つのだじろう『うしろの百太郎〈4〉』

 つのだじろう『うしろの百太郎〈4〉』講談社 1983 KCスペシャル 34

 編集の都合でちょい見せになっていた前巻のラスト「第十一章 ポルターガイスト」の続きから始まる巻。過酷な臨死体験を経た一太郎は、守護霊と交信し、霊界をかいま見て、「第十四章 イヌ神つき伝説」では強力な悪霊と対峙する。

「第十一章 ポルターガイスト」
 前巻(←前の記事へのリンクです)からの続き~相変わらず心霊現象を信じようとせず、一太郎親子に詰め寄る捜査陣。そんな彼らの目の前で激しいポルターガイストが発生する。ラップ音が響きわたり、家具や食器が空中を飛び回る盛大な現象である。一太郎は飛んできた包丁に刺され病院に搬送されてしまう。ポルターガイストは一旦収まったように思われたが、今度は一太郎の病室が苛烈な現象に見舞われた。頼みの綱の百太郎はあらわれない。大量のメスや鉗子が一太郎めがけて飛ぶ。
 冒頭でハイズビル事件とフォックス姉妹が解説され、ストーリーは概ねこの事件を肯定的にトレースするように進行する。印象としてはずーっとポルターガイストって感じだが、どす黒い流線を描いてビュンビュン飛ぶメスやナイフの描写は物理現象ならではの迫力。百太郎が出てこないうえに、縫合した傷口をべリッと開くような流血シーンもあるのでピンチ感は半端ない。章のシメには「カリフォルニア大学バークレイ校の語学研修に参加した浪人生のAくん」からのポルターガイスト体験記が長々と引用され、こっちも読み応えがある。

「第十二章 守護霊との交霊」
 前章の事件の際、百太郎が出てこなかったことをグズグズ気にする一太郎。そこで「日本有数の物理的霊能者」にアドバイスを受け、守護霊百太郎との積極的なコンタクトを試みた。すると「はやくも出てきてくれたんですかっ」と一太郎に突っ込まれるほどの気軽さで百太郎登場。一太郎は百太郎に導かれるままに幽体離脱し、死後の世界へと赴くのだった。
「ハウツー守護霊とのコンタクト」な一編。途中、ごく自然に著者の体験談が挿入されており、著者が見た守護霊の姿が描写される。この章で解説される守護霊とのコンタクト法は→「ねる前にふろにはいって全身をくまなくあらい、さいごに冷水をかぶって自身のからだをきよめ、ふとんにはいり上をむいてねる。両手をかるくおへそを中心に図のように(逆三角形に)指をつけておく。足はそろえてかかとをつけ、自分のまくらもとに守護霊がいらっしゃる、と思って雑念をはらいそこに心を集中しておねがいする!」というもの。守護霊の名を知ってる人はその名に「なになにの命」と「命」をつけて、知らない人は「わたしの守護霊さま」と呼びかけるとある。
 後半は幽体となった一太郎が、幽体の視点で現在の世界を眺めるという展開で、夜の街に漂い佇む浮遊霊、地縛霊の描写が素晴らしい。

「第十三章 一太郎幽界へ!」
「妖精ってどんな霊だ??」そんな難解な疑問を抱いた一太郎は、父のアドバイスに従ってクラスメイトとともに妖精探し(幽界への出入り口探し)を試みるが、その最中「仲根くん」が行方不明になってしまう。どうやら幽界へと迷い込んでしまったらしく、新聞沙汰になるほどの大騒ぎになっても、その行方は杳としてしれない。一太郎は前章での経験を踏まえ百太郎とのコンタクトを試みるが、異様な世界へと吸い込まれてしまう。一太郎もまた幽界へと迷い込んでしまったのだ。
「ハウツー妖精とのコンタクト」な一編。実は以前自分はこのエピソードで紹介された「妖精探し」の方法を大マジメに試したことがある。小学生の頃の話だ。その方法は、まず古い木の根のまたのところに砂で山を作り、上を鏡で平らにしてそのフチに小石を話になるように並べ、その山に小さな階段をつけておく。もしもそこに妖精がいるなら、次の朝にはその砂の山に小さな足跡がついているという。これはもともと沖縄でキジムナーを探す方法で、本来はガジュマルの古木の根元で行うらしい。自分は小学校の桜とイチョウの木で何度かやってみたが、当然失敗。鏡の代用に空き缶で砂山を作ったのがまずかったのかもしれない。
 今後「死後の世界」は本作のより重要なテーマになり、一冊まるまる死後の世界みたいになってくるのだが、本エピソードはそのダイジェスト版って感じ。それでも和洋折衷のおどろおどろしい「幽界」は大迫力で、死神は超怖い。

「第十四章 イヌ神つき伝説」
 一太郎のクラスに新しい担任、「新妻薫」という美人先生が赴任してきた。「幽霊に詳しい」ってことで早速美人先生に呼び出される一太郎。家に幽霊が出るから、泊まりで調査して欲しいという。新妻先生の家は古色蒼然とした館で、医学博士で解剖学の権威の父親と暮らしているらしい。唐突にネズミの解剖をはじめる新妻先生。その嬉々とした様子に一太郎はショックを受ける。
 その夜、異変は発生した。クローゼットからおびただしい数のネズミが飛び出し、消える。眠っている先生が全身をネズミにかじられる幻が見える。そして先生の顔がネズミのように変形し、残酷に殺された恨み言を吐く。先生はネズミの霊に憑依されているらしい。翌日から新妻先生は、一太郎にだけ変身した姿をさらし彼をつけ狙う。そしてとうとう一太郎の部屋にまで侵入し、一太郎の父親の喉笛に食らいついた。
 主人公だけに悪霊に憑依された姿をチラ見せしながらその命を狙う先生……そんな著者お得意のシチュを採用した作品群の中で、最恐の一本をあげるとするならこのエピソードかもしれない。マジで怖い。美人先生の自宅へのお泊まりイベントなのに、悪い予感しかしない。変身後の新妻先生のネズミ顔はあんま怖くない、どっちかというとコミカルなのがまた怖い。お子様には無用のトラウマを植え付けるおそれさえある。暗い天井が見れなくなってしまうかもしれない。
 第4巻はここまでハウツー系の話が連続して、怖さはやや抑え気味って感じだったんだけど、このエピソードでは著者の本領が遺憾なく発揮されている。画面の暗いことといったらない。最後の方で新妻先生の父親で強硬な心霊否定派の教授が登場して、否定派と肯定派が真正面からぶつかる、次巻「第十五章 続イヌ神つき伝説」への前振りになっている。



『うしろの百太郎〈4〉』
 講談社 1983 KCスペシャル 34
 著者:つのだじろう

 ISBN-13:978-4-0610-1034-5
 ISBN-10:4-0610-1034-4


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『死霊館』

 死霊館

 アメリカ、ロードアイランド州、ハリスヴィル。「ペロン夫妻」と五人の娘たちが、広大な敷地に建つ古びたその屋敷に越してきたのは1971年のことだった。家族の新しい生活には引越しの当日から不吉な影がさした。まず閉ざされた地下室が見つかり、翌日には決して室内に入ろうとしなかった愛犬が死亡する。屋敷中の時計は午前3時7分で停止していた。さらに娘の一人はベッドで足を引っ張られ、妻の身体には覚えのない痣が浮き出した。腐臭が鼻をつき、亡霊の姿がかいま見えることもあった。
 屋敷に巣食う邪悪なモノの存在を確信した妻は、著名な心霊現象の専門家「ウォーレン夫妻」に調査を依頼する。すると時を置かずして屋敷の凄惨な来歴が明らかになった。屋敷は悪名高いセイラムの魔女裁判に関わりのある物件で、後年、殺人事件が発生していた。かつてここで暮らしていた母親が、自らの生後間もない赤ん坊を殺害したのである。ウォーレン夫妻の調査をきっかけに、怪奇現象は苛烈さを増していく。

『アナベル 死霊館の人形』(2014)との2枚組「ツインパック」を購入。約29分の映像特典(「体験者が辿る過去の恐怖」「専門家が語る悪霊の世界」「背筋も凍るホラー映画の舞台裏」)がついている。監督は『ソウ』(2004)シリーズのジェームズ・ワン。てことでどんなきっつい幽霊屋敷かとワクワクしながら見てみたら、びっくりするほど真っ当な幽霊屋敷ものだった。実話が元になっていることから関係者への配慮があったのか、こういうのも撮れるのよ! って感じなのかはわからないけど、『ソウ』のイメージからはかけ離れた作品になっている。もちろんへぼい映画ってわけではなくて、その真逆。このジャンルの作品としては、近年稀に見るほど丁寧に作られた上質な作品である。グロいシーンも不潔なシーンもないし、テーマもザ・家族愛って感じの美しさなので、家族で見ても割と大丈夫な気がする(PG12指定)。少々残念だったのは神父が活躍しないこともあって、オカルティックなアイコンが乏しいところ。それから可愛い五人姉妹のそれぞれの個性的な設定があまり生かされてないように思う。

 上記の通り実話ベースのこの作品、誠実そのものの登場人物も全て実在の人物をベースにしている。当然可愛い五人姉妹も実在した。ゴーストハンターな役どころの「エド」と「ロレイン」の「ウォーレン夫妻」は、世界的に著名な心霊・悪魔研究の専門家で、1950年代から1万件以上の心霊事件に関わっている。最もよく知られたケースは映画『悪魔の棲む家』(1979)のモデルになった「アミティビル事件」だろう。並木伸一郎の本でも夫妻は「全米一のデーモン・ハンター」なんて紹介されていて、古くからなじみ深い。呪いのアイテムてんこ盛りの資料館(死霊館)も「オカルト・ミュージアム」として実在し、全米はおろか世界中から集められた呪物が収蔵されている。劇中の資料館では立派な鎧兜がやけに目立っていたが、実際のミュージアムにも日本産のアイテムがちらほら混在しており、どんな謂れがあるのかめっちゃ興味深い。

 また劇中では「悪魔祓い」を行う際の教会とのやりとりが、いかにも面倒臭そうな感じで描写されている。実は1973年に映画の『エクソシスト』が公開されるまで、カトリック教会としては悪魔祓いは「無しの方向で」ってことになっていたのだ。『エクソシスト』をきっかけに「悪魔憑き」の症例が爆発的に増え、それに追随する形で「古代の野蛮な儀式」として封印されつつあった悪魔祓いが見直されたのである。この作品の案件が発生したのは1971年、まだ教会が悪魔祓いに否定的だった頃の出来事である。
『エクソシスト』以降、悪魔祓いのための典礼は改訂され、先代のローマ教皇ヨハネ・パウロ2世は自ら三度の悪魔祓いを行なったという。



『死霊館』(“The Conjuring”)
 2013 アメリカ
 監督:ジェームズ・ワン
 出演:ヴェラ・ファーミガ/パトリック・ウィルソン/リリ・テイラー/ロン・リビングストン/シャンリー・カズウェル
 上映時間:112分


 死霊館&アナベル 死霊館の人形 ツインパック


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『ほんとにあった怖い話〈19〉読者の恐怖体験談集』

ほんとにあった怖い話〈19〉読者の恐怖体験談集』朝日ソノラマ 1992 ハロウィン少女コミック館

 さすがにこのあたりまで読んでくると、目次の段階で当たりハズレの見当がつくようになってくる。カバーのソデには「ほんとに、ほんとに、ほんと〜に体験しちゃった恐怖の体験、不思議な体験をマンガ化するシリーズ。ゾクゾクパワー、ますますアップ。」なんて書いてあったけど、見たところまずまずかなーって感じで、実際にそうだった。
 この巻の特徴は建物や土地にまつわる怪異譚が目立つこと(「第一話、第三話、第五話」など)。また下のリストの通り長めの作品も多い。前巻に続いて学校の怪談系のネタは皆無である。この時期、姉妹シリーズの『ほんとにあった怖い話 作家編』がスタートしていることからも、マンネリ回避のための試行がなされていたのかもしれない。

 ソデにあったゾクゾクパワーを存分に感じられるのは、収録作の中では「第五話 悪霊住宅」が唯一だった。もうタイトルからして並々ならぬ気合が感じられるが、トビラ含めて24ページの中に比較的地味な「手の怪」、ラップ音から、布団の上に乗ってくる系の複数の幽霊、逆柱(?)っぽい怪異まで「うちで起きたら嫌なこと」が詰め込まれている。作画も上々で、ページのめくりの効果もしっかり計算されている。ささやななえこ(ささやななえ)の名作『空ほ石の…』を彷彿とさせる怖いシーンもある。もともと絵の上手い人らしいが、マジで読者をビビらせてやる!! って気合がひしひしと感じられた。

 その他に印象的だったのは「第一話 ゆうれい居酒屋」と「第八話 最後の買物」。「第一話」はタイトルの通り霊的な現象が頻発する居酒屋の話。怪異自体はごくスタンダードなものだが、投稿者が一人だけ徹底して何も感じないのが面白かった。「第八話」は信楽焼のでっかいタヌキを買いに幽霊が骨董市に来る話で、なんとなく幸田露伴っぽいネタ。絵柄は淡白でホラー漫画としてはどーかと思うが、ほっこり系の話によくはまっていた。ここに出てくる骨董市に多分行ったことがある。



『第一話 ゆうれい居酒屋』投稿者・大阪府 高松明美さん 画・七色虹子 ’92『ほんとにあった怖い話』5月号 掲載 ※職場の怪談

『第二話 会いたくて淋しくて』投稿者・東京都 山崎悦子さん 画・黒田祐乎 ’92『ほんとにあった怖い話』7月号 掲載 ※家族の心霊体験

『第三話 異界の客達』投稿者・栃木県 松本裕子さん 画・山口夏実 ’92『ほんとにあった怖い話』5月号 掲載 ※霊感少女・職場の怪談

『第四話 のびる腕』投稿者・宮崎県 匿名希望さん 画・渡辺杜都 ’92『ほんとにあった怖い話』7月号 掲載 ※霊感少女(主婦)

『第五話 悪霊住宅』投稿者・大阪府 匿名希望さん 画・浅野まいこ ’92『ほんとにあった怖い話』3月号 掲載 ※幽霊屋敷

『真夜中の泣き声 他』画・三浦尚子 ’92『ハロウィン』3月号 掲載
 「第六話 真夜中の泣き声」投稿者・北海道 須佐邦子さん ※水子
 「第七話 下校時の遭遇」投稿者・千葉県 匿名希望さん ※路上の怪

『最後の買物 他』画・天ヶ江ルチカ ’92『ほんとにあった怖い話』5月号、7月号、’92『ハロウィン』1月号 掲載
 「第八話 最後の買物」投稿者・東京都 柴田貴代さん ※骨董の怪談
 「第九話 午後の訪問者」投稿者・奈良県 中尾有香子さん ※ドッペルゲンガー
 「第十話 最後の別れ」投稿者・山形県 五十嵐理恵さん(P.N) ※家族の心霊体験



『ほんとにあった怖い話〈19〉読者の恐怖体験談集』
 朝日ソノラマ 1992 ハロウィン少女コミック館
 著者:七色虹子 他

 ISBN-13:978-4-2579-8233-3
 ISBN-10:4-2579-8233-0


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竹河聖『おさわがせ幽霊(ゴースト)』

 竹河聖『おさわがせ幽霊(ゴースト)』朝日ソノラマ 1989 ソノラマ文庫〈497〉

 今年は31日と1日しか休めなかったので、のんびりプラモでも作りながら買ったきりになってる映画や、ハードディスクを圧迫してるアニメでも消化するか……なんて目論見はもろくも崩れ去り、結局隙間の時間に読書する通常営業になってしまった。ただ一応正月ってことで重めのはやめといて、楽しめの本を何冊か出してきて読んだ。竹河聖『おさわがせ幽霊(ゴースト)』、櫛木理宇『ホーンテッド・キャンパス 幽霊たちとチョコレート』、キャロリン・キーン『幽霊屋敷の謎』、ウェン・スペンサー『ようこそ女たちの王国へ』など。『〜女たちの王国へ』は今2/3くらいまで読んだところ。なかなか面白い。『おさわがせ幽霊』は多分数十年(十数年じゃなくて)ぶりの再読で、ほとんど初読ってレベルまで内容を忘れていた。

 主人公は高校生でつのだリスペクトなネーミングの「一太郎」、それから一太郎のいとこの美人姉妹「華藻」「玉緒」。華藻は一太郎と同学年で、玉緒は一つ年下、二人合わせて玉藻前姉妹である。この三人が旅先や近所や学校で、やたらに幽霊に遭遇する。収録されているのは「第一話 首なし美女でございます」「第二話 幽霊屋敷でございます」「第三話 学園七不思議でございます」「第四話 背後霊でございます」の四話。それぞれ独立した短編だが、相互にゆるーく繋がっている。
 全体は幽霊の描写と三人のリアクションと、あと睦月影郎の本に出てきそうな「甘い少女の匂いが鼻腔をいっぱいにし、柔らかい胸が身体に密着してくる」って感じの微妙なフェチ描写で占められていて、それで全253ページ。セリフが多いし描写もなんとなくト書き調なので、アニメのシナリオでも読んでる気分になる。昨今のライトノベル以上にライトな作品である。書き忘れてたけど、コメディ作品だ。

 で、超久々に読み返してどうだったかというと、これが結構楽しめた。なんといっても主人公の美人姉妹がいい。普段人前では深窓の令嬢のように振舞っているのだが、一太郎の前でだけ本性をあらわして彼を虐待する。まあ虐待といってもプロレス技をかける、言葉で攻める、という非常に羨ましい虐待なのだが。この二人のお転婆ぶりのさじ加減が絶妙。話が進むにつれて微妙ながらじわっとデレてくる。
 肝心の幽霊は出るべき場所に出るべくして出たって感じのが出る。幽霊出る→主人公遁走の繰り返しだが、幽霊自体は各話ごとに工夫が凝らされていて(グロ描写はない)、そこだけ見ればコメディ作品とは思えないほど充実している。タイトルは最後の最後でしっくりとくるが、それまで「おさわがせ」なのはどう見ても主人公側。



『おさわがせ幽霊(ゴースト)』
 朝日ソノラマ 1989 ソノラマ文庫〈497〉
 著者:竹河聖
 イラスト:橘田幸雄

 ISBN-13:978-4-2577-6497-7
 ISBN-10:4-2577-6497-X


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伊藤三巳華『濡れそぼつ黒髪』

 

 伊藤三巳華『濡れそぼつ黒髪』朝日新聞出版 2012 HONKOWAコミックス

 以前なら「怖っ!」って思うはずのところを「凄っ!」って思うことが多くなっている。CSでやってる怪奇系の番組を見ながら、そんなことをふと思った。頻度でいえばそんな風に感じること自体、少なくなっているような気もする。
 もともと怪談やホラーなんて全然怖くないって人もいるかもしれないが、自分は本来怖がりな方で、子供の頃は刑事ドラマに出てくる白目を剥いた死体を見てびびりまくっていたのだ。それなのに気付けば「ほんとにあった~」とか見ながら夕飯食べるようになってる。これは由々しき自体だ。怖いシーンを見たら「今のは良かった」なんて感心するより、「怖っ!」って思う方が楽しいに決まっている。

 子供の頃、周囲にはオカルトっぽいものが溢れていた。当時は何度めかのオカルトブームで、TVも漫画も学校での雑談も怪しげなオカルトネタが幅をきかしていた。そんな有象無象、玉石混淆の数あるオカルトネタの中で、最も強烈で禍々しい恐怖アイテムだったのが、中岡俊哉の『恐怖の心霊写真集』である。中身を見るどころか、触るだけでも呪われそうな、リアルネクロノミコンな本だった。目につくところに置いてあることが嫌で嫌でたまらなかった。それなのに新刊が出ると友達から借りてきて、夜になると借りてきたことを後悔する、そんなアホな行動を繰り返していた。今見ると草むらにやたら「コダマ」(もののけ姫の)みたいな顔が白く書き込んであるページばかりで、怖いというより面白くなってしまっているのだが。

 といった具合にオカルト関連本を借りてきて眺めたり、TVの心霊番組を家族で見たりしてオカルト生活をエンジョイしてたのだが、ずっと不満に思っていたことがあった。それは小学校高学年くらいの自分から見ても、次々に登場する霊能者の方々の絵があまりにも下手すぎるということだった(宇宙人の目撃者もひどかったけど、たまたま見ただけの人なのでまあ仕方がないって思った)。ちょっと下手とか、苦手そうって感じじゃなくて、とにかく雑。天は二物を与えずというけれど、せめて一回見直せよ、絵心がないなら真心をって感じだった。

 この手のグチを書きはじめるとキリがなくなるし、何書いてるのかわからなくなってきたのでやめとくけど、この『濡れそぼつ黒髪』は ↑ のような積年の恨み、じゃなくて長年の不満解消の一助となる好著である。
 古来、漫画家、特に少女漫画家の中には、霊感がある、心霊体験がある、お告げが聞こえる、私こそ神の依代だ等々公言して憚らない作家がいて、実体験を反映した作品を発表してたりするが、本作はそういった作品群とは一線を画していると思う。めっちゃざっくりいうと、この作品は「漫画家が実体験をもとに描いた心霊漫画」ではなくて、「霊能者が実体験をもとに描いた心霊漫画」なのである。同じようなもんだろと思われるかもしれないが、なんかちょっとやっぱちょっと違う。
 著者は『視えるんです。』『スピ☆散歩』といった心霊・スピリチュアルエッセイ漫画で知られる伊藤三巳華。これらの著作では主にデフォルメ調のファンシーな絵柄が採用されており、ごくたまーにシリアスな心霊描写が挿入されて効果を上げているが、この『濡れそぼつ黒髪』は全編シリアスな絵柄。心霊ものにぴったりのギクギクした感じの神経質そうなタッチで、これがまた上手い。『視えるんです。』をイメージして読むと落差にびっくりする。デフォルメが上手い人はシリアスも上手いというのは本当らしい。

 本書に収録されたエピソードは全部で6編。著者「みみか」をはじめ登場人物は共通するが、ストーリーに連続性はない。全て著者の実体験や知人から聞いた話をもとに描かれている。基本「見ただけ」の話だが、怪異を感知するのが著者だけではなくて、他にも程度は違えどそれを感じるキャラが配置されておりリアリティを補強している。どのエピソードも甲乙つけがたい出来映えだったが、表題作の「濡れそぼつ黒髪」「悪戯(いたずら)」「居候(いそうろう)」の3編は特に好みだった。どれも幽霊の出る部屋や建物にまつわるエピソードである。
 自分は幽霊の類いは一切見たことがないし、本書に出てくるタイプのものはお断りだが(かわいいのは歓迎)、こんな風に見えるのかーとワクワクしながら読むことができた。心霊漫画が好きな人にはオススメの一冊。



『濡れそぼつ黒髪』
 朝日新聞出版 2012 HONKOWAコミックス
 著者:伊藤三巳華

 収録作品
 「濡れそぼつ黒髪」『ほんとにあった怖い話』2005年1月号 掲載
 「悪戯(いたずら)」『ほんとにあった怖い話』2005年9月号 掲載
 「黒煙の土地」『ほんとにあった怖い話』2006年3月号 掲載
 「肝だめし」『ほんとにあった怖い話』2006年9月号 掲載
 「聖夜の遺言」『ほんとにあった怖い話』2007年1月号 掲載
 「居候(いそうろう)」『ほんとにあった怖い話』2007年7月号 掲載

 ISBN-13:978-4-0227-5309-0
 ISBN-10:4-0227-5309-9


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いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント〈3〉』完

 

 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント〈3〉』完 講談社 2016 KC×378 ARIA

 とうとう第3巻、最終巻が出ました。第1巻が出たのが2013年の6月だから、3年と数ヶ月かかっての完結だ。今回ばかりは本当の本当に完結なので、寂しさもハンパない。この先何かあるとすれば「悪夢の棲む家」のリライトくらいか。
 内容はずっと追ってきたので割愛するが、この作品は単に原作に忠実なだけではなく、原作のニュアンスを丁寧に汲み取り、それを出来うる限りの繊細さで表現した上質のコミカライズである。説明調のセリフが多く場面転換の少ない密室劇であることや、クライマックスの暗闇の中のアクションをどう見せるかなどなど、コミカライズに際して勝手に不安視していたことは全て杞憂に終わった。

 このまま褒め言葉を並べてもしょうがないので残念だった点を挙げると、それは「真砂子」の出番が少なかったこと……じゃなくて、これで本当に終わってしまうってことに尽きる。原作者は続編を構想していたはずなのに。ヒロインの一人称で書かれた旧シリーズの第一話が学校の怪談ネタだったように、この新しいシリーズでもごくオーソドックスな戸建住宅(幽霊屋敷)がモチーフとして選ばれ、レギュラー陣が顔見せのようにぞろぞろと登場する。新シリーズ開始にあたって投入された「広田」が一話限りのゲストキャラでなかったとすれば、今後の展開は旧シリーズよりもう少し大人向けの、ミステリー要素の強い(事件がらみの)ホラーになっていたかもしれない。
 シリーズが中断した理由については、原作者が書きたいものと読者が望むものの乖離が原因と言われている(原作者自身がそう語っている)が、原作者の言葉の端々には現在もなお本作への強い愛着が感じられる。今こそ続きを書いてくれればいいのになーと思う反面、ゴーストハント以降の原作者の怪奇系の著作を読むにつけ、中断当時、原作者が意図していた路線には実はゴーストハントという器は必要じゃなかったのかも、とも思う。

 さてコミカライズの話に戻すと、この第3巻には第11話からエピローグ(第22話)までの12話と、オマケの番外編が2話収録されている。単行本化に際して大きな描き足し、変更点はない。ただし既刊分と同様、背景と画面効果には細かく手が入れられ、白っぽかった空間を埋めている。
 今回まとめて読み返してみて、あらためて感じたのは第21話の「川南辺仁美」の帰宅シーンの素晴らしさだ。前に儚げで美しいって書いたけど、それまでのシーンから一転して明るい画面になっているにも関わらず、作品屈指の超おそろしいシーンでもある。彼女は長い間、この悪夢の中に閉じ込められていたのだ。もし広田アンチの人がいたとしても、このシーンの彼のリアクションを見れば、彼に対する評価を一変させるに違いない。決してハッピーな作品ではないけれど、ホーンテッドハウスものとしては最高水準の作品。


 第3巻収録分の各話の記事へのリンクはこちら↓
 ARIA (アリア) 2014年 07月号 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント』連載第11回
 ARIA (アリア) 2014年 11月号 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント』連載第12回
 ARIA (アリア) 2015年 01月号 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント』連載第13回
 ARIA (アリア) 2015年 03月号 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント』連載第14回
 ARIA (アリア) 2015年 05月号 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント』連載第15回
 ARIA (アリア) 2015年 07月号 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント』連載第16回
 ARIA (アリア) 2015年 09月号 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント』連載第17回
 ARIA (アリア) 2016年 01月号 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント』連載第18回
 ARIA (アリア) 2016年 03月号 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント』連載第19回
 ARIA (アリア) 2016年 05月号 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント』連載第20回
 ARIA (アリア) 2016年 07月号 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント』連載第21回
 ARIA (アリア) 2016年 09月号 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント』最終回

 ARIA (アリア) 2014年 05月号 いなだ詩穂著, 小野不由美原作『悪夢の棲む家 ゴーストハント』番外編

 ※「番外編2」はARIA5周年記念描き下ろしショートコミック『甘々ARIA』に掲載。
 ※ 1〜3巻の帯についている応募券(第1巻特装版にもしっかり付いてました)を送ると、「全巻購入プレゼント」として「ポストカードコレクション」が貰えるそうです。全プレ。締め切りは2017年1月31日。



『悪夢の棲む家 ゴーストハント〈3〉』
 講談社 2016 KC×378 ARIA
 漫画:いなだ詩穂
 原作:小野不由美

 ISBN-13:978-4-0638-0878-0
 ISBN-10:4-0638-0878-5


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