読書メモ(怪奇系多め/ネタバレあり)

感想文、雑記。ネタバレあります。

『ほんとにあった怖い話〈24〉芸能界編』

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ほんとにあった怖い話〈24〉芸能界編』朝日ソノラマ 1994 ハロウィン少女コミック館

 第24巻は今回で4回目になる「芸能界編」。巻を重ねるごとに少しずつメジャーな人が増えてきたのか、今回は6人の語り手のうち4人が知っている人だった。前巻は少女マンガっぽいタッチで統一されていたが、この巻には少女マンガと少年マンガのタッチのエピソードが混在している。作画の端正さについては断然少女マンガっぽい方で、かなりレベルが高い。とはいえ心霊マンガにとって端正な作画は諸刃の剣。ときには少々崩れた絵の方が雰囲気が良かったりする。今回はそれを再認識することができた。

 収録されたエピソードは6編、通常より少ない分それぞれのエピソードは長めで、ひとつのエピソードに複数の体験談が詰め込まれている。臨死体験など多少かぶるネタはあるものの、わりとバラエティに富んでおり、どの話も退屈せずに読めた。中でも特に印象に残ったのは最も短いエピソード『消えたビデオテープ』だった。女性の語り手によって、一人暮らしの部屋での心霊体験と、福島県のダム湖のそばにあるレコーディングスタジオでの体験が語られる。
 レコーディングの後、語り手は複数のスタッフとダム湖に赴いた。肝試しである。この時に撮影したビデオに異常が生じていたのだ。夜の湖畔、墓標のような枯れ木の傍らに、そこにいなかったはずの男が写り込んでいる。
 このビデオの内容と鑑賞会の様子が本エピソードのクライマックスで、一連の描写は後年映像化された『リング』(1998)の劇中ビデオを彷彿とさせる。それまでやや不安定だった少女マンガのタッチは、心霊描写になった途端、細密画のような非常に個性的なタッチに切り替わり、異様な雰囲気を盛り上げる。寡聞にも自分は作画を担当した美濃みずほのことをこのシリーズでしか知らないのだが、読者を怖がらせる手腕は確かで、心霊描写に関して高いセンスを感じさせる。このジャンルの近作があるなら是非読んでみたいと思う。



『KABUKI往生要集』語り・有村“氏神”一番 大槻セイシロー 画・七色虹子 ’92『ほんとにあった怖い話』7月号 掲載 ※臨死体験・路上の怪

『復活の儀式』語り・沢井小次郎(幕末塾) 画・有久祐子 ’92『ほんとにあった怖い話』3月号 掲載 ※交霊会・予知夢・UFO

『死人の残像』語り・志垣太郎 画・時任竹是 ’91『ほんとにあった怖い話』11月号 掲載 ※守護霊・路上の怪

『霊感チャンピオン』語り・渡嘉敷勝男 画・丸傳次郎 ’92『ほんとにあった怖い話』5月号 掲載 ※路上の怪・虫の知らせ

『消えたビデオテープ』語り・新島弥生 画・美濃みずほ ’92『ほんとにあった怖い話』11月号 掲載 ※心霊ビデオ・心霊スポット

『笑ってらんない怖い話』語り・ダチョウ倶楽部 画・森須久依 ’92『ほんとにあった怖い話』9月号 掲載 ※心霊スポット・路上の怪



『ほんとにあった怖い話〈24〉読者の恐怖体験談集』
 朝日ソノラマ 1994 ハロウィン少女コミック館
 著者:七色虹子 他

 ISBN-13:978-4-2579-8527-3
 ISBN-10:4-2579-8527-5

加藤一『恐怖箱 怪生』

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 加藤一編著『恐怖箱 怪生』竹書房 2011 竹書房文庫 HO-123

 人間以外の生物にまつわる実話怪談を36話収録。「人間以外の生物」には植物も含まれる。それぞれの話の長さはまちまちだが、比較的長めの話が多い。構成はランダムではなく、例によってモチーフごとにゆるく分類されている。
 怪談に出てきそうな生き物というと、ぱっと思いつくのがネコ、蛇、キツネ、あとタヌキは民話っぽいか。植物なら呪いの一本杉や一本松、ドクロの目から生えるススキやタケノコって感じ。……民話っぽいな。本書に登場する生き物は、ネコやイヌをはじめ、魚類、クジラ、インコやツバメ、昆虫、草花や野菜など、実に広範だ。なかでもネコにまつわる怪談は多くて、怪談とその属性との親和性もさることながら、これはネコが特に身近な生物であることの証左だろう。印象に残った話を簡単に紹介します↓

「鯛の餌」明け方の海。釣り場に到着早々、釣り上げた大きな真鯛に同級生が親指を噛まれてしまう。鯛に頑丈な歯があることを知らなかったのだ。幸い大事には至らなかったが、今度は素っ頓狂な声を上げて尻餅をついてしまった。鯛の口から何か生き物が出てきたという。おそらく「タイノエ」という寄生虫だろう。狼狽する同級生を落ち着かせようと、体験者がタイノエに顔を近づけた途端、背筋を冷たいものが駆け抜けた。それは体験者の知るタイノエとは全く異なる異様な生物だった。
 もともとタイノエ自体がキモいのでなんだかずるい気もするが、出てくる極小の怪異がキモさを上回る不思議さで、気持ち悪いけど興味深い話になっている。状況や登場人物のリアクションがリアルに描写されていて、とんでもない話だけど嘘臭くない。イワナ坊主の話もそうだけど、魚の怪談って生理的に訴えかけてくる話が多いような気がする。あと「タイノエ」はものすごく閲覧注意なので、検索するときは心して。

「伝染」裏道を歩いていると雑草の中に小さなシマヘビがいた。見るからに妙な様子で、体を棒のようにまっすぐ伸ばして固まって死んでいる。翌日、同じところを通ると、今度は大きなヒキガエルがいた。近寄ってみるとあの蛇の死体をくわえたまま、コチコチに硬直して絶命していた。そしてまた翌日、体験者はさらに驚くものを見ることになった。
 硬直した蛇というと、『今昔物語』(←前の記事へのリンクです)の女性器を見て固まってしまう蛇の話が思い出されるが、それが次々に感染していくというのが面白い。ばっちりオチもついていて、実話怪談にしては少々面白すぎるように思う。

「美味しい野菜」体験者の夫婦が買った家の隣には、老婦人が一人で暮らしていた。大変人柄のいい人で、夫婦も親しく接していた。しかも彼女が育てた野菜がすこぶる美味かった。友人を集めたバーベキューパーテにその野菜を出してみたところ、やはり評判は上々。見栄えこそ悪いが味は最高だった。ところが一人の友人が申し訳なさそうにこう切り出した。「あの野菜、凄く良くない。ううん、味とかじゃなくて……」後日、体験者は老婦人の野菜がどこで育てられたかを知る。
 これといって具体的に怪異が生じているわけではないが、嫌な雰囲気が漂っている。老婦人が本当に無頓着に何も意識せずに野菜を育てていたのか、悪意があったのか分からないのが不気味。買ったばかりの家の隣に、こんな人物が住んでいたら辛い。

「枯れ松」母が同居を申し出た。結婚当初から母と折り合いの悪かった妻は、意外にもあっさりと同居を受け入れてくれた。そればかりか「お母様が寂しくないようにって思って」と、松の木を手に入れてきた。ただ、届いた松は何となく荒んで見えた。木肌も荒れ、枝振りも良くない。そこで植木屋を頼んだのだが、庭に入るなり松の木を睨みつけて一言、「あの松、何人も首吊ってますぜ」
 嫁姑問題に端を発する強烈な呪いの話。上記の「美味しい野菜」では善意か悪意か判断のつかない隣人の行動が不気味だったが、このエピソードでは恐るべき悪意が明確に示されている。そこまで憎かったのか! って感じ。奥さんはどうやってこんな「呪い方」に辿り着いたのだろうか。またどんな経緯でここまで問題が拗れたのか。この話にもしっかりとしたオチがついている。

「名もなき猿」義父が肝臓癌で倒れた。それをきっかけに同居することになったが、義父の荷物の中には風変わりなものがあった。大きな檻である。猿を飼うのだという。しかも食べるために。義父にとって猿は癌の特効薬なのだそうだ。今すぐ食べるのではない。苛めて苛めて苛め抜いて、ストレスに満ちた内臓を食するという。その日から猿の悲鳴が途切れなく続いたが、義父はそんな猿を食べることもなく帰らぬ人となった。ところが義父のいない部屋で猿が鳴きはじめたのである。義父が生きていた頃と同じように、死んだ真似までする。義父はまだ成仏していない。きっと猿を食べたいのだ。
 死後も続く狂気。この話も同居をきっかけに怪異が発生しているが、焦点は死と対峙した義父の狂気である。そもそも猿を苛め抜いて薬として食べるという発想が尋常じゃない。もうずっと以前からひっそりと狂っていたのかもしれない。ラストの仏壇のシーンが怖かった。

 怪談のネタとしてはポピュラーな動物ものだが、このくらい色々な種類のものが集められていると、似たようなのばかりって感じじゃなくてよかった。こうしてみると、やはり人間の側に問題のあることが多い。



『恐怖箱 怪生』
 竹書房 2011 竹書房文庫 HO-123
 編著:加藤一
 著者:つくね乱蔵/ねこや堂/雨宮淳司/久田樹生/戸神重明/高田公太/三雲央/
    寺川智人/深澤夜/神沼三平太/鳥飼誠/渡辺正和/矢内倫吾/鈴堂雲雀

 ISBN-13:978-4-8124-4755-0
 ISBN-10:4-8124-4755-0

ジョン・W・キャンベル『影が行く』

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 ジョン・W・キャンベル(John Wood Campbell Jr.)著, 矢野徹訳『影が行く』(“Who Goes There?” ジョン・W・キャンベル著, 矢野徹, 川村哲郎訳『影が行く』早川書房 1967 ハヤカワ・SF・シリーズ 3161 所収)

 南極の厚い氷の下に巨大な物体の存在が確認された。それはおよそ二千万年ほど前に宇宙から飛来し、墜落した宇宙船だと推測された。発見したのは南極の基地から派遣された遠征隊。発掘時に用いた爆薬によって宇宙船は失われてしまったが、遠征隊は貴重な標本を入手していた。宇宙船の乗員と思しき未知の生物の死体である。
 基地に運び込まれた氷漬けの死体は、議論の末解凍されることになった。危険はないと判断されたのだ。ところが翌朝になると、死体は保管されていたはずの別棟の小屋から消えてしまったのである。ただちに基地内の捜索が行われ、やがてそれは犬舎で発見された。死んではいなかったのだ。宇宙生物を隊員が見つけたとき、その姿は犬と同化しつつあった。
 隊員たちはトーチを用いて怪物を無力化することに成功するが、そこで重大な問題が生じた。この宇宙生物は人間にも化けられるのではないか。時間は充分にあったはずだ。もうすでに姿を変えて、隊員の中に潜伏しているのではないのか。

 映画『遊星よりの物体X』(1951)『遊星からの物体X』(1982)の原作小説。あまりにも有名な映画と比較すると、長らく入手が難しかったこともあって、原作の方は少々影が薄いように思う。自分もこの作品を初めて読んだのは、映画を見て結構経ってからのことだった。
 二本の映画のクリーチャーはどちらも非常に印象的だ。とくに『遊星からの物体X』に登場したものは、文章で詳細に描写したなら、それだけでまるまる一冊埋まるんじゃないかってくらい凄いことになってる。ところが本作のクリーチャーの描写はというと、結構地味。描写自体がごく少ない。同様に舞台となった南極と、基地の描写もあっさり気味である。ページの大半は未知の生物にびびって右往左往する隊員たちのリアクションと、疑心暗鬼に陥って互いに牽制し合う彼らのトークで占められている。物体Xがいつどこからきたのか、危険はないのか、どうすれば滅ぼせるのか、誰に化けているのか等々、議論、口論がやたらに多い。長い台詞の間にちょろっと地の文章といった印象だ。
 こんな感じの→「三個の狂おしい憎悪に満ちた目は、燃えていいる火のように輝き、たったいましたたり落ちた血のように赤かった。髪の毛があるべきところには、吐き気をもよおしそうな青い虫のようなものが群がっていた。」(p.23) そこはかとなくクトゥルフ神話を連想させるクリーチャーの描写こそあるものの、怪物目当てで読むと少なからず肩透かしを食らうことと思う。ただサスペンスに全振りしているので、そういった意味での読み応えはすごくある。毎度あっという間に読み終えてしまう。

 巻末の解説によると、著者のジョン・W・キャンベルは現代SFの基礎を築いた凄い人らしい。作家としてよりも、多くの新人を育て上げた編集者としての功績が大きく、その門下にはこの本に一文を寄せているシオドア・スタージョンをはじめ、アシモフ、ハインラインなど錚々たる顔ぶれが並んでいる。



『影が行く』(“Who Goes There?”)
 早川書房 1967 ハヤカワ・SF・シリーズ 3161
 著者:ジョン・W・キャンベル(John Wood Campbell Jr.)
 訳者:矢野徹/川村哲郎
 解説:シオドア・スタージョン「ジョン・W・キャンベルについて」

 収録作品
 『影が行く』(“Who Goes There?”)
 『薄暮』(“Twilight”)
 『夜』(“Night”)
 『盲目』(“Blindness”)
 『エイシアの物語』(“The Story of Aesir”)
  「1 夜の中から」
  「2 エイシアの外套」

 ISBN-13:978-4-1520-7943-5
 ISBN-10:4-1520-7943-6


 ※ 一冊まるまる著者の作品じゃなくてもOKなら、こっちの本には表題作『影が行く』のほかにも色々な作家の作品が載っててお得です。名作揃い。↓

 

 ディック, クーンツ他著 中村融編訳『影が行く ホラーSF傑作選』東京創元社 2000 創元SF文庫

川島のりかず『呪いの針地獄』

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 川島のりかず『呪いの針地獄』ひばり書房 1985 ヒット・コミックス 怪談シリーズ 97

 怪死事件がたて続きに発生した。被害者は無数の縫い針を全身に突き立てられ、ハリネズミのような姿で死亡していた。調査の結果、すべての針が体内から体表に向けて刺さっていることが判明した。常識ではありえない事態に捜査は行き詰まるが、事件の原因はひと月ほど前にひっそりと生じていた。
 少女の名は「菊子」。小学校5年生である。おかっぱ頭で背が飛び抜けて小さい。最近クラスメイトから激しいいじめを受けるようになった。菊子は母親と郊外の一軒家に二人で暮らしている。あまり裕福ではない暮らしぶりだ。男にだらしない母親は、昼間から愛人を連れ込んで情事にふけっている。この愛人「西」という男が二人目の被害者である。一人目の被害者は菊子のクラスの女子。菊子に殴る蹴るの暴行を加えたクラスメイトの一人であった。
 菊子は呪った。藁人形に五寸釘を打ち込み、縫い針を突き刺して、クラスメイトや母親の愛人の死を願った。自らの命と引き換えに。

 著者にはとてつもないディストピアや、対象年齢を完全に無視したダークなファンタジー世界を舞台とした作品がある。凝りに凝ってプロットをいじくり回した挙句、何が何だかさっぱりになってしまった作品や、ろくなストーリーもなくひたすら殺戮が繰り広げられる無茶な作品もある。どれも一筋縄ではいかない名作ばかりである。誰もが通り過ぎた覚えのあるようなその辺の郊外を舞台にしたこの『呪いの針地獄』は、作者としては珍しくシンプルな作品だ。呪いの発生から成就、呪者が滅びるまでをストレートに描いている。ただし単純な呪いではなくて、菊子のサイキックの発動がいい感じで描写されてるあたり(蛍光灯が破裂する等)、さすが「SFミステリー」というところか。川島のりかず版『キャリー』(“Carrie”)といった趣である。またストーリーがシンプルなだけに、著者の映像的で神経質な作画を堪能することができる。

 前に書いたかもしれないが、自分はこの著者の作品が好きだ。SFホラーの枠に捉われない(突き抜けてる)自由奔放な発想に、繊細な表現力が奇跡的に加わって、他に例をみない特異な作品となっている。この『呪いの針地獄』にも著者の卓抜したセンスを感じさせるシーンは多い。例えばこんなシーン→ 情事の後の母親の布団に潜り込んだ菊子が母親の乳房を吸う。「あ、あ、バカ。菊子は何歳になったのもう」「ママのオッパイ吸ってると菊子、安心できるんだもん」「いつ乳離れするの」……この甘える菊子は、母親の愛人「西」の凄惨な最後を見届けた直後なのである。なんかすごい。冒頭、夜のあぜ道で悶絶死する「西」を台詞なしで描き切った10ページにも及ぶシーンや、母親の情事を盗み見た菊子が交尾するカマキリを踏み潰すシーンも印象的だ。小5女子が全身に針を刺されて全裸で死亡するといった、いつも通り子供に厳しい描写も多々ある。やや大人しめの作品ではあるが、それでも読み応えは充分。



『呪いの針地獄』
 ひばり書房 1985 ヒット・コミックス
 著者:川島のりかず

 ISBN-13:978-4-8280-1097-7
 ISBN-10:4-8280-1097-1


MODEL Art (モデルアート) 2018年 08月号 No.994

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 MODEL Art (モデルアート) 2018年 08月号 No.994

 ハウツー系の特集には、リファレンスとして長らく重宝する特集と、新製品の紹介に終始して物足りなく感じる特集がある。購読してる立場からすると毎回充実してるに越したことはないけど、年間6回もやってればさすがに毎回というのは難しそうだ。
 今回の特集「下地を制して塗装を制する」は喜ばしいことに前者、作例こそ2例と少ないものの、知りたかったことがズバリ載ってて、情報量が多い。
 まずパラパラ見た段階でまっ先に「これ便利そう! 」って感じたのが、「下地攻略の心強いマテリアル(2)」のサーフェイサーの記事。スプレーとビン入りの各社のサーフェイサーを32本、ずらっと並べて解説する。シタデルカラーなどの海外製の特殊なものを除き、現在店頭で入手しやすいほとんどの商品が網羅されている。解説には塗装面の状態や、プライマー成分の有無などが書かれていてすごく便利。模型店・模型コーナーの店頭にも置けそうな感じ。こういうずらっと並べる特集、塗料の方でもやってほしい。同様の記事に「下地攻略の心強いマテリアル(1)」があって、こっちは各社から出ているサンドペーパーやスティクやすり、スポンジシートなど研磨用のマテリアルが紹介されている。実際に使ったことのある商品も結構載ってるのだが、店頭で見かけてもよくわからなくてスルーしてたものもあった。こうやって紹介されると、今度使ってみようかなって気分になる。

 特集以外の記事で特に印象に残ったのは、レベルの1/72『Uボート ⅦC』を用いた洋上ジオラマ作品だった。攻撃を受けて、傾きながら沈みゆくUボートの情景だ。暗くうねる海面には救命ボートと、乗組員の必死な姿が見える。戦時中に撮られた実際の写真にインスパイアされた作品とのこと。単にそれらしいというより、高度なVFXで描かれたかような感じで、写実的でありながら象徴性を感じさせる。この記事、紙面のレイアウトや写真もすごく良かった。
 NEW KIT REVIEWではモンモデルの1/35「メルカバ Mk.4M」が取り上げられている。最近数少ない趣味を話せる知人から、イスラエル軍についてのご高説を長々と賜ったばかりだったので実にタイムリーだった。各国の現用車輌の中で素人目にも特異に見えるメルカバには、「実戦の中で洗練されてきた形状」と言われれば確かにそうかも! と思える説得力がある。今回のモンモデルの作例は最新型のメルカバ。再現度の高い精密なキットとのこと。実にかっこいい。



 - 作例リスト (掲載順) - 航空機 戦車 艦船 車/バイク ■その他

連載記事『地名を名に持つ船とその場所のエピソード 艦船諸国漫遊記 Vol.31』
『日本海軍 給糧艦 伊良湖 最終時』ピットロード 1/700

特集「下地を制して塗装を制する」
『ポルシェ パナメーラ ターボ』ドイツレベル 1/24
『アメリカ自走砲 M109A6 パラディン ‘イラク戦争’』タミヤ 1/35

情報「レアなD型偵察仕様をハードに汚して楽しむ」
『F/A-18D ATARS』ハセガワ「F/A-18D ホーネット“ナイトアタック”」+モデルアート「米海兵軍 1/48 F/A-18D ATARS レジン製パーツ&改修機用機首レジン製パーツ」 1/48

連載記事『モデリングJASDF 269回』
「スケールモデル的 航空自衛隊戦闘機用 最新吊るしもの事情」 ※ピットロード、ハセガワのキット付属のミサイルの作例と解説

情報「World Modelers News No.13 ホセ・ルイス氏にインタビュー」
『イスラエル軍 スーパーシャーマン』タンクワークショップ 1/48 ※他にフジミ1/24「ポリススピナー」などの作例を掲載

情報「VANCE ACCESSORIS LED MODULE」
『トヨタ86/オレンジメタリック』アオシマ 1/32 ※LEDモジュールの紹介記事

NEW KIT REVIEW
『イギリス戦車 チャーチル Mk.Ⅶ クロコダイル』タミヤ 1/48
『イスラエル主力戦車 メルカバ Mk.4M』モンモデル 1/35
『アメリカ海軍 航空母艦 Cv-6 エンタープライズ』トランペッター 1/700
『中島キ87 試作戦闘機』RSモデル 1/72 ※ジオラマ作品
『フェアリー ファイアフライ Mk.1』トランペッター 1/48
『トヨタ コロナ ST191 ’94 JTCC仕様』アオシマ/BEEMAX 1/24

連載記事『日本機大図鑑 連載第159回』
「十二試艦戦の胴体と主翼の合体作業」

連載記事『北澤志朗のネオヒストリックガレージ 連載第97回』
『ダイハツ・リーザZ/エアロ』フジミ 1/24

情報「World Modelers News Extra」
『Uボート ⅦC』レベル 1/72 ※ジオラマ作品

連載記事『FOLLOW YOUR HEART 第49回』
『ガールズ&パンツァー劇場版 1/35 巡航戦車 A41 センチュリオン 大学選抜チーム』プラッツ 1/35

ヨドバシカメラ新宿西口本店 ゲーム・ホビー館 第4回お客様が制作したスケールプラモ展示会 結果発表



 次号の特集は「現代日本の“空母” (仮題)」。NEW KIT REVIEWではドイツレベルの1/32「P-51Dムスタング」、キティホークの1/32「F-5EタイガーⅡE」などが予定されている。

 

 「イスラエル軍 主力戦車 メルカバMk.4M トロフィーAPS」モンモデル 1/35


横溝正史『富籤紳士』/『生首事件』/『幽霊嬢』

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 横溝正史『富籤紳士』
 横溝正史『生首事件』
 横溝正史『幽霊嬢(ミス・ゆうれい)』(『芙蓉屋敷の秘密』角川書店 1978 角川文庫 所収)

『富籤紳士』
 気付けば「並河三郎」一人を残して家はもぬけの殻になっていた。知人の「朝木妻吉」とその恋人とが同棲する家に居候しはじめて、三ヶ月ほど経った頃の出来事である。取り残された並河に助け舟を出したのは、隣接する「結婚媒介所高砂屋」のおかみさんだった。以前から高砂屋のおかみさんは、目鼻立ちの美しい並河のことを大層気に入っていたのだ。それから並河はおかみさんに身なりを整えられ、盛り場を連れ回されることになった。あるとき「ちょっとお願いがあるんだけど」そうおかみさんが切り出した。それはおかみさんが所属する「富籤結婚倶楽部」なる非合法なグループへの勧誘であった。

「懸賞金付き婿見本市」に出品されることになった、主体性のない、ニートな主人公の悲哀を描いた短編。犯罪らしい犯罪の起きない、コントって感じの作品で、言われなければ著者の作品とは気付かなそう。
 登場する女性がやけに逞しいのに対して、男性キャラはダメダメのダメダメである。状況にザブザブ流され、頼りなく、生産性もない。しかし自分はそんなダメ人間の情けない生態に、そこはかとなく共感を覚えた。さらに少なからず羨ましくも思った。なんというか、楽そう?
 この作品は1927年(昭和2年)に発表された、著者にとってごく初期の作品である。当時と現代の世情が似ているのか、いつの世にもこの手の人種がいるってことなのかは分からないけれど、全然古びてないどころか、不本意ながら上記のようにごく自然に共感させられてしまう不思議な作品だった。


『生首事件』
 質屋の娘「お玉」は近頃憂鬱だった。心に決めていた「井汲潤三」青年が、浅草の劇場の女優「水木瑠璃子」に入れあげているらしいのだ。ある日、質屋に一つの小包が届いた。差出人は不明。中に収められていたのは激しく損壊された女の生首であった。歯科医の協力のもと被害者の身元はすぐに判明した。生首の主はお玉の憎き恋敵、水木瑠璃子だったのだ。警察はお玉と瑠璃子と井汲の関係に着目し、お玉と井汲を容疑者として捜査を進めるのだった。

 この作品は1928年(昭和3年)、『富籤紳士』の翌年に発表されている。冒頭から著者の趣味全開で、いきなり「生首」である。白昼の質屋の軒先に生首。この生首のインパクトに引きずられて、猟奇犯罪ものなのか、しっかりとした推理ものなのか、判断のつかないまま読み進めてしまったので、オチは結構意外だった。劇中で用いられるトリックは分かってみれば実にシンプルだけど、舞台はバラエティに富んでるし、それぞれ登場シーンは少ないながらキャラも印象的。なにより少ないページ数で、こんな犯行形態になった理由が全てスッキリ解明されるのが気持ちよかった。肉付けすれば本格的な長編になりそうな作品。


『幽霊嬢(ミス・ゆうれい)』
 蒲田の撮影監督「山野茂」のもとに奇妙な手紙が届いた。それは山野の映画に出演者していた少年が、数ヶ月前に家出をしたさる大家の令嬢ではないかという問い合わせの手紙だった。差出人は娘の乳母を務めた女性らしい。山野には少々心当たりがないではなかった。オーディションに集まった志願者の中で、その少年の繊細な美しさは群を抜いていたし、思い起こせば撮影中に見せた何気ない仕草もまるで少女のようであった。山野は丁寧な返事を書いたが、残念ながらその手紙は戻ってきてしまっていた。三ヶ月ばかりが過ぎた頃、俳優の「宇津木」から山野の元に手紙が舞い込んだ。宇津木はあの少年と共演しており、不思議な手紙についても知っている。そんな彼があの少年とそっくりな少女を目撃したらしい。

 1929年(昭和4年)に発表された作品。大長編ロマンみたいに始まって、なーんちゃってって感じでするっと幕を閉じる。謎の手紙に最初だけ盛り上がって、そのうち忙しいからとか何とか言ってグダグダになる登場人物たち。実祭こんなことがあったら、こんな感じのリアクションだろうなーとは思うが、おかげで話がサクサク進まないのがじれったかった。提示された謎も魅力的だったのに。この作品については解説に「探偵小説の結末をまっ先に読んでしまったものの悲哀を、改めて感じさせる」とある。なるほど、面白い! とはいえこの作品における「結末」は、推理してどうにかなるような感じでもない。
 そういえば『富籤紳士』『生首事件』そしてこの『幽霊嬢』は、どれも都市が舞台になっていて、著者によって戦後に発表された地方色豊かな作品群とは全然イメージが異なっている。累代の念が澱のように沈殿した田舎の話もいいけど、猥雑で移ろいやすくて、妙にエネルギッシュな昭和の街中に、こっそり謎が潜んでるような話もまた面白い。



『芙蓉屋敷の秘密』
 角川書店 1978 角川文庫
 著者:横溝正史
 解説:中島河太郎

 収録作品
 「富籤紳士」
 「生首事件」
 「幽霊嬢(ミス・ゆうれい)」
 「寄せ木細工の家」
 「舜吉の綱渡り」
 「三本の毛髪」
 「芙蓉屋敷の秘密」
 「腕輪」

 ISBN-13:978-4-0413-0458-7
 ISBN-10:4-0413-0458-X