江戸川乱歩『湖畔亭事件』

 

 江戸川乱歩『湖畔亭事件』(『江戸川乱歩推理文庫〈3〉湖畔亭事件』講談社 1988 所収)

 主人公の趣味は覗き。それもがっつり装置を設えて挑む凝りに凝った覗き。自称「レンズ狂」。学校を卒業して、別段勤め口を探さねばならぬ境遇でもなく、なにがなしブラブラと暮らしている。趣味と合わせてなかなかのクズっぷりである。そんな彼がH山中のA湖畔にある「湖畔亭」という旅館に静養に出かけることになった。神経衰弱症を患ったのである。家族の勧めに従って、とはいうものの体のいい厄介払いだったのだろう。
 しばらく旅館の二階の部屋で、何をするでもなくぼやーっと過ごしていた主人公だったが、やがて悪いムシが騒ぎはじめた。幸か不幸か愛用のグッズ「覗き目がね」はしっかりトランクの底にある。旅館だけに獲物はよりどりみどりだ。早速、複雑に屈曲したシュノーケル状の「覗き目がね」を、湯殿の脱衣場に向けてセット。部屋にいながらにして快適な覗き生活を満喫する主人公だったが、あるときとんでもないものを目撃してしまう。脱衣場で女が刺されたのだ。犯人も被害者も不明。大量の血痕が発見され警察が呼ばれたが、捜査は進展しない。主人公は同宿していた洋画家の「河野」とともに、犯人を探しはじめた。なにせ主人公は犯行の決定的な瞬間を目撃しているのだ。

 この作品、ドラマの方を先に見てたので、この原作を読んでびっくりした。マジで全然違ってる。地下の水槽も、中継モニタも、スワンボートもない。何よりこの作品には明智探偵が出てこないのだ。原作だと言われてもわからないレベル。
 明智君に代わって本作で推理を披露するのは、青年画家の「河野」。主人公との関係性も含めて、なんとなくD坂の頃の明智探偵を彷彿とさせる。主人公はレンズ、幻灯(スライドみたいなやつ)、覗きに熱中する高等遊民で、乱歩作品の主人公にもってこいの好キャラである。自作にやたら厳しい著者は本作について「最初の部分はいくらか面白くかけたが、全体的には無理に辻褄を合わせたという外語るべきこともない〜」などといつものトーンで評しているが、主人公の開き直ったような独白は非常にキャッチーで、彼がいかにして仄暗い趣味に耽溺するようになったかを語るくだりには多くのページが割かれ、暗闇に浮かぶ幻灯のような〜と形容されるレンズの向こうの描写には、事件そのものや推理のパート以上に著者の熱気が感じられる。
 事件はわりと複雑な犯人と死体探しで、最後にどんでん返しがある。正直、河野の長い謎解きを読んだ後も全然ピンとこなかったのだが、サスペンスの点において本作のメインは覗きがばれそうでやばいってハラハラ。主人公がバカすぎて気が気じゃなかった。他人事ながら「早くシュノーケル片付けろよ!」って何度も思ってしまった。

 それにしてもドラマ。最近またまた見返す機会があったのだけど、なぜあんな感じになったのかさっぱり分からない。分からないけど、ドラマの方もしっかり面白かったので、後日そっちの感想も書こうと思う。



『江戸川乱歩推理文庫〈3〉湖畔亭事件』
 講談社 1988
 著者:江戸川乱歩
 解題:中島河太郎
 巻末エッセイ・乱歩と私:佐野洋(作家)「ある命日のこと」

 収録作品
 『闇に蠢く』
 『湖畔亭事件』

 ISBN-13:978-4-0619-5203-4
 ISBN-10:4-0619-5203-X


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いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント〈3〉』完

 

 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント〈3〉』完 講談社 2016 KC×378 ARIA

 とうとう第3巻、最終巻が出ました。第1巻が出たのが2013年の6月だから、3年と数ヶ月かかっての完結だ。今回ばかりは本当の本当に完結なので、寂しさもハンパない。この先何かあるとすれば「悪夢の棲む家」のリライトくらいか。
 内容はずっと追ってきたので割愛するが、この作品は単に原作に忠実なだけではなく、原作のニュアンスを丁寧に汲み取り、それを出来うる限りの繊細さで表現した上質のコミカライズである。説明調のセリフが多く場面転換の少ない密室劇であることや、クライマックスの暗闇の中のアクションをどう見せるかなどなど、コミカライズに際して勝手に不安視していたことは全て杞憂に終わった。

 このまま褒め言葉を並べてもしょうがないので残念だった点を挙げると、それは「真砂子」の出番が少なかったこと……じゃなくて、これで本当に終わってしまうってことに尽きる。原作者は続編を構想していたはずなのに。ヒロインの一人称で書かれた旧シリーズの第一話が学校の怪談ネタだったように、この新しいシリーズでもごくオーソドックスな戸建住宅(幽霊屋敷)がモチーフとして選ばれ、レギュラー陣が顔見せのようにぞろぞろと登場する。新シリーズ開始にあたって投入された「広田」が一話限りのゲストキャラでなかったとすれば、今後の展開は旧シリーズよりもう少し大人向けの、ミステリー要素の強い(事件がらみの)ホラーになっていたかもしれない。
 シリーズが中断した理由については、原作者が書きたいものと読者が望むものの乖離が原因と言われている(原作者自身がそう語っている)が、原作者の言葉の端々には現在もなお本作への強い愛着が感じられる。今こそ続きを書いてくれればいいのになーと思う反面、ゴーストハント以降の原作者の怪奇系の著作を読むにつけ、中断当時、原作者が意図していた路線には実はゴーストハントという器は必要じゃなかったのかも、とも思う。

 さてコミカライズの話に戻すと、この第3巻には第11話からエピローグ(第22話)までの12話と、オマケの番外編が2話収録されている。単行本化に際して大きな描き足し、変更点はない。ただし既刊分と同様、背景と画面効果には細かく手が入れられ、白っぽかった空間を埋めている。
 今回まとめて読み返してみて、あらためて感じたのは第21話の「川南辺仁美」の帰宅シーンの素晴らしさだ。前に儚げで美しいって書いたけど、それまでのシーンから一転して明るい画面になっているにも関わらず、作品屈指の超おそろしいシーンでもある。彼女は長い間、この悪夢の中に閉じ込められていたのだ。もし広田アンチの人がいたとしても、このシーンの彼のリアクションを見れば、彼に対する評価を一変させるに違いない。決してハッピーな作品ではないけれど、ホーンテッドハウスものとしては最高水準の作品。


 第3巻収録分の各話の記事へのリンクはこちら↓
 ARIA (アリア) 2014年 07月号 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント』連載第11回
 ARIA (アリア) 2014年 11月号 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント』連載第12回
 ARIA (アリア) 2015年 01月号 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント』連載第13回
 ARIA (アリア) 2015年 03月号 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント』連載第14回
 ARIA (アリア) 2015年 05月号 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント』連載第15回
 ARIA (アリア) 2015年 07月号 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント』連載第16回
 ARIA (アリア) 2015年 09月号 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント』連載第17回
 ARIA (アリア) 2016年 01月号 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント』連載第18回
 ARIA (アリア) 2016年 03月号 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント』連載第19回
 ARIA (アリア) 2016年 05月号 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント』連載第20回
 ARIA (アリア) 2016年 07月号 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント』連載第21回
 ARIA (アリア) 2016年 09月号 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント』最終回

 ARIA (アリア) 2014年 05月号 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント』番外編

 ※「番外編2」はARIA5周年記念描き下ろしショートコミック『甘々ARIA』に掲載。
 ※ 1〜3巻の帯についている応募券(第1巻特装版にもしっかり付いてました)を送ると、「全巻購入プレゼント」として「ポストカードコレクション」が貰えるそうです。全プレ。締め切りは2017年1月31日。



『悪夢の棲む家 ゴーストハント〈3〉』
 講談社 2016 KC×378 ARIA
 漫画:いなだ詩穂
 原作:小野不由美

 ISBN-13:978-4-0638-0878-0
 ISBN-10:4-0638-0878-5


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江戸川乱歩『虎の牙』

 

 江戸川乱歩『虎の牙』(『江戸川乱歩推理文庫〈33〉虎の牙/透明怪人』講談社 1987 所収)

 舞台は世田谷の屋敷町。そこに「魔法博士」と名乗る派手な格好をしたおっさんが越してきた。フサフサした髪の毛を黄色と黒の虎縞に染め、太いべっこう縁の眼鏡をかけている。近所の子供達は魔法博士が披露する見事なマジックに魅せられ、博士の洋館へと招かれた。子供達の中には少年探偵団の「小林少年」と、その親戚「天野勇一」君という小学生がいたが、ショーの真っ最中に勇一君が連れ去られてしまう。犯人は魔法博士。最初から勇一君に狙いを定めての犯行だろう。
 勇一君の行方は杳として知れず、頼りの明智探偵はここしばらく病気で臥せっている。そんな状況下で少年探偵団に巨大な虎の影が忍び寄る。

 少年に対する悪質な犯罪に血道をあげる「怪人二十面相」がまたしても登場。全体にゆるい印象の本作だが、二十面相は怖かった。ストーリーが相当進んでも、まともな犯行動機が全然見えてこないのだ。度を越した嫌がらせじゃねーかこれって思ったら、本当にそんな感じだったからびっくりした。いかれてる。「怪人二十面相」というネーミングには、もともと「怪盗」にするつもりが、時節柄「盗」の文字が使えなかったので「怪人」にしたという逸話が残されているが、本作の二十面相はまさに「怪人」そのもの。スマートな怪盗ルパンというより、殺しはしないものの、ぶっ壊れ具合はジョーカー(←バットマンの)を彷彿とさせる。

 劇中には小手先のものから大掛かりなものまで、数多くのマジック・トリックが散りばめられている。もっとも大掛かりなのは「館」のトリックで、これは著者の『類別トリック集成』(『続・幻影城』所収)において「[第六]その他の各種トリック(九三例)」の中の「(8)「二つの部屋」トリック」に分類されるトリックである。あまり推理小説読まない自分にも同様のトリックを用いた作品にはいくつか覚えがあるし、ドラマやコミック、アニメでも見たことがある。コナンの歯医者の話とか。もとは古いけど、その時代背景に沿ってカスタムしやすい、古びないトリックなのだろう。この作品が発表された昭和25年当時の読者は、明智の種明かしにきっと驚いたに違いない。それから地下道での消失トリックも面白かった。風船ぶっこ抜き。
 タイトルにもなってる虎については、終始さすがに「虎」が本物かどうかは分かるんじゃないかなー、と思いながら読んだ。もちろん続刊で披露されるとんでもない仮装に比べれば、まだまだ全然おとなしいけど。ちらっと見かけたとか、望遠鏡で見たとかじゃなくて、がっつり見て触って、跨がったりしてるし。やっぱりゆるい。本文挿絵は山川惣治。

 少年探偵団といえば、今期『TRICKSTER -江戸川乱歩「少年探偵団」より』ってアニメやるらしい。まだ見てないけど楽しみ。


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三津田信三『夢の家/ついてくるもの』

 

 三津田信三『夢の家』
 三津田信三『ついてくるもの』(『ついてくるもの』講談社 2015 講談社文庫 み58-16 所収)

『夢の家』
 著者がたまたま出会った男性に聞いた話。彼にはあるパーティーで知り合い、親しくなった女性がいたが、やがて彼女の言動に異様なものを感じるようになった。いつの間にか彼女の中では、彼にプロポーズされ、遠からず結婚することになっていたらしい。たまに会ってはお茶を飲んでいただけなのに。そんなつもりのないことを告げると、罵詈雑言を書いたメールが届いた。怖くなった彼が完全に連絡を断ってホッとしていると、今度は夢の中に彼女が出てくるようになった。夢の中の彼女は、様々なシチュエーションで「うちにお寄りになって」と彼を誘う。そして彼は夜ごと少しずつ、夢の家の奥へと進んで行くという。

 夜ごとの夢が連続していて、しかも少しずつ進行している。怖い方に。どうにかしたいが全く思い通りにならない。この手の連続する夢の話は、怪談ではわりとポピュラーなネタだ。印象深いものとしては「次は活けづくり~」で有名な「猿夢」、これは2chのオカ板が初出だったと思う。それから『新耳袋』の何巻だったかに載ってた、階段を登ってくる女の夢。雑にジャンル分けすると「迫り来る系の怪談」だろうか(巻末の解説では「夜ごとの夢に同じ家が出てくる話」としてアンドレ・モーロワの『夢の家』、内田善美の『星の時計のLiddell』を挙げている)。この怪談における「夜ごとの夢」は「ここでもなぁーい」って怪談の中の、主人公が身を隠すトイレの個室や、大きな瓶や、布団と同じような役割を担っているが、どれだけ怖くても寝ないわけにはいかない分、ピンチ感はハンパない。
 そんな思い通りにならない、逃れられない夢の話に、思い通りにならない、逃れられない病的なストーカー女の話を、足して二で割らないのがこの作品。最恐ポイントは意外にもオチではなくて、その前ポンと挿入された次の一節だった。

「それほどの夢を男に見させるために、いったい彼女は何をしたのか」(p.41)


『ついてくるもの』
 著者が知人から聞いた話。体験者は知人の知人の女性。これは彼女が高校2年の頃の出来事である。
 ある日の下校時、体験者は近所の廃屋の裏庭に飾られた七段飾りの豪華な雛人形を発見、お雛様(お姫様)を持ち帰ってしまう。お雛様のほかの人形の左目がことごとく潰されていて、ただ一体両目の揃った美しいお雛様がなんとなく不憫に思えたのだ。家までの帰路、何者かがざわざわと後をつけてくるような、怖ろしい気配を感じたという。その日以来、彼女の周囲に次々と不幸が起きはじめた。お雛様を持って帰ったからだと考えた彼女は、どうにか人形を処理しようとするのだが……。

 捨てても壊してもしつこく戻ってくる人形の話。これまた怪談によく用いられるモチーフで、「雛人形」に限っても相当な数の話があると思われる。この作品はそんな数多くの人形怪談から、有効成分だけを抽出、濃縮した人形怪談ファン必読の一編。さすが表紙になってるだけあって、とにかく怖い。凄惨な形で突然「そこにある」人形の不気味さもさることながら、やはり廃屋の裏庭に並べられた七段飾りのイメージは強烈。実は雛人形を所持しているせいではなく、お雛様(お姫様)を捨てようとしたタイミングで不幸が起こってるようにも読めるところも良かった。作品の冒頭には「明らかに憑き物テーマに分類できる事例なのに、その正体がさっぱり分からない話が増えている」(p.49)とあり、この話はそれに該当するという。


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江戸川乱歩『暗黒星』

 江戸川乱歩『暗黒星』(『江戸川乱歩推理文庫〈22〉暗黒星』講談社 1988 所収)

 震災を免れた東京の麻布は、古びた建物や瓦礫が点在する淋しい地域である。そこには風変わりな資産家が暮らす西洋館があった。災厄の前兆はごく些細な出来事だった。館の室内の小物がいつの間にか移動しており、資産家の長男は家族が殺害される夢をたて続けに見た。気に留めなければなんて事のない出来事。ところが長男が見た夢の通りの事件が発生したのである。まず長男が生死に関わる深手を負い、駆けつけた明智探偵によって危うく一命を取り留める。目撃された犯人は覆面にインバネスコートをまとった黒ずくめの男。明智が警戒にあたるなか、資産家の妻と次女が次々に惨殺され、明智もまた犯人の放った凶弾に倒れた。館の塔に夜な夜な出入りし、明らかに不審な行動をとった長女こそが犯人だと思われたのだが……。

 この作品はヨーロッパで第二次世界大戦が勃発した昭和14年、雑誌『講談倶楽部』に丸々一年かけて連載されている。著者が「陰栖の決意をなす」と記した年の作品で、時節柄色々な配慮を必要としたのか、あまり調子の出ない執筆だったようだ。確かに得意のエログロいシーンは皆無で、いわゆる「本格探偵小説的」な要素も希薄である。トリック(アリバイトリック)については明智探偵の解説を読むまで皆目分からないが、普通に読んでいても最初の夢のシーンで犯人の目星がついてしまう。巻末の解説には著者の言葉が載っていて、「まことに熱のない、長くもないくせに冗長な感じ」なんて書かれている。

 これは自分が古めの怪奇小説が好きなせいもあると思うが、この『暗黒星』は乱歩の長編の中でも好きな作品の一つだ。塔のあるお城みたいな洋館なんてゴシック小説の舞台そのまんまだし、冒頭のフィルムが焼けるシーンはまさに怪奇小説って感じの見事な不吉さである。焼けただれていく美男美女の顔貌が、映像のように鮮やかに浮かぶ。派手なギミックがない代わりに、文章はいつもより微妙に格調高く感じられるし、熱血な熱さはないけれど底の底の方にインモラルな火種が青白く燻っている。姉妹の扱いの雑さには驚かされてしまうが、明智探偵と長男の感応は細やかに、じっくりと描かれていて妖しい雰囲気満点。

 タイトルの「暗黒星」については劇中、明智探偵によって「暗黒星というのは、まったく光のない星なんだ。(中略) 今度の犯人は、つい眼の前にいるようで、正体が掴めない。まったく光を持たない星、いわば邪悪の星だね」(p.176-177) と説明される。以前感想を書いたSF小説に『暗黒星』(“The End of the World” ←前の記事へのリンクです)という作品があって、著者は黒岩涙香によるその翻案に『「暗黒星」について』(『子不語随筆』所収)という解説を書いている。それが本作のタイトルの元ネタかと思われるが、相変わらずネーミングセンスは抜群だ。


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『本当にヤバイ ホラーストーリー 友だち地獄』

 

 永遠幸 地獄少女プロジェクト, 瀬田ハルヒ, 寿えびす, 秋本葉子, 瑞樹しずか著『本当にヤバイ ホラーストーリー 友だち地獄』講談社 2012 講談社コミックスなかよし 1360

 各社から少女向けのホラーアンソロジーが刊行されるなか、全巻共通の「~地獄」というおどろおどろしいタイトルが特徴的なのが、この「本当にヤバイ ホラーストーリー」シリーズ。通称「ヤバホラ」。「~」には「ヒミツ」「放課後」「ケータイ」など各巻のテーマとなる単語が入る。
 この第1巻は「友だち地獄」。収録作は全部で5編、うち1編は『地獄少女』のスピンオフっぽい作品で、実話怪談の体のエピソードも2編含まれている。主要な登場人物は全て小学生から高校生くらいの女子。どのエピソードでも彼女たちの心の綾を丁寧に描き、対人関係のちょっとした悩みや友人とのすれ違いを盛大に拡張して、教訓を含んだホラーストーリーに仕立てている。作画は当然ながら少女マンガタッチ全開でとても可愛らしい。

『地獄エレベーター』瑞樹しずか「愛知県 早坂和香さん(高1)のハガキをもとにしたお話です。」
 二人の秘密の遊び場は、今ではあまり使われなくなった旧エレベーター。学校の帰りにはエレベーターに乗って、友達の「好き度」を教え合う。ある日一人のクラスメート(女子)の評価をめぐって、二人は仲違いをしてしまう。なかなか仲直りするきっかけを掴めない主人公だったが……。
「親友」に抱いた嫉妬と疑念が悲劇を生む話。……って書くとめっちゃドロドロしてそうだけど、嫉妬といっても「〇〇ちゃんって、あたしよりあの子の方がいいんだー」程度の、ほんのちょっとしたヤキモチが発端になっている。しかもすべてが主人公の独りよがりだったりする。死亡エンドなので実話怪談ぽさはスポイルされてしまっているが、思春期の主人公の捉える世界の偏狭さが悲劇に直結しているあたり、正調少女向けホラーとしての完成度は高い。幽霊も出る。

『てるてる坊主』瀬田ハルヒ「東京都 菅統子さん(中1)のハガキをもとにしたお話です。」
 遠足の班分けで先生に「〇〇さんも班に入れてあげてくださ~い」って言われる小学生の女の子が主人公。高飛車でクラスメートをことごとく見下している反面、実は仲間に入りたくて仕方がないという、厄介なコミュ障キャラである。ポイントは「自分の思い通りの待遇で仲間に迎えられたい」ってところ。そんな主人公がクラスに溶け込めたきっかけは、彼女のてるてる坊主がとにかく「効く」からだった。これも死亡エンド。主人公がせっせとてるてる坊主を作りはじめたところでオチが読める。それにしても「好きなもの同士で〜」とかさっさと禁止すべきだなー。

『ゆーれいライフ』寿えびす
 イケメンのゆーれいとの淡い恋愛を経た霊感少女が社会復帰を果たす話。少年マンガなら確実にエロ方面に全振りって感じのネタを、頭ぽんぽんでとどめ、品良くまとめている。ちょっとお姉さんっぽいエピソード。

『櫻の少女たち』秋本葉子
 とある中学の校庭にある「無限桜」にはどんな願い事も叶えてくれるという伝説がある。ただし桜を敬わないと確実に死ぬ。そんなハイリスクな呪物に女子演劇部を絡めたストーリー。主役の座の奪い合いでもやるのかと思いきや、上記の『地獄エレベーター』と同様、女の子の友達同士の三角関係っぽい関係を軸に展開する。桜と女子中学の相性は抜群で、その上演劇部。全部盛りって感じの豪華さがある。収録作のなかでは教導的な要素が最も薄いエピソードである。

『地獄少女 さまよえる恋心』永遠幸 地獄少女プロジェクト
 主人公は親友が恋敵になった女子。例によって「閻魔あい」から藁人形を受け取ったが、「次の恋を頑張ろう」と思い直してそれを捨ててしまう。ところが親友の彼氏は幼なじみ。必然的に三人で行動を共にすることが多く、目の前で二人の恋の充実ぶりを見せつけられることになる。そこで主人公は怪しげな業者に、親友へのほんの少しの嫌がらせを依頼することにしたのだが……。まぁ、エスカレートするわなー。結局、藁人形の赤い糸をほどいたのと同じ結末を迎えるが、「親友」の鈍感さには主人公が少々気の毒になってしまう。他のエピソードにはない生身の「彼氏」の存在が、少女の嫉妬心を生々しく強化している。



『本当にヤバイ ホラーストーリー 友だち地獄』
 講談社 2012 講談社コミックスなかよし 1360
 著者:永遠幸 地獄少女プロジェクト/瀬田ハルヒ/寿えびす/秋本葉子/瑞樹しずか

 ISBN-13:978-4-0636-4360-2
 ISBN-10:4-0636-4360-3


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