L・P・ハートリィ『ポドロ島』

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 L・P・ハートリィ(L.P.Hartley)著, 宇野利泰訳『ポドロ島』("Podolo" ジョン・コリアー他著, 中村能三, 宇野利泰訳『怪奇小説傑作集〈2〉』東京創元社 1969 創元推理文庫 所収)

 怪奇小説ファンにはおなじみの創元推理文庫の『怪奇小説傑作集』、第2巻の最初に置かれているのがこの『ポドロ島』だ。モダンホラーの先駆的な作品として有名らしい。そのモダンホラーってどんなだ? っていうと、巻末の解説では、現代社会の隙間のなかにいきなり超自然(超常現象)を押し込んで、日常生活の内にある恐ろしいものをかいま見せる小説、という説明がされている。

 ヴェニスの沖合に浮かぶ無人島に、主人公と、主人公の親友の妻のアンジェラ、船頭の三人が上陸するところから物語ははじまる。ピクニックに訪れたのだ。アンジェラは島で見つけた子猫を捕まえて、連れて帰るつもりだという。彼女は極端な慈善家で、なにかと施しをせずにいられない性分なのだ。ところが島を離れる時刻になっても、一向に子猫は捕まらない。アンジェラは捕まらなければ殺してやると息巻いて、一人で子猫を探し続けている。
 待ちくたびれて眠ってしまっていた主人公たちが目覚めると、あたりはすっかり暗くなっている。アンジェラは戻らない。船頭は人影を見たらしいが、それはアンジェラではなく、ナイフを手にした男のようだったという。急いで彼女を探さなければ……。

 この作品では子猫が一匹、それとアンジェラも死んでいるらしいのだが、子猫の方はともかく、アンジェラが死亡した経緯はまるではっきりとしない。怪奇小説らしい超常現象が生じていたのかどうかも分からない。著者は主人公が把握していない物語の欠落部分を想像で埋めるように読者を誘導しつつ、巧みにいくつかの解釈を暗示していく。そして最後まで明確な解決を示さない。全てが薮の中、タネ明かしのないミステリー小説のようで、嫌な気分ともやもや感が残る。暗示される犯人像のひとつに、人ならざるものが含まれるのが怪奇小説らしいところか。

 またこの作品には「因果応報の物語」という側面もある。物語の前半、子猫に執着してどんどんおかしくなっていくアンジェラの病的な慈善家ぶりは、実は島そのものに超常現象が発生していて、彼女に何らかの力が働いていたのではないか、なんて思ってしまうほどの醜悪さだ。このアンジェラの一連の描写には、後々因果応報を強く印象付けする効果があって、彼女が「死んだ」ということに疑いを抱かせずに、「誰が殺したのか」という疑念に読者を誘導する。何度か読んでると、これが著者の仕掛けた最も悪質な(褒めてます)トラップなんじゃないかって気がしてくる。著者は読者の想像のなかで、アンジェラの死亡を確定させるのだ。

 著者の技巧の冴えと、底意地の悪さ(褒めてます)を堪能できる作品。後味悪い。


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Posted byserpent sea

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