つのだじろう『うしろの百太郎〈4〉』

 つのだじろう『うしろの百太郎〈4〉』講談社 1983 KCスペシャル 34

 編集の都合でちょい見せになっていた前巻のラスト「第十一章 ポルターガイスト」の続きから始まる巻。過酷な臨死体験を経た一太郎は、守護霊と交信し、霊界をかいま見て、「第十四章 イヌ神つき伝説」では強力な悪霊と対峙する。

「第十一章 ポルターガイスト」
 前巻(←前の記事へのリンクです)からの続き~相変わらず心霊現象を信じようとせず、一太郎親子に詰め寄る捜査陣。そんな彼らの目の前で激しいポルターガイストが発生する。ラップ音が響きわたり、家具や食器が空中を飛び回る盛大な現象である。一太郎は飛んできた包丁に刺され病院に搬送されてしまう。ポルターガイストは一旦収まったように思われたが、今度は一太郎の病室が苛烈な現象に見舞われた。頼みの綱の百太郎はあらわれない。大量のメスや鉗子が一太郎めがけて飛ぶ。
 冒頭でハイズビル事件とフォックス姉妹が解説され、ストーリーは概ねこの事件を肯定的にトレースするように進行する。印象としてはずーっとポルターガイストって感じだが、どす黒い流線を描いてビュンビュン飛ぶメスやナイフの描写は物理現象ならではの迫力。百太郎が出てこないうえに、縫合した傷口をべリッと開くような流血シーンもあるのでピンチ感は半端ない。章のシメには「カリフォルニア大学バークレイ校の語学研修に参加した浪人生のAくん」からのポルターガイスト体験記が長々と引用され、こっちも読み応えがある。

「第十二章 守護霊との交霊」
 前章の事件の際、百太郎が出てこなかったことをグズグズ気にする一太郎。そこで「日本有数の物理的霊能者」にアドバイスを受け、守護霊百太郎との積極的なコンタクトを試みた。すると「はやくも出てきてくれたんですかっ」と一太郎に突っ込まれるほどの気軽さで百太郎登場。一太郎は百太郎に導かれるままに幽体離脱し、死後の世界へと赴くのだった。
「ハウツー守護霊とのコンタクト」な一編。途中、ごく自然に著者の体験談が挿入されており、著者が見た守護霊の姿が描写される。この章で解説される守護霊とのコンタクト法は→「ねる前にふろにはいって全身をくまなくあらい、さいごに冷水をかぶって自身のからだをきよめ、ふとんにはいり上をむいてねる。両手をかるくおへそを中心に図のように(逆三角形に)指をつけておく。足はそろえてかかとをつけ、自分のまくらもとに守護霊がいらっしゃる、と思って雑念をはらいそこに心を集中しておねがいする!」というもの。守護霊の名を知ってる人はその名に「なになにの命」と「命」をつけて、知らない人は「わたしの守護霊さま」と呼びかけるとある。
 後半は幽体となった一太郎が、幽体の視点で現在の世界を眺めるという展開で、夜の街に漂い佇む浮遊霊、地縛霊の描写が素晴らしい。

「第十三章 一太郎幽界へ!」
「妖精ってどんな霊だ??」そんな難解な疑問を抱いた一太郎は、父のアドバイスに従ってクラスメイトとともに妖精探し(幽界への出入り口探し)を試みるが、その最中「仲根くん」が行方不明になってしまう。どうやら幽界へと迷い込んでしまったらしく、新聞沙汰になるほどの大騒ぎになっても、その行方は杳としてしれない。一太郎は前章での経験を踏まえ百太郎とのコンタクトを試みるが、異様な世界へと吸い込まれてしまう。一太郎もまた幽界へと迷い込んでしまったのだ。
「ハウツー妖精とのコンタクト」な一編。実は以前自分はこのエピソードで紹介された「妖精探し」の方法を大マジメに試したことがある。小学生の頃の話だ。その方法は、まず古い木の根のまたのところに砂で山を作り、上を鏡で平らにしてそのフチに小石を話になるように並べ、その山に小さな階段をつけておく。もしもそこに妖精がいるなら、次の朝にはその砂の山に小さな足跡がついているという。これはもともと沖縄でキジムナーを探す方法で、本来はガジュマルの古木の根元で行うらしい。自分は小学校の桜とイチョウの木で何度かやってみたが、当然失敗。鏡の代用に空き缶で砂山を作ったのがまずかったのかもしれない。
 今後「死後の世界」は本作のより重要なテーマになり、一冊まるまる死後の世界みたいになってくるのだが、本エピソードはそのダイジェスト版って感じ。それでも和洋折衷のおどろおどろしい「幽界」は大迫力で、死神は超怖い。

「第十四章 イヌ神つき伝説」
 一太郎のクラスに新しい担任、「新妻薫」という美人先生が赴任してきた。「幽霊に詳しい」ってことで早速美人先生に呼び出される一太郎。家に幽霊が出るから、泊まりで調査して欲しいという。新妻先生の家は古色蒼然とした館で、医学博士で解剖学の権威の父親と暮らしているらしい。唐突にネズミの解剖をはじめる新妻先生。その嬉々とした様子に一太郎はショックを受ける。
 その夜、異変は発生した。クローゼットからおびただしい数のネズミが飛び出し、消える。眠っている先生が全身をネズミにかじられる幻が見える。そして先生の顔がネズミのように変形し、残酷に殺された恨み言を吐く。先生はネズミの霊に憑依されているらしい。翌日から新妻先生は、一太郎にだけ変身した姿をさらし彼をつけ狙う。そしてとうとう一太郎の部屋にまで侵入し、一太郎の父親の喉笛に食らいついた。
 主人公だけに悪霊に憑依された姿をチラ見せしながらその命を狙う先生……そんな著者お得意のシチュを採用した作品群の中で、最恐の一本をあげるとするならこのエピソードかもしれない。マジで怖い。美人先生の自宅へのお泊まりイベントなのに、悪い予感しかしない。変身後の新妻先生のネズミ顔はあんま怖くない、どっちかというとコミカルなのがまた怖い。お子様には無用のトラウマを植え付けるおそれさえある。暗い天井が見れなくなってしまうかもしれない。
 第4巻はここまでハウツー系の話が連続して、怖さはやや抑え気味って感じだったんだけど、このエピソードでは著者の本領が遺憾なく発揮されている。画面の暗いことといったらない。最後の方で新妻先生の父親で強硬な心霊否定派の教授が登場して、否定派と肯定派が真正面からぶつかる、次巻「第十五章 続イヌ神つき伝説」への前振りになっている。



『うしろの百太郎〈4〉』
 講談社 1983 KCスペシャル 34
 著者:つのだじろう

 ISBN-13:978-4-0610-1034-5
 ISBN-10:4-0610-1034-4


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『本当にヤバイ ホラーストーリー ケータイ地獄』

 

 永遠幸 地獄少女プロジェクト, ナフタレン水嶋, 秋本葉子, 福月悠人, 大塚さとみ,立樹まや著『本当にヤバイ ホラーストーリー ケータイ地獄』講談社 2012 講談社コミックスなかよし 1368

 第1巻「友だち地獄」に続く第2巻は「ケータイ地獄」。2巻目にしてなんとも足が早いネタ持ってきたなーって感じ。冒頭、閻魔あい嬢が出てきて「あなたは携帯電話をもっていますか? 今回は携帯電話にまつわるお話…」なんてアナウンスをしてくれるのだが、全エピソードの登場人物が誰一人として携帯電話を「電話」として使用してなかった。どちらかというと「ネット地獄」。
 収録作は全部で6編、うち1編は前巻に続いて『地獄少女』のスピンオフっぽい作品、それから心霊4コマ『うしろの心霊ちゃん』が2ページ3話×3回という構成で収録されている。「ケータイ地獄」とはいうものの、基本的にはケータイをきっかけに生じる対人関係の悩みやすれ違いをテーマにしているため、印象は前巻の「友だち地獄」によく似ている。多少教訓めいたところも同様。また前巻には微妙に実話怪談っぽいニュアンスのエピソードが含まれていたが、それらしい話は今回はなし。
 
『理科室のふたり』立樹まや
 主人公は中学二年生の「ミキ」。家業が芸能プロダクションってことで、学園ヒエラルキーはバカ高く、取り巻きも多い。しかしそんな取り巻きの中に一人、どうにも癇に障るクラスメイトがいた。うろちょろ寄ってくるわりに、ミキのことを崇めようとしないのだ。しかも謎のイケメンと仲良くしているらしい。二人がいつでも理科室でイチャイチャしてると聞きつけて、さっそく横槍を入れるミキだったが……。
 こう見えて古典的な学校の怪談を一捻りしたエピソード。怖さはそうでもないけど意外性があった。携帯は一応カメラとして使ってたりするけど、全然ストーリーに絡んでこない。グロテスクな表現は、対象読者の年齢層を考えると充分か。登場人物の間で最も重要なのは空気を読めるかどうか。幼いうちからサバイバルだなー。

『オトモダチ』福月悠人
 クラス委員の「小花」は入学式の日に入院したクラスメイトの「梨穂」と頻繁にメール交換をしていた。「メールってたのしいなぁ♪」なんて思いながら、学校生活の細々とした出来事を書いて梨穂に送信する。そんな風に過ごしていた矢先、クラスで不幸が起こった。テストで一番をとったクラスメイトが轢き逃げにあったのだ。つい先日も自分がテストで二番だったことを梨穂にメールしたばかりなのに。そこに梨穂からメールが届いた。「よかったネ(・▽ < )⌒☆」
 この後も似たパターンのの出来事が続く。ありがちな呪い系の怪談かと思いきや、超常現象の発生しないサイコものだった。真犯人は静かに狂っていた身近な人物で、前話に続いて意外性があってよかった。収録作品の中ではピカイチのエピソード。

『うしろの心霊ちゃん』ナフタレン水嶋

『教えてあげる』秋本葉子
「杏菜」は著しく優柔不断な、決められない女だった。メニューからなにから、全然決められない。そんな彼女にもってこいなアプリがあった。それが無料相談アプリ「KKR」である。「悩みを相談してね! なんでもおこたえします」とある通り、とにかくなんでも答えてくれる。KKRの答えの通りにやっていれば間違いない。すっかり頼りきりになった杏菜だったが、いつもスマホに向かってブツブツ呟いている様子を、キモいというクラスメイトがではじめた。いじめの対象になったのだ。それを相談すると、KKRはこう答えた。「邪魔なものを除去しましょう☆」
 ピンときた人がいるかもしれないが、コックリさんものである。「KKR」→「コックリ」ということらしい。アプリのマスコットもキツネだったりする。スマホ、アプリと装いは異なっているが、ストーリーは古典的。古い話がこんな風に生き残っていくのかと思うと、なんだか頼もしい。劇中、コックリさんについての軽い解説もある。
「コックリサン…? なんなの? それ…」「むかしはやった占いみたいなものかな? 」

『うしろの心霊ちゃん』ナフタレン水嶋

『消えないアドレス』大塚さとみ
「莉音」は高校一年生。買ったばかりのケータイを修理に出したところ、代用に借りたケータイに知らない人のアドレスが入っていた。思い切ってメールしてみると、相手は一つ上のイケメン。それを知った友達の「萌愛」が、自分が付き合いたいと言い出した。
 これも大筋はどこかで聞いた感じの話。実はこのイケメン、一年前に「ひどい死に方をしている」らしい。第1話の『理科室のふたり』にも似ている。『ちゃお』じゃなくて『なかよし』だけど、キャラのネーミングはさくら学院ぽい。

『うしろの心霊ちゃん』ナフタレン水嶋

『地獄少女 仮想世界の友だち』永遠幸 地獄少女プロジェクト
「美月」はMMORPG「ジゴ・クエスト・オンライン」に夢中だった。毎日いつものパーティでクエストに精を出している。メンバーは皆、美月より年上らしく、なにかにつけて彼女を可愛がってくれる。それが心地よかった。ところがある時、パーテイの一人が美月の写メを見たいと言い出した。「制服姿がいいな(^_^)☆ 夏だし水着でもいいよ」結局彼女は追放されてしまうのだが、後日こんなメールが届いた。「おまえのせいだ おまえなんて この世界から消えろ やめろ やめろ やめろ」……そしてある夜、何者かが美月の部屋に侵入した。
 ほぼSAOな感じのエピソードに、地獄少女がフュージョン。閻魔あいが「魔王が あらわれた!」と登場したり、相当カオスなエピソードである。大部分を占めるゲームの世界の描写はざっくりだけど、リアル世界の侵入者の描写は短いながら上々。



『本当にヤバイ ホラーストーリー ケータイ地獄』
 講談社 2012 講談社コミックスなかよし 1368
 著者:永遠幸 地獄少女プロジェクト/ナフタレン水嶋/秋本葉子/福月悠人/大塚さとみ/立樹まや
 ISBN-13:978-4-0636-4368-8
 ISBN-10:4-0636-4368-3


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江戸川乱歩『人でなしの恋』/『木馬は廻る』

 江戸川乱歩『人でなしの恋』
 江戸川乱歩『木馬は廻る』(『江戸川乱歩推理文庫〈5〉陰獣』講談社 1987 所収)

 エロっぽい人形というと、球体関節人形。そりゃ魔改造フィギュアやラブドールもエロいけど、こればかりは刷り込みみたいなものだからしょうがない。エロい。あのぐりっとした球体パーツがエロエロしいオーラのもとになってるような気もするが、あまり掘り下げないでおく。で、球体関節人形といえばハンス・ベルメール、伝統的な構造の人形を倒錯的に作り変えた「始祖」だ。しかし人形愛の人かというと、そうでもないイメージ。日本では四谷シモン。ベルメールにインスパイアされた先駆的な人形作家で、こちらは自身が認める人形愛まっしぐらな人である。
 ベルメールの作品はヒンデンブルクが爆発した1937年に日本で紹介されている。四谷シモンがベルメールの作品を初めて見たのは1965年のことだったらしい。以来、日本製の球体関節人形は、ベルメールを始祖として頂きながらも、四谷シモンの強い影響のもとに連綿と作り続けられることになる。
 ネット上ではレディ・メイドのスーパードルフィーなども含め、多くの人形作家によって生み出された人形の画像を見ることができる。どの人形も美しく、神秘的な雰囲気を漂わせていて、オブジェのように展示されているものもあれば、個性的な衣装で飾られ、相当慈しまれてるなーってことが伝わってくる人形も多い。こうした人形たちが程度の差はあれ疑似恋愛の対象になり得ることは想像に難くない。中には『人でなしの恋』の浮世人形のようなヘビーな愛され方をしている人形がいるかもしれない。
 面白いのは、さかのぼればベルメール由来の外貌を備えたそれらの球体関節人形が、機能や取り扱いの点で伝統的な人形に先祖返りしていると思われることだ。わりと言及されることが少ないが、ベルメールの人形2体のうち先に作られた個体、初号機には、素晴らしいギミックが搭載されていた。人形のヘソから体内を覗くと、電球で照らされたパノラマが見えるのだ。そこには6部屋に区切られた円環状のケースが収められていて、一つ一つの小部屋がそれぞれパノラマを内蔵しており、乳首を押すと場面が切り替わった。この初号機については製作の過程が克明にドキュメントとして残されているので、作りかけの装置を確認することができる。
 ベルメールの『人形のテーマのための回想』には下に貼った装置の図(※1)が載っていて、内蔵されたパノラマに関して次のような解説がされている。「パノラマは、小さなオブジェ、物質、悪趣味な色彩写真から生まれてきたものである。6つのそれぞれ色違いの小さな懐中電燈用電球が、順ぐりに必要な照明を供給する。」(※2) この電飾を施したのはベルメールの弟らしい。また『ベルメール写真集』では編著者がパノラマの様子をもう少し具体的に記している。謂く「このパノラマは、六つの色つき豆電球が照らし出す、北極の海に沈む船や少女たちの痰で飾られていると称されるハンカチや砂糖菓子やエピナル版画〈中略〉を収めた六つの箱から成っている」(※3)

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「《Musée》personnel」(1948)と題された写真がある。小物の並んだ飾り棚をモチーフとして選んだ、ベルメールのファンにはとても興味深い写真である。そこに並んでるのはおそらく彼の宝物なのだろう。ブリキの長靴を履いた猫、ミシンのミニチュア、ミニョネット3体、アフリカっぽいお面のミニチュア、カラフルな何か(ビーズ?)が入ったガラス瓶2本、ジャイロスコープ、根付けっぽい人形、赤いダイス、蒸気自動車のミニカー2台などなど、めっちゃ趣味がいい。いかにも宝物になりそうなものばっかりのラインナップだ。母親から幼年時代の思い出の品々が詰まった大きな箱が送られてきた、なんてことがあったらしいから、飾り棚に並んだいくつかは、その箱に入っていたものかもしれない。そして人形の体内には、当然、上記のような細々とした玩具の類いが収められていたのだろう。バカバカしくて、無邪気で、個人的で、実にノスタルジックなギミックである。
 ちょっと前にTVで霊能者っぽい人が、人の形をしてるのに中が虚ろ、だから人形には何かが憑きやすい的なことを言っていた。そういったスピリチュアルな妖しさが人形の大きな魅力であることは間違いない。しかしベルメールの人形にはきっと何も憑かないだろうなって気がする。ベルメールは一貫して人形をおもちゃとしていじくりまわし、それを撮影した。腹部に球体パーツを持つ二体目の人形(おっぱいが可動する2号機)にいたっては、バラバラのまま、ゲッターロボみたいに無茶な合体分離をさせたあられもない姿が多くの写真に収められている。

『人でなしの恋』は美しい一体の人形がでろでろに愛され、粉々に破壊される歪んだ愛欲の物語で、人形愛を題材にしたものとしては古典中の古典って感じの作品だ。著者自身、結構気に入っていたらしく、後年映画にもなってるし漫画化もされている。『木馬は廻る』は回転木馬の真ん中に突っ立って、ラッパを吹くことを生業にする中年男の切ない恋の話である。アウトラインは以前感想を書いた『踊る一寸法師』(←前の記事へのリンクです)と似るが、この作品にはエログロい要素は皆無。ろくに犯罪さえ起こらない。怪談でもない。それでも自分はこの作品が特に好きだ。ケレン味がない分、著者の筆力をより確かに感じることができる。見たこともない場末の「木馬館」の光景が、まるでヘソの穴から覗いたパノラマみたいに目に浮かぶ。ストレスでパンパンになった男が、なすすべもなく、ただ狂ったようにラッパを吹き鳴らす。それはなんとも痛々しく、切なく、ノスタルジックな光景である。


 ※1. ハンス・ベルメール(Hans Bellmer)著 種村季弘,瀧口修造訳『イマージュの解剖学』(“Anatomie de l'image”)河出書房新社 1975 p.21
 ※2. 同上 p.20
 ※3. アラン・サヤグ(Alain Sayag)編著 佐藤悦子訳『ハンス・ベルメール写真集』(“Hans Bellmer Photographe”) リブロポート 1984 p.15

 参考 Harry Jancovici, Bellmer : dessins et sculptures, Paris, La Différence, coll. « L'autre musée », 1983. 「《Musée》personnel,1948」が載ってます。



『江戸川乱歩推理文庫〈5〉陰獣』
 講談社 1987
 著者:江戸川乱歩
 解題:中島河太郎
 巻末エッセイ・乱歩と私:和久峻三(作家)「少年時代の私の乱歩」

 収録作品
 『踊る一寸法師
 『毒草
 『覆面の舞踏者』
 『灰神楽』
 『火星の運河』
 『モノグラム』
 『お勢登場』
 『人でなしの恋
 『鏡地獄』
 『木馬は廻る
 『陰獣』

 ISBN-13:978-4-0619-5205-8
 ISBN-10:4-0619-5205-6


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伊藤三巳華『スピ☆ヲタ子ちゃん〈1〉』

 

 伊藤三巳華『スピ☆ヲタ子ちゃん〈1〉』講談社 2017 ヤンマガKCスペシャル

 主人公は著者の少女時代「ミミカ」。「オバケ団地」と噂される千葉県N市の某団地で暮らしていた。本人によるとあまり裕福な家庭ではなかったらしい。幼い頃からミミカには人に見えない不可思議なモノが見えた。そして三日に一度という頻度で「幽霊に襲われて」育ったという。長じるにつれて、彼女は自身の体質をひけらかすことのリスクを自覚し、霊感アピールを封印する。しかし彼女には他人に知られてはならないもう一つの顔があった。昼間こそはバレーボールに励む健全な部活少女だったが、夜な夜な自作マンガに没頭する「ゲーム、アニメ、マンガヲタク」だったのである。当時、ヲタクへの風当たりは今以上に強く、「イケてる青春」を送りたいなら「霊感」共々封印必至という状況なのだった。自らの本性を隠し、他人を傷つけ他人に傷つけられながら、スクールカーストでのし上がろうとする主人公の日常は、まさにサバイバルである。←こういう感じの話が全9話収録。

『視えるんです。』『スピ☆散歩』などの霊感エッセイ漫画で知られた著者が、自らの少女時代をセキララに描く。って帯にあったから、霊感少女の日常とか興味深いなーなんて思いつつ読み始めたのだが……。印象は全然違ってた。「霊感」は二の次三の次で、ひたすら著者の痛々しい子供時代(小学校から高校入学くらいにかけて)と贖罪の思いが切々と描かれた懺悔マンガだった。デフォルメ調の絵柄で随分緩和されているが、内容はかなりヘビー。霊感、心霊、怪奇的にじゃなくて、残酷な人間関係的に。
 作品の紹介には「ミミカの周りには、個性的な友達がいっぱい」と楽しげな感じで載ってるけど、その友達が一筋縄ではいかない。極道の息子と噂される「タグチ」、パーマ屋の娘でヤンキーの「アケ」、猟奇的恋愛脳「くき(く)」、BLマンガに救いを求める悲劇の美少女「ちさとちゃん」などなど、個性的どころじゃない壮絶なメンツ。それぞれのエピソードもいちいち濃い。とりわけ家に帰りたがらないちさとちゃんの話「生霊になりたいですか?」は、その救い難さで印象に残った。子供には荷が重すぎる。
 前述の通り霊感よりも人間関係に重きが置かれているが、ほとんどのエピソードで霊感が人間関係の構築(と後悔)のとっかかりになっているところがスピリチュアルマンガらしい。ミミカはやや自意識過剰な少女で、幽霊そのものよりも、それが見えることで他人にキモいと思われることの方を怖れているようだ。繰り返し出てくる「見えるけど、全てが自分の妄想かも……」的なセリフは、成長したミミカが社会との折り合いをつけるために編み出したフレーズなのだろう。怖いシーンは少ないけど読み応えは充分なので、霊感少女の生い立ちに興味がある人にはおすすめ。



『スピ☆ヲタ子ちゃん〈1〉』
 講談社 2017 ヤンマガKCスペシャル
 著者:伊藤三巳華

 ISBN-13:978-4-0638-2969-3
 ISBN-10:4-0638-2969-3


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江戸川乱歩『湖畔亭事件』

 

 江戸川乱歩『湖畔亭事件』(『江戸川乱歩推理文庫〈3〉湖畔亭事件』講談社 1988 所収)

 主人公の趣味は覗き。それもがっつり装置を設えて挑む凝りに凝った覗き。自称「レンズ狂」。学校を卒業して、別段勤め口を探さねばならぬ境遇でもなく、なにがなしブラブラと暮らしている。趣味と合わせてなかなかのクズっぷりである。そんな彼がH山中のA湖畔にある「湖畔亭」という旅館に静養に出かけることになった。神経衰弱症を患ったのである。家族の勧めに従って、とはいうものの体のいい厄介払いだったのだろう。
 しばらく旅館の二階の部屋で、何をするでもなくぼやーっと過ごしていた主人公だったが、やがて悪いムシが騒ぎはじめた。幸か不幸か愛用のグッズ「覗き目がね」はしっかりトランクの底にある。旅館だけに獲物はよりどりみどりだ。早速、複雑に屈曲したシュノーケル状の「覗き目がね」を、湯殿の脱衣場に向けてセット。部屋にいながらにして快適な覗き生活を満喫する主人公だったが、あるときとんでもないものを目撃してしまう。脱衣場で女が刺されたのだ。犯人も被害者も不明。大量の血痕が発見され警察が呼ばれたが、捜査は進展しない。主人公は同宿していた洋画家の「河野」とともに、犯人を探しはじめた。なにせ主人公は犯行の決定的な瞬間を目撃しているのだ。

 この作品、ドラマの方を先に見てたので、この原作を読んでびっくりした。マジで全然違ってる。地下の水槽も、中継モニタも、スワンボートもない。何よりこの作品には明智探偵が出てこないのだ。原作だと言われてもわからないレベル。
 明智君に代わって本作で推理を披露するのは、青年画家の「河野」。主人公との関係性も含めて、なんとなくD坂の頃の明智探偵を彷彿とさせる。主人公はレンズ、幻灯(スライドみたいなやつ)、覗きに熱中する高等遊民で、乱歩作品の主人公にもってこいの好キャラである。自作にやたら厳しい著者は本作について「最初の部分はいくらか面白くかけたが、全体的には無理に辻褄を合わせたという外語るべきこともない〜」などといつものトーンで評しているが、主人公の開き直ったような独白は非常にキャッチーで、彼がいかにして仄暗い趣味に耽溺するようになったかを語るくだりには多くのページが割かれ、暗闇に浮かぶ幻灯のような〜と形容されるレンズの向こうの描写には、事件そのものや推理のパート以上に著者の熱気が感じられる。
 事件はわりと複雑な犯人と死体探しで、最後にどんでん返しがある。正直、河野の長い謎解きを読んだ後も全然ピンとこなかったのだが、サスペンスの点において本作のメインは覗きがばれそうでやばいってハラハラ。主人公がバカすぎて気が気じゃなかった。他人事ながら「早くシュノーケル片付けろよ!」って何度も思ってしまった。

 それにしてもドラマ。最近またまた見返す機会があったのだけど、なぜあんな感じになったのかさっぱり分からない。分からないけど、ドラマの方もしっかり面白かったので、後日そっちの感想も書こうと思う。



『江戸川乱歩推理文庫〈3〉湖畔亭事件』
 講談社 1988
 著者:江戸川乱歩
 解題:中島河太郎
 巻末エッセイ・乱歩と私:佐野洋(作家)「ある命日のこと」

 収録作品
 『闇に蠢く』
 『湖畔亭事件』

 ISBN-13:978-4-0619-5203-4
 ISBN-10:4-0619-5203-X


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いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント〈3〉』完

 

 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント〈3〉』完 講談社 2016 KC×378 ARIA

 とうとう第3巻、最終巻が出ました。第1巻が出たのが2013年の6月だから、3年と数ヶ月かかっての完結だ。今回ばかりは本当の本当に完結なので、寂しさもハンパない。この先何かあるとすれば「悪夢の棲む家」のリライトくらいか。
 内容はずっと追ってきたので割愛するが、この作品は単に原作に忠実なだけではなく、原作のニュアンスを丁寧に汲み取り、それを出来うる限りの繊細さで表現した上質のコミカライズである。説明調のセリフが多く場面転換の少ない密室劇であることや、クライマックスの暗闇の中のアクションをどう見せるかなどなど、コミカライズに際して勝手に不安視していたことは全て杞憂に終わった。

 このまま褒め言葉を並べてもしょうがないので残念だった点を挙げると、それは「真砂子」の出番が少なかったこと……じゃなくて、これで本当に終わってしまうってことに尽きる。原作者は続編を構想していたはずなのに。ヒロインの一人称で書かれた旧シリーズの第一話が学校の怪談ネタだったように、この新しいシリーズでもごくオーソドックスな戸建住宅(幽霊屋敷)がモチーフとして選ばれ、レギュラー陣が顔見せのようにぞろぞろと登場する。新シリーズ開始にあたって投入された「広田」が一話限りのゲストキャラでなかったとすれば、今後の展開は旧シリーズよりもう少し大人向けの、ミステリー要素の強い(事件がらみの)ホラーになっていたかもしれない。
 シリーズが中断した理由については、原作者が書きたいものと読者が望むものの乖離が原因と言われている(原作者自身がそう語っている)が、原作者の言葉の端々には現在もなお本作への強い愛着が感じられる。今こそ続きを書いてくれればいいのになーと思う反面、ゴーストハント以降の原作者の怪奇系の著作を読むにつけ、中断当時、原作者が意図していた路線には実はゴーストハントという器は必要じゃなかったのかも、とも思う。

 さてコミカライズの話に戻すと、この第3巻には第11話からエピローグ(第22話)までの12話と、オマケの番外編が2話収録されている。単行本化に際して大きな描き足し、変更点はない。ただし既刊分と同様、背景と画面効果には細かく手が入れられ、白っぽかった空間を埋めている。
 今回まとめて読み返してみて、あらためて感じたのは第21話の「川南辺仁美」の帰宅シーンの素晴らしさだ。前に儚げで美しいって書いたけど、それまでのシーンから一転して明るい画面になっているにも関わらず、作品屈指の超おそろしいシーンでもある。彼女は長い間、この悪夢の中に閉じ込められていたのだ。もし広田アンチの人がいたとしても、このシーンの彼のリアクションを見れば、彼に対する評価を一変させるに違いない。決してハッピーな作品ではないけれど、ホーンテッドハウスものとしては最高水準の作品。


 第3巻収録分の各話の記事へのリンクはこちら↓
 ARIA (アリア) 2014年 07月号 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント』連載第11回
 ARIA (アリア) 2014年 11月号 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント』連載第12回
 ARIA (アリア) 2015年 01月号 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント』連載第13回
 ARIA (アリア) 2015年 03月号 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント』連載第14回
 ARIA (アリア) 2015年 05月号 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント』連載第15回
 ARIA (アリア) 2015年 07月号 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント』連載第16回
 ARIA (アリア) 2015年 09月号 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント』連載第17回
 ARIA (アリア) 2016年 01月号 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント』連載第18回
 ARIA (アリア) 2016年 03月号 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント』連載第19回
 ARIA (アリア) 2016年 05月号 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント』連載第20回
 ARIA (アリア) 2016年 07月号 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント』連載第21回
 ARIA (アリア) 2016年 09月号 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント』最終回

 ARIA (アリア) 2014年 05月号 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント』番外編

 ※「番外編2」はARIA5周年記念描き下ろしショートコミック『甘々ARIA』に掲載。
 ※ 1〜3巻の帯についている応募券(第1巻特装版にもしっかり付いてました)を送ると、「全巻購入プレゼント」として「ポストカードコレクション」が貰えるそうです。全プレ。締め切りは2017年1月31日。



『悪夢の棲む家 ゴーストハント〈3〉』
 講談社 2016 KC×378 ARIA
 漫画:いなだ詩穂
 原作:小野不由美

 ISBN-13:978-4-0638-0878-0
 ISBN-10:4-0638-0878-5


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