いけ『ねこむすめ道草日記〈16〉』

 

 いけ『ねこむすめ道草日記〈16〉』徳間書店 2017 リュウコミックス

 予想以上の速さで第16巻が出た。リュウコミックスではこの「ねこむすめ」と、今TVでやってる(けどまだ見れてない)『セントールの悩み』を買ってるんだけど、両作ともにいいペースで刊行されてるのが喜ばしい。今回は第93話〜第99話+おまけを収録。前巻は初の一冊丸々続き物で、派手なバトルあり過去話ありと変化に富んだ一冊だったが、今回はいつも通りに戻って、まったりとしたエピソードが並んでいる。

 女郎蜘蛛の地域貢献が描かれる「第93話 紫陽花の花落としで道草」と「第94話 獅子丸と一緒の道草」は、とりわけ「いつも通り」な感じの強いエピソードで、まじで何も起こらない。「黒菜」と「獅子丸」がひたすらじゃれてるだけだったりする(94話)。それが「ねこむすめ」らしくて良かった。
「第95話」〜「第97話」は「千夏ちゃん」のメイン回。学校の怪談の「ミラーさん」(←トイレの鏡)こと「雲外鏡」が千夏ちゃんに変化して、彼女が内に秘めた思いを曝け出すべく暴走する。あとがきマンガを見るに著者(とカッパ)はどうやら千夏ちゃん一押しの様子。焦ったりヤキモキしたりするリアル千夏ちゃんも、黒菜っぽいおてんばなコピー千夏ちゃんも、とても可愛らしく描かれている。ただし千夏ちゃんメイン回にも関わらず、コックリさん分は少なめ。合体千夏ちゃんの出番の方が多い。
「第98話」は混浴温泉に潜むワニと雪女の「伊吹」の話で、幼い初恋エピソードの次がこれかよって感じのバカ話。温泉だけに肌色が多い。「第99話」は黒菜が「藤森商店」の飼い猫になる経緯を描いたプリクエル。前巻の黒菜の特訓話に続くストーリで、本作屈指の地味キャラ「鉄瓶の付喪神」が活躍する。99話目にふさわしいエピソードだと思う。

 そんなわけでこの第16巻は、ここまで本作を読んできた読者には楽しめる一冊になっている。次の第17巻にはいよいよ「第100話」が収録される。楽しみ!



『ねこむすめ道草日記〈16〉』
 徳間書店 2017 リュウコミックス
 著者:いけ

 ISBN-13:978-4-1995-0581-2
 ISBN-10:4-1995-0581-4


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いけ『ねこむすめ道草日記〈15〉』

 

 いけ『ねこむすめ道草日記〈15〉』徳間書店 2017 リュウコミックス

 今年も無事に『ねこむすめ道草日記』の新刊が出た。しかもまだわりと早い時期なので、めっちゃ上手く行けば年末にもう一冊読むことができるかもしれない。今回は第87話~第92話+おまけを収録。前巻には4話連続、計100ページの長編が収録されていて、続き物として過去最長だったのだが、この15巻ではそれを楽々と上回ってしまった。1巻丸々続き物である。人間側に新キャラが投入され、帯に「【ねこむすめ】史上最大のアクションが展開される!!!」とある通りの長いバトルもある。

 いつものコンビニに出現する化けガエル(ガマ子)。とにかく変化が下手くそなので、現地ではすっかり「蛙人間」として噂になってしまっている。それをどうにかしようとする妖怪と人間たち。「黒菜」たち妖怪が「化け学教室」にガマ子を入門させて猛特訓に励んでいた丁度その頃、コンビニの近くの川べりでは噂を聞きつけてやってきたJK式神使い「九条小夜子」と、蛙人間に間違われた「カッパ」との壮絶なバトルが始まろうとしていた。……というのが大まかなストーリー。

 正直1話目(第87話)を読んだ時点ではそれほどでもなかったのだが、後の方に行くほど尻上がりに面白くなった。通常のまったりドタバタしたノリも維持されているし、妖怪側と人間側がそれぞれしっかり描かれているのも良かった。後半は今回微妙なフラグを立てたカッパと新キャラによる高架下のバトルが中心となるが、カッパといえば、九州にはカッパのルーツを川に流された「人形」(式神みたいな感じ)とする説がある。それを踏まえた上での式神バトルだろうか。カッパが適度にふざけているので、バトルが殺伐としてなくてほどよかった。ナイスカッパ。
 この「ねこむすめ~」に関しては、長らく続き物には乗れないなーと感じていたんだけど、それも過去の話。そのイメージは前巻で大いに払拭され、この15巻はさらに楽しく読むことができた。あと「ちーちゃん」と一緒に出てきた見習い神使の「朱音」が可愛かった。



『ねこむすめ道草日記〈15〉』
 徳間書店 2017 リュウコミックス
 著者:いけ

 ISBN-13:978-4-1995-0553-9
 ISBN-10:4-1995-0553-9


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菊地秀行『妖山鬼』

 菊地秀行『妖山鬼』徳間書店 1991 徳間文庫 き-3-4

 ホラームービーの偉い人、菊地秀行によるヒロイック伝奇ホラー。『山童子』と『剣鬼山』の二編が収録されている。ともに雑誌に発表された作品で、『山童子』は掲載時から大幅に加筆されているとのこと。
 新潟県の山奥の廃村に踏み入った強盗殺人犯の三人(男2女1)が、次々に山中の邪悪な霊の餌食になっていく。そんな山の邪気を払うために遣わされたのは、ぱっと見普通の「少年」だった。少年と魑魅魍魎との壮絶なバトルが始まる……というのが『山童子』。同様の「少年」が登場する『剣鬼山』では、自らの先祖にあたる孤高の刀鍛冶の足跡を求めて山中に分け入った青年が、山の魔に憑かれて暴走する。彼に取り憑いた邪霊は、刀鍛冶の打った妖刀に魔力につられて山に集まったらしい。彼を追って山に入った恋人の「安代」もまた強烈な霊の影響を受けるが、危うく難を逃れることができた。彼女を救ったのは超常の能力を持った一人の少年だった。

 どちらもグロと戦闘に全振りした思い切りのいい作品である。伝奇色は妖刀「餓竜剣」の出てくる『剣鬼山』の方が濃い。エロ描写にもかなりのページが割かれているが、やってることのエグさに反してエロさはほとんど感じられなかった。単に好みの問題って気もすごくするが、本作のようなキメキメの文体は、エロ描写との相性があまりよくないように思う。というか本作の場合は、濡れ場もバトルの一環って感じ。
 で、その戦闘シーンだけど、ノリノリのキレキレ。著者の作品の特徴を一つ挙げるなら、なんといってもそのスピード感だが、本作でも映像的で無性にかっこいい神速のバトルが何ページも続く。「少年」「坊ちゃん刈り」といったバトル中の呼称が煩雑で、読んでてごちゃごちゃしてくるところもあったけど、勢いに任せて一気に読んだ。「あとがき」によると人間以外のものを都会で活躍させるのはかなり大変で、『山童子』では舞台を山中に設定したことで、驚くほど楽に筆が進んだという。
 あとキャラクターについては、『剣鬼山』の「安代」がよかった。どっちの作品にも無理にキャラを立たせたような人物は出てこないが、安代はビビりながらもギリギリでど根性を発揮する蘭姉ちゃん(←コナンの)みたいなキャラクターで、少年との距離感が絶妙。ヒロインの見本のようなヒロインになっている。酷い描写が盛り沢山の作品だけど、なぜか読後感は良かった。

 本書の巻末には「あとがき」の後ろに「はじめにホラーがあった」で始まる「あとがきの逆襲 (我がSF・ホラー映画)」が収録されており、怪猫映画と吸血鬼映画について著者が熱く語っている。



『妖山鬼』
 徳間書店 1991 徳間文庫 き-3-4
 著者:菊地秀行
 解説:三橋暁

 収録作品
 『山童子』
 『剣鬼山』
 
 「あとがきの逆襲 (我がSF・ホラー映画)」

 ISBN-13:978-4-1958-9329-6
 ISBN-10:4-1958-9329-1


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いけ『ねこむすめ道草日記〈14〉』

 

 いけ『ねこむすめ道草日記〈14〉』徳間書店 2016 リュウコミックス

 ここ数巻、年に一冊のペースで刊行されてる『ねこむすめ道草日記』の新刊が出た。今回は第80話〜第86話+おまけを収録。相変わらずのまったり進行だが、今回少し変わってるのは4話連続、計100ページの長編が収録されていること。巻末のおまけでも言及されているが、続き物としてはこれまでで最長だ。ストーリーは「黒菜」が拾った子猫を里親の元に送り出すまでを描いたシンプルなものだが、途中黒菜の過去話が挿入されてたりして奥行きのある作品となっている。実は黒菜も元々捨て猫だったのだ。また後半ではネコ勢力の拡大を阻止するために暗躍する「化け鼠」を登場させて変化をつけている。これまでにも数話続きの話はあったのだが、どうも普段とノリが違いすぎていて印象がよくなかった。それが今回の4話は普段のノリを維持したまま、読者を飽きさせないような工夫がされている。黒菜が自分の捨て猫としての過去をあまり悲劇的に捉えてなかったり、子猫たちのと別れも結構あっさりとしていて、ウェットになってないのも良かった。「コックリさん」が全然出てこなかったのは寂しいが、「女郎蜘蛛」株は爆上げ。

 メインの4話の他の3話では、いつにも増して何もない妖怪の日常が描かれているが、面白かったのは「第81話 読者の顔が知りたくて道草」。『ねこむすめよりみち日記』なる妖怪マンガの著者が、作品の掲載されている雑誌の読者を一目見ようと本屋をうろつく話だ。「そもそも描いてる自分自身でも、自分の漫画の読者層をよくわかっていない」とか「そもそも世間的には面白いと思われているんだろうか…」(p.33) なんて言ってるのが面白い。著者の思いがだだ漏れだ。この『ねこむすめ道草日記』が載ってるのは『月刊COMICリュウ』って雑誌で、「ねこむすめ〜」の他にもずっと買ってる『セントールの悩み』や『モンスター娘のいる日常』など、ややマイナーな趣味の作品が掲載されている。考えてみれば同じ雑誌に載ってる複数の作品のコミックを買うのって初めてかもしれない。それなのに実はまだ一度も店頭で『月刊COMICリュウ』を見たことがない(なので以前雑誌が休刊になった時も知らなかった)。もしかしてうちの近所の本屋には置いてないか、もしかしてもしかするとあっという間に売れちゃってるのかもしれない。近所に川がないからカッパが買ってるってことはなさそうだけど。



『ねこむすめ道草日記〈14〉』
 徳間書店 2016 リュウコミックス
 著者:いけ

 ISBN-13:978-4-1995-0509-6
 ISBN-10:4-1995-0509-1


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小松左京『秋の女』

 小松左京『秋の女』(『ハイネックの女』徳間書店 1983 徳間文庫 所収)

 四十がらみの主人公が山口から下関周辺を巡り、かつての乳母を訪ねる一人旅の途上、四人の女性(乳母、人妻、シスター、庵主さん)と再会したり知り合ったりする。だだそれだけの話。一つ怪異が生じているが、夢のように曖昧模糊として現実感はない。

 ごく静かな本作、それじゃ何が書かれているのかというと、主人公が行く先々で目にする町並みや建造物などの風景の数々と、その歴史的な背景が中心で、紀行文みたいな感じだ。ときに主人公の視線は湯呑み茶碗のような小物にまで愛しげに注がれている。冒頭で主人公は、中原中也の出身地として知られる湯田温泉の古い旅館の縁側で、手にした萩焼の茶碗から乳母の「お咲さん」を連想する。焼き物を見て彼女を訪ねることを思い立ったのだ。
 萩焼というと、この手のアイテムには興味の無い自分でも、名前くらいは聞いたことがある有名な陶器だ。確か2時間サスペンス (「小京都ミステリー」だったかな) に出てきた覚えがある。素朴な形状のいかにも使い勝手の良さそうな器で、ピンクと薄黄色と乳白色と、ときに淡い紫色に発色した釉薬が、薄曇りの日の夕焼けみたいに綺麗なグラデーションを描いている。もっと全然違った色合いのものもあるのかもしれないが、萩焼のイメージはこの色。なるほど乳母かーって感じの、地味ながら優しい色合いだと思う。

 主人公が乳母を訪ねて赴いた山口県の下関は、怪談ファンでなくてもお馴染み八雲の『耳なし芳一』の舞台となった赤間神宮がある街だ。そこには壇ノ浦で亡くなった幼い安徳天皇が祀られている。平家一門を祀った塚もある。これらのことを背景に生じる劇中の怪異は、短いながら抜群の雰囲気で、和風ホラーのファンにはきっと楽しめることと思う。また湯田温泉を発った主人公が、亀山公園のザビエル記念公園でメインヒロインの「宇治夫人」と出会ったあたりから、実はうすーく広範囲に生じた異界に足を踏み入れていたのではないか、なんて気もしてくる。もちろんその中心は赤間神宮だ。
 宇治夫人は非常に美しく謎めいたキャラクターで、彼女の中にはお嬢様育ちで世間知らずなキュートさと、人を圧するような異様な迫力が共存している。そして彼女には常人とは異なった何か不思議な力があるらしい。

 物語は談笑する四人の女性と、その様子を少し離れて鑑賞する主人公というシーンで終わる。タイトルの「秋」は劇中の季節が秋ってこともあるけど、美しい風景の中に佇んでNPCのように主人公を誘導する四人の女性の、それぞれが迎えた人生の「秋」の季節を指している。面白いのは主人公が彼女たちを草木に例えているところで、子福者の乳母はたわわに実をつけた晩秋の柿の木、宇治夫人は馥郁と香る大輪、中輪の黄菊白菊、シスターはすがすがしい緑を湛えた常緑樹、そして庵主さんは優しさの中に深みを湛えた楓の紅葉……って感じ。それぞれに中年を過ぎ、異なった形の「人生の秋」を迎えた女性たちの姿が鮮やかに描き出されている。
 風景や建物や小さな器や女性たちのイメージが次々に移り変わり、歴史的な背景と渾然となって、少しだけ不思議なストーリーを静かに紡いでいく。美しく味わい深い作品だった。

「過去はどうあろうとも、それぞれに、あたたかく、やさしく、しずかで、充実した「秋」をみのらせれば、それは女性としても、人としても、めでたい事ではあるまいか?」(p.173)


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いけ『ねこむすめ道草日記〈13〉』

 
 いけ『ねこむすめ道草日記〈13〉』徳間書店 2015 リュウコミックス

 超久々な気がする最新13巻が出た。あとがきマンガのなかで著者は「妖怪と人間の関わりを強めに話を作ったゲコ」(p.160)と、この13巻のコンセプトっぽいことを語っていて、その通り妖怪オンリーの話はゼロ、収録された6編はすべて妖怪と人間の関わりを中心に描いている。これまでとは違う雰囲気というより、特徴の一つが強化された感じ。相変わらずのほのぼのぶりだが、新キャラよりも従来のキャラの掘り下げが優先されている。

 この巻には「第74話」から「第79話」までの6話と、いつも通りの各1ページのおまけ5編&あとがきが収録されている。前述の著者の狙いがとくに顕著なのは「第74話 露天風呂…雪と紅葉で道草」と「第78話 小さい頃の叶ちゃんと一緒に道草」の2話。ともにドタバタ控えめで情感たっぷりの作品だった。
「第74話」は全国の温泉巡りをしてる雪女の「伊吹」が、旅先で知り合った親子と露天風呂に入る話。混浴ってことで微エロい話かと思いきや、予想外にしんみり。伊吹のハーフ設定が活きている。「第79話」は渋垣八幡の娘「叶」と狛犬姉弟の出会いを描いた過去話。狛犬姉弟は主に狛犬形態での登場だが、二匹? のファンにとっては嬉しい一編。それにしても姉弟は、なんであんなことになってしまってたのだろう。この先、その辺りも描かれるのだろうか。あんまり鬱展開にならないといいな。

 あと「第74話」の終わりが、そのまま「第75話」の冒頭と繋がってるのも目新しくてよかった。妖怪のいる日常ものとして安定感抜群。カバーの下にもマンガが載ってます。


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