラーストーリー 友だち地獄』講談社 2012 講談社コミックスなかよし 1360

 各社から少女向けのホラーアンソロジーが刊行されるなか、全巻共通の「~地獄」というおどろおどろしいタイトルが特徴的なのが、この「本当にヤバイ ホラーストーリー」シリーズ。通称「ヤバホラ」。「~」には「ヒミツ」「放課後」「ケータイ」など各巻のテーマとなる単語が入る。
 この第1巻は「友だち地獄」。収録作は全部で5編、うち1編は『地獄少女』のスピンオフっぽい作品で、実話怪談の体のエピソードも2編含まれている。主要な登場人物は全て小学生から高校生くらいの女子。どのエピソードでも彼女たちの心の綾を丁寧に描き、対人関係のちょっとした悩みや友人とのすれ違いを盛大に拡張して、教訓を含んだホラーストーリーに仕立てている。作画は当然ながら少女マンガタッチ全開でとても可愛らしい。

『地獄エレベーター』瑞樹しずか「愛知県 早坂和香さん(高1)のハガキをもとにしたお話です。」
 二人の秘密の遊び場は、今ではあまり使われなくなった旧エレベーター。学校の帰りにはエレベーターに乗って、友達の「好き度」を教え合う。ある日一人のクラスメート(女子)の評価をめぐって、二人は仲違いをしてしまう。なかなか仲直りするきっかけを掴めない主人公だったが……。
「親友」に抱いた嫉妬と疑念が悲劇を生む話。……って書くとめっちゃドロドロしてそうだけど、嫉妬といっても「〇〇ちゃんって、あたしよりあの子の方がいいんだー」程度の、ほんのちょっとしたヤキモチが発端になっている。しかもすべてが主人公の独りよがりだったりする。死亡エンドなので実話怪談ぽさはスポイルされてしまっているが、思春期の主人公の捉える世界の偏狭さが悲劇に直結しているあたり、正調少女向けホラーとしての完成度は高い。幽霊も出る。

『てるてる坊主』瀬田ハルヒ「東京都 菅統子さん(中1)のハガキをもとにしたお話です。」
 遠足の班分けで先生に「〇〇さんも班に入れてあげてくださ~い」って言われる小学生の女の子が主人公。高飛車でクラスメートをことごとく見下している反面、実は仲間に入りたくて仕方がないという、厄介なコミュ障キャラである。ポイントは「自分の思い通りの待遇で仲間に迎えられたい」ってところ。そんな主人公がクラスに溶け込めたきっかけは、彼女のてるてる坊主がとにかく「効く」からだった。これも死亡エンド。主人公がせっせとてるてる坊主を作りはじめたところでオチが読める。それにしても「好きなもの同士で〜」とかさっさと禁止すべきだなー。

『ゆーれいライフ』寿えびす
 イケメンのゆーれいとの淡い恋愛を経た霊感少女が社会復帰を果たす話。少年マンガなら確実にエロ方面に全振りって感じのネタを、頭ぽんぽんでとどめ、品良くまとめている。ちょっとお姉さんっぽいエピソード。

『櫻の少女たち』秋本葉子
 とある中学の校庭にある「無限桜」にはどんな願い事も叶えてくれるという伝説がある。ただし桜を敬わないと確実に死ぬ。そんなハイリスクな呪物に女子演劇部を絡めたストーリー。主役の座の奪い合いでもやるのかと思いきや、上記の『地獄エレベーター』と同様、女の子の友達同士の三角関係っぽい関係を軸に展開する。桜と女子中学の相性は抜群で、その上演劇部。全部盛りって感じの豪華さがある。収録作のなかでは教導的な要素が最も薄いエピソードである。

『地獄少女 さまよえる恋心』永遠幸 地獄少女プロジェクト
 主人公は親友が恋敵になった女子。例によって「閻魔あい」から藁人形を受け取ったが、「次の恋を頑張ろう」と思い直してそれを捨ててしまう。ところが親友の彼氏は幼なじみ。必然的に三人で行動を共にすることが多く、目の前で二人の恋の充実ぶりを見せつけられることになる。そこで主人公は怪しげな業者に、親友へのほんの少しの嫌がらせを依頼することにしたのだが……。まぁ、エスカレートするわなー。結局、藁人形の赤い糸をほどいたのと同じ結末を迎えるが、「親友」の鈍感さには主人公が少々気の毒になってしまう。他のエピソードにはない生身の「彼氏」の存在が、少女の嫉妬心を生々しく強化している。



『本当にヤバイ ホラーストーリー 友だち地獄』
 講談社 2012 講談社コミックスなかよし 1360
 著者:永遠幸 地獄少女プロジェクト/瀬田ハルヒ/寿えびす/秋本葉子/瑞樹しずか

 ISBN-13:978-4-0636-4360-2
 ISBN-10:4-0636-4360-3


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