横溝正史『本陣殺人事件』

 

 横溝正史『本陣殺人事件』(『本陣殺人事件』角川書店 1973 角川文庫 金田一耕助ファイル2 所収)

 昭和12年、岡山県の旧本陣「一柳家」の離れ座敷において、新郎新婦が死亡する事件が発生した。婚礼の夜の出来事である。新郎は一柳家の長男「一柳賢蔵」、新婦は小作人の娘で女学校の教師「久保克子」。二人が死亡した離れ座敷は降り積もった雪により完全な密室となっていたが、室内には犯人のものと思しき三本指の血痕が残されていた。克子の叔父で彼女の育ての親「久保銀蔵」は、旧知の名探偵「金田一耕助」を招聘する。

 この作品は全くの初読だったのだが、CSでやってるドラマやなんかで散々親しんだ作品なので、映像を思い浮かべながら読んだ。当然トリックも犯人も事前に知ってるわけなんだけど、今回ばかりはドラマ見といて良かった。じゃないと文章と附載されてる図を頼りに、本作のトリックをクッキリ想像するのは難しかったと思う。屏風の接合部の谷に沿って移動する刀とか、映像見てなかったら全然ピンとこなかったに違いない。

 で、そんなギミックに凝った事件の動機はというと、極端な処女厨の暴発。時代背景が異なるとはいえ、やっぱ、え、そんなんで?? という印象。金田一が長々と解説してはくれるんだけど。本作は執筆する前からトリックができていたというから、動機の訴求力の弱さにはそんな成立の影響があるのかもしれない。それにしても賢蔵、他にもっと方法があっただろうに。
 江戸川乱歩が本作を評した中には、犯行の動機と賢蔵を手伝うことになった弟「三郎」の心理の不可解さ、物足りなさが述べられている。また高峰三枝子の出てくるドラマ版では、マザコン要素で動機を補強していて、それなりの効果をあげていた。ただドラマでは三郎の役割が大幅にカットされてしまって、暗い激情に煩悶する賢蔵のキャラと、ある意味子供っぽい楽しいギミックに、少なからず齟齬が生じていたように思う。

 金田一シリーズ第一作の本作には色々新鮮な金田一描写がある。アメリカ時代の金田一がドラッグに溺れていたことや吃音症のことは、これまでにまばらに読んだ作品にははっきりと言及されてなかった。自分は巻数が記されてない本は適当に目についた巻から読むことが多いのだが、このシリーズの、少なくともこの作品は、主人公の来歴を知る意味からも最初に読んだ方が良かったかもしれない。それからあちこちに本作以降のシリーズの、特徴的なモチーフが散りばめられているのも興味深かった。日本刀にまつわる「因縁話」、閉鎖的な村社会、白痴美を体現したかのような「鈴子」のキャラなどなど。これらは残念ながらあまり描写されず、劇中で充分に生かされてるとは言い難いのだが、本作以降に書かれた作品では見事にストーリーの中核を担っている。

 最初に書いたように本作の映画やドラマはよくCSでやってるので、一本目の映画(1947)の他はほとんど見た。ATGの映画(1975)は時代を1975年に設定していて金田一役の中尾彬はジーンズ姿で登場する。石坂浩二や古谷一行のイメージが強いので、中尾彬??? って感じだけど、著者は中尾の金田一をかなり気に入っていた様子。ドラマの金田一シリーズ『ミイラの花嫁』や乱歩の美女シリーズでの怪演が印象的な田村高廣が賢蔵役を務めていて、作品自体の完成度も高い。おすすめの映画です。ちなみに著者の思い描く金田一耕助はズバリ渥美清らしい。
 というわけでドラマや映画に関する記述が多くなってしまったが、盛りだくさんの面白い作品だった。あと、少し前に読んだ作品にこの『本陣殺人事件』を連想させる作品があったので、直接関係はないけど触れておきたい。それは島田荘司の『龍臥亭事件』という作品で、本作と同じ岡山を舞台に琴が関わる密室事件が発生する。少々長いけど、一気に読めるとても楽しい作品だった。これもおすすめです。



『本陣殺人事件』
 角川書店 1973 角川文庫 金田一耕助ファイル2
 著者:横溝正史

 収録作品
 「本陣殺人事件」
 「車井戸はなぜ軋る」
 「黒猫亭事件」

 ISBN-13:978-4-0413-0408-2
 ISBN-10:4-0413-0408-3


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横溝正史『首』

 

 横溝正史『首』(『』角川書店 1976 角川文庫 金田一耕助ファイル11 所収)

 最近午前中にずーっと古谷一行の金田一シリーズがやっている。毎日録画してるんだけど、なかなか見れないのが歯がゆい(このすば見ました! )。昨日は『悪魔の花嫁』をやってて、レコーダーの番組内容を見てみると「おなじみ、古谷一行扮する金田一耕助が鋭い推理で事件に挑む大人気シリース! 金田一宛に届いた手紙に、次々起こる殺人、謎が謎を呼ぶ事件に巻き込まれ…」とある。めっちゃ汎用性の高い解説だ。ちなみに今日やってた『黒い羽根の呪い』は「金田一耕助が、過去の事件に絡んで起こる連続殺人事件の謎に挑む!」って感じで、これまた汎用性が高いというか、ほとんどの金田一ものに当てはまるなこれ。

 この作品も『獄門岩の首』というタイトルでしっかりドラマ化されている。舞台は岡山県の山中の集落。そこで三百年前の名主殺害を再現したかのような事件が発生した。滝の途中に突き出た「獄門岩」に男の生首が遺棄されていたのだ。胴体は下流の「首なしの淵」で発見された。犯人が逮捕されないまま一年ほどが過ぎて、「磯川警部」に連れられた「金田一耕助」が捜査に着手した矢先、再び獄門岩の上に生首が発見される。被害者は映画撮影のため村に滞在していた映画監督だった。去年と今年、二つの事件の関係者にはなんの関連もみられない。再度発生した凄惨な事件に「名主の祟りではないか」などと言い出す者までいる。同じ手口で行われた二つの犯行の関係とは??

 また生首かよ! というのはさておき、この作品は導入部の雰囲気がすごくいい。というのも金田一ものって、なかなか金田一が出てこない作品が結構あって、ヤキモキさせられることが多いのだ。しかしこの作品に関しては最初の最初から金田一が出ずっぱり。冒頭の奥歯にものの挟まったような磯川警部と、また面倒なことになりそうだなーと感じながらも、唯々諾々と観光案内されてる金田一、二人の間のなんとも言えない空気が絶妙だった。ぐたぐたしてるうちに自然に巻き込まれていってるのが面白い。三百年前の事件とその祟りが、あまりクローズアップされないのが少々物足りなかったけど、いい具合に騙されつつ楽しく読むことができた。
 で、生首について。今回の生首にはしっかり生首ならではの理由があって、自分にはわからなかったけど、推理小説をよく読む人にはすぐに犯行状況に察しがついてしまうかもしれない。それにしても金田一シリーズ、さすがに生首多すぎだろって感じなんだけど、ちょっと前に読んだ小林信彦との長い対談のなかで著者はこんな風に語っている。「ぼくは首取るのが好きなのよ。(※)」


 ※小林信彦編『横溝正史読本』角川書店 1976 p.38



『首』(旧題『花園の悪魔』)
 角川書店 1976 角川文庫 金田一耕助ファイル11
 著者:横溝正史

 収録作品
 「生ける死仮面
 「花園の悪魔
 「蝋美人」
 「

 ISBN-13:978-4-0413-0443-3
 ISBN-10:4-0413-0443-1


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櫛木理宇『ホーンテッド・キャンパス 幽霊たちとチョコレート』

 

 櫛木理宇『ホーンテッド・キャンパス 幽霊たちとチョコレート』角川書店 2013 角川ホラー文庫 Hく5-2

 正月に読んだばかりなので忘れないうちに。第1巻(←前の記事へのリンクです)は半年ほど前に読んだけど、なんとなーく気分が乗らなくて、この第2巻「幽霊たちとチョコレート」は今回が初読。冬の初めからバレンタインまでの、今の季節にぴったりな五つの短編とプロローグ+エピローグで構成されている。どれもほど良い長さで読みやすかった。

 基本設定等は前に書いた通りなんだけど、以前読んでて違和感があった点(ゲスい台詞の夾雑物感など)は見られなくなって、1巻と比べてチューニングがよく整ってる感じ。「第一話 シネマジェニック」はモキュメンタリー・ホラーを製作していた映研から持ち込まれた心霊映像についての案件(後述)。「第二話 彼女の彼」はかつて行方不明になった一人の女の子と、彼女をめぐる二人の男子学生の切ない系の話で、サブタイが秀逸。「第三話 幽霊の多い居酒屋」は害のない居酒屋ゆうれいの話で、主人公たちのリア充生活と幽霊が一番ガッチリ嵌合してるのがこの話かもしれない。「第四話 鏡の中の」は呪いの鏡にまつわる古典的な器物の怪談。「第五話 人形花嫁」も第四話に続いて古典的な人形怪談かなーと思いきや、ひとひねりある。以上のようなラインナップ。短編小説! って感じのキレはないけど、各話ごとの怪異が工夫されてるのがよかった。主人公の恋愛もじりっと進行。

 書き忘れていたが、本作は「大学生の主人公(男子)の淡い恋心をライトなタッチで描いた、オカルト風味のジュブナイル」である。印象としては学生生活8割、ゴースト2割。ガチホラーを期待していたらがっかりしてしまいそうだけど、今回は軽めであまり不吉じゃないのが読みたかったので(お正月ってことで)丁度よかった。気になったのはその8割と2割の乖離で、例えばチョコレートと幽霊は全く関係がない。チョコはチョコ、幽霊は幽霊。こんなに書いといて伏線じゃなかったのかと思うことが度々だった。あと主人公たちの周囲にある様々なオブジェクトの羅列にページが割かれているが、それが積み重なってどうになかった……ってならないのも惜しい。
 そんな収録作の中で一番面白かったのは「第一話 シネマジェニック」で、冒頭のナンパから盗撮、案件の持ち込みから解決に至るまで、撮影に使用したカメラを軸に最後まで綺麗に話が繋がっている。「映像」も目新しさこそないけれど、丁寧に描写されていてよかった。途中、あの盗撮をこんな風に絡めてきたよ! とワクワクしたのだが、全然ピンチ感なくてワロタ。もったいない。けど、それメインにしたら『リング』になっちゃうか。

 今月は読書の時間だけはどうにか確保できてるものの、プラモ作る時間は全然ないし、今期のアニメもまだちっとも見れてない。なかでも楽しみにしてたのがこのすばの2期、今日こそ寝る前に見ます!



『ホーンテッド・キャンパス 幽霊たちとチョコレート』
 角川書店 2013 角川ホラー文庫 Hく5-2
 著者:櫛木理宇

 ISBN-13:978-4-0410-0663-4
 ISBN-10:4-0410-0663-5


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横溝正史『花園の悪魔』

 

 横溝正史『花園の悪魔』(『』角川書店 1976 角川文庫 金田一耕助ファイル11 所収)

 主な舞台は東京近郊のS温泉にある「花乃屋旅館」と、その旅館が経営する大規模な花壇「花乃屋花壇」、そして「京王百草園」から多摩聖蹟へ抜ける山中である。昭和2X年4月の朝、花乃屋花壇を見回り中の園丁が異様なものを発見した。チューリップの花壇の真ん中に全裸の女があお向けに寝ているのだ。声をかけてみたが身動きひとつしない。激しく揺さぶってみると、首にかかった髪の毛の下から紫色のヒモの跡があらわれた。殺人事件である。被害者はヌードモデルの「南条アケミ」。絞殺された後、犯されていることが判明した。犯人と目された人物「山崎欣之助」の行方は杳として知れない。事件発生から一月あまり経ったころ、「金田一耕助」が花乃屋旅館にふらりと現れた。

 この作品には推理小説としての面白さや、興味深い死体の状況のほかにも、当時の生き生きとした風俗習慣をかいま見れるという楽しさがある。今回の事件の舞台となった「花乃屋旅館」は「はじめからアベック向きに設計」されており、都心から電車で50分、休憩もOKとのこと。今でいうラブホみたいなものかと思いきや、家族連れの客もあり、「花乃屋花壇」なんて大きな施設が併設されている。かなりオープンな雰囲気で、ラブホや連れ込みとは少々趣きが異なっているようだ。この作品が雑誌『オール讀物』に掲載されたのは今から60年以上も前、初代ゴジラと同じ1954年である。文章はそんな昔の作品とは思えないほど読みやすい。金田一と等々力警部が連れ立って出かけた「京王百草園」は今も昔もちょっとしたお出かけスポットで、二つの現場が「花」で繋がってるのが気が利いている。二つの現場に遺棄された二体の死体の状況も、一方は花壇に遺棄された美しい死体、もう一方は洞窟にうち棄てられた腐敗する死体と、見事に好対照である。

 今回金田一は最後の方まで全然出てこないが、帽子の血痕に着目し、論理的に犯人を絞っていく手腕は相変わらずの鮮やかさ。言われてみればそりゃそうだって感じだけど、言われなければ絶対に気付かない自信がある。特殊な業態の旅館、ヌードモデル、死姦された全裸の死体などなど、妖しげで扇情的なモチーフが詰め込まれた楽しい作品だった。
 この作品が収録されている短編集『首』は、以前は『花園の悪魔』というタイトルで出ていた。解説も付いているし、カバーのイラストもかっこいいので、手に入るならそっちの方がおすすめ。



『首』(旧題『花園の悪魔』)
 角川書店 1976 角川文庫 金田一耕助ファイル11
 著者:横溝正史

 収録作品
 「生ける死仮面
 「花園の悪魔
 「蝋美人」
 「首」

 ISBN-13:978-4-0413-0443-3
 ISBN-10:4-0413-0443-1


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娘TYPE (ニャンタイプ) 2017年 01月号

 

 娘TYPE (ニャンタイプ) 2017年 01月号

『ブレイブウィッチーズ』の特集が載ってる『娘TYPE 1月号』を買ってきたので、中身を簡単に紹介します。アニメ本編は現在絶賛放映中。最初キャラのCGがヤバかったのでハラハラしてたけど、なんとか持ち直したみたいでよかった(BD予約しました)。

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 巻頭大特集「ブレイブウィッチーズ 502JFW戦況報告書 ~オラーシャより愛をこめて~」
 「キャラクターズ」※キャラクター紹介。
 「502ズボンコレクション」※各キャラのズボンを紹介。
 「ストーリー」※アニメ7話までのストーリー。
 「Special Talk 加隈亜衣╳村川梨衣」
 「Special Talk 高森奈津美╳原由実╳照井春佳╳水谷麻鈴」
 「Special Talk 石田嘉代╳五十嵐裕美╳佐藤利奈」
 「Special Talk 石田燿子」
 「Special Talk 長岡成貢」
 「Special Talk 吉田知弘」
 「Goods&最新情報」
 「ワールドウィッチーズ(雁淵ひかり)」

 特集は20ページ強。アニメ本編についてはさらっと触れられているだけで、メインは声優の対談記事と、音響監督などに対するインタビュー。本誌にしては異例なほど文字の量が多いが、アニメのスタッフのインタビューは音楽、音響監督のみ。さすがに修羅場っぽいからしょうがないかな。今回のアニメ化に際しては、80人規模の声優オーディションが行われたとのこと。

 ↑ 連載記事の「ワールドウィッチーズ」にも『ブレイブウィッチーズ』の主人公「雁淵ひかり」が登場。こんなに凛々しかったっけ?? ってくらいかっこいい。本編の簡単な解説に、ひかりの固有魔法にまつわるエピソードを織り交ぜた記事も興味深かった。

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 ↑ 付録のクリアファイルとポスター。クリアファイルは表紙と同じイラストを使ったもの。菅野がすごいいい顔。

 ウィッチーズ関連としては他に「ピンナップ」(サウナのシーン)、コミック「ワールドウィッチーズ 魔女たちの航跡雲 contrail of witches Episode.03&04 ハンナ-ウルリーケ・ルーデル」(全64ページ!)、「連盟空軍広報局公式放送 LNAF.OA.ラジオワールドウィッチーズ」が掲載されていて、総ページ数の半分以上がウイッチーズ関連で占められている。
 というわけで、隔月刊になってから初のウィッチーズ特集、対談の分量が多かったので、声優さんの話が聞きたいって人にはオススメ。


『ブレイブウィッチーズ』公式サイト→ http://w-witch.jp


 

ブレイブウィッチーズ 第1巻 [Blu-ray]』(【Amazon.co.jp限定】全巻購入特典:ラジオCD「連盟空軍広報局公式放送 LNAF.OA.ラジオワールドウィッチーズ 出張版!」引換シリアルコード付)


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櫛木理宇『ホーンテッド・キャンパス』

 

 櫛木理宇『ホーンテッド・キャンパス』角川書店 2012 角川ホラー文庫

 好きなジャンルの気楽に読めそうな本ってことで、帯にでっかく「映画化決定」とある本書と、続刊の「幽霊たちとチョコレート」を購入。電車の中で読んだ。自分は読むのが遅い方だと思うけど、休みを挟んで2時間足らずで読み終えることができた(「幽霊~」は未読)。特に難解なところもなく、読みやすい本だった。

 この作品は大学生の主人公(男子)の淡い恋心をライトなタッチで描いた、オカルト風味のジュブナイルだ。メインの五つのエピソードの他、主人公の高校時代を描いたプロローグと、第五話の後日談にあたるエピローグが収録されている。舞台はとある大学の「オカルト研究会」(通称「オカ研」)。ベタに怪しげなサークルだが、周囲からはしっかり認知され、少なからず尊重されているらしい。見たくもないのに幽霊が見えてしまう主人公の「八神森司」は、想い人の「灘こよみ」を追ってこのサークルに入会した。今日もオカ研には学生の怪しげな相談が持ち込まれる。
 本書でオカ研の面々が関わるのは次の5件。「第一話 壁にいる顔」は壁に浮き出した女の顔に見えるシミの話。怯えた相談者が引っ越した先のアパートの壁にも現れた。「第二話 ホワイトノイズ」では相談者が繰り返し見る夢についての案件が持ち込まれる。夢に出てくる女との約束を破った相談者とその彼女の周囲に、霊障っぽい出来事が頻発しているらしい。「第三話 南向き3LDK幽霊付き」はサブタイ通りのいわく付き物件の話。「第四話 雑踏の背中」はドッペルゲンガー、「第五話 秋の夜長とウイジャ板」では引き篭もりの少女のために、みんなで降霊会を催している。ストーリーは死者が出るような激しいものではなく、日常のプチ怪異っぽい感じ。

 主要な登場人物はサークルのメンバー五人で、それに毎回相談者が数人加わる。キャラクターはテンプレだが、ラノベのキャラのようにカリカリにキャラが立っているわけでもなく、昔の少年少女小説の登場人物を思わせるチューニングでかなり薄口だ。そんなキャラとプチ怪異の取り合わせだから、モチーフこそなじみ深いモノが選ばれてはいるものの、ホラーっぽい怖さはほとんどない。というか、もともと幽霊etcにピントが合ってないし、合わせるつもりもなさそう。
 ところがこの作品には思わぬところにギョッとさせられるポイントがある。例えば→「感謝して欲しいくらいよ。我慢してくっさい短小の仮性包茎の筆おろししてやったのにさ。」(p.106) ……これは相談者の彼女が彼に向かって吐いたセリフの一節だ。他にも精子をぶちまけただの、放尿したら勃起が治まっただの、「これいるか??」って感じのゲスい描写が所々にブチ込まれている。夾雑物感ハンパないが、基本『まんがタイムきらら』あたりに載ってそうなノリなだけに、ギャップから来るインパクトもハンパない。これがもしも幽霊etcに向いてればなーって気もするが、思うに著者は「やっぱ生きてる人間が一番怖いわ」主義者なのではないだろうか。事件のキーとなる人物がことごくクズ、胸のすくようなクズだったりするのも、同様の理由からのように思われる。

 そんなわけで収録作の中では、諸々の要素が渾然となった第五話がわりと面白かった。稲川淳二の名言に「怪談は怖いばかりじゃない」ってのがあるけど、さすがに怖くないのばかりでは困る(個人的にはたとえ盛大にずっこけていても、怖がらせようとする姿勢が感じられるだけで結構いける)。……とはいえ「怖くない心霊、超常現象もの」 ≈「スピリチュアルもの」を期待する読者は大勢いるわけで、本作はそういった読者にうってつけの作品だと思う。続刊もどんどん出てるようだが、読者に続きを読ませるのは超常現象関連の面白さではなく、主人公の恋の行方への興味だろう。



『ホーンテッド・キャンパス』
 角川書店 2012 角川ホラー文庫 く5-1
 著者:櫛木理宇
 イラスト:ヤマウチシズ

 ISBN-13:978-4-0410-0538-5
 ISBN-10:4-0410-0538-8


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