つのだじろう『うしろの百太郎〈4〉』

 つのだじろう『うしろの百太郎〈4〉』講談社 1983 KCスペシャル 34

 編集の都合でちょい見せになっていた前巻のラスト「第十一章 ポルターガイスト」の続きから始まる巻。過酷な臨死体験を経た一太郎は、守護霊と交信し、霊界をかいま見て、「第十四章 イヌ神つき伝説」では強力な悪霊と対峙する。

「第十一章 ポルターガイスト」
 前巻(←前の記事へのリンクです)からの続き~相変わらず心霊現象を信じようとせず、一太郎親子に詰め寄る捜査陣。そんな彼らの目の前で激しいポルターガイストが発生する。ラップ音が響きわたり、家具や食器が空中を飛び回る盛大な現象である。一太郎は飛んできた包丁に刺され病院に搬送されてしまう。ポルターガイストは一旦収まったように思われたが、今度は一太郎の病室が苛烈な現象に見舞われた。頼みの綱の百太郎はあらわれない。大量のメスや鉗子が一太郎めがけて飛ぶ。
 冒頭でハイズビル事件とフォックス姉妹が解説され、ストーリーは概ねこの事件を肯定的にトレースするように進行する。印象としてはずーっとポルターガイストって感じだが、どす黒い流線を描いてビュンビュン飛ぶメスやナイフの描写は物理現象ならではの迫力。百太郎が出てこないうえに、縫合した傷口をべリッと開くような流血シーンもあるのでピンチ感は半端ない。章のシメには「カリフォルニア大学バークレイ校の語学研修に参加した浪人生のAくん」からのポルターガイスト体験記が長々と引用され、こっちも読み応えがある。

「第十二章 守護霊との交霊」
 前章の事件の際、百太郎が出てこなかったことをグズグズ気にする一太郎。そこで「日本有数の物理的霊能者」にアドバイスを受け、守護霊百太郎との積極的なコンタクトを試みた。すると「はやくも出てきてくれたんですかっ」と一太郎に突っ込まれるほどの気軽さで百太郎登場。一太郎は百太郎に導かれるままに幽体離脱し、死後の世界へと赴くのだった。
「ハウツー守護霊とのコンタクト」な一編。途中、ごく自然に著者の体験談が挿入されており、著者が見た守護霊の姿が描写される。この章で解説される守護霊とのコンタクト法は→「ねる前にふろにはいって全身をくまなくあらい、さいごに冷水をかぶって自身のからだをきよめ、ふとんにはいり上をむいてねる。両手をかるくおへそを中心に図のように(逆三角形に)指をつけておく。足はそろえてかかとをつけ、自分のまくらもとに守護霊がいらっしゃる、と思って雑念をはらいそこに心を集中しておねがいする!」というもの。守護霊の名を知ってる人はその名に「なになにの命」と「命」をつけて、知らない人は「わたしの守護霊さま」と呼びかけるとある。
 後半は幽体となった一太郎が、幽体の視点で現在の世界を眺めるという展開で、夜の街に漂い佇む浮遊霊、地縛霊の描写が素晴らしい。

「第十三章 一太郎幽界へ!」
「妖精ってどんな霊だ??」そんな難解な疑問を抱いた一太郎は、父のアドバイスに従ってクラスメイトとともに妖精探し(幽界への出入り口探し)を試みるが、その最中「仲根くん」が行方不明になってしまう。どうやら幽界へと迷い込んでしまったらしく、新聞沙汰になるほどの大騒ぎになっても、その行方は杳としてしれない。一太郎は前章での経験を踏まえ百太郎とのコンタクトを試みるが、異様な世界へと吸い込まれてしまう。一太郎もまた幽界へと迷い込んでしまったのだ。
「ハウツー妖精とのコンタクト」な一編。実は以前自分はこのエピソードで紹介された「妖精探し」の方法を大マジメに試したことがある。小学生の頃の話だ。その方法は、まず古い木の根のまたのところに砂で山を作り、上を鏡で平らにしてそのフチに小石を話になるように並べ、その山に小さな階段をつけておく。もしもそこに妖精がいるなら、次の朝にはその砂の山に小さな足跡がついているという。これはもともと沖縄でキジムナーを探す方法で、本来はガジュマルの古木の根元で行うらしい。自分は小学校の桜とイチョウの木で何度かやってみたが、当然失敗。鏡の代用に空き缶で砂山を作ったのがまずかったのかもしれない。
 今後「死後の世界」は本作のより重要なテーマになり、一冊まるまる死後の世界みたいになってくるのだが、本エピソードはそのダイジェスト版って感じ。それでも和洋折衷のおどろおどろしい「幽界」は大迫力で、死神は超怖い。

「第十四章 イヌ神つき伝説」
 一太郎のクラスに新しい担任、「新妻薫」という美人先生が赴任してきた。「幽霊に詳しい」ってことで早速美人先生に呼び出される一太郎。家に幽霊が出るから、泊まりで調査して欲しいという。新妻先生の家は古色蒼然とした館で、医学博士で解剖学の権威の父親と暮らしているらしい。唐突にネズミの解剖をはじめる新妻先生。その嬉々とした様子に一太郎はショックを受ける。
 その夜、異変は発生した。クローゼットからおびただしい数のネズミが飛び出し、消える。眠っている先生が全身をネズミにかじられる幻が見える。そして先生の顔がネズミのように変形し、残酷に殺された恨み言を吐く。先生はネズミの霊に憑依されているらしい。翌日から新妻先生は、一太郎にだけ変身した姿をさらし彼をつけ狙う。そしてとうとう一太郎の部屋にまで侵入し、一太郎の父親の喉笛に食らいついた。
 主人公だけに悪霊に憑依された姿をチラ見せしながらその命を狙う先生……そんな著者お得意のシチュを採用した作品群の中で、最恐の一本をあげるとするならこのエピソードかもしれない。マジで怖い。美人先生の自宅へのお泊まりイベントなのに、悪い予感しかしない。変身後の新妻先生のネズミ顔はあんま怖くない、どっちかというとコミカルなのがまた怖い。お子様には無用のトラウマを植え付けるおそれさえある。暗い天井が見れなくなってしまうかもしれない。
 第4巻はここまでハウツー系の話が連続して、怖さはやや抑え気味って感じだったんだけど、このエピソードでは著者の本領が遺憾なく発揮されている。画面の暗いことといったらない。最後の方で新妻先生の父親で強硬な心霊否定派の教授が登場して、否定派と肯定派が真正面からぶつかる、次巻「第十五章 続イヌ神つき伝説」への前振りになっている。



『うしろの百太郎〈4〉』
 講談社 1983 KCスペシャル 34
 著者:つのだじろう

 ISBN-13:978-4-0610-1034-5
 ISBN-10:4-0610-1034-4


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『本当にヤバイ ホラーストーリー ケータイ地獄』

 

 永遠幸 地獄少女プロジェクト, ナフタレン水嶋, 秋本葉子, 福月悠人, 大塚さとみ,立樹まや著『本当にヤバイ ホラーストーリー ケータイ地獄』講談社 2012 講談社コミックスなかよし 1368

 第1巻「友だち地獄」に続く第2巻は「ケータイ地獄」。2巻目にしてなんとも足が早いネタ持ってきたなーって感じ。冒頭、閻魔あい嬢が出てきて「あなたは携帯電話をもっていますか? 今回は携帯電話にまつわるお話…」なんてアナウンスをしてくれるのだが、全エピソードの登場人物が誰一人として携帯電話を「電話」として使用してなかった。どちらかというと「ネット地獄」。
 収録作は全部で6編、うち1編は前巻に続いて『地獄少女』のスピンオフっぽい作品、それから心霊4コマ『うしろの心霊ちゃん』が2ページ3話×3回という構成で収録されている。「ケータイ地獄」とはいうものの、基本的にはケータイをきっかけに生じる対人関係の悩みやすれ違いをテーマにしているため、印象は前巻の「友だち地獄」によく似ている。多少教訓めいたところも同様。また前巻には微妙に実話怪談っぽいニュアンスのエピソードが含まれていたが、それらしい話は今回はなし。
 
『理科室のふたり』立樹まや
 主人公は中学二年生の「ミキ」。家業が芸能プロダクションってことで、学園ヒエラルキーはバカ高く、取り巻きも多い。しかしそんな取り巻きの中に一人、どうにも癇に障るクラスメイトがいた。うろちょろ寄ってくるわりに、ミキのことを崇めようとしないのだ。しかも謎のイケメンと仲良くしているらしい。二人がいつでも理科室でイチャイチャしてると聞きつけて、さっそく横槍を入れるミキだったが……。
 こう見えて古典的な学校の怪談を一捻りしたエピソード。怖さはそうでもないけど意外性があった。携帯は一応カメラとして使ってたりするけど、全然ストーリーに絡んでこない。グロテスクな表現は、対象読者の年齢層を考えると充分か。登場人物の間で最も重要なのは空気を読めるかどうか。幼いうちからサバイバルだなー。

『オトモダチ』福月悠人
 クラス委員の「小花」は入学式の日に入院したクラスメイトの「梨穂」と頻繁にメール交換をしていた。「メールってたのしいなぁ♪」なんて思いながら、学校生活の細々とした出来事を書いて梨穂に送信する。そんな風に過ごしていた矢先、クラスで不幸が起こった。テストで一番をとったクラスメイトが轢き逃げにあったのだ。つい先日も自分がテストで二番だったことを梨穂にメールしたばかりなのに。そこに梨穂からメールが届いた。「よかったネ(・▽ < )⌒☆」
 この後も似たパターンのの出来事が続く。ありがちな呪い系の怪談かと思いきや、超常現象の発生しないサイコものだった。真犯人は静かに狂っていた身近な人物で、前話に続いて意外性があってよかった。収録作品の中ではピカイチのエピソード。

『うしろの心霊ちゃん』ナフタレン水嶋

『教えてあげる』秋本葉子
「杏菜」は著しく優柔不断な、決められない女だった。メニューからなにから、全然決められない。そんな彼女にもってこいなアプリがあった。それが無料相談アプリ「KKR」である。「悩みを相談してね! なんでもおこたえします」とある通り、とにかくなんでも答えてくれる。KKRの答えの通りにやっていれば間違いない。すっかり頼りきりになった杏菜だったが、いつもスマホに向かってブツブツ呟いている様子を、キモいというクラスメイトがではじめた。いじめの対象になったのだ。それを相談すると、KKRはこう答えた。「邪魔なものを除去しましょう☆」
 ピンときた人がいるかもしれないが、コックリさんものである。「KKR」→「コックリ」ということらしい。アプリのマスコットもキツネだったりする。スマホ、アプリと装いは異なっているが、ストーリーは古典的。古い話がこんな風に生き残っていくのかと思うと、なんだか頼もしい。劇中、コックリさんについての軽い解説もある。
「コックリサン…? なんなの? それ…」「むかしはやった占いみたいなものかな? 」

『うしろの心霊ちゃん』ナフタレン水嶋

『消えないアドレス』大塚さとみ
「莉音」は高校一年生。買ったばかりのケータイを修理に出したところ、代用に借りたケータイに知らない人のアドレスが入っていた。思い切ってメールしてみると、相手は一つ上のイケメン。それを知った友達の「萌愛」が、自分が付き合いたいと言い出した。
 これも大筋はどこかで聞いた感じの話。実はこのイケメン、一年前に「ひどい死に方をしている」らしい。第1話の『理科室のふたり』にも似ている。『ちゃお』じゃなくて『なかよし』だけど、キャラのネーミングはさくら学院ぽい。

『うしろの心霊ちゃん』ナフタレン水嶋

『地獄少女 仮想世界の友だち』永遠幸 地獄少女プロジェクト
「美月」はMMORPG「ジゴ・クエスト・オンライン」に夢中だった。毎日いつものパーティでクエストに精を出している。メンバーは皆、美月より年上らしく、なにかにつけて彼女を可愛がってくれる。それが心地よかった。ところがある時、パーテイの一人が美月の写メを見たいと言い出した。「制服姿がいいな(^_^)☆ 夏だし水着でもいいよ」結局彼女は追放されてしまうのだが、後日こんなメールが届いた。「おまえのせいだ おまえなんて この世界から消えろ やめろ やめろ やめろ」……そしてある夜、何者かが美月の部屋に侵入した。
 ほぼSAOな感じのエピソードに、地獄少女がフュージョン。閻魔あいが「魔王が あらわれた!」と登場したり、相当カオスなエピソードである。大部分を占めるゲームの世界の描写はざっくりだけど、リアル世界の侵入者の描写は短いながら上々。



『本当にヤバイ ホラーストーリー ケータイ地獄』
 講談社 2012 講談社コミックスなかよし 1368
 著者:永遠幸 地獄少女プロジェクト/ナフタレン水嶋/秋本葉子/福月悠人/大塚さとみ/立樹まや
 ISBN-13:978-4-0636-4368-8
 ISBN-10:4-0636-4368-3


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いけ『ねこむすめ道草日記〈16〉』

 

 いけ『ねこむすめ道草日記〈16〉』徳間書店 2017 リュウコミックス

 予想以上の速さで第16巻が出た。リュウコミックスではこの「ねこむすめ」と、今TVでやってる(けどまだ見れてない)『セントールの悩み』を買ってるんだけど、両作ともにいいペースで刊行されてるのが喜ばしい。今回は第93話〜第99話+おまけを収録。前巻は初の一冊丸々続き物で、派手なバトルあり過去話ありと変化に富んだ一冊だったが、今回はいつも通りに戻って、まったりとしたエピソードが並んでいる。

 女郎蜘蛛の地域貢献が描かれる「第93話 紫陽花の花落としで道草」と「第94話 獅子丸と一緒の道草」は、とりわけ「いつも通り」な感じの強いエピソードで、まじで何も起こらない。「黒菜」と「獅子丸」がひたすらじゃれてるだけだったりする(94話)。それが「ねこむすめ」らしくて良かった。
「第95話」〜「第97話」は「千夏ちゃん」のメイン回。学校の怪談の「ミラーさん」(←トイレの鏡)こと「雲外鏡」が千夏ちゃんに変化して、彼女が内に秘めた思いを曝け出すべく暴走する。あとがきマンガを見るに著者(とカッパ)はどうやら千夏ちゃん一押しの様子。焦ったりヤキモキしたりするリアル千夏ちゃんも、黒菜っぽいおてんばなコピー千夏ちゃんも、とても可愛らしく描かれている。ただし千夏ちゃんメイン回にも関わらず、コックリさん分は少なめ。合体千夏ちゃんの出番の方が多い。
「第98話」は混浴温泉に潜むワニと雪女の「伊吹」の話で、幼い初恋エピソードの次がこれかよって感じのバカ話。温泉だけに肌色が多い。「第99話」は黒菜が「藤森商店」の飼い猫になる経緯を描いたプリクエル。前巻の黒菜の特訓話に続くストーリで、本作屈指の地味キャラ「鉄瓶の付喪神」が活躍する。99話目にふさわしいエピソードだと思う。

 そんなわけでこの第16巻は、ここまで本作を読んできた読者には楽しめる一冊になっている。次の第17巻にはいよいよ「第100話」が収録される。楽しみ!



『ねこむすめ道草日記〈16〉』
 徳間書店 2017 リュウコミックス
 著者:いけ

 ISBN-13:978-4-1995-0581-2
 ISBN-10:4-1995-0581-4


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伊藤三巳華『スピ☆ヲタ子ちゃん〈1〉』

 

 伊藤三巳華『スピ☆ヲタ子ちゃん〈1〉』講談社 2017 ヤンマガKCスペシャル

 主人公は著者の少女時代「ミミカ」。「オバケ団地」と噂される千葉県N市の某団地で暮らしていた。本人によるとあまり裕福な家庭ではなかったらしい。幼い頃からミミカには人に見えない不可思議なモノが見えた。そして三日に一度という頻度で「幽霊に襲われて」育ったという。長じるにつれて、彼女は自身の体質をひけらかすことのリスクを自覚し、霊感アピールを封印する。しかし彼女には他人に知られてはならないもう一つの顔があった。昼間こそはバレーボールに励む健全な部活少女だったが、夜な夜な自作マンガに没頭する「ゲーム、アニメ、マンガヲタク」だったのである。当時、ヲタクへの風当たりは今以上に強く、「イケてる青春」を送りたいなら「霊感」共々封印必至という状況なのだった。自らの本性を隠し、他人を傷つけ他人に傷つけられながら、スクールカーストでのし上がろうとする主人公の日常は、まさにサバイバルである。←こういう感じの話が全9話収録。

『視えるんです。』『スピ☆散歩』などの霊感エッセイ漫画で知られた著者が、自らの少女時代をセキララに描く。って帯にあったから、霊感少女の日常とか興味深いなーなんて思いつつ読み始めたのだが……。印象は全然違ってた。「霊感」は二の次三の次で、ひたすら著者の痛々しい子供時代(小学校から高校入学くらいにかけて)と贖罪の思いが切々と描かれた懺悔マンガだった。デフォルメ調の絵柄で随分緩和されているが、内容はかなりヘビー。霊感、心霊、怪奇的にじゃなくて、残酷な人間関係的に。
 作品の紹介には「ミミカの周りには、個性的な友達がいっぱい」と楽しげな感じで載ってるけど、その友達が一筋縄ではいかない。極道の息子と噂される「タグチ」、パーマ屋の娘でヤンキーの「アケ」、猟奇的恋愛脳「くき(く)」、BLマンガに救いを求める悲劇の美少女「ちさとちゃん」などなど、個性的どころじゃない壮絶なメンツ。それぞれのエピソードもいちいち濃い。とりわけ家に帰りたがらないちさとちゃんの話「生霊になりたいですか?」は、その救い難さで印象に残った。子供には荷が重すぎる。
 前述の通り霊感よりも人間関係に重きが置かれているが、ほとんどのエピソードで霊感が人間関係の構築(と後悔)のとっかかりになっているところがスピリチュアルマンガらしい。ミミカはやや自意識過剰な少女で、幽霊そのものよりも、それが見えることで他人にキモいと思われることの方を怖れているようだ。繰り返し出てくる「見えるけど、全てが自分の妄想かも……」的なセリフは、成長したミミカが社会との折り合いをつけるために編み出したフレーズなのだろう。怖いシーンは少ないけど読み応えは充分なので、霊感少女の生い立ちに興味がある人にはおすすめ。



『スピ☆ヲタ子ちゃん〈1〉』
 講談社 2017 ヤンマガKCスペシャル
 著者:伊藤三巳華

 ISBN-13:978-4-0638-2969-3
 ISBN-10:4-0638-2969-3


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三原一晃『白雪姫は悪魔の使い』

 三原一晃『白雪姫は悪魔の使い』立風書房 1983 レモン・コミックス 恐怖シリーズ

 表紙は人相の悪い原住民とソバカスの女の子、裏表紙は白雪姫と七人の小人、これらのお題をしっかり(?)踏まえつつ、その実態は怪猫ものでしたというカオスな作品。

 主人公は表紙の女の子「レイコ」。引っ込み思案な彼女にも、年頃の女の子らしい図々しくもささやかな願い事があった。「クラスのいじめっ子から私を守ってください。それから今度の学芸会の白雪姫役を私に。でもそれにはまず顔のソバカスをとって綺麗にならないと……」彼女は同じクラスできっと王子様役をやるに違いない「ジュンくん」にほのかな恋心を抱いていたのだ。
 そんなレイコは最近、親友の「明美」から不思議な像を貰い受けた。その像はもともと明美の考古学者のおじさんのメキシコみやげだったという。アステカ民族の間で、願い事を叶えてくれる神像として信仰されていたらしい。早速願を懸けるレイコ。驚いたことに彼女の願いはことごとく叶えられていく。ただし宿願成就には強烈なリスクが伴っていた。神像がいけにえの血を欲したのだ。レイコはまずペットの文鳥を殺し、やがて飼い猫のトラを手にかけた。ソバカスもすっかり消え、性格まで積極的に、明るくなったように見えるレイコだったが、本人が気づかぬうちに、まるで猫のような仕草をしはじめたのだった。

 神像の呪い路線でずっといくのかと思いきや、殺した猫の怨霊がよっぽど強かったのか、そっち方面にどんどん話が転がっていく。おかげでまとまりに欠ける作品となったが、小綺麗にまとまってもこの手の作品は面白くないし、もともと化け猫は大好きなネタ。とても楽しく読むことができた。
 作画は『包丁人味平』とかあの辺の濃いめの劇画タッチで、いかにも手塚漫画のコードが希薄な感じだが、かなり上手いんじゃないかと思う。ハードで力強い。がっつりゴアな描写もある。後半に行くほど多用される見開きの大ゴマは超劇的で見応えがある。Tシャツにしたい。見所の多い本作だが、街中を駆け回る化け猫のたたみかけるような描写は特に素晴らしく、スピード感抜群。面白いのはレイコの化け猫フォームで、通常型のレイコにネコミミをくっつけただけなので、やけに可愛くなってしまっている。
 著者は貸本漫画の時代から活躍した人で、本書の刊行当時すでに大ベテランだったらしい。最後に奥付の「著者紹介」が興味深かったので、丸ごと転載しときます↓

  著者紹介/三原一晃
 ・国籍 満州生まれの大連育ち。昭和50年4月13日=日本にやって来て、まもなく帰化。
 ・性別 男性
 ・年齢 24歳とも66歳ともいわれるが、はっきりした年齢は誰も知らない。
 ・住所 東京近郊のある森の中のツタの絡みついた古い洋館に、ひとり淋しく住んでいる。しかし、正しい住所を知っている者は誰もいない。ただ、洋館の中には、いつもロウソクの火がともり、黒豹のように大きくて黒い猫が一匹飼われている。最近、三匹の黒い仔猫が生まれた。
 ・素顔 常に仮面をかぶっている。これまでに七種類の仮面をつけていたので、人は「七つの顔を持つ紳士」とか「仮面紳士」と呼ばれている。
 ・著書『恐怖バラ屋敷』『恐怖亡霊屋敷』(いずれも立風書房刊)



『白雪姫は悪魔の使い』
 立風書房 1983 レモン・コミックス 恐怖シリーズ
 著者:三原一晃

 ISBN-13:978-4-6510-7073-5
 ISBN-10:4-6510-7073-6


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森由岐子『おじょも寺の妖怪地蔵』

 森由岐子『おじょも寺の妖怪地蔵』ひばり書房 1984 ヒット・コミックス 171 怪談シリーズ

「滝の近くにおじょも寺という古いお寺があるが、あそこだけは近寄るでないぞ……」
 夏休み、S村を訪れた「あゆこ」「可奈」「一馬」の仲良しグループに、可奈の祖母が話しはじめた。S村は可奈の母の実家がある静かな山あいの村である。祖母によるとその廃寺には「おじょも」という妖怪が出ると伝えられていて、これまでに何人もの僧侶が狂死したという。
 そんな祖母の話を迷信と決めつけ、易々と「おじょも寺」に足を踏み入れてしまう三人。ところが寺の様子が聞いた話とは少々異なっている。荒れ果てて、無人だったはずの寺に、一人の美しい尼僧が住んでいたのだ。三人は何事もなく帰路に着いたが、数日後、女子二人に内緒で寺に出向いた一馬が行方不明になった。そして発見されないまま夏休みが終わろうとしていた。可奈は寺を訪れ一馬の行方を尋ねるが、尼は何も知らないという。そしてその際、尼から一体の地蔵を手渡される。「これを持っていると、なんでも願いが叶えられますよ……」
 東京に戻ってしばらくすると、可奈の様子がおかしくなりはじめた……。

『亡霊怪猫屋敷』(1958)にブラム・ストーカーの『吸血鬼ドラキュラ』(“Dracula”)を足してふんわりさせた感じの、正統派オカルトモンスターホラー。珍しい怪猫ものである。

 今回著者はその作風を特徴付ける外面の美しさへの執着や妬みを隠し味程度に抑え、終始モンスターとして顕現する呪いと、それを封じるべく悪戦苦闘する現代っ子の描写に徹している。上記の田舎を舞台にした雰囲気のいいパートは作品の「序」、中盤で舞台を都会に移して「破」、再び田舎に戻って終わる「急」というシンプルな構成をとっており、この三部の構成自体『亡霊怪猫屋敷』が念頭にあったような気もするが、とにかく無駄のない展開でグズグズ足踏みをしないのが素晴らしい。個人的には散々ダメだって言われてたのに、嬉々として地雷原に踏み入るアホなハイカーと、怪しい尼僧を露悪的に描いた「序」が王道! って感じで好きなんだけど、もちろん後に続く「破」「急」にも見所は多い。冷蔵庫から魚を取り出して可奈がヨダレを垂らすシーン、犬の死骸の前で三角座りの可奈、あゆこと変身済みの可奈が揃って「はっ」とするシーン等々。
 ところで以前にもちょっと書いたけど、自分はこの著者の作品をネタ的にじゃなくがっつり好きなので、ネタ的に扱われてるのを見ると取り上げられて嬉しい反面、そこはかとなく切なくなってしまう。唯一のホラー漫画友達だったグルグル映畫館の天野くんにも、よく「マジで森由岐子好きっすよねー。面白いことは面白いけどなー」なとど不思議がられたものだ。マジで好きなんだけど、どこがっていうと上手く伝えられないのがもどかしい。

 閑話休題。この作品に出てくる「おじょも」という妖怪、調べてみたら著者の完全な創作ではなく、元ネタらしきものがあることがわかった。香川県坂出市に伝わる「おじょも」と呼ばれる巨人の伝説がそれである。郷師山と飯野山に足をかけて放尿したというから豪快にでかい。本作に出てくる「手や足が獣のようであり、頭には角があり、体つきは人間のようで、しかも長い尾を持つみにくい妖怪」という『ダンウィッチの怪』(“The Dunwich Horror”)のウィルバー・ウェイトリーに似たモンスターとは随分異なっている。単に名前を借りただけなのか、もしかするとどこかにもっと劇中の妖怪に近い姿のものがいるのかもしれない。余談だが上記の飯野山は古代のピラミッドじゃないかってことで、オカルトファンにはかなり有名。また香川県旧飯山町にはこの巨人おじょもの足跡を図案化したマンホールの蓋がある。

 怪猫ものはホラー漫画の中でも輪をかけてニッチなジャンルで、最近ではすっかり見かけなくなってしまった。本作は娯楽性の高い好編で作画も終始安定しているから、怪猫ファンにはオススメ。面白かった!



『おじょも寺の妖怪地蔵』
 ひばり書房 1984 ヒット・コミックス 171 怪談シリーズ
 著者:森由岐子

 ISBN-13:978-4-8280-1068-7
 ISBN-10:4-8280-1068-8


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いけ『ねこむすめ道草日記〈15〉』

 

 いけ『ねこむすめ道草日記〈15〉』徳間書店 2017 リュウコミックス

 今年も無事に『ねこむすめ道草日記』の新刊が出た。しかもまだわりと早い時期なので、めっちゃ上手く行けば年末にもう一冊読むことができるかもしれない。今回は第87話~第92話+おまけを収録。前巻には4話連続、計100ページの長編が収録されていて、続き物として過去最長だったのだが、この15巻ではそれを楽々と上回ってしまった。1巻丸々続き物である。人間側に新キャラが投入され、帯に「【ねこむすめ】史上最大のアクションが展開される!!!」とある通りの長いバトルもある。

 いつものコンビニに出現する化けガエル(ガマ子)。とにかく変化が下手くそなので、現地ではすっかり「蛙人間」として噂になってしまっている。それをどうにかしようとする妖怪と人間たち。「黒菜」たち妖怪が「化け学教室」にガマ子を入門させて猛特訓に励んでいた丁度その頃、コンビニの近くの川べりでは噂を聞きつけてやってきたJK式神使い「九条小夜子」と、蛙人間に間違われた「カッパ」との壮絶なバトルが始まろうとしていた。……というのが大まかなストーリー。

 正直1話目(第87話)を読んだ時点ではそれほどでもなかったのだが、後の方に行くほど尻上がりに面白くなった。通常のまったりドタバタしたノリも維持されているし、妖怪側と人間側がそれぞれしっかり描かれているのも良かった。後半は今回微妙なフラグを立てたカッパと新キャラによる高架下のバトルが中心となるが、カッパといえば、九州にはカッパのルーツを川に流された「人形」(式神みたいな感じ)とする説がある。それを踏まえた上での式神バトルだろうか。カッパが適度にふざけているので、バトルが殺伐としてなくてほどよかった。ナイスカッパ。
 この「ねこむすめ~」に関しては、長らく続き物には乗れないなーと感じていたんだけど、それも過去の話。そのイメージは前巻で大いに払拭され、この15巻はさらに楽しく読むことができた。あと「ちーちゃん」と一緒に出てきた見習い神使の「朱音」が可愛かった。



『ねこむすめ道草日記〈15〉』
 徳間書店 2017 リュウコミックス
 著者:いけ

 ISBN-13:978-4-1995-0553-9
 ISBN-10:4-1995-0553-9


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古賀新一『白衣のドラキュラ』



 古賀新一『白衣のドラキュラ』ひばり書房 1986 ヒット・コミックス 44 オカルトシリーズ 5

「僕にとってあなたは突然すぎたんだ。人同士ってこんなもんなんだよな」……これは戦闘中にチャクラが開いたアムロとララァの感応の一節だが、何から何まで突然すぎるのがこの『白衣のドラキュラ』。みごとに1ミリ先の展開も読めない、雑にいえば行き当たりばったりこの上ない作品である。著者の作品には往々にして同様の傾向が見られるのだが、だからといって面白くないとは限らない。この作品も対象とする読者を怯えさせるには充分な性能を有している。

 森の中らしき白い空間で、ノスフェラトゥタイプの吸血鬼に襲われる少女。彼女は近くの病院の入院患者だった。主人公の「綾子」も同じ病院の入院患者で、被害者「由紀子」とは同室の親しい間柄。由紀子は病院に運び込まれたあと、老婆のように衰弱して死亡してしまう。その夜、綾子は看護師が由紀子の死体をこっそり運び出すのを目撃するが、見つかって口止めをされる。この病院にはなにか怖ろしい秘密があるらしい。それをみんなして隠蔽しているのだ。頼りになるのは病院のすぐそばに住んでいる医師、「ユミ先生」だけ……。

 見知らぬ医療施設、白い壁と廊下がどこまでも続いている。両親は見当たらない、唯一の友人は死亡。頼るべき医師、看護師はどーみても怪しい。少女にはマンガ的な能力はなにひとつ備わってない。何者かに襲われたとしても、対抗する手段がないのだ。廊下の曲がり角の向こう、暗いドアの向こう側になにが待ち構えているのかわからない。こんな状況に、伏線もなく、お約束も通用しそうにない、行き当たりばったりの展開がよく馴染んでいて、吸血鬼ものというより脆弱な少女が病院内をひたすら逃げまどうシチュエーションホラーといった趣き。当然、主人公の少女に感情移入するほど作品は面白くなる。意図されてのことかどうかはわからないが、少女の知りえない情報がほとんど描かれないのも効果的だと思う。
 誰にでもオススメできる作品ではない。それでも自分はこの作品が好きだ。ちっこいビオランテみたいな怪物が出てきて以降の、ふっ切れたようなハイテンションさには変な爽快感があるし、なにより主人公の無個性なほどの天真爛漫さが素晴らしい。

 本書にはもう一編、『白衣のドラキュラ』とは随分異なる繊細な絵柄の短編、『黒髪の呪い』が収録されている。スタンダードな髪の毛の怪談かと思いきや、片足が飛び回りひたすら主人公を怯えさせるという、シンプルだが驚異的なシーンが頻出する。タイトルに偽りありの面白い作品だった。



『白衣のドラキュラ』
 ひばり書房 1986 ヒット・コミックス 44 オカルトシリーズ 5
 著者:古賀新一

 収録作品
 『白衣のドラキュラ』
 『黒髪の呪い』

 ISBN-13:978-4-8280-1044-1
 ISBN-10:4-8280-1044-0


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