『ほんとにあった怖い話〈19〉読者の恐怖体験談集』

ほんとにあった怖い話〈19〉読者の恐怖体験談集』朝日ソノラマ 1992 ハロウィン少女コミック館

 さすがにこのあたりまで読んでくると、目次の段階で当たりハズレの見当がつくようになってくる。カバーのソデには「ほんとに、ほんとに、ほんと〜に体験しちゃった恐怖の体験、不思議な体験をマンガ化するシリーズ。ゾクゾクパワー、ますますアップ。」なんて書いてあったけど、見たところまずまずかなーって感じで、実際にそうだった。
 この巻の特徴は建物や土地にまつわる怪異譚が目立つこと(「第一話、第三話、第五話」など)。また下のリストの通り長めの作品も多い。前巻に続いて学校の怪談系のネタは皆無である。この時期、姉妹シリーズの『ほんとにあった怖い話 作家編』がスタートしていることからも、マンネリ回避のための試行がなされていたのかもしれない。

 ソデにあったゾクゾクパワーを存分に感じられるのは、収録作の中では「第五話 悪霊住宅」が唯一だった。もうタイトルからして並々ならぬ気合が感じられるが、トビラ含めて24ページの中に比較的地味な「手の怪」、ラップ音から、布団の上に乗ってくる系の複数の幽霊、逆柱(?)っぽい怪異まで「うちで起きたら嫌なこと」が詰め込まれている。作画も上々で、ページのめくりの効果もしっかり計算されている。ささやななえこ(ささやななえ)の名作『空ほ石の…』を彷彿とさせる怖いシーンもある。もともと絵の上手い人らしいが、マジで読者をビビらせてやる!! って気合がひしひしと感じられた。

 その他に印象的だったのは「第一話 ゆうれい居酒屋」と「第八話 最後の買物」。「第一話」はタイトルの通り霊的な現象が頻発する居酒屋の話。怪異自体はごくスタンダードなものだが、投稿者が一人だけ徹底して何も感じないのが面白かった。「第八話」は信楽焼のでっかいタヌキを買いに幽霊が骨董市に来る話で、なんとなく幸田露伴っぽいネタ。絵柄は淡白でホラー漫画としてはどーかと思うが、ほっこり系の話によくはまっていた。ここに出てくる骨董市に多分行ったことがある。



『第一話 ゆうれい居酒屋』投稿者・大阪府 高松明美さん 画・七色虹子 ’92『ほんとにあった怖い話』5月号 掲載 ※職場の怪談

『第二話 会いたくて淋しくて』投稿者・東京都 山崎悦子さん 画・黒田祐乎 ’92『ほんとにあった怖い話』7月号 掲載 ※家族の心霊体験

『第三話 異界の客達』投稿者・栃木県 松本裕子さん 画・山口夏実 ’92『ほんとにあった怖い話』5月号 掲載 ※霊感少女・職場の怪談

『第四話 のびる腕』投稿者・宮崎県 匿名希望さん 画・渡辺杜都 ’92『ほんとにあった怖い話』7月号 掲載 ※霊感少女(主婦)

『第五話 悪霊住宅』投稿者・大阪府 匿名希望さん 画・浅野まいこ ’92『ほんとにあった怖い話』3月号 掲載 ※幽霊屋敷

『真夜中の泣き声 他』画・三浦尚子 ’92『ハロウィン』3月号 掲載
 「第六話 真夜中の泣き声」投稿者・北海道 須佐邦子さん ※水子
 「第七話 下校時の遭遇」投稿者・千葉県 匿名希望さん ※路上の怪

『最後の買物 他』画・天ヶ江ルチカ ’92『ほんとにあった怖い話』5月号、7月号、’92『ハロウィン』1月号 掲載
 「第八話 最後の買物」投稿者・東京都 柴田貴代さん ※骨董の怪談
 「第九話 午後の訪問者」投稿者・奈良県 中尾有香子さん ※ドッペルゲンガー
 「第十話 最後の別れ」投稿者・山形県 五十嵐理恵さん(P.N) ※家族の心霊体験



『ほんとにあった怖い話〈19〉読者の恐怖体験談集』
 朝日ソノラマ 1992 ハロウィン少女コミック館
 著者:七色虹子 他

 ISBN-13:978-4-2579-8233-3
 ISBN-10:4-2579-8233-0


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竹河聖『おさわがせ幽霊(ゴースト)』

 竹河聖『おさわがせ幽霊(ゴースト)』朝日ソノラマ 1989 ソノラマ文庫〈497〉

 今年は31日と1日しか休めなかったので、のんびりプラモでも作りながら買ったきりになってる映画や、ハードディスクを圧迫してるアニメでも消化するか……なんて目論見はもろくも崩れ去り、結局隙間の時間に読書する通常営業になってしまった。ただ一応正月ってことで重めのはやめといて、楽しめの本を何冊か出してきて読んだ。竹河聖『おさわがせ幽霊(ゴースト)』、櫛木理宇『ホーンテッド・キャンパス 幽霊たちとチョコレート』、キャロリン・キーン『幽霊屋敷の謎』、ウェン・スペンサー『ようこそ女たちの王国へ』など。『〜女たちの王国へ』は今2/3くらいまで読んだところ。なかなか面白い。『おさわがせ幽霊』は多分数十年(十数年じゃなくて)ぶりの再読で、ほとんど初読ってレベルまで内容を忘れていた。

 主人公は高校生でつのだリスペクトなネーミングの「一太郎」、それから一太郎のいとこの美人姉妹「華藻」「玉緒」。華藻は一太郎と同学年で、玉緒は一つ年下、二人合わせて玉藻前姉妹である。この三人が旅先や近所や学校で、やたらに幽霊に遭遇する。収録されているのは「第一話 首なし美女でございます」「第二話 幽霊屋敷でございます」「第三話 学園七不思議でございます」「第四話 背後霊でございます」の四話。それぞれ独立した短編だが、相互にゆるーく繋がっている。
 全体は幽霊の描写と三人のリアクションと、あと睦月影郎の本に出てきそうな「甘い少女の匂いが鼻腔をいっぱいにし、柔らかい胸が身体に密着してくる」って感じの微妙なフェチ描写で占められていて、それで全253ページ。セリフが多いし描写もなんとなくト書き調なので、アニメのシナリオでも読んでる気分になる。昨今のライトノベル以上にライトな作品である。書き忘れてたけど、コメディ作品だ。

 で、超久々に読み返してどうだったかというと、これが結構楽しめた。なんといっても主人公の美人姉妹がいい。普段人前では深窓の令嬢のように振舞っているのだが、一太郎の前でだけ本性をあらわして彼を虐待する。まあ虐待といってもプロレス技をかける、言葉で攻める、という非常に羨ましい虐待なのだが。この二人のお転婆ぶりのさじ加減が絶妙。話が進むにつれて微妙ながらじわっとデレてくる。
 肝心の幽霊は出るべき場所に出るべくして出たって感じのが出る。幽霊出る→主人公遁走の繰り返しだが、幽霊自体は各話ごとに工夫が凝らされていて(グロ描写はない)、そこだけ見ればコメディ作品とは思えないほど充実している。タイトルは最後の最後でしっくりとくるが、それまで「おさわがせ」なのはどう見ても主人公側。



『おさわがせ幽霊(ゴースト)』
 朝日ソノラマ 1989 ソノラマ文庫〈497〉
 著者:竹河聖
 イラスト:橘田幸雄

 ISBN-13:978-4-2577-6497-7
 ISBN-10:4-2577-6497-X


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伊藤三巳華『濡れそぼつ黒髪』

 

 伊藤三巳華『濡れそぼつ黒髪』朝日新聞出版 2012 HONKOWAコミックス

 以前なら「怖っ!」って思うはずのところを「凄っ!」って思うことが多くなっている。CSでやってる怪奇系の番組を見ながら、そんなことをふと思った。頻度でいえばそんな風に感じること自体、少なくなっているような気もする。
 もともと怪談やホラーなんて全然怖くないって人もいるかもしれないが、自分は本来怖がりな方で、子供の頃は刑事ドラマに出てくる白目を剥いた死体を見てびびりまくっていたのだ。それなのに気付けば「ほんとにあった~」とか見ながら夕飯食べるようになってる。これは由々しき自体だ。怖いシーンを見たら「今のは良かった」なんて感心するより、「怖っ!」って思う方が楽しいに決まっている。

 子供の頃、周囲にはオカルトっぽいものが溢れていた。当時は何度めかのオカルトブームで、TVも漫画も学校での雑談も怪しげなオカルトネタが幅をきかしていた。そんな有象無象、玉石混淆の数あるオカルトネタの中で、最も強烈で禍々しい恐怖アイテムだったのが、中岡俊哉の『恐怖の心霊写真集』である。中身を見るどころか、触るだけでも呪われそうな、リアルネクロノミコンな本だった。目につくところに置いてあることが嫌で嫌でたまらなかった。それなのに新刊が出ると友達から借りてきて、夜になると借りてきたことを後悔する、そんなアホな行動を繰り返していた。今見ると草むらにやたら「コダマ」(もののけ姫の)みたいな顔が白く書き込んであるページばかりで、怖いというより面白くなってしまっているのだが。

 といった具合にオカルト関連本を借りてきて眺めたり、TVの心霊番組を家族で見たりしてオカルト生活をエンジョイしてたのだが、ずっと不満に思っていたことがあった。それは小学校高学年くらいの自分から見ても、次々に登場する霊能者の方々の絵があまりにも下手すぎるということだった(宇宙人の目撃者もひどかったけど、たまたま見ただけの人なのでまあ仕方がないって思った)。ちょっと下手とか、苦手そうって感じじゃなくて、とにかく雑。天は二物を与えずというけれど、せめて一回見直せよ、絵心がないなら真心をって感じだった。

 この手のグチを書きはじめるとキリがなくなるし、何書いてるのかわからなくなってきたのでやめとくけど、この『濡れそぼつ黒髪』は ↑ のような積年の恨み、じゃなくて長年の不満解消の一助となる好著である。
 古来、漫画家、特に少女漫画家の中には、霊感がある、心霊体験がある、お告げが聞こえる、私こそ神の依代だ等々公言して憚らない作家がいて、実体験を反映した作品を発表してたりするが、本作はそういった作品群とは一線を画していると思う。めっちゃざっくりいうと、この作品は「漫画家が実体験をもとに描いた心霊漫画」ではなくて、「霊能者が実体験をもとに描いた心霊漫画」なのである。同じようなもんだろと思われるかもしれないが、なんかちょっとやっぱちょっと違う。
 著者は『視えるんです。』『スピ☆散歩』といった心霊・スピリチュアルエッセイ漫画で知られる伊藤三巳華。これらの著作では主にデフォルメ調のファンシーな絵柄が採用されており、ごくたまーにシリアスな心霊描写が挿入されて効果を上げているが、この『濡れそぼつ黒髪』は全編シリアスな絵柄。心霊ものにぴったりのギクギクした感じの神経質そうなタッチで、これがまた上手い。『視えるんです。』をイメージして読むと落差にびっくりする。デフォルメが上手い人はシリアスも上手いというのは本当らしい。

 本書に収録されたエピソードは全部で6編。著者「みみか」をはじめ登場人物は共通するが、ストーリーに連続性はない。全て著者の実体験や知人から聞いた話をもとに描かれている。基本「見ただけ」の話だが、怪異を感知するのが著者だけではなくて、他にも程度は違えどそれを感じるキャラが配置されておりリアリティを補強している。どのエピソードも甲乙つけがたい出来映えだったが、表題作の「濡れそぼつ黒髪」「悪戯(いたずら)」「居候(いそうろう)」の3編は特に好みだった。どれも幽霊の出る部屋や建物にまつわるエピソードである。
 自分は幽霊の類いは一切見たことがないし、本書に出てくるタイプのものはお断りだが(かわいいのは歓迎)、こんな風に見えるのかーとワクワクしながら読むことができた。心霊漫画が好きな人にはオススメの一冊。



『濡れそぼつ黒髪』
 朝日新聞出版 2012 HONKOWAコミックス
 著者:伊藤三巳華

 収録作品
 「濡れそぼつ黒髪」『ほんとにあった怖い話』2005年1月号 掲載
 「悪戯(いたずら)」『ほんとにあった怖い話』2005年9月号 掲載
 「黒煙の土地」『ほんとにあった怖い話』2006年3月号 掲載
 「肝だめし」『ほんとにあった怖い話』2006年9月号 掲載
 「聖夜の遺言」『ほんとにあった怖い話』2007年1月号 掲載
 「居候(いそうろう)」『ほんとにあった怖い話』2007年7月号 掲載

 ISBN-13:978-4-0227-5309-0
 ISBN-10:4-0227-5309-9


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いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント〈3〉』完

 

 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント〈3〉』完 講談社 2016 KC×378 ARIA

 とうとう第3巻、最終巻が出ました。第1巻が出たのが2013年の6月だから、3年と数ヶ月かかっての完結だ。今回ばかりは本当の本当に完結なので、寂しさもハンパない。この先何かあるとすれば「悪夢の棲む家」のリライトくらいか。
 内容はずっと追ってきたので割愛するが、この作品は単に原作に忠実なだけではなく、原作のニュアンスを丁寧に汲み取り、それを出来うる限りの繊細さで表現した上質のコミカライズである。説明調のセリフが多く場面転換の少ない密室劇であることや、クライマックスの暗闇の中のアクションをどう見せるかなどなど、コミカライズに際して勝手に不安視していたことは全て杞憂に終わった。

 このまま褒め言葉を並べてもしょうがないので残念だった点を挙げると、それは「真砂子」の出番が少なかったこと……じゃなくて、これで本当に終わってしまうってことに尽きる。原作者は続編を構想していたはずなのに。ヒロインの一人称で書かれた旧シリーズの第一話が学校の怪談ネタだったように、この新しいシリーズでもごくオーソドックスな戸建住宅(幽霊屋敷)がモチーフとして選ばれ、レギュラー陣が顔見せのようにぞろぞろと登場する。新シリーズ開始にあたって投入された「広田」が一話限りのゲストキャラでなかったとすれば、今後の展開は旧シリーズよりもう少し大人向けの、ミステリー要素の強い(事件がらみの)ホラーになっていたかもしれない。
 シリーズが中断した理由については、原作者が書きたいものと読者が望むものの乖離が原因と言われている(原作者自身がそう語っている)が、原作者の言葉の端々には現在もなお本作への強い愛着が感じられる。今こそ続きを書いてくれればいいのになーと思う反面、ゴーストハント以降の原作者の怪奇系の著作を読むにつけ、中断当時、原作者が意図していた路線には実はゴーストハントという器は必要じゃなかったのかも、とも思う。

 さてコミカライズの話に戻すと、この第3巻には第11話からエピローグ(第22話)までの12話と、オマケの番外編が2話収録されている。単行本化に際して大きな描き足し、変更点はない。ただし既刊分と同様、背景と画面効果には細かく手が入れられ、白っぽかった空間を埋めている。
 今回まとめて読み返してみて、あらためて感じたのは第21話の「川南辺仁美」の帰宅シーンの素晴らしさだ。前に儚げで美しいって書いたけど、それまでのシーンから一転して明るい画面になっているにも関わらず、作品屈指の超おそろしいシーンでもある。彼女は長い間、この悪夢の中に閉じ込められていたのだ。もし広田アンチの人がいたとしても、このシーンの彼のリアクションを見れば、彼に対する評価を一変させるに違いない。決してハッピーな作品ではないけれど、ホーンテッドハウスものとしては最高水準の作品。


 第3巻収録分の各話の記事へのリンクはこちら↓
 ARIA (アリア) 2014年 07月号 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント』連載第11回
 ARIA (アリア) 2014年 11月号 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント』連載第12回
 ARIA (アリア) 2015年 01月号 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント』連載第13回
 ARIA (アリア) 2015年 03月号 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント』連載第14回
 ARIA (アリア) 2015年 05月号 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント』連載第15回
 ARIA (アリア) 2015年 07月号 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント』連載第16回
 ARIA (アリア) 2015年 09月号 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント』連載第17回
 ARIA (アリア) 2016年 01月号 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント』連載第18回
 ARIA (アリア) 2016年 03月号 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント』連載第19回
 ARIA (アリア) 2016年 05月号 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント』連載第20回
 ARIA (アリア) 2016年 07月号 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント』連載第21回
 ARIA (アリア) 2016年 09月号 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント』最終回

 ARIA (アリア) 2014年 05月号 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント』番外編

 ※「番外編2」はARIA5周年記念描き下ろしショートコミック『甘々ARIA』に掲載。
 ※ 1〜3巻の帯についている応募券(第1巻特装版にもしっかり付いてました)を送ると、「全巻購入プレゼント」として「ポストカードコレクション」が貰えるそうです。全プレ。締め切りは2017年1月31日。



『悪夢の棲む家 ゴーストハント〈3〉』
 講談社 2016 KC×378 ARIA
 漫画:いなだ詩穂
 原作:小野不由美

 ISBN-13:978-4-0638-0878-0
 ISBN-10:4-0638-0878-5


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A・ブラックウッド『打ち明け話』

 アルジャノン・ブラックウッド(Algernon Blackwood)著, 中西秀雄訳『打ち明け話』(“Confession”『ブラックウッド怪談集』講談社 1978 講談社文庫 所収)

 トラックの後ろを走っていると、たまにこっちに気付いてないんじゃないかと思うことがある。とくに左斜め後ろを走っているとき。ゆるーっと幅寄せしてきて、慌てて元の車線に戻る。そんな挙動をする。昨日の朝はびっくりするほどの霧だった。視界2メートルくらいか。なのでいつもよりびびりながら、ライト類も全て点灯してそろそろと走った(ライト直しといてよかった)。こんなときに限って、斜め前にずっとコンビニのトラックがいる。こっちに気付いてるかどうか、気になってしょうがない。
 乳白色の霧の中から、対向車や自転車の高校生が突然ぼっと現れる感じは、ビジュアル的にはかっこよかったけれど、前の車のテールランプに集中していて、そのかっこよさをじっくり味わう暇もなかった。霧の多い地方の人はほんと大変だと思う。今日は雨になってよかった。

 霧をモチーフにした作品は数多い。単に怖っぽい雰囲気作りのための霧ではなく、霧そのものが怪異の主体となっている作品。この『打ち明け話』もまたそんな作品だ。人の知覚を混乱させる霧が全編を白く覆っている。
 主人公は戦争で心にダメージを負った気弱な男。劇中では「弾丸衝撃症」(シェル・ショック)と診断され、症状として死んだ戦友たちの幻を見る。PTSDだ。そのリハビリのために一人で知人を訪ねるつもりでいたのである。ところが駅から外に出ると、町全体が一歩も進めないほどの濃霧に包まれている。いきなり混乱する主人公。霧の中から通行人がランダムに現れては、消えていく。主人公には霧の中の人々が現実の人間なのか、傷ついた精神が見せる幻なのか判別ができない。どうにかなってしまいそうなのを必死で堪えて、じりじりと進む。やがて見るからに様子のおかしい一人の女と行き合った。
 彼女は主人公に輪をかけてヤバい状態に陥っているらしかった。突然走り出した女の後を追って、主人公は一軒の館に誘われていく。そしてそこで冷たく横たわる女の死体を発見したのだった。

 この作品の霧は人の方向感覚を狂わせるばかりか、時空まで歪めるような超自然的な働きをするらしい。著者はそんな特殊な霧で幽霊屋敷をすっぽりと包み込み、そこにPTSDに苦しむ主人公を配して、過去の出来事を繰り返す系の古典的なゴーストストーリーに一ひねりも二ひねりも加えている。怖さよりも霧の中の不安感が印象に残る作品だが、短編小説としての結講もがっちり備えており、巻末の「訳者ノート」の解説では収録作中、最も優秀な作品と評されている。タイトルは最後に出てくるもう一人の登場人物に、主人公が一連の出来事を打ち明けることから。


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加門七海『祝山』

 

 加門七海『祝山』光文社 2007 光文社文庫

 原稿が遅々として進まない主人公のホラー小説家のもとに、旧友からメールが届いた。なんでも男女数人で群馬県のある心霊スポットを訪れて以来、気になる出来事が続いているのだとか。偶然にも心霊スポット突撃小説の執筆真っ最中だった主人公は、ネタになるかも! という軽い気持ちで旧友とその同僚たちと対面する。ところが実際に会ってみると、彼女たちには恐怖に直面している人独特の緊迫感がまるでない。元来心霊スポットでの肝試しには否定的だった主人公は、早々と後悔することになった。ノリがあまりにも軽すぎるのだ。しかし体験談を聞き、現場で撮影された写真を見せられているうちに、主人公はなんとも言い難い不吉な予感が湧き上がるのを感じた。この日以来、彼女は強力な災禍に巻き込まれていく。

 著者の実体験に基づいて書かれた実話怪談風の作品。ホラー作家が持ち込まれたネタに飛びついて酷い目に合う。『203号室』と続けて読んだけど、どっちも面白かった。
 実話怪談風というだけに、生じる怪異に派手さはない。めっちゃやばいことが起こってるらしいんだけど、具体的にすごい何かが出現するわけでもない。そもそも幽霊らしい幽霊も出てこない。それでも読み進めるうちに、細々と積み重なっていく不吉な出来事の背後に、人知の及ばない深い闇が口を開けている、そんな風に感じられてくる。不可知な毒ガスにじわじわ侵されてるような嫌な感じだ。登場人物の不遜で罰当たりな振る舞いにもいちいちイライラさせられる。
 劇中では旧友が精神的におかしくなり、男性の一人は交通事故であっさりと死亡してしまう。彼女たちはなぜそんな目に合わなければならなかったのか。その謎を巡って、ストーリーはミステリーっぽく展開する。文章は淡白で軽めだが、実話怪談風のノリによく似合っているように思う。作品のキモになる「山岳信仰」についての記述も、勢いとそのらしさを損なわないよう程々に抑えられている。
『ノロイ』(2005)や「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!・シリーズ」(2012〜)のようなフェイク・ドキュメンタリーのファンにはオススメの作品。カバーのデザインも作品内容をよく反映した抜群の雰囲気。



『祝山』
 光文社 2007 光文社文庫 か36-5
 著者:加門七海

 ISBN-13:978-4-3347-4305-5
 ISBN-10:4-3347-4305-6


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